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CX(候補者体験)の向上が、組織の復活を後押し!グッドパッチの採用担当に聞いてみた

~離職率が40%から8%に。「求職者の体験を作ることは、組織を作ること」採用シーンで重要性が高まる「CX(候補者体験)」の高め方をお聞きしました~

本シリーズ「教えて!対談」は、SELECKの読者の方が、日頃の業務における課題や気になるテーマに関して、話を聞きたい相手に取材をするという企画です。

第3弾は、コスメ・美容の総合サイト「@cosme(アットコスメ)」の企画・運営を行う株式会社アイスタイルにて、採用を担当する小坂 崇さんがインタビュアー。

組織崩壊からの復活でも話題になった、UI/UXに特化したデザインカンパニーの株式会社グッドパッチ。同社でキャリア採用を担当する小山 清和さんに、近年、注目を集める「Candidate Experience(候補者体験)」通称「CX(※)」の高め方をお聞きします。

※求職者が企業を認知してから、実際に選考を終えるまでの、候補者と企業の各タッチポイントにおける体験のこと

離職率が40%から8%になるなど、組織の立て直しに成功したグッドパッチ社。その要因のひとつには、「自分が候補者だった時のマイナス体験や、候補者からヒアリングした内容を活かす」採用施策の改善があったといいます。

▼【左】アイスタイル 小坂さん【右】グッドパッチ 小山さん

「離職率40%」組織崩壊の時代。その原因のひとつは採用にあった

小坂  今回は「CX」についてお聞きしたいと思っています。アイスタイルも、特に直近は多くの中途採用を進めてきており、だからこそ継続的な就業や、入社後の早期の戦力化を重視するフェーズになってきていて。

なので、選考時には、アイスタイルという会社の正しい姿をしっかりと伝え、入社時の段階で期待の整合を一致させる、つまりこれまで以上にCXを高めるべきという考えが強くなってきています。

そもそもグッドパッチさんがCX周りのストーリー設計や戦略づくりに取り組もうと思われたのは、どういった背景だったんですか?

小山  実は、「結果的に自分たちがやってきたことって、CXの向上だったよね」というだけなんですよ。

元々、採用のゴールは「グッドパッチをもっと良い会社にしたい・成長させたい」という思いで、そこはずっとブレていない。そのために自分たちができることを、ずっとやり続けた。結果的に、採用だけの成果ではないのですが、離職率も40%から8%になって。

小坂 最近、グッドパッチさんの組織まわりの記事をよく拝見します。一時期は本当に大変だったとか…。

小山  離職率40%って本当にまずい状態ですよね(笑)。当時は社員が100人くらいしかいなかったのに、そのうちの40人が辞めるということですから。でも採用も頑張っていたので、ヘッドカウントは何とか維持出来ていました。

当時、離職率は確かに高かったんですが、業績は伸びていて、それなのに人はずっと減っていく、という状態がすごく気持ち悪かったです。ただ、その原因のひとつは、やはりカルチャーフィットにあったんですね。

カルチャーとのズレによって、早期離職になってしまうケースが多かったように思います。組織崩壊の危機に陥った原因も、そこにありました。

これって要するに、採用でミスマッチが起こっていたということなんです。

スタートアップにはありがちかもしれないですが、以前は「自分のやりたいことができるかどうか」で判断して入ってくる人が多くて。なので、やりたいことを成し遂げたら辞めてしまう。

いまは採用プロセスの改善によって入社するメンバーのタイプが次第に変化し、グッドパッチのカルチャーとフィットしている人が増えました。入社後も、よりエンゲージメントを高めるための施策を実施したことで、それらが噛み合って結果的に離職率の低下にもつながっているのだと思います。

採用候補者として「されて嫌だった」体験は、徹底的に排除する

小坂  具体的には、採用活動においてどのような改善をされてきたんですか?

