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「解約インタビュー」が突破口。コロナ禍の逆境に立ち向かうベルフェイスの挑戦

〜「追い風と向かい風が、同時にきました」チャーンが相次ぐなか、解約企業へのインタビューを実施。短い期間で素早くプロダクトを変革する、ベルフェイスの軌跡〜

コロナ禍で急激に変化する市場に対し、どのようにプロダクト変革を進めればよいのだろうか。

2015年に創業し、オンライン営業システム「bellFace」を提供する、ベルフェイス株式会社。

リリースから4年半で導入社数2,500社を突破した同社は、「訪問でなくても営業で成功できる」という市場の啓蒙とともに、成功事例を世に伝えていくことで少しずつ市場を切り拓いてきたという。

しかし、コロナ禍によって市場環境が一変。オンライン営業の市場が急速に形成されるという「追い風」の一方、それまで競合していなかったWeb会議ツールへの切り替えが相次ぎ、一時はチャーンレートが以前の倍まで上昇してしまったそうだ。

その真因を探るため、2ヶ月かけて解約企業に対するインタビューを実施。そこから導き出された3つの開発方針をもとに、PMを分ける開発体制の変更や、ペルソナの再定義、10の開発ストーリーを明示したロードマップの作成など、次々と施策を実行。

一連の改革を進めることで、チャーンを抑え、顧客からのポジティブな声も増えてきているという。

今回は、同社でプロダクトマネージャーを務める小林 昭宏さんと、石田 啓さんに、コロナ禍におけるプロダクト変革の全貌について詳しくお伺いした。

「追い風」が来たのも束の間。チャーンが相次ぎ、一気に逆境へ

小林 僕は、2016年12月にベルフェイスに入社しました。元々は営業のキャリアを歩んできましたが、弊社ではカスタマーサクセス(以下、CS)の立ち上げから推進までを担い、2020年2月からはプロダクトマネージャー(以下、PM)を担当しています。

我々が提供するオンライン商談システム「bellFace」は、2020年9月に、導入社数が2,500社を突破しました。ここに至るまでは本当に地道に、ドミノ倒しのように1社また1社と、少しずつ市場を広げてきた感覚なんですね。

訪問営業の文化がまだまだ根強く残る日本において、「訪問しなくても営業で成果が出せる」ということを市場に啓蒙するために、とにかく成功事例を作って広めることにCSとして注力してきました。

▼左:小林さん、右:石田さん

石田 僕は2020年1月にベルフェイスに入ったのですが、コロナ禍によって何が起きたかというと、追い風と向かい風が、同時にどーんって来た感じで(笑)。

まず追い風は、テレワークが広まり、いままで地道に啓蒙してきた市場が一気に形成されたことです。Googleトレンドでも「インサイドセールス」「オンライン営業」といった検索ボリュームの上昇が明らかでした。

一方で、本来は2、3年以上かかる市場がたった2ヶ月ほどで形成されてしまったがために、プロダクトやCSの未成熟さが露呈してしまって。そこにZoomなどのWeb会議ツールが一気に普及したことが、向かい風になってしまったんです。

ただ、とにかく最初はコロナ禍での適応が世間的にも急務だったので、3月から無償提供キャンペーンを始めました。

それを6月末まで継続していたのですが、その期間が明けた7月以降からチャーンが相次いでしまって…。8月頃には、コロナ以前の倍くらいまで解約率が上昇してしまいました。

解約インタビューから見出した、プロダクト変革の3つの指針

石田 そこで、僕が主導して実施したのが解約インタビューです。

「全社員がお客様の解約理由に向き合い、把握できている状態をつくる」というゴール設計のもと、コロナ禍で解約したお客様を対象に、2ヶ月かけて16社にインタビューを行いました。

実際のインタビューでは、シンプルに「なぜ解約に至ったのか」「どういう変化が起きたのか」などをお伺いしましたね。CSメンバーに加えて、他部門のマネージャー以上の人々にも参加してもらい、お客様の声を直接聞ける体制にしました。

