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展示会からのリード獲得・育成で、商談数が1年で2倍に!ヤプリ流・イベントマーケ術
〜展示会は「面」でリードを獲得し、名刺裏の情報でISに連携。Webとオフラインでナーチャリングし、商談数を1年で倍増させたヤプリのマーケティング術〜
BtoBマーケティングの一手法として活用されることの多い、展示会やカンファレンス、セミナーといったオフラインイベント。
アプリ開発プラットフォームのSaaS「Yappli(ヤプリ)」を運営する株式会社ヤプリでも、2016年から展示会に出展し、マーケティングの有力なチャネルとして活用してきたという。
出展の回数を重ねる中で、ブースのコマは広さではなく「面」で取る、ヒアリング情報を名刺裏に記載してインサイドセールスと連携する、商談のフックとなる情報は出し切らない、といった展示会の運営ノウハウを培ってきた。
さらに、見込み顧客を「育成する」ナーチャリング部隊を2019年に立ち上げ、商談に至らなかったリードのリサイクルを強化。
気軽に相談できる「Yappli相談Cafe」などの自社セミナーや、Webの行動を重視したスコアリングなどを実行し、商談数を1年で約2倍に伸ばすことに成功している。
今回は、同社でオフラインマーケティングを担当する原田 千亜紀さんと、リードナーチャリングを担当する遠藤 実咲さんに、展示会の運営ノウハウから商談につなげるナーチャリング施策まで、詳しくお伺いした。
▼左:遠藤さん、右:原田さん
目的別にイベントを設計。ヤプリが「展示会」に注力する理由とは
原田 私は広告代理店の営業を経て、事業会社でマーケティングやPRに携わりたいと思うようになり、2016年12月にヤプリに入社しました。以来、広報とオフラインマーケティングを担当しています。
弊社のマーケティング体制は現在、大きく分けてオンラインとオフラインの2つのチームに分かれています。両チームに3人ずつメンバーがいる他、CMO、コンテンツ制作、市場形成、ナーチャリングにそれぞれ専任がいる形です。
Yappliは、アプリの開発・運営プラットフォームとして、2013年にローンチされました。当時のアプリ開発は、何千万、何億といったお金がかかるプロジェクトが多かったので、ちょっとした課題の解決にアプリを使うという想起がなく、「アプリ開発」というワードでWeb検索をする人がそもそも少なかったんです。
また、アプリは販促としても業界や課題によって解決方法が様々ですし、社内向けや採用などソリューションとしての幅が広いので、オンラインだけで刺しにいくのが難しくて。
そこで2015年頃から展示会に出展し始めたときに、1対1で直接お話することの有用性を感じ、それ以来、Webだけでなくオフラインのマーケティングにも注力してきました。
現在は、PR・ブランディングを目的としたコミュニティ「YMC(Yappli Marketing Club)」や自社カンファレンス「MMU(Mobile Marketing UPDATE)」、認知獲得からリード育成までを目的とした展示会への出展、リード育成を目的とした自社セミナーなど、様々なオフラインイベントを体系的に開催しています。
▼同社のオフラインイベントの全体像
その中でも、展示会は新規リードを獲得するのに適したチャネルとして、早くから注力してきました。2019年には、Web&デジタルマーケティングや、Web販促EXPO、リテールテックなど、1年で20の展示会に出展しました。
展示会のKPIは「ホットリード数」。ブースは広さではなく「面」をとる
原田 弊社の場合、サービスの契約単価が他のSaaSと比べると高いので、リードの数をただ増やすのではなく、いかに質の高いリードを見つけられるかが重要です。
そのため、当日追う展示会のKPIは、総リードではなく「ホットリード数」に置いています。そして、展示会の良し悪しの判断は、商談数と受注数で行っています。
また、BtoBの展示会は近年すぐに枠が埋まってしまう傾向にあるので、年間の出展計画は、商談単価や会社の目標をもとに前年のうちに決めています。さらに、ブースのデザインをどの会場でも使えるような設計にすることで、コストを抑えていますね。
