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マネーフォワードの本質的な「人的資本開示」。カルチャーや自分たちらしさをどう伝える?

マネーフォワードの本質的な「人的資本開示」

人事制度や社内教育・研修といった人材に関する取り組みを可視化し、社内外に向けて公表する「人的資本開示」。この動きは先に欧米で始まり、その取り組みがやがて日本など各国に広がってきたが、「何から始めたら良いのか?何を開示すべきか?」と悩むことも多いのではないだろうか。

そんな中で、特徴的な取り組みをしているのが、法人向けバックオフィスSaaS「マネーフォワード クラウド」をはじめ、個人向け家計簿サービス「マネーフォワード ME」、金融機関向けシステム開発サービスなどの開発・提供を行う​​株式会社マネーフォワードである。

同社は、2021年度より開示を始めた統合報告書「Forward Map」にて、人的資本の数値データや実績だけでなく、会社のカルチャーやサーベイに基づく社員の意識変化までも公開している。

さらに、ボトムアップで作り上げた「DEIステートメント」や、約2,000人の社員がカルチャーをどのように解釈しているかをまとめた「Money Forward Culture Deck」など、多くの「人」にまつわる情報を社内に閉じることなく、積極的にオープンにしている。

同社のグループ執行役員 CHO(Chief Human Officer)を務める石原 千亜希さんは、「人事に関する取り組みは人的資本開示ありきで行っているのではなく、あくまで人の成長が会社の成長に繋がるというカルチャーが根本にある​​」と語る。

そこで今回は、統合報告書「Forward Map」や「DEIステートメント」といったさまざまな取り組みに関して、人的資本開示についても交えながら、詳しくお伺いした。

※以前、同社に取材した「英語公用語化でエンジニアの38%が外国籍になった採用実績」についての記事も、ぜひご覧ください。

根本にあるのは「人の成長が会社の成長に繋がる」というカルチャー

私がマネーフォワードに入社したのは2016年になります。ファーストキャリアが会計士だったため、最初は経営企画部で上場の準備やIR、資金調達などを担当していました。

その後、別の経験も積んでみたいと考えたことから、2021年8月にPeople Forward本部(人事)に移り、現在はCHO(Chief Human Officer)を担っています。

▼グループ執行役員CHO 石原 千亜希さん

近年は弊社の人的資本開示に注目いただく機会が増えてきましたが、私たちは「開示しないといけないからこのデータを出そう」といった発想をしていません。それ以前に、もっと根源的な「会社としてどうありたいか」に沿った取り組みをすることと、「定量データの裏側にどういった思いがあるのか」が伝わるような開示をしたいと考えています。

そのため、まずは前提となるマネーフォワードのカルチャーについてお伝えしたいのですが、私が入社当時から強く感じたのは「人の成長が会社の成長に繋がると信じている、人をすごく大切にする会社である」ということです。これは特に明示されていたわけではありませんが、そういうカルチャーやDNAがあることをみんなが感じていました。

そのカルチャーをはっきりと社内外に示すきっかけになったのが、2020年に実施したサステナビリティにおける重点テーマ(マテリアリティ)の策定です。具体的には、「User Forward」「Society Forward」「Talent Forward」​​の3つを重点テーマに掲げました。

これは、世界的に注目されている「企業が長期的に成長するためにはESG(Environment・Social・Governance)の観点が重要である」という考えをもとに、弊社でも改めて「会社にとって一番大切なものは何か?」「サステナブルに会社が伸びていくには何を重視すべきか?」を話し合った結果決まったものです。

この中で「Talent Forward」​​が重点テーマに置かれたことで、社内外に向けて明確に「マネーフォワードの成長には、人の成長が欠かせない」と、頻度高く発信するようになりました。

ですので、人的資本開示ありきで施策を決めたり、公表する数字を決めたりしているのではなく、会社が大切にしていることや「マネーフォワードらしさ」をステークホルダーにきちんとお伝えしていくという姿勢が、結果的に現在の人的資本開示に繋がっているという感じですね。