▼実際の解約インタビューの様子

そこで印象的だったのは、多くのお客様にサービスへの感謝を伝えていただいたことです。「bellFaceがなかったら、この局面を乗り越えられませんでした」と仰っていただくことが多くて。

一方で、「複数人だと利用しづらい」といった理由からZoomへ切り替えていることがわかり、プロダクト自体の未成熟さや、本来のサービス提供価値が伝わっていなかったことが、どんどん明らかになってきました。

結局なにが起きたかというと、それまで我々が「0.5歩先」の価値を提供しようと歩んできたところを、お客様が「1歩先」まで飛び越えてしまったのだと思っていて。

※0.5歩先をめざす同社のプロダクト思想は、こちらのブログをご参考ください。

「電話の延長線上で、ネット環境さえあれば資料を見ながら商談ができる」というbellFaceの強みが、Web会議ツールが普及したことで優位性を失ってしまった。つまり、1歩先にいたのがZoomやGoogle Meetだったんです。

一方で、営業チームのレベルを上げるためのアナリティクス機能を以前から開発していたのですが、それは逆に「3歩先」の世界観で遠すぎると。

なので、1歩先までの穴を埋めに行くことと、3歩先までの道のりをわかりやすくすること。この2つが必要でした。

さらに、逆にbellFaceをよく活用しているお客様に対するサクセスインタビューも実施したところ、電話を主体とした0.5歩先のプロダクトを引き続き愛用している方々もいらっしゃることがわかって。

この0.5歩先にいるお客様に対しても、もう一度プロダクトを適応させていくことが必要だと感じ、3つめの指針として加えました。

※同社の解約インタビューの取り組みは、こちらの記事もご参考ください。

PMの役割を分担し、フォーカスすべき領域を明確にする

小林 こうした指針をもとにプロダクト改革を進めるため、社内の体制を変えました。

まず大きな変更としては、2020年の4月に、代表のワントップ体制からPM2名の体制にして、それぞれの領域を明確にしたことです。

役割分担としては、プロダクトの利用頻度を高める機能を石田が、データによって付加価値をつける機能を僕が担当しています。それぞれのKPIには、「Web商談の接続数」「レコログ(録画)視聴数」を置いています。

▼PMの役割分担とKPI

さらに、これらのKPIは開発チームだけでなく、ビジネスサイドを含めた全社共通の目標にしました。

というのも、The Model型の組織形態にしていたことで、どうしても部分最適が起きやすい状態に陥っていたんですね。そこに横串のKPIを置くことで、1人ひとりがカスタマーサクセスを意識して行動できるような体制にしました。

石田 実際、この体制変更によって、より目的にフォーカスした開発ができるようになりましたし、マーケティングなど他チームとの連携もしやすくなりましたね。

やはり穴を埋める機能と、差別化を生む機能では、競合サービスが全然変わってくると思うんです。前者であれば電話やZoomですし、後者はおそらく営業研修などがそれにあたる。

そのため、誰のどういう課題を解決したいのかを完全に分けて考えつつ、PM同士が連携することで、より本質的な開発ができるようになったと思います。

CSチームの内部にPMを設置し、顧客の声を開発に反映する

石田 僕が担っているのは、0.5歩先のプロダクトの価値を高め、1歩先にいるWeb会議ツールとの差分を埋める部分です。

ここでの課題は、プロダクトがまだ成熟していないことと、既存機能の価値をお客様にきちんとデリバリーできていないことでした。

そこでまず、至らない機能を埋めていくために、CSチーム内にPMを置いて、お客様の声を開発に反映しやすい体制をつくりました。

また、CSが要望をあげるハードルを下げるため、Slackの専用チャンネルで5段階の優先度をつけて投稿する運用にしました。現在は、月100〜200件ほどの改善要望が現場からあがるようになりましたね。

