
- 株式会社Hacobu
- 執行役員CTO
- 戸井田 裕貴
サービス稼働率99.9%を実現!物流領域に切り込むHacobu開発組織のあり方

BtoBの領域、とりわけ特定の事業ドメインで活用されるSaaSの開発には、その領域に対して解像度を高め、ユーザー企業のクリティカルな課題を解決することが求められる。
一方で業界の性質上、そのサービスに障がいが発生することが企業活動に甚大なダメージを与えるケースも少なくなく、プロダクト開発企業に高水準な品質保証が求められることは自明だろう。
企業間物流を最適化するクラウド物流管理ソリューション「MOVO(ムーボ)」シリーズを開発・提供する株式会社Hacobuは、24時間365日動きがある物流領域へ複数のサービスを提供するなか、サービス稼働率99.9%台を実現している。
その高い稼働率を支えているのは、品質保証をリードするQAエンジニアを中心とした、専門性の高いメンバーがプロダクトごとに配置された開発組織体制だ。
さらに、精緻なインシデントログの作成とふりかえりの実施、営業やCSメンバーからの頻繁な情報共有、そしてドメイン知識を深めるための情報共有の仕組みなど、プロダクト品質を高めるための文化が組織全体に根付いているという。
今回は同社執行役員CTOを務める戸井田 裕貴さんと、QAエンジニアを務める金杉 恵里佳さんに、同社の開発組織づくりにおけるねらいや、ドメイン知識を深めるための取り組みなどについて話を聞いた。
会社で1人目のCTO / 1人目のQAエンジニアとして組織を牽引
戸井田 私はソーシャルゲームが流行していた2010年代に、バックエンドエンジニアとして、まさに第一線で大規模ソーシャルゲームを開発していました。複数の新規タイトルの立ち上げや運用を経験するなど、Web・ネイティブアプリケーション開発を主戦場に6年ほど過ごし、EM(エンジニアリングマネージャー)として30人規模の開発チームのマネジメントも経験しました。
その後、ライブコマース事業を手がけるスタートアップに移ったあと、BtoBビジネスに携わりたいと考え、2019年1月にHacobuへ転職しています。最初はいちメンバーとして加わったのですが、翌月からテックリードを務め、6月にはCTOに就任。現在、在籍6年目になります。
入社当時、業務委託のメンバーも合わせて、開発チームは10人ほどの規模でした。それまでCTOという役職の人間はおらず、Hacobuでは私が初めてのCTOになりました。
▼【左】戸井田さん、【右】金杉さん
金杉 私は創業から1年ほど経った2016年10月に、事務職でHacobuに加わりました。それまでは理系の大学にいたバックグランドを活かして、食肉工場の製品管理部門で仕事をしていました。
そこから転職することに決め、「いまはITの時代でしょ」という考えだけでベンチャー企業での求人を探し、たまたまHacobuに入社したんです。
現在はQAエンジニアとして働いていますが、それも実は成り行きでした。シード期に自社プロダクトをリリースした頃、開発を担うエンジニアはいたものの、品質テストの専任者はおらず、CEOの佐々木を含め、可能な人員でテストを行っていました。
私も事務の仕事をしながらテストに参加していたのですが、「恵里佳はこっちの仕事のほうが向いてるんじゃない?」という話になり、Hacobuで初のQAエンジニアになったんです。
当然、エンジニアとしての経験はなかったので、自分で調べながら勉強したり、エンジニアチームの経験豊富なメンバーから教わったりしました。間違っては怒られながら、「なにくそ」という気持ちでがんばり、だんだんと仕事ができるようになっていきましたね。
プロダクトごとに専門性の高いメンバーを配置する組織体制
戸井田 Hacobuは日本の物流における課題解決に取り組む会社です。物流の現場では、今なお紙やFAXを使用したアナログな業務が残り、長時間の荷待ちなどの問題が山積しています。さらに2024年4月からは時間外労働時間への上限規制が導入され、各企業には早急な労働生産性の向上が求められています。
こうした課題を解決するため、Hacobuでは2つの事業を展開しています。1つ目はSaaS事業で、クラウド物流管理ソリューション「MOVO(ムーボ)」シリーズとして5つのプロダクトを開発・提供しています。