これからお話しする人事の取り組みも、そういったカルチャー・思想に根ざして考案し、実現してきたものとなります。

Forward Mapは数値や実績だけでなく、社員の意識にもフォーカス

先ほどお伝えした通り、2020年に3つの重点テーマを決め、それがさまざまな取り組みや人的資本開示の流れに繋がったのですが、そもそものきっかけとなったのは、海外投資家の増加でした。

というのも、日本でESGやサステナビリティ、人的資本開示が話題になる前から、海外ではすでにその動きがあったため、弊社の株主に海外投資家が増えてきたタイミングで、「しっかりESGや人的資本開示に取り組んでいこう」と動き始めたんです。

続いて、2021年に弊社が東証プライムに上場し、投資家層がより広がるということで、「会社の思想やカルチャーが伝わるような開示が必要ではないか」という話になり、統合報告書「Forward Map」を初めて作成し、公開しました。

▼マネーフォワードの統合報告書「Forward Map」(2023年版)

この2021年版では、「MVVC(ミッション・ビジョン・バリューズ・カルチャー)」などのワードを盛り込みながら、カルチャーと実際の事業運営がどう関係しているかについてと、メンバーの笑顔の写真を豊富に載せて「らしさ」が伝わるように工夫しました。

2022年版のForward Mapでは、よりサステナビリティを中心にした内容にし、同時に投資家の方がイメージしやすいように、「エンジニアが何割」「女性管理職が何割」といった人事周りのベーシックな数字をしっかりと開示したことが特徴です。また、この年に人事制度を変更したので、その背景も記載しました。

そして、直近の2023年版では、メンバー育成に関する情報やエンゲージメントサーベイの結果も開示しています。また、コーポレートガバナンス報告書の中で、ダイバーシティに関する目標値を含めた開示も行いました。

このような人的資本開示に関しては、「研修を何回やった」「何人の女性が管理職になった」などの形で実績を出される企業が多いと思いますが、そうしたデータや実績だけではなく、「社員の意識がどのように変わったか」「社員がどう感じているか」といった部分まで開示しているのが、Forward Mapの独自性ではないかと考えています。

実際に、「人的資本開示の主語が会社ではなく、社員になっている点が素晴らしい」と評価いただいたこともあるので、実績や数字だけでなく、社員の想いや、人事関連の施策の背景にある想いについても、引き続き表現していきたいと思っています。

▼「Forward Map 2023」では社員のサーベイ結果まで細かく公開し、話題となった

全体の時系列としては、こうした形で人的資本開示を進めてきました。ただ、先ほどもお伝えした通り開示ありきではないため、私たちとしては「元々取り組んでいた内容を情報整理して公開してきた」という感覚です。

活動初期を振り返ると、主に海外投資家に向けて「どんな情報を開示しようか?」と考えたのですが、その時点ですでに、noteなど複数の媒体でさまざまなデータや社員の声を発信していたんです。

ただ、それらが別々の場所で公開されている状態だったので、整理して「Forward Map」といったわかりやすい形でまとめていった。それが人的資本開示として結実したという表現が、私たちとしてはしっくりくるかな、と思っています。

社員同士のディスカッションをもとに、DEIステートメントを作成

ここからは、Forward Map以外にも結果として人的資本開示に繋がっている取り組みを、いくつかご紹介できればと思います。

まず、「DEI(Diversity Equity & Inclusion)ステートメント」の策定と公開が挙げられます。これは誰もが尊重され、多様性ある組織を作ることを目的として、異なるバックグラウンドや能力を持ったメンバーが、同じ目標に向かって進んでいくための共通言語として掲げているものです。

この取り組みは、「DEIステートメントを作ってほしい」という社員の声から始まりました。会社の大切にするバリューやカルチャーとしてフェアネス(公平)やリスペクト(尊重)は明示されていたのですが、さまざまな国籍や背景をもつ社員が増えてきたため、「そこからもう一歩踏み込んで、同じ認識を持てるよう言語化したい」と。このように会社主導でなく、社員からのボトムアップで生まれているのが弊社らしいところだと思います。

ステートメントの作成は、社員によるワークショップから開始し、国籍を問わず30人ほどの有志が集まってさまざまな意見を出し合いました。

DEIに関する議論は、ともすればマイノリティ側の権利主張だけに陥りがちですが、そうではなく、個々人の属性に関わらずに「お互いに思っていることをちゃんと声に出さないと、伝わらないよね」「この人はきっとこうだ、という先入観やカテゴライズで考えずに、コミュニケーションをきちんと取ることが大事だ」など、しっかりとディスカッションできたことが非常に良かったと思います。

