• 株式会社カオナビ
  • 取締役副社長 COO
  • 佐藤 寛之

インサイドセールスが司令塔。8年で約1,800社が導入したカオナビのマーケティング戦略

〜インサイドセールスにMAツールを託し、組織の「司令塔」に。マス広告やコミュニティ形成など、数々のマーケティング施策で成長を遂げたカオナビの事例〜

「そもそも市場がない」状態から事業を生み出し、グロースさせるためには、どのようなマーケティング戦略を描くと良いのだろうか。

クラウド人材マネジメントシステム「カオナビ」を展開する、株式会社カオナビ。

今や約1,800社(2020年3月末現在)が導入し、HRテック業界で急成長を遂げている同社であるが、2012年の事業スタート時には、まだ国内にクラウド人材管理システムの市場さえ存在しない状態だったという。

そこで、まず世の中の認知を獲得し、顧客にとって重要なサービスであることを示すために、影響力のある企業の事例を集めて社会的信頼を訴求。

さらに、30回以上に及ぶプライシングや、プロダクトの磨き込みを経て、事業開始3年で150社ほど受注。単月黒字となり、プロダクトマーケットフィット(以下、PMF)を達成できたそうだ。

その後の事業拡大フェーズでは、マーケティングオートメーション(以下、MA)を導入し、問い合わせから受注までの間で不透明になっていた顧客の状態を可視化。インサイドセールス(以下、IS)が司令塔となってマーケティングや営業メンバーに適切な目標設定と行動を促すことで、事業が大きくグロースしていったという。

今回は、同社の取締役副社長COOとしてマーケティングと事業戦略を担った佐藤 寛之さんに、カオナビのマーケティング施策の全貌について詳しくお伺いした。

「市場がない」状態からの開拓が、最初で最大の壁だった

僕は、2003年に新卒で株式会社リンクアンドモチベーションに入社した後、2008年にシンプレクス株式会社に入社し、人材開発の責任者を経験しました。

その中で代表の柳橋と出会い、2012年4月にふたりでカオナビ事業をスタートしました。現在は取締役としてマーケティング、営業からカスタマーサクセス、サポートまでを統括しています。

弊社は、マーケティングドリブンな経営モデルを引いており、事業の川上となるマーケティングから市場を啓蒙することに、より多くのコストをかけています。

その方針から、マーケティング本部に加えて、ISとカスタマーサクセスを合わせたカスタマーエンゲージメント本部、事業戦略室でマーケティング全体を担っています。

クラウド人材マネジメントシステム「カオナビ」は、企業の人材マネジメントにおいて、「顔と名前が一致しない」という課題を解決するために生まれました。

僕自身も前職で人事をしていた時に、「誰がどこにいて、何ができて、どんな状態なのか」を把握しきれなかったんですね。これは急成長中のベンチャー企業をはじめ、多くの企業が抱えていた問題でした。実際に営業に伺うと、社員の顔写真つきの組織図を壁に貼っている企業も多かったですね。


そういった状況だったので、説明すればサービスのコンセプトはご理解いただけるし、「面白いね」と言っていただけました。とはいえ、それがお金を出してまで必要なものなのか、クラウドで管理するべきものなのかという点で投資判断に至らず、当時はなかなか売れなかったですね。

僕らはそもそも市場のないところに、新たな市場を形成しようと挑んでいたので、それがビジネスとして成り立つのかという最初の壁が一番大きかったです。

30回におよぶ週単位のプライシング変更を経て、3年でPMFを達成

その壁をクリアできた鍵は、「事例」でした。まだ市場もないフェーズで、顧客にとって重要なサービスであると判断していただくためには、事例を武器にして社会的信頼を訴求するしかなかったんです。その頃は、売ることよりも業界知名度の高い企業のロゴを獲得することに躍起でしたね。

1社目の顧客はサイバーエージェントさんでしたが、IT業界ではキーファクターとなる企業ですので、明らかな効果がありました。その後も、それぞれの業界内での企業知名度やポジションを鑑みて導入戦略を立てて、検討中の企業向けには事例共有のセミナーを実施しました。

それと並行して、「誰に、何を、どのように」の観点で議論を重ね、PMFを目指してプロダクトを磨き込んでいきました。

当時は人事システムといえば、給与計算などの労務系が主流でした。しかし僕たちは、「人材マネジメントとは、経営の仕事である」と啓発することで、新しい人材管理システムの市場を形成しようと考えていました。

そのため、ターゲットは経営者に定め、「経営者がダイレクトに人材情報に接して、社員の顔ぶれやスキルを正しく把握することで、主体的にマネジメントを担うことが重要である」というメッセージを伝えることに決めました。

それに加えて、プライシングは相当見直しましたね。まずは役職ごとにID料金を設定してみたんですが、全然契約に至らないし利益も出なくて。顔写真の枚数に応じた課金形態にしてみたり、マスターデータ100件ごとの課金にしたりと、結果的に週単位で30回くらい変えました。

本来なら検証スパンとしては一定の期間を設けるべきです。でも、当時は資金調達も大変な時代で。キャッシュが無くなる危機感と常に戦っていて、週単位で変えていないと夜も眠れませんでしたね(笑)。

