- 株式会社マイナースタジオ
- プロデューサー / UX MILK編集長
- 三瓶 亮
「身内の世界観」は不要。累計6,000人超が参加した「UX MILK」の即興的イベント運営
〜イベントだからこそ提供できる「価値」とは? 著名人は呼ばない・質疑応答ナシ・「身内」を作らない。ナマモノだからこそ「雑」に作る、UX MILKのイベント運営〜
自社のブランディングのため、採用のため、またはサービスとしてイベントを開催する企業が多くなってきている。
しかし、多くの企業にとってイベント運営は「手探り」と言える状態ではないだろうか。壮大な設計を用意したものの、開催を数回で止めてしまう場合も少なくない。
そんな中、2015年からスタートし、毎回参加者が殺到するイベントが「UX JAM」だ。
このイベントを開催するのは、同じく2015年にリリースした国内外のUX情報を発信するクリエイターのためのUXメディア「UX MILK」。
勉強会支援プラットフォーム「connpass」上のイベントページには、約6,000人ものメンバーが登録しており(※2018年8月時点)、イベントを公開するとすぐに枠が埋まってしまう状態だ。
UX MILKのプロデューサーであり、UX JAMではファシリテーターも務める三瓶 亮さんは「イベントはナマモノなので、実は『雑な』設計をすることが大切」と話す。
今回は三瓶さんに、長く参加者に支持されるイベントの始め方と続け方のコツを伺った。
▼2018年8月29日に開催された「UX JAM 25」の様子
UX MILK立ち上げ当時は、UXを「ゆるく」学べる場所がなかった
僕はメディアの編集長をしていますが、実は「UX MILK」を始めるまで、メディアを扱ったことはありませんでした。
それどころか、活字も全然好きじゃないんですよね(笑)。
もともとは、デザイナーであったり、企画職側の人間なんです。今も、編集長ではありますが、イベントの「UX JAM」、転職サービスの「UX MILK Jobs」を含めた総合プロデューサーとして仕事しています。
UX MILKを立ち上げた当時は、UXについて「ゆるく」学べる場所がなかったんですよね。アカデミックなコミュニティはあったんですが、入るにはなかなかハードルが高いものでした。
そこでたまたま会社でメディアを新規事業として立ち上げることになった時に、自分の興味のあるUXの領域で「ゆるく」「フラットに」やりたいなと。これは今でも、サービスのコンセプトになっています。
メディア名も普通の感じだとつまらないかと思って、色々ブレストする中「UX + 食べ物」がしっくり来まして。
事前のユーザー調査などから「朝配信する」というのだけは決まっていたので、「毎朝ちゃんと飲む」ということで「UX MILK」と。
海外の記事翻訳がメインのメディアですし、海外っぽい雰囲気を出したくて、海外のクラウドソーシングサービスを使って牛乳配達人のキャラクターも作りました。これによって、より馴染みやすいUXメディアにすることができたと思います。
最初は人数こそ多くはなかったのですが、そのコンセプトに共感してくれた方々がいて。ユーザーロイヤリティの高いメディアとしてスタートすることができましたね。
椅子に座って話を聞くだけの「寒い」イベントにはしたくなかった
実はUX JAMを始めたのは、メディアを始めたのとほぼ同時期なんです。ほぼ「見切り発車」でした(笑)。
メディアは人が集まる場所だと思うのですが、オンラインのものがあるなら当然オフラインの場もあるべきだと思って始めてみました。
それにUXについて発信しているのに、自分たちのユーザー(読者)に会っていないのも、気持ち悪い感覚だったので。
当時は、こんなに長い間にわたって盛り上がり続けるイベントになるとは思っていませんでした。
僕、そもそも勉強会が好きな人間ではなくて。
100人くらいが椅子を横一列に並べて座っていて、シーンと偉い人の話を聞いて帰っていくみたいな。もちろん、そういう場も必要だと思うのですが、「会場まで来る必要あったんだっけ?」と思うことも多くて。
そしてせっかく大勢の人が集まっているのに、インタラクションが少なくて単純にもったいないな、と思うんですよね。
海外の勉強会って、もっと楽しそうなんですよ。フランクに隣の人同士が「俺こんな仕事やってるんだけど」みたいな話をしながら学びがある。
なので自分でイベントをやる以上、リアルの場であることがきちんと意味のあるイベントをやってやろうと思いました。
今のUX JAMは、最初からお酒を飲むオールスタンディング形式です。
▼イベント冒頭に「KANPAI」
スタンディングにしているのは、交流を活性化するためです。座ってしまうとどうしても人って交流しなくなるんです。色々な人と絡んでほしいので、会場内を動きやすくするために、この形式をとっています。
また海外と比べると、日本人ってどうしてもシャイなので、最後の交流会を待たずに最初からお酒があった方が、勉強会を通して交流するようになると思います。
▼お酒を片手に、参加者同士の交流もさかん
ただ、コミュニティによってはない方がいい可能性もありますね。飲みすぎる人がいると、場が崩れるかもしれませんし(笑)。
うちのコミュニティはすごく真面目な人が多いと思います。UXデザインを本当に学びたくて、悩みを解決したい人たちが多いので、お酒を入れてもハメを外す、みたいなことは幸いないですね。
このあたりは集まった人たちを見ながら「この方式はアリだな」と、1つひとつアジャストしていった形ですね。別のコミュニティだったら、きっとまた別の工夫があるんだと思います。
イベントは「ナマモノ」だからこそ、設計をしすぎないことが大切