その後、ディスカッションで出た意見をもとにDEIチームでドラフトを作成し、経営陣とのやり取りを経てステートメントが完成しました。

ステートメントをご覧いただくとわかるように、メンバーのディスカッションが元になっていることから、会社としてではなく「私たちはこう振る舞います」というメッセージになっているのが特徴で、社員が主語となった取り組みとしても非常に意義のあるものだと感じています。

人的資本開示は難しくない。社内外の垣根なく取り組みを発信し続ける

その他にも、社内のカルチャーに関する取り組みとして、2023年7月に「Money Forward Culture Deck」を外部公開しました。

ここまでお話した通り、弊社はカルチャーを非常に大切にしていますが、その根本には「カルチャーは一人ひとりの行動と意識の集積によって作られるもの」という考えがあるんですね。決してトップダウンで言われるだけで浸透するものではない、と。

とはいえ、2,000人規模の組織になってくると、カルチャーの解釈も少しずつズレてきたり、変化してきたりします。そこで、みんながそれぞれカルチャーをどう解釈しているのか、社員の想いやコメントを掲載し、社内はもちろん社外の方にも見られるようにまとめました。

また、Culture Deckをより深掘りしたような取り組みとして、「カルチャーヒーロー」という表彰制度を設けています。3ヶ月に1度、全社で最もカルチャーを体現した人を讃える制度で、カルチャーのキーワード6個に沿って1人ずつしか選ばれないので、毎回激戦です(笑)。

受賞者は全社に向けて「なぜ自分がカルチャーヒーローになれたのか」をプレゼンするのですが、それを聞いてみんながさらにカルチャーについて考えたり、意識したりするきっかけになっています。そして、この時のプレゼン内容や推薦コメントも記事化して、社内外に向けて公開しています。

※実際の記事はこちらからご覧ください。

さらに、産休・育休に関する制度や考え方について1冊にまとめた「産休育休ガイドブック」を作りました。本来社内向けなのですが、会社の文化を伝えるという意味で社外にも公開しています。

育児・介護休業法改正の改正によって、男性も育休取得に対する関心が高まり、「実際に自分が育休を取る場合にどうしたら良いのか?」という疑問も多く聞いていたんです。その声を参考に、男性育休に関しても詳しく盛り込むことができました。

実際にさまざまな社員から、「産休育休の一連の流れがよくわかった」「ガイドブックのおかげでパートナーの理解が深まり助かった」などの声をもらっています。

おそらく、「人的資本開示」というと堅苦しく感じられる方が多いと思いますが、このように「当社はこんなことをやっています」「メンバーはこのような考えをもって働いています」と、柔らかく伝えていくことも情報開示なんですよね。

他にも2023年2月から「#タイムズマネフォ」というオウンドメディアで社員インタビューなどを公開していますが、社員の顔が見える内容の方がより「マネーフォワードらしさ」を感じてもらえると思うので、このようなカジュアルな情報開示も大事にしています。

カルチャーをアップデートしながら、加速度的に成長する組織を目指す

現在、マネーフォワード全体で組織が急拡大していて、言語や宗教を含めてさまざまなバックグラウンドをもつ方が入社してくれています。現在も積極的に採用しているので、この流れは来年以降さらに加速していくと予想する中で、人事として重要になると考えていることが2つあります。

まず、急拡大しながらもこれまで私たちが大事にしてきたカルチャーを守りつつ、またそれを常にアップデートしていくこと。そして、1 + 1=2ではなく、1 + 1=3以上になるような加速度的な成長ができる組織を作っていくことです。

弊社は11月決算なので、今はちょうど人事情報を整理している時なのですが、今回の開示では「会社における今後の課題」に焦点を当てて外部に発信しようと考えています。それによってまた一段階、人的資本開示の面でもアップデートができるのではないかと思っています。

今後も「人の成長が会社の成長に繋がる」という考え方を軸にアップデートを重ね、会社として、人事に関する取り組みを加速していきたいですね。(了)

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