一方で、機能はあるのに存在や価値が伝わっていない、ということも解約インタビューでわかったので、オンボーディングや新機能を伝えるコミュニケーションなどの改善にいま取り組んでいます。

その上では、そもそも社内で浸透していないとお客様に届けることが難しいので、より開発とビジネスの垣根をなくし、社内の浸透度を保つことが大事だと考えていて。

現在は、訪問営業のリアルな場を意識したUI/UX設計や、訪問営業を超えるような体験を提供する機能を開発しています。

10のストーリーを「ロードマップ」に落とし込み、差別化を図る

小林 僕が担っているのは、セールスのデータを用いたアナリティクスに関する機能開発です。

最初に着手したのはペルソナの明確化ですね。元々は、部下の育成のために数値をみながらフィードバックするようなケースを想定していたので、営業マネージャーをペルソナにしていました。

ですが、実際にこれから作ろうとしている機能をペルソナにあたる方々に触っていただくと、「すごく良いですね」と言ってくださる人もいれば、「これ、なにに使うんですか」と全然異なる反応をする人もいらっしゃって。

実際、営業マネージャーといっても、データドリブンな人もいれば、勘と経験を頼りにしている人もいるじゃないですか。なので、振り幅が大きくなってしまうマネージャーではなく、現場か経営層か、いずれか両極端に寄せたペルソナを2つ設定することにしました。

また、差別化はするけれど3歩先だと遠すぎるという課題があったので、いきなり3歩先を示すのではなく、0.5歩ずつ先に進むような10個のストーリーを考えて、ロードマップに落とし込みました。

たとえば現場向けには、「コミュニケーション比較」という機能をリリースしました。これは、自分自身の商談データと他のメンバーの商談データを比較できる機能です。

現場のメンバー視点で考えると、ハイパフォーマーや同期、先輩など、気になる人がいると思うんですね。その人と自分を比べることで何かしらの気づきを得て、話し方や資料の使い方を変えてみようといった改善に役立ててもらうイメージです。

一方、経営層向けの機能としては、「経営層向けレポート表示」を現在開発中です。これは、現場で行われている商談データからお客様の金額に関するニーズを収集した、報告レポートを作成する機能になります。

以前は、分析した結果をもとに「どんな機能を作れば良いのか」と考えていたのですが、それだと点になりがちなんですよね。それを線で捉えて、お客様にサクセスしてもらうには、どういうストーリーでどんな機能を開発すべきかを考えられるようになったことが大きな変化だと思います。

「営業の分岐点」を迎えたいま、訪問を超えるオンライン体験をつくる

小林 僕はいま、営業の在り方が「分岐点」を迎えていると思っていて。このまま日本でもインサイドセールスが根付くのか、いずれ訪問営業に戻るのか。

我々としては、以前の慣習に戻らずにインサイドセールスを定着させていきたいですし、そのためには訪問と同等、もしくは訪問を超えるオンライン体験を我々が作らなければならないと思っていますね。

石田 数値的な成果はまだこれからですが、定性的にはかなりポジティブな方に向かっているなと感じています。

特に、ロードマップを提示できるようになったことで、プロダクトの未来に対する解像度が高くなったことが大きいですね。実際に、今後の追加機能をお伝えすることで契約更新につながったお客様もいらっしゃいます。

今後は、開発プロセスにCSのレビューを入れるフローを作りたいと思っていて。新しく開発する機能を使ってくださるお客様を見つけ、開発側につなぐというルールです。

そうすれば、CSが知らない機能もなくなりますし、開発側としても納得して開発しやすくなるはずなので、より開発にお客様の声を反映させていきたいと思っています。

小林 また短期だけでなく、2、3年後の中長期のビジョンを明文化して、その実現に向けたロードマップも作っていきたいですね。

組織のベクトルを合わせて、各々が主体的に行動できる環境を作ることで、より良いプロダクトを届けていきたいと思います。(了)

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