小山 まず、「自分がされて嫌だった求職者体験を、施策に活かす」ということは徹底しました。

例えば、よくわからない理由で不採用になるケースってありますよね。

私は求職者だったころ「待合室で笑顔が無かったから」という理由で落ちてしまったことがあるのですが、「え、何その理由?」と思って(笑)。

他にも、「◯◯の経験3年以上」「コミュニケーション能力が高い」「地頭が良い」みたいな要件は、定性的で人によって捉え方が違うので、候補者の方の納得を得づらいと思うんです。「なぜ3年なのか」って、具体的に説明するのが難しいじゃないですか。

なので、現場が作ってきた求人の要件に対しても「なんで3年なんですか?」「地頭ってどういうことですか?」と、しっかり言語化されるまで深掘りします。人によって判断が別れてしまう採用基準は、排除しないと基準がブレてしまうので。

小坂  そのあたりは、紹介会社さんのような外部のパートナーさんに対しても相当細かく伝えているんですか?

小山  そうですね、協力いただいているパートナー企業様にもきちんと説明できるレベルにしなければいけません。

求人票を書くときは、求人概要と応募要件がイコールになることを意識しています。経験年数や転職回数などは関係なく、この仕事が出来るか否か、という形です。

誰が、どんな質問で「カルチャーフィット」を見極めるのか?

小坂  次に面接についてもお聞きしたいのですが、選考の中での「人事の役割」はどういった形で置かれていますか?

アイスタイルの場合は、事業部門が書類や一次面接で接触し、まずスキルのチェックを行うケースが多いです。その後のプロセスで、HRBPと役員・本部長クラスが同時にチェックし、バリュ―やカルチャーへのフィットを担保する、といった形ですね。

あくまで、人事はカルチャー・バリューへのフィットを見ているので、基本的にスキルの細かなチェックは事業部に任せています。

小山  グッドパッチの面接フローは、人事・現場・社長の3つに分かれていて、それぞれ目的が違いますね。スキルを見る人と、カルチャーを見る人に分かれています。

というのも、同じ基準で見ると主観がブレたり、上位選考官の判断基準に引っ張られ、採用の本来の目的を見失うリスクがあります。すると当然、不採用の理由も、納得が行きづらいふわっとしたものになりがちです。

「選考官全員が良いと言った人=グッドパッチにとって採用するべき人」と考えているので、「なんでこの人を上げたんだ」というのは言い合いっこナシです。選考官は自分が出した結論に自信を持ってください、と伝えています。

ちなみに弊社は仮に代表がOKを出しても、人事や現場でNGを出すことは珍しいことではありません。選考に関わるメンバー全員で、グッドパッチにとって良い人を採用することを目指しています。

小坂  先ほど、カルチャーのミスマッチの話がありましたが、グッドパッチさんでもカルチャーや価値観の部分の見極めは、人事が担当することが多いということですか?

小山  そうですね。私は面接の質問の中に、それを測るものを入れています。

小坂  …これ聞いていいのかわからないですけど、差し支えなければ具体的に教えてください(笑)。

小山  チームの中でのスタンスや、自分の置かれた環境の中で、主体的に、そしてどのような気づきを持って自分の行動を変えてきたか、という点を聞いています。

これらは弊社のバリューへの共感や、フィットしていただけるかどうかを確認する質問です。

最初は定性的な質問からスタートするのですが、回答に応じて具体的なエピソードを深掘りします。例えば「なぜそのアクションをしたんですか?」や、「マネージャーとして具体的にやったことは何ですか?」などですね。

これらについては意図をネタバラシをしても、対策することは難しいんですよね。というのも、これまでやってきたことを深掘りしていくので、やったことがない人はシンプルに答えられないんです。

質問が続けば続くほど、体験や経験がないので具体的な回答ができない。逆に答えられる人にとっては、これまでやってきたことを話せばいいだけなのですごく簡単な質問です。

小坂  そうですね、それはすごくよくわかります。

リファレンスや面接官トレーニングを通じて、社内認識をすり合わせ

小坂  ちなみに、採用プロセスを変えていく中で、代表、役員や事業部門とのすり合わせ、握り合いってどうされましたか?

