• GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社​​
  • CHRO / HR戦略室長
  • 田中 里子

「国内最大級ホラクラシー組織」の給与制度を刷新。GMOグローバルサイン・HDの次なる取組み

現在、国内最大級の約550人規模となる「ホラクラシー組織」を運営する、GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社

同社は「事業ではなく人にフォーカスする」と意思決定した2017年から、長年に渡りカルチャー変革プロジェクトに取り組んできた。その活動においては、マッキンゼー・アンド・カンパニー社が提唱する「7Sモデル」に則って、同社が目指すカルチャーとして「One GlobalSign Way」​を定義

前回の記事では、「One GlobalSign Way」の中でも特に組織に大きな変化をもたらしたという「組織構造」の変革について、取り組み内容を公開いただいた。

近年では、同社のようにホラクラシーといった自律分散型組織に移行する企業が増えつつあるものの、役職や階層構造がないことや、職種の枠を超えて多様なロール(役割)を担うことから、その特性にあわせた給与制度の設計が難しいという声も聞かれる。

そこで今回は、同社のCHRO / HR戦略室長を務める田中 里子さんに、「ジョブ型」「メンバーシップ型」「職能型」のいずれにも該当しないという、ホラクラシー組織にあわせて刷新した新たな給与制度について詳しく伺った。

ホラクラシー組織への移行と並行して、新たな給与制度を始動

私は、元々ITベンチャーのエンジニアとして10年以上開発に携わる中で、人材開発やトレーニングといった人事業務も担っていました。それを機にキャリアチェンジし、その後2015年に入社したGMOクラウド株式会社(現GMOグローバルサイン・HD)では、HR戦略室の立ち上げや、カルチャー変革プロジェクトの推進を担っています。

▼CHRO / HR戦略室長 田中 里子さん

前回の記事では、私たちが「事業ではなく人にフォーカスする重要性を感じ、組織カルチャーや仕組みを抜本的に改革すると意思決定した」こと。

そして、全社で実施したカルチャー変革プロジェクトの中で、従来の階層構造とは異なる自律分散的な組織管理システムである「ホラクラシー」を採用したことをお話しさせていただきました。

▼ホラクラシー組織と従来の組織の違い(編集部作成)

ホラクラシー組織現在はその取り組みによって、当社の連結企業群や事業部の枠を超えたプロジェクトが量産されており、組織全体の機動力を向上できているフェーズです。

その一方で、従来の階層型組織からホラクラシー組織に移行した場合、上司・部下という関係性がなくなったり、一人ひとりが職種の枠にとらわれずに多様なロールを担うようになったりするため、評価において「誰がどこまで見るのか」という判断が難しくなります。

さらに、以前から推進していたリモートワークにホラクラシーをかけ合わせると、評価者と被評価者の日々の接点がかなり限られるので、従来の給与制度のままでは評価をすること自体が難しくなってしまいます。そういった背景から、ホラクラシー組織へ移行しつつ、同時並行で新たな給与制度の設計も進め、昨年から新制度の運用を開始しました。

そこで今回は、弊社のホラクラシー組織にあわせた、新たな給与制度の全容をお話しできればと思います。

給与テーブルと紐づいた「ジョブグレード」を自己申請する新制度とは

まず前提として、弊社の組織運営において大切にしている考えをお伝えしたいのですが、弊社では社員を「パートナー」と呼び、パートナーと会社が本当の意味で支え合う関係性を持つことを重視しています。

具体的には、パートナーは自分自身がもつ「タレント(実力=スキル・経験など)」を提供することで会社の成長を目指し、会社はパートナーのタレントを投資するに値する存在であり続けることと、給与・報酬といった資本の提供によってパートナーの幸せを支えるという関係性を目指しています。

また、私たちはあるべき姿として「当事者である」「専門家である」「楽しむ人である」​​というOneパートナー像を掲げていて、どのようにタレントを発揮していくかを個々人の判断に委ねているので、多様な働き方をしているパートナー全員に適用できる給与制度になるように設計しました。

