- 株式会社メディアドゥ
- 取締役
- 溝口 敦
【後編】たくさんの人に「本」との出会いを。電子図書館というテクノロジーが創り出す世界
今回のソリューション:【電子図書館】
(※前・後編の後編になります。メディアドゥとOverDriveの出会いから、事業提携に至るまでを聞いた前編はこちらです。)
2014年5月、電子書籍取次事業を展開する株式会社メディアドゥ(以下メディアドゥ)は、電子図書館プラットフォームの世界最大手であるOverDrive, Inc.(以下OverDrive)との戦略的業務提携を発表した。そして現在、国内では初となる電子図書館システムが慶應義塾大学メディアセンターにて実証実験中だ。
電子図書館とは、IT技術の発展によって生まれた新しい形の図書館だ。従来のサービスのように本を借りるリアルな「場所」があるのではなく、データベースにアクセス可能なWEBサイト上で、電子書籍をレンタルすることができる。海外では既に普及しており、OverDriveは世界50カ国で、約5,000社が提供する250万以上の作品を取り扱い、公共図書館3万館以上にこのサービスを展開している(2015年3月1日時点)。
概念的に言えば、電子書籍は同時に多数の人がひとつの作品をレンタルすることが可能だ。それを敢えて同時アクセス数の制限をかけることで、「貸出中」という物理的に「ない」状態を作り出す。そんな一見、時代に逆行するかのような特性を持つのが、電子図書館だ。
「ひとつでも多くのコンテンツをひとりでも多くの人へ届ける」という企業理念の下、メディアドゥが電子図書館という方法を選択した理由とは? 同社取締役の溝口 敦さんへのインタビュー後編は、メディアドゥがOverDriveとの業務提携に至った狙い、そして描く未来について聞いた。
事業提携が生む3つの可能性 ①コンテンツの輸出 ②輸入
OverDriveは世界50カ国で、公共図書館3万館以上にサービスを提供している実績(※2015年3月1日時点)を持っています。そして我々の提携によって実現できることは、大きく分けて3点あると考えています。
まずは、コンテンツの輸出です。日本のコンテンツを世界に発信するためのプラットフォームとして、OverDriveが持っている電子図書館を活用します。世界中の人に日本のコンテンツが読まれたら、こんなに良いことはないですよね。今こちらは少しずつ、出版社さんとも連携しながら進めています。今後はアメリカの電子図書館で、日本のマンガがたくさん読める時代になっていきますよ。
日本のコンテンツは、手を加えることなくそのまま輸出することができます。言葉は、何語でも良いんです。それが図書館の良いところで、様々な国の、様々な興味対象を持つ人が利用するんです。例えば日本のマンガを日本語のままで読んで、日本語学習をしたい人とかね。
そして次にできることはその逆で、OverDriveが持っているアメリカのコンテンツの日本への輸入です。
③「紙がデジタルになっただけ」日本国内での電子図書館の展開
最後が、弊社とOverDriveのシステムを掛け合わせて日本で電子図書館を展開することです。電子図書館の仕組みを簡単に言うと、紙の図書館と一緒です。誰かが借りている時には、そのコンテンツは借りられない。返却期限があって、それが過ぎると自動的に読めなくなります。同時に同じ本を借りられる人数にも制限がありますし、電子データでありながら、物理的に「ない」状態を作り出すんです。
電子データなので、概念的には何人でも一緒に借りてもいいじゃん、と思うかもしれませんが、それでは作家や出版社の権利を守れないんですよ。電子図書館は本当に紙の本の図書館と一緒の仕組みで、紙がデジタルになっただけなんです。
なぜメディアドゥがOverDriveと一緒にやっていくのか、その最大の理由は、OverDriveが世界中の図書館の要望を取り入れた、グローバルスタンダードな電子図書館のシステムを既に持っているからです。
我々の目の前には既に最高のソリューションがあって、あとは日本に合わせてローカライズするだけです。OverDriveがそのシステムを提供していて、メディアドゥが日本での展開におけるノウハウを提供しています。ないもの同士を、お互いに補い合っているんですね。
物理的に図書館に行けない人も、図書館を利用できるようになる
公共図書館は公的機関なので、ユーザーの利用料は無料なんです。税金で運営されています。例えば目黒区に電子図書館を展開した場合は、目黒区に住んでいるか働いている人が無料で使える、というイメージです。今まで図書館で使っていたIDとパスワードを、そのまま使ってログインできるケースも出てくると思います。