小山  弊社くらいの規模だと、代表とのチューニングが一番大事ですよね。ただ、代表の採りたい人を採用するのではなく、人事としてダメなものはダメ、と伝える必要もあります。

そのためにも、代表自身の採用や会社への想いを知ることはとても大事ですね。

また、2年ほど前からは一定クラス以上の人材については、リファレンスチェック(※)も導入しています。我々ぐらいの規模の企業の場合、勢いで採用をしてしまうケースもあるので、それを抑止する狙いもあります。

※リファレンスチェック:企業が中途採用の際に信用調査の一環として、前職への在籍期間や実績、人物像などを第三者に照会を行うこと。

小坂  おお、リファレンスチェックをしてらっしゃるんですね。ちなみにどういう形でされていますか?

小山  全員ではないですが、候補者の方にご紹介していただいた方2人に私が直接連絡をしています。その際に質問しているのはふたつだけで、その人の「Good」と「More」について聞いています。

小坂  それって、ヒアリングの対象になっているの方は抵抗なく教えてくれるものなんですか? 何となく、「失礼なんじゃないか」と考えて、導入を躊躇している人事も多そうな…。

小山  そこは聞き方ですかね。これまでも特に拒否をされたことはありませんでしたし、どちらかと言うと積極的に調整をしていただける印象です。とは言え、初めて体験する方も多いので、どんなことを聞いているだろうか、と気になる方はいらっしゃいますね。

ただ、リファレンスはあくまでもで間接評価なので、良い内容だからプラス、悪い内容だからマイナスという扱いはしません。あくまで参考情報で、自社の採用基準が合否のベースです。バイアスがかかってしまうので、結果も最終面接が終わるまで一切公表しません。

最終選考が終了した段階で、選考時の評価や懸念点とリファレンスで得た内容を擦り合わせて、最終的な結論を出します。

小坂  そういうことですね。事業部とのすり合わせに関しては、どんなことをされていますか?

小山  選考に関わる人には、面接官トレーニングを必ず実施していますね。面接は意外と簡単に出来ると思われがちですが、表面的なことしか確認ができない質問ばかりをしてしまったり、コンプライアンス的に「聞いてはいけないこと」を知らない人も多いですから。

トレーニングでは座学とロールプレイをしているのですが、ロールプレイをするとやはり課題が見えてきます。

弊社の面接官の面白い特徴としては、ほぼ全員が、具体的な深掘りは最初から出来ていることです。グッドパッチのデザインプロセスの中で、日々クライアントや、ユーザーへのヒアリングやインタビュー経験があるからだと思います。

ただ、逆にアイスブレイクなどはちょっと苦手なようで…。席に着いていきなり「◯◯と申します。じゃあ面接始めますので自己紹介お願いします」みたいな(笑)。

小坂 面接官の質って難しいですよね。面接って閉じられた空間なので、なかなか見えてこない。なので私はなるべく同席して、しっかりフィードバックしています。その場で話さないと、本人は一生気付けないんですよね。

小山  そうですね。やはり、面接官は自分の悪いところに気が付きにくい傾向があると思います。「面接ってそんなに難しくないでしょ」「5分会えばわかるよ」とか言っている人もいますけど、そんなわけないですよね。未だに見極めるのは難しいと、日々、試行錯誤しています。

他にも、やはり相手の気持ちを考えられない面接官はダメですし、清潔感や、面接官としての風体をしっかり保てることも大事ですよね。「自分が会社のレピテーションを下げる可能性がある」ということを意識できないといけないですね。

すべては「入社した後」のため。定期的に入社後アンケートを実施

小山  でも、大事なのはやはり入社した「後」ですよね。リファレンスも、面接官トレーニングも全部そのためですから。

入社後に齟齬が起こると、それが組織を壊すことにも、本人のキャリアを壊すことにもつながってしまいます。すると、社員のエンゲージメントを高める施策をいくらやっていても、全部意味がなくなってしまいます。

グッドパッチでやっていることはすごくシンプルなんです。でも、徹底して地道に継続している。意外とこれが一番難しいのかな、と思います。みんな割と、施策の話に行きがちなので。

小坂  入社後に関しても、「その人が予想した通りに活躍できているか」という振り返りをしているんですか? そこのPDCAをしっかり回すことが大事だと思うんですよね。

