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  • エグゼクティブマネージャ
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コンバージョン6倍! 成果の出るサイト改善にはユーザーの意見より「行動」を見よ

今回のソリューション:【Tobii/トビー】

〜ユーザーテストの観察に役立つアイトラッキングシステム「Tobii」の使い方〜

ユーザービリティコンサルティングを行う株式会社ビービットは、WEBサイトのコンバージョンレート(※)を高めるために、ユーザーの意見よりも「行動」を徹底的に観察し分析する。そのために社内には8つの調査ルームを設置し、導入当時1台400万円だったというアイトラッキングシステム「Tobii(トビー)」を活用することで、大きな成果を上げている。

なぜ意見より行動を観察するのか、そしてTobiiを使いユーザーの「視線」を辿ることで見えてくることは何か。同社のエグゼクティブマネージャである宮坂 祐さんに詳しいお話を伺った。

(※)WEBサイトの訪問者の総数に対し、そのサイトで商品を購入したり会員登録を行ったりした人の割合

司法試験に失敗 当時社員8人のビービットに入社

大学を卒業した後、アルバイトをしながら26歳まで司法試験の勉強をしていました。3回目の司法試験に落ちた翌々日に、ビービット創業メンバーである高校の同級生から電話がかかってきたんです。話していると「行くとこないんだったらうちに来ないか?」と言われ、2002年にビービットに入社しました。その頃はまだ8人の組織でしたが、現在は社員数で100人ほどに成長しました。

弊社は、コンバージョンレートを上げるといったWEBサイトの成果を高めるためのユーザービリティコンサルティングを行っております。入社してからはコンサルタントを務めておりましたが、ここ数年は営業の責任者として、対外的なセミナー、執筆、講演を中心に活動しています。

ユーザーの行動は意見とは違う!?

WEBサイトの成果を高めるためにはまずユーザーを理解しなければなりませんが、その手法は様々です。弊社の場合は、グループインタビューなどで意見を聞くよりも行動を観察する方が有効だと考えています。

ある食器メーカーのグループインタビューで面白い話があるんです。5、6人の被験者に、黒、白、ピンク、の色々な形の皿の中でどれが好きでどれを買いたいか、というインタビューを行いました。グループで話している中で様々な意見が出たのですが、最終的に「黒くて四角いお皿が格好いいので買いたい」という意見に集約されました。ところが、調査が終わり被験者が帰る際に「お土産で今日使ったお皿を一つだけ選んでお持ち帰りください」と言ったところ、全員が白くて丸いお皿を選んだんです。

よくよく聞いてみると「黒くて四角いのは格好いいと思ったけど、そんなおしゃれな料理は作らないし、そもそも食器棚に入らない」という意見が出ました。「黒くて四角いお皿が格好いい」というのは嘘ではないんですが、決定的に欠落しているのは「自分が家で使うのか」という文脈でした。

このようにユーザーの意見と行動にはかなりの乖離があるんです。なので、まずは行動を徹底的に観察し、その上でなぜそういった行動をとるのかを解釈するようにしています。

1台400万円のアイトラッキングシステム・Tobiiの導入

弊社のユーザービリティーテストにアイトラッキングシステムを導入したのは2007年のことです。偶然、海外ではアイトラッキング装置を使ってユーザーテストをやってるらしいという話を聞き、Tobiiの販売代理店の営業を呼びました。ただ、1台400万円(※当時価格)だと言われたので、「どうする?」みたいな(笑)。

それでも、デモ画面を見せてもらったところ、自分たちの強みであるユーザー行動観察の品質が上がる大きな可能性を感じました。その当時でも年間で800人ほどの行動観察をしていたので、有効活用できると考え思い切って導入を決めたんです。

Tobiiでは3種類のデータを見ることができます。まずは1人ひとりの目の動きが動画で撮影できること、次に人の動きを静止画で撮れること、そして最後に、10人、20人のデータを重ねて「見られ方の傾向」をとることができます。例えばYahooとGoogleの検索結果の見られ方って実は全然違いますし、ユーザーのリテラシーによっても画面の見方って変わるんですよね。そしてその差には必ず理由があります。例えばリテラシーが低めの人の方が広告かそうでないかの区別をつけにくいので、画面をとにかく上から順番に見ていったり。クリエイティブに関しても、見られやすいものとそうではないものの傾向の違いがわかったりします。

サービス提供者の視点をユーザー視点にする

弊社のユーザービリティコンサルティングでは、最初にターゲット属性も含めた仮説を立て、それに該当する被験者を弊社に呼んで行動観察を行います。その一環で、Tobiiを活用しています。
具体的には、弊社の調査ルームに被験者が入りTobiiが設置してあるPCの前に座ります。アイトラッキングシステムと言ってもヘッドセットなどの装着は必要なく、PC上で最初に目線の位置合わせをするだけです。赤外線を使って機械側で目の高さを読み取ります。

その後は、インタビューをしながら90分間PCで様々なことをしてもらいます。被験者に調査内容は伝えないので、PCを触っているうちに競合サイトを見に行ってしまうこともありますね。そのリアルな様子を、サイト運営側のクライアント企業は別室で見ることができます。

この観察を通じて「よかれと思って作ったものがユーザー視点からすると全然ワークしないことがある」と明確に認知していただくことが重要だと思っています。サービス提供者の視点をユーザー視点に近づけるための手助けをしているのがTobiiということになります。

マイカーローンのWEB経由の申込みが6倍に!

Tobiiを使って行動観察し成果を上げた具体例を挙げると「WEB経由でのマイカーローンの申込みを増やす」という某大手銀行のプロジェクトがあります。競合に比べて良い金利を提示できることが強みだったので「金利を前面に出せば勝てるだろう」という仮説を立てました。その仮説をもとに、プロトタイプを作り調査ルームでユーザーの行動観察をしました。

Tobiiがセットされた画面の動きを見ていると、収入が多い層は金利を比較してその大手銀行でローンを申し込む。一方で収入が少ない層は、金利を見るんですが、不安そうな動きを見せ多くが離脱しました。

富裕層は合理的な判断を行い、金利が高い当銀行を選びますが、この層のボリュームは小さいんです。逆にボリュームが大きいのは多くの離脱が見られた低所得層なんですね。

この銀行は地元ではナンバーワンで、学生時代に頭の良かった子が就職するようなイメージの会社なんです。そのため収入が少ない層にとっては敷居が高く「そもそもおれ借りられるのかな?話を聞くだけ無駄なんじゃないか」と思われていることが分かりました。金利が低いことに関心を持つ以前に、そもそもローンを組めるかどうかが心配だったんです。

そのため「まずは5秒診断」というボタンを作り、ボタンを押して年齢、前年度年収、借金、を入力することで、ローンを組めるか組めないか簡易的に診断できるようにしました。その次に「このまま仮審査にお進みになりませんか?」と表示したら、次々に審査ボタンへ進んでいったんです。結果として、マイカーローンのWEB経由の申し込みが6倍ほどになりました。

「人間を理解するために」テクノロジーを活用

今後も人間を理解するために、Tobiiを初めとして様々なテクノロジーやデータを補助的にうまく活用していきたいと思っています。データだけを使って人間を理解するのは難しいんです。アイトラッキングもそうですが、実際の人間を「見る」ことで得られることが大きいので、行動観察とデータはうまく組合せることが必要だと思っています。

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