▼物流管理ソリューションとして、さまざまな領域でサービスを展開
戸井田 こちらと並行して、物流DXの戦略策定から、導入、実行までを一気通貫で支援する物流DXコンサルティング「Hacobu Strategy(ハコブ・ストラテジー)」も展開しています。
開発組織は現在、60人ほどの規模になりました。プロダクトごとにチームが組成され、各チームにEMやスクラムマスター、バックエンドとフロントエンド、デザイナー、QA、PdMのメンバーが所属しています。
▼プロダクトごとに専門スキルを持った人材が配置されている組織体制
戸井田 そしてこのプロダクトチームを技術面で支えるCTO室、組織面でサポートする組織開発室というチームがまた別にあります。
CTO室と組織開発室は、CTOとVPoEの役割をそれぞれ組織化したものです。CTO室は技術戦略の策定とシステム運用を担い、プラットフォームエンジニアリングとデータエンジニアリング、R&DやPoCを通じた新規プロダクトの立ち上げ、プロダクトチーム横断の技術イネイブリングに取り組んでいます。
一方の組織開発室は組織戦略の策定、組織運営が役割で、組織アーキテクチャの設計、予算策定、採用、広報、さらに組織面でのイネイブリングを担当します。
▼CTO室と組織開発室の役割
戸井田 私が入社するまではソフトウェアエンジニアチームという一括りの組織だったのですが、指揮をとる立場になってから、プロダクトごとのチーム編成に体制を変えました。
「お客様の課題を解決するため、いかに良いプロダクトをつくるか」がすべてだと思っています。プロダクトごとに専門性の高いメンバーがいる方が、開発の質が上がりますし、デリバリーも早くなりますよね。
例えばQAやデザインが組織の外から派遣されているような形もありますが、それでは開発が自分事にならず、プロダクトのクオリティに影響が及ぶのではないかなと。「自分の子どものようにプロダクトを育ててほしい」という思いもあり、開発に必要なメンバーはすべてチームにいることが望ましいと考えています。
サービス稼働率99.9%台を実現、インシデントは精緻にデータ化
戸井田 2024年7月に「MOVO Berthのサービス稼働率(※)が99.99%を実現した」というプレスリリースを発表しましたが、Hacobuでは各プロダクトを提供するにあたって、サービスの稼働率を公表しています。
※サービスを利用できる確率(稼働率 =(稼働計画時間 – 稼働停止時間)÷ 稼働計画時間)にて算出
あるとき営業のメンバーから「競合サービスと比較して稼働が安定しているという理由で、MOVOの利用を決めてくれるお客様が多い」という話があったんです。それを受けて「稼働率を見える化すると、お客様により安心してプロダクトを使ってもらえるのではないか」と考え、CTO室で数値化の取り組みを始めました。
物流領域は、夜間も含め24時間、常に動きがあります。そのなかでMOVOのようなプロダクトが止まってしまうと、企業活動に大きな影響が出てしまう。ミッションクリティカルなプロダクトですし、QAエンジニアは特にそこへ意識が向いていると思います。
金杉 ミッションクリティカルであるということは、品質を担保しつつも、リリースのスピードが求められると考えています。「プロダクトの動きを絶対に止めない」という意識をもちながらも、場合によっては稼働に影響が出ることを想定しつつリリースを早めたり。バランスが大切ですね。
戸井田 実際にサービスの稼働率を算出したところ、2023年6月から2024年5月までの期間では、MOVO Berthの稼働率が99.99%、MOVO Fleetは99.94%、MOVO Vistaは99.97%という実績でした。
これだけ高い稼働率を出せている理由の1つには、まず先ほどもお話したQAエンジニアが各プロダクトチームにいる体制があると思います。
金杉 チームごとにQAエンジニアがいるメリットは、プロダクトに向き合って仕事ができることです。物流にはさまざまな領域があるなかで広く担当をもつと、「お客様がどのようにプロダクトを使っているのか」という理解を深められず、開発の質が下がってしまいます。
各チームにそれぞれメンバーがいることで専門性を高められますし、経験をもとに障害にいち早く気づくことができます。私自身、障害が発生したときには「このあたりに問題がありそう」と、その原因を早く検知できるようになっていますね。