イベントの内容に関しても、来てくれる参加者の方に合わせて、PDCAを回して今の形になるまで改善していきました。
コンテンツはライトニングトーク(以下、LT)ですが、いつも短めで、その分、お互いに交流する時間を多めにとってあります。
コンテンツと交流会は交互に「サンドウィッチ型」にしているので、数名のLTが終わる度に交流タイムを挟みます。
これは、LTが終わったあとの質疑応答があまり機能していないと思ったからです。「質問ありますか?」と聞いて誰も手を挙げなかったり、ファシリテーターが質問をするようでは場が冷めてしまう感じがして。
それよりは間に交流会を挟むことで、「そこで自由に質問してね」という形にしています。もちろん、質問を皆で共有したい気持ちもあるのですが、まずは気軽に質問できる雰囲気を作りたくてこうしています。
LTはイベント1回で7〜8人にやってもらうのですが、時間はひとり5分以内にしてもらっています。
そもそもスタンディングなので長い間立って聞いているのも疲れますし、それに、大体のことは頑張ってまとめれば5分くらいに収まるものだと思うんですよね。
▼実際のLTの様子
あとは交流してもらって、イベントに参加したからこその体験として、スピーカーにオフレコの話を聞くのでもいいですし、個人的なアドバイスを仰いでみるのもいい。LTはあくまで「話のきっかけ」を作る感覚です。
これはUX JAMが盛り上がっている理由のひとつでもあると思うのですが、LTの内容を「勉強」する場とは考えていなくて。ミートアップとして参加して、自分から交流することを価値としてデザインしているんですね。
なので、LTの内容もいちいちチェックしないです。宣伝は極力しないでね、ということだけ伝えています。
イベントってナマモノなので、1つひとつのコンテンツを設計しすぎても仕方ないんですよね。むしろ「雑な」設計をすることが、実は大切なんじゃないかと思っています。
例えば、当日の天気が最悪で人が来ないかもしれないし、LTする人が体調を崩すかもしれないし。
緻密に設計しすぎて当日のイレギュラーに対応できなくなるよりは、「当日お客さんが来て、いい体験をする」という点を担保することだけを考えています。
そのためには、もう、バッファを設けまくる(笑)。これは当日バタバタしないために、すごく大事だと思います。
「村」を作るな!来てくれる人全員にとって、心地よい場所を作る
また、現場の、地味だけどすごくリアルな話を聞ける・話せるということもUX JAMの価値だと思っています。
なので、業界の著名な方を呼ぶこともしていません。最初はお金がなくて呼べないだけだったんですが(笑)。
やっぱり、生の声でお互いに話せる環境を作ることが重要なんですよね。そこに名の知れた人が混ざってしまうと、どうしても教えを請う姿勢になってしまう。
一部の参加者は萎縮して、自分のことを話せなくなってしまうと思うんです。
そのように、参加者1人ひとりが疎外感や抵抗感なく気持ちよく参加してもらうために、「村を作らない」ということも意識しています。
例えば、僕は身内に声をかけて呼ぶことはしません。知っている人が来ても簡単に挨拶するくらいですし、そこで話し込むのはタブーだと思っています。
身内が多くなってくると、独特の世界観ができあがって新しい人が入れなくなる。クローズドコミュニティなら良いですが、オープンコミュニティとなると、これはいいことがないんです。
何より、広がらなくてつまらないですよね。もし村ができてしまったら、僕はUX JAMを止めると思います。
参加者の方に、UX JAMに何度も足を運んでもらうことを求めているわけじゃないんですよね。UX MILK村を作るのではなくて、様々な人が立ち寄る港のような場所を作りたいんです。
数回足を運んでもらって、自分なりのUXの考えがまとまってきたら、次のレベルに進んで欲しい。
1クリエイターとして理想だと思っているのは、イベントに来てくれた方がUX JAMで学んだことを活かして自分の仕事で実践することです。
みんながずっと勉強している状況って、何も生み出していないですからね。いいモノを作った人が一番偉いと思います。
僕たち運営は全員クリエイターなので、来てくれるクリエイターの味方であり続けることだと思っています。
そういった意味では、UX JAMの次の段階として、もっと実践的な学びの場もニーズがあるのではないかと思ったりはしますね。
最近では企業さんとコラボしてより実践的なワークショップなども実験的にやっているのですが、参加者の方からも好意的なフィードバックが多いです。
壮大で緻密なイベントは継続できない。敢えてに設計を「雑」に
最近では、UX JAMの影響もあってイベントについての相談をいただくことも増えました。
相談の中でありがちなのが、壮大な設計を考えているケースです。有名な誰々さんを呼んで、コンテンツはしっかり作り込んで、みたいな。
ただ、イベントは継続しないと意味がないものが多いと思います。ブランディング目的にしろ採用目的にしろ、継続性が重要です。
なので「そのイベントを毎月開催できるのか」という視点で考えたほうが良いですね。
大事なのは「やらないこと」と「提供価値」を決めることです。あとはある程度、雑で良いのかなと。
僕はバンドをやっているのですが、ライブの雰囲気がすごく好きで。実はUX JAMの「JAM」は、食べ物の「ジャム」ではなくて元は「ジャムセッション(※)」から来ています。
※本格的な準備やアレンジを用意せず、ミュージシャン達が集まって即興的に演奏すること
イベントって運営側だけで作るものではないですから、これからも集まった皆さんと一緒にどうしたら素晴らしい時間を作っていけるか、考えていきたいと思っています。(了)