それから150社ほど受注して、単月で黒字になるまでに3年かかりましたが、PMFしてからは価格はほぼ変更していません。

そこからは人材を増やし、いよいよ事業を拡大していくフェーズへと突入しました。

ISが組織の司令塔となり、MAツールを起点に采配を振る

2015年以降の事業成長フェーズでは、MAの導入とISの構築が事業のグロースに大きく寄与しました。

というのも、営業側は「マーケが質の低いリードばかり取ってくるから決まらないんだ」と考え、マーケ側は「こんなにリード取っているのに、営業力が無いからクロージングできないんだ」と考えてしまう状況が起こり始めていて。

経営側としても、問い合わせ数と受注数しか見えなかったので、全体のパイプラインを可視化して打ち手を早くする目的で、MAツールのマルケトを導入しました。

弊社の特徴的なところは、マルケトを活用して司令塔として旗振りをする権限を、ISに与えたことだと思います。

サッカーで言うミッドフィルダーに強い権限を持たせれば、営業には「これだけ案件数を渡しているので、もっと売ってください」と言えるし、マーケに対しても「案件数が足りないから、あと何件ホットなリードをください」と言えるじゃないですか。これで相互に連携できるようになったのは大きかったですね。

その後は、地方の企業やインターネット広告でリーチできない層にアプローチするために、2019年6月からマス広告でのマーケティングを実施しました。

最初はテレビCMやタクシー広告の放映費が安い、地方エリアで実験したんです。周りにそういう企業もいたので参考にして。でも僕らがターゲットにしていた100人〜3,000人規模の企業が地方には少なくて、思っていたほどの効果や検証材料は得られませんでした。

なので、自分たちの顧客層とサービス特性に合わせた戦略を取らなければと思い、早期に首都圏で打ち出す方針に変えました。やはり首都圏では問い合わせ数、コンバージョン数、セッション数のいずれも跳ねましたね。

マス広告の効果は、案件化率・解約率・採用軸など多角的に検証

マス広告は刷り込みをしてから効果が出るまでのスパンが長いので、単純なマーケティング指標(問い合わせ数、コンバージョン数、セッション数)だけでなく、放映エリアでの案件化率や成約率と、チャーンレート(解約率)の変化も見ていました。

たとえば、顧客先で稟議が上がった時に「CMでも見たし、たくさんの企業に選ばれているなら安心だろう」と想起してもらったり、「あのサービス、うちも入れてるんだからもっとちゃんと使うように」と経営層が言い出したりすることで、徐々に数値に変化が表れるイメージです。

また、マス広告は採用面でも優秀な人が集まってくる効果があるので、必ずしも営業やマーケティングのKPIだけでデジタルに効果検証しようとせずに、経営がコミットして多角的な指標で見ていくのが良いのではと思いますね。

ちなみに、僕がマーケティングの予算を作る時には、SaaSでは常識になってきましたが、LTV(ライフタイムバリュー)÷  CAC(1顧客あたりの獲得コスト)が3倍以上、という指標を最低ラインにしています。

目先のマーケティング効果単体だけで判断するのではなく、経営全体の中でのマーケティングの役割をきちんと考えることが、適切なマーケティング施策を実行する上では重要だと思います。

とはいえ、初期の頃は「リード1件にいくら掛かっても良いから、大量に取ってこい」なんて言っていました(笑)。リード獲得単価やCVRなどももちろん大切ですが、当時は1件でも多く営業に行って、顧客の声を聞くことに価値がありましたから。

マス広告も多額のコストがかかるわけですが、その施策が会社の目標のどこにつながっているのか、マーケティングやマネジメントに携わる人たちがきちんと可視化して、メンバーに伝えることが大切だと思います。

「知の共有型」にピボット。業界のプラットフォームを目指す

また、市場をいち早く面で押さえるため、マス広告と並行して2年前からカスタマーサクセスに力を入れてきました。

その中でも特に、「ノウハウの共有」を目的とし、お客様同士がサービスの活用方法や人事のノウハウをシェアする場を積極的に開催しています。オンラインも含めて毎週イベントを行っていて、直近1年だけでも全国で400社以上の皆さまが参加してくださいました。

やはり、単なる機能競争になると開発コストばかり膨れるし、値下げ合戦を繰り返す未来しかありません。そうであるならば、ネット広告にもマス広告にも引っかからない潜在顧客にリーチできる方法として、「ファンによる口コミ」が有効だと思ったんですね。

実際に、ユーザー会には導入を検討する新規顧客もたくさん参加されていて、その場では自然とユーザーのみなさんがサービスの魅力を語ってくださるんです。こうして、ファン化したユーザーからの紹介によって、次々と新規獲得が増えている状況です。

そうなると、おのずと案件化率や決定率が向上して、広告コストも下がっていきますよね。僕は「ファンがファンを呼ぶメカニズム」を生んだ会社こそ、突き抜けた成果を出せるんじゃないかなと思っています。

今、HRテックの市場では、どの企業がプラットフォームになるかという競争が繰り広げられています。そこに市場ができたこと自体は嬉しいのですが、やはりHRテクノロジーの黎明期から事業をやってきた以上は、自分たちがプラットフォームにならないと意味がないと思っていて。

そういう意味で、日本ないしは世界中で、HRテクノロジーを通じて企業が変革される世の中を、これからも先頭に立って作っていきたいと考えています。(了)

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