多くの商談に獲得するために、まずは多くの人にブースに訪れてもらう必要があります。そこで意識しているのは、ブースのコマを「面」で取るということです。
以前は、突き当たりの壁に人が溜まりやすいという話を聞いて、壁側に面したコマを取っていたのですが、通路に接している面が少ないとやりづらいということがわかってきて。
というのも、ブースでデモなどをする場合には奥行きが必要なのですが、ヤプリの場合はデモをすると、管理画面がおもしろくて長居される方が多いんです。
とてもありがたいのですが、多くの人に立ち寄っていただくことが難しくなってしまうので、最近は通路に長辺を面したような細長いコマ取りをするようにしています。
またブースでデモをすると、集客はできても商談を取りづらくなってしまうという問題もあります。すぐに商談につながらなかった相手に対して、「デモ画面を触ってみませんか?」というアプローチが取れなくなってしまうので、あえて情報をすべて出しきらないことは大切ですね。
ISとの連携をスムーズにするため、「事実情報」だけを収集する
原田 展示会には、基本的にオフラインマーケのメンバーが参加しますが、面識がある人が架電した方がアポ率が高まるので、インサイドセールス(以下、IS)のメンバーが参加することもあります。
IS以外のメンバーが対応する場合は、スムーズな連携ができるように共通のヒアリング項目を作って、会話の内容を名刺の裏に記載するようにしています。
たとえば、どのイベントの何日目なのか、といった基本情報から、リードの属性分け、アプリの用途、製品や金額の説明有無、ISへの具体的な要望やネクストアクションを記載します。
リードの属性については、その人のモチベーションによって分けています。「全く興味がない」「アプリ市場について知りたい」「アプリの市場は知っていて、Yappliのことを知りたい」「商談を希望する」といった内容です。
また、アプリの用途がマーケティング支援なのか、それ以外なのかでISからのアプローチが異なるため、マーケ支援とYappli for biz(マーケ以外の新しい市場)のどちらなのかは、必須の記入項目にしています。
この情報連携で気をつけていることは、事実情報を明確に書くということです。
「こういう課題がありそう」「こんなことを思っていそう」といった憶測を書いてしまうと、架電したときにミスコミュニケーションが発生してしまうので、主語をはっきりさせて事実とリクエストは明確に分けて記載しています。
またリクエストには、ISがアプローチしやすいように、「管理画面を見たがっていた」とか「こういう事例を知りたがっていた」といったアポ獲得のフックになるような情報を連携していますね。
「展示会で欠けている情報」を、ナーチャリングのコンテンツに
遠藤 私は新卒でPR会社に入り、マーケ未経験で2018年6月にヤプリに入社しました。最初にオフラインマーケティングを経験した後、2019年からはナーチャリング周りを担当しています。
入社当時、展示会でのリード獲得はうまくいっていましたが、ISが架電する温度感の高い「ホットリード」以外のリードに対しては、何もアプローチできていない状況でした。
交換した名刺をシステムに取り込んでいただけだったので、ブースに訪れた人が、初めてなのか2回目なのかもわからない感じで…。毎年これだけの名刺を集めているのにこれじゃまずいとなって、2019年1月からMAツールのMarketoを導入し、ナーチャリングの仕組みづくりを始めました。
ナーチャリングの施策は、主にメールマガジンと、オフラインイベントの開催です。展示会後のフローとしては、ISが架電しないリードに対して翌日にお礼メールを送り、後日、自社セミナーの案内などを送っています。
ナーチャリングのイベントとしては、現在2種類の少人数セミナーを用意しています。
ひとつは、営業ナシで何でも相談できる「Yappli相談Cafe」です。これは、「アプリってなんか大変そう」「実際どこから考えていったらいいかわからない」といった潜在層をターゲットにしています。