戸井田 他にも具体的な取り組みとしては、実際に起きた障害の内容や、プロダクトが止まっていた時間のデータなどを残しているインシデントログがあります。
これは各プロダクトチームのPdMが中心になってつくっているものですが、それぞれのインシデントについてはチームでよく振り返りも実施していますね。
▼実際のインシデントログ(一部を抜粋)
職種を越えたコミュニケーション、ドメイン知識の深さも強み
戸井田 Hacobuの特徴として、開発チーム以外の部門のメンバーが積極的にプロダクトの品質向上に関わってくれている点も大きいと思います。例えば、営業のメンバーがVOC(※Voice of Customer、顧客の声)をこまめにSlackで共有する文化は昔から強くあります。
先にお話しした「競合サービスと比べて安定している」という投稿についても、部署をまたいで多くのメンバーからリアクションや投稿が続きました。それだけ、皆の関心が高いのだと思います。
金杉 顧客の声は、Slack上のVOCに加えて、開発部門、事業本部、営業、CSが参加する定例会議でも共有されています。そこでCSメンバーから直接お客様の要望を聞くことができます。
また、CSから声がかかって、エンジニアが物流センターや倉庫、運送会社の事務所など、現場訪問に同行するケースもよくあります。お客様が実際にプロダクトを使っている様子を見せてもらったり、直接ヒアリングを行ったりしていますね。
特に、物流領域での業務経験がないメンバーにはドメイン知識のキャッチアップが必要なので、オンボーディングでは現場を訪れてもらうようにしています。ほかにも社内のメンバーが薦める書籍を読んで基礎知識をつけてもらう、物流出身のメンバーからレクチャーを受けてもらうといったこともありますね。
戸井田 ドメイン知識をいかに獲得するかは非常に重要なテーマです。その考えのもと、過去にはJiraやConfluenceなど各所に散らばっていた技術、プロダクト関連の情報をすべてNotionへ集約するという大きなプロジェクトも実施しました。これによって、オンボーディングの質も上がったと感じますね。
金杉 ビジネスサイドで行われた社内の相談のメモや、CSがお客様とコミュニケーションをとった事例の記録などもNotion上で見られるのは大きいです。
戸井田 加えて、MOVOの各プロダクトではそれぞれのPdMが自ら専門性を深めて、お客様と相対する営業やCSのメンバーよりも物流領域に詳しくなっているんです。彼らがドメインエキスパートと呼べるほどの知識を身につけていることで、ドメイン駆動設計も実現できていますね。
チーム横断でQAの共通化に着手、開発環境のさらなる向上へ
戸井田 これからの挑戦として、今1つのテストプロジェクトを立ち上げていて、チーム横断のQAの標準化・最適化に取り組んでいます。
というのも、これまでプロダクトファーストで組織を作ったが故に、プロダクト横断の取り組みが弱い部分がどうしてもあるんですね。例えば2つのチームのQAが一部、まったく同じことをやっていたりするのは効率が悪いので、どこまで共通化してどこから各チームに任せるか、いいバランスを探っていきたいと考えています。
金杉 私は、プロダクトをもっと成長させたいですね。それに向けて、エンジニアが開発しやすいように仕様を整えたりと、チームのために仕事をしていきたいです。
それから個人的には、実はあまり得意ではないのですが、色んな人を巻き込めるようになりたいです。開発チームに寄り添いながら、営業やCSのメンバーも仕事をしやすくしていけたらと思います。
戸井田 Hacobuの開発チームは、プロダクト好きな人であれば100%活躍できると考えています。ソフトウェアプロダクトを通してお客様の課題を解決したい人、その課題が大きければ大きいほどいいと思っている人は、間違いなく活躍できます。
マネージャーや、新規プロダクトの立ち上げをリードできる人が足りていないので、やりたい人はぜひHacobuに来てもらいたいです。(了)
文:加藤 智朗
企画・取材・編集:舟迫 鈴(SELECK編集部)
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