小山  本来は選考評価と入社後の評価をしっかり比較するべきだと思うのですが、いまはそこまではできていなくて。ただ、入社後1・3・6ヶ月で面談を私の上長が行っていますね。

その際には、「ミッションに対して意欲的に取り組めているか」といった8項目のアンケートを実施しています。これはWeb上ではなくて、敢えて紙にして、面談の中で書いてもらうようにしていますね。そうすると回答率がちゃんと100%になるので。

同様に、退職者に関してもインタビューとアンケートを行っています。例えば退職の理由や、「何があったら辞めなかったのか」「何のときにモチベーション上がった(下がった)か」といったことを聞いていますね。こうした情報を、採用プロセスの改善にも活かしています。

採用の成果として経営にどんなインパクトを与えたか、を考える

小坂  いま、離職率も下がってCXの型もある程度できている中で、次はどんなことにチャレンジされていこうと考えられていますか?

小山  そうですね、まだまだ完成していない部分も多いのですが、最近新しい試みとして、面談を受けていただいた候補者の方へのアンケートを始めました。ジャッジメント(面接)をした人にはちょっと聞きづらいので、あくまでもカジュアルに話を聞きにきてくださった方に、「今日はどうでしたか」と聞くような形です。

意外と、面談が最も重要だと考えていまして、面接官トレーニングでも、「最初の面談で今後が決まる」ということを伝えています。ここで応募に至らないのは、面談時に意向を上げられなかったからだと考えています。

他にも、実際に入社した人に対して「なぜ入社したのか」というアンケートを実施しています。それを職種ごとに分けて見て、具体的な施策に活かしていこうとしていますね。

小坂  最後になりますが、これまで面接官トレーニングなどを地道に行ってきて、具体的に体感していらっしゃる成果ってどんなものがありますか?

小山  それで言うと、採用数や採用単価、通過率といった目の前のことももちろん大事なのですが、その結果として、「組織がどうなったか」ということに目を向けることが大事だと思っています。これは、私も以前は考えられていなかったです。

つい先日、とある役員と話をした時に、「小山さんが採用をやってきたことで、結果的には売上も上がり、定着率も上がりましたし、これまで出来なかった案件にもチャレンジ出来るようにもなりました。これが結果じゃないですか」ということを言われて。

「あ、そうだな」と思って。これは組織のどん底を経験したから、気がつけたということもあるのですが。そもそも人事って、状態の良い組織に転職する人が多いんですよ。なので、どん底を経験する人って少ないんですよね。

私はその中でもがき続けて、結果的には、離職率や売上をはじめ、会社の数値が良くなっていた。もちろん批判されて辛いこともありましたし、全てが正しいとは思いませんが、やってきたことは間違ってなかったな、と。

それこそ、候補者の体験を作ることは組織を作ることだし、組織を作ることが会社や事業の成長につながる。こうしたことを実際に経験して、気が付いたのがいまなんですよね。

これまでは「良い人が採用できた」というところで結構止まってしまっていて。それで結果的に会社がどう変わったんだっけ、って考えられてなかった。でも、そこを明確にして、具体的なエビデンスが出せるようにならないとあまり意味がないんだなと考えられるようになりました。

今、うまくいっていない人は、まずはその理由は自分たちにあるという視点から考えていくといいのかなと思います。企業規模だとか、売手市場だからとか、原因が外にあると考えると、その瞬間に思考が停止するんですよね。

小坂  自分たちのことに向き合うのが、実は一番むずかしいですよね。今日は参考になりました。ありがとうございました!(了)

編集後記

SELECK読者の皆さまが持つ課題や関心ごとを、聞きたい人に直接お伺いできたら…という思いから生まれた「教えて!対談」の第3弾。

個人的に本企画を初めて担当しましたが、「同じ業種同士の対談」だからこそ、通常のインタビュー記事とは違った観点からの深掘りがあり、とても勉強になりました。

今回のテーマである「CX」をはじめ、採用領域では新しい概念が次々と登場しています。しかし本取材を通じて、やはり重要なのは「基礎」そして「地道な継続」なのだなと改めて感じました。

アイスタイルの小坂さん、グッドパッチの小山さん、本当にありがとうございました!(了)

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