1対1で行っているので数はそれほど多くないのですが、直接話すことでお客様が気づいていない活用方法を提案することができ、参加者の満足度が高いイベントになっています。今後アプリを作りたいとなったときに、接点を持ちやすくなっていると思います。
もうひとつは、展示会のときに案内しなかった「デモ画面をみれる」ことをフックにした、「Yappli説明会」です。こちらは、展示会で足りていない情報をコンテンツ化することで、展示会後の受け皿としてうまく機能していますね。
リードのスコアは積み上げず、Web上の「行動」に着目する
遠藤 また、MAでよく陥りがちなのが、ナーチャリングによって小さなスコアが積み上がっているけれど、結果的にスコアのインフレが起きてしまい、70点も100点も変わらなくなってしまうことで。そうすると結局、架電すべきモーメントがわからなくなり、商談率が下がってしまうんです。
それを避けるため、いまは「資料請求の入力フォームに到達した=◯点」「料金のページを閲覧した=◯点」といったようにWeb行動でスコアをつけ、一定期間でそれをリセットしています。
つまり、短期間でWeb上でどれくらいアクションしたかによってリードランクを決めているので、温度感の高いモーメントで、ISにリードを渡すことができるようになりました。結果的に、商談アポ率は半期で4倍に改善しましたね。
メルマガについては、最初の3ヶ月は週1のペースで事例コンテンツや自社セミナーの案内などを送り、その後も反応がなければ、解除率が上がらないよう月1くらいにペースを落としています。
この1年はリードを育成するというよりも、接点を持ち続けて「今、アプリに興味がある人」を発見するところの精度を高めてきたような感じで。正直、メルマガだけではナーチャリングは難しいので、そこからWebに流入してページをきちんと見てくれた人を見逃さない仕組みづくりに注力してきました。
一方で、課題が明確になっていない人たちに対して、ストーリーを作ってうまく乗せていかないといけないフェーズになってきたと感じているので、どう商談に繋げていくかは今後の課題ですね。
また、リードの獲得経路による性質の違いはあって、ナーチャリングの仕方にも相性があるのかなと思っていて。まだ仮説ではありますが、Webから入ってきた人はやはりWebコンテンツが好きだと思いますし、オフラインで獲得した人はセミナーなどに来てくれやすいと思うんです。
なので、オンラインとオフラインの両軸で受け皿を用意しておくことが大切だと思いますし、逆にWeb経由の人がオフラインイベントに来てくれたら、それってすごく温度感が高いんじゃないかと。
今後はオムニチャネルみたいな形で、オンラインとオフラインを掛け合わせたコミュニケーションも設計していきたいと思っています。
フェーズに応じて、展示会の「役割」をアップデートしていく
原田 年々、事業フェーズが変化しているので、それに応じて展示会のブースデザインやノベルティなども変えてきました。たとえば、3年前は今ほど認知がなかったので、有名な「じゃがりこ」を配布して、集客に活用していましたね。
2018年には、ノベルティに頼らずとも多くの人がブースに訪れてくれるようになったのですが、昨年の展示会では「知っているから立ち寄らない」という人が増えてきました。サービスの認知度が上がったことで、その人たちがブースに来るメリットがなくなってしまったんです。
なので今後は、リード獲得だけでなく、リード育成も展示会で担っていくことが必要かなと思っています。新機能のご紹介であったり、ブースに商談や相談のできる場を作ったり、すでに知っている人たちにも来てもらう仕掛けを作っていきたいと考えています。
また、2019年まではマーケターの集まるイベントに出展していましたが、今年は美容やレジャー施設など、業界特化の展示会にも積極的に出ていきたいと思います。
というのも、Yappliが得意とする小売・流通・施設などのサービスを展開される企業の中には、今出展している展示会やセミナーでは出会えない方がまだたくさんいます。
そのような潜在層にも展示会でお話して、「こんな簡単に導入できるんだ」「自社でも活用できそう」といったきっかけ作りをしていくことで、より多くの企業のモバイルシフトを支援していきたいですね。(了)