そういった前提をもとにした新制度は、ジョブ型でもメンバーシップ型でも職能型でもないものとなっています。大きな特徴は、パートナー自身が「来期にどのくらいのタレントを発揮して会社に投資するか」を判断して、これを「ジョブグレード」として自己申請するという仕組みにあります。

一般的には「等級+評価」で給与を決定する企業が多いと思いますが、今回の新制度にはそのような評価給がなく、パートナーの申請をもとに最終的にジョブグレードが確定したら、おのずと給与が決まるという、とてもシンプルな仕組みにしました。

とはいえ、制度移行期は一人ひとりが適切なジョブグレードを判断できるように客観性も必要になるので、現在は周囲からの360フィードバックと、複数名によるレビュープロセスも設けています。なお、弊社では「パートナーは相互に成長を支援する」という考え方から、あえて360(度)評価ではなくフィードバックと表現しています。

加えて、「One GlobalSign Way」​で市場標準以上の給与を達成すると掲げていることから、ジョブグレードに紐づく給与テーブルは市場標準と照合しながら設定している形です。

複数の役割を担っていても、メインのジョブのみでグレード判定する理由

ここからは、より具体的な制度の中身をお話しできればと思います。

まず、ホラクラシー組織の特徴として、職種をまたいで大小様々なロールを担うことが多いのですが、ジョブグレードの申請にあたっては各自のメインのジョブだけで判断してもらうこととしました。

▼ジョブ一覧(一例として抜粋)

この点については設計する時にとても悩みました。例えばあるエンジニアが「自分のタレントを100とした時に、開発に50、事業系の業務に30、興味を持っている新たな業務に20を発揮したい」と振り分けたとします。

そうすると、新たにチャレンジした業務に関しては経験値が少ないため給与が上がりにくくなる可能性がありますが、それでは私たちが「One GlobalSign Way」でチャレンジを推奨していることと矛盾してしまいます。

また、サブ的な業務での経験は主たる業務のレベルアップにも寄与するはずだと考えて、それぞれが一番タレントを発揮できるメインのジョブをもとに、ジョブグレードを決定する形に落ち着きました。

ここを定めることによって、不定期で担うロールが変動するホラクラシー組織であっても、組織の機動力を下げずに運用できていると感じています。

加えて、多くの企業では、現場のプレイヤーとして段階的に経験値やグレードを上げていき、ある時点でマネジメント職も担うというケースが多いかと思います。それに対して、弊社ではプレイヤーとして専門家であっても、マネジメントにおいては専門家とは言えない場合もあると考えているので、マネジメント自体を専門性の一つとして捉えて明確にジョブを分けて定義しています。

なお、フルスタッフエンジニアのように総合的にタレントを発揮している人がいる場合は、そういった方が該当するジョブを新設するか否かの判断を含めて、ジョブサークルの担当者に任せて工夫してもらっています。

▼制度運営における、職種ごとの細かい判断はジョブサークルの担当者が担う仕組み

ホラクラシー

各要件の達成度合いによって、ジョブグレードが導き出される仕組み

次に、年に1度パートナーが申請する「ジョブグレード」の決め方についてお伝えします。

前提として、ジョブグレードは先ほどお伝えした「メインのジョブ」と「キャリアレベル」の2軸で判断する仕組みとなっています。

キャリアレベルはPara-Professional(S1)からPre-eminent(P6​)までありますが、この階層だけだと一段階レベルが上下するだけで給与が数百万円も変動してしまいます。

実際には、同じキャリアレベルの中にもスキルや経験値が異なるパートナーが幅広く存在しているため、例えば「P2-2」といったように、それぞれの階層内でさらに3段階にレベル分けしている形です。

これらのキャリアレベルのうち、自分がどこに該当するかを判断できるように設けているのが、すべてのパートナーに求められる「共通要件」と、エンジニア・マーケターといったジョブごとの「固有要件」の二つです。

具体的な内容として、共通要件では「戦略・目標への貢献」「リーダーシップ」「業務プロセス・システム・製品改善」「成果創出・課題解決」」「アウトプット」という各項目に対して、キャリアレベルに応じて要件を定義しています。

また、固有要件はジョブによって全く内容が異なります。これらの要件は細かく決められているので、どこまでの要件を自分が満たしているかや、各自が期初に設定していた目標の達成度合いなどを一つひとつ確認していけば、おのずとキャリアレベルが分かり、その先のジョブグレードが決まるようになっています。

▼ジョブ固有要件を定義したシートのイメージ(例:マーケティング)

このようなジョブごとの固有要件を決めるプロセスにおいては、HRメンバーが他のジョブと比べてレベル感の設定が逸脱していないかをチェックしますが、すべてのジョブのレベル感を正確に把握することはできません。

また、例えばエンジニアの中にもウェブ系やインフラ系など様々な専門性を持っている方がいて、ジョブごとに要件定義の仕方が全く異なるので、基本的にはジョブサークルで要件定義を担っている方々を信頼して、どこまで要件を細分化するかなどの判断も含めてお任せしています。

なお、制度設計時にすごく悩んだポイントとして、「パートナーがジョブグレードを申請する時にプレゼンを必要とするか否か」がありました。ただ、もしプレゼンを必要とする場合は、その能力が高い人の評価が上がりやすくなるという懸念があります。

なので、Expert(P5)という上位のキャリアレベルについてはプレゼンと役員レビューを入れているものの、それ以外のレベルについてはプレゼンを不要として、できる限り客観的なデータで各項目の達成度合いをチェックできるような要件定義をしてもらうようにしています。

「自分のタレントをいかに解き放つか」に集中できるようになった

昨年、このような給与制度に移行しましたが、その際には全員の給与が下がらないようにするという前提で、移行前の等級をもとに新制度のジョブグレードにマッピングしてみました。そして、初回はジョブグレードが上がると思う人のみに申請してもらいましたが、今後は年に1回の頻度で全員にジョブグレードを申請してもらう流れで運営していきます。

これまで新制度を動かしてきた中では、いくつかの課題も見つかりました。例えば、初期の頃はジョブグレードを決定するための要件定義が不明瞭だったり、年度末の実績を反映しにくい申請タイミングになっていたり、一人のメンバーが担うレビュー数が多くてすごく負担が掛かっていたりしたんです。現在はこの辺りの課題を細かく改良しているところです。

新制度に移行して良かった点としては、経験年数などにとらわれずに個々人のタレント(実力)があらためて評価されて、給与が上がったパートナーも出てきたことですね。

また、定量目標を定めてマネジメントするかどうかはサークルごとに任せていますが、以前のように期初に設定したチームや個人目標の達成度合いによって評価給が決まる仕組みはなくなりました。それによって、「高い評価を得るために仕事を頑張る」といった考え方から、「自分のタレントをいかに解き放って結果を出していくか」に集中できるようになったというのは、良い変化だと思います。

一方で、自分のタレントやキャリアに向き合うことは結構しんどい作業だと思うので、新制度への移行をポジティブに受け止めているパートナーばかりではないかもしれません。

ただ、今後の社会的な変化を考えると、早めに自分のタレントやキャリアに向き合う経験を積んでおいた方が良いと思うので、今回その機会を得ることができたと捉えてもらえたらと思っています。

会社としての今後のチャレンジは、「事業から人へ」という経営戦略を推進し続けることでさらに組織を良くしていきたいですし、その点ではHR領域の取り組みが肝になると考えています。

その中で、今回のように既存のシステムに変化を加える場合、一定の抵抗感やコンフリクトが起きることもありますが、それでも方針をぶらさずに根気強く取り組み続けることを大切にしたいです。

そして、弊社の「電子印鑑GMOサイン」をはじめとする電子認証の事業面においては、今後ますます広がるデジタル社会での「安心」「安全」を提供する、グローバルで無くてはならない企業へと成長していきたいと思っています。(了)

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