それに電子データなので、行かなくても借りることができ、返しに行く必要もありません。昼間働いているビジネスマンや障がいをお持ちの方など、物理的に図書館に「行く」ことが難しい人が本を読みたいと思った時に、ひとつの解決策になり得ます。様々な環境の方に本を楽しんで頂けるようになるので、結果的に本が読まれる全体量を増やすことができる可能性があるのが、電子図書館というシステムです。
実際の電子図書館のサイト上では、通常の電子書籍販売のような形で様々なカテゴリーがあって、検索の仕組みもあります。今後の可能性として、日本でも本だけではなく音楽や映像までコンテンツを広げていくことも考えています。リアルの図書館でも、CDを借りることもできますしね。
▼OverDriveが海外で運営する電子図書館の画面イメージ
2社の技術を掛け合わせることで、シナジーが生まれる
日本で電子図書館を作るために、OverDriveとメディアドゥがお互いに持っている技術を掛け合わせてシステムを構築しています。例えば他国の本は基本的に左開きなのですが、日本のマンガは右開きなので、特殊な開き方なんですよね。そういった技術的な部分は弊社がカバーしています。あとはコンテンツを配信するサーバーは管理や効率の観点から日本国内にあったほうが良いので、それもこちらで。
OverDriveはユーザーが使うWEBサイトのフロントの部分と、図書館で働く人が使う管理システムの構築を担っています。あとはアメリカのコンテンツはアメリカのデータベースにあります。読み出すコンテンツによってアクセスするデータベースが違って、吐き出すビューアも違う。これが電子図書館の裏側の仕組みなんです。
電子図書館の本質:図書館のコミュニティ化の促進
電子図書館を実現する本質は、デジタルで本を借りて読むことができる、ということではないと思っています。テクノロジーを使うことで、図書館の様々な可能性を開く事ができるのでは、と考えているんです。
例えば、紙の本が電子データになると本を置く物理的スペースが空きますよね。その場所を使って、新しいことができるようになります。子供が遊ぶ場所や、勉強するためのスペースや、お茶を飲むためのスペースなどをもっとたくさん設置できたり。「本を貸し出すこと」は図書館という場所が持つ機能のひとつになって、今よりもっと色々なことができる可能性が生まれます。
実際に電子図書館が2万館以上あるアメリカでは、電子化によって地域の図書館がコミュニティ化して、様々なサービスを提供するようになっているんです。語学を勉強する教室が開かれたり、子供が遊べるエリアが広くなったり、セミナーを行う大きなホールがあったり、新しいサービスがどんどん実現されています。
図書館運営を効率化し「やりたいこと」を実現するお手伝いをする
そしてまた、電子図書館によって図書館を運営している人たちが本当にやりたいと思っていることを実現するお手伝いができるのではないか、と考えています。
OverDriveが図書館の運営のために提供しているシステムは、それを使う人の業務を効率化するものなんです。例えばどの本がどれだけ、誰に借りられているのか、といったデータ分析が簡単にできるようになっています。このシステムによってサービスが良くなれば、結果的にお客様満足度の向上に繋がります。すると、リピーターが増えて、本を読む人も結果的に増える。このようなことがアメリカでは実際に起こっています。
図書館で働く人の仕事の内容も変化します。現状だと「期日を過ぎていますのでご返却をお願いします」という督促電話が非常に大変だそうなんです。それに紙だと汚れるし破れたりもするので、管理も大変です。こういった業務は、電子化によってゼロに近づきます。
このように物理的な作業が減っていくことで、図書館で働く人たちが実現したかったことができるようになるのではないでしょうか。例えば読んで欲しいものをしっかり伝えたり、もっと本を読んでもらうための施策を考えたり、障がいをお持ちの方に本を読める環境を整えたりすることに時間が使えるようになりますよね。
「本は面白い」ということを伝えるために、デジタルの技術を使う
今後、電子図書館を日本中に拡大していくのには本当にまだ、越えなければならないハードルがたくさんあります。技術的な部分では、解決できないことはあまりないんです。あとは、本に関わる作家、出版社、ユーザー、全員がハッピーになれる方法を模索しています。
でも本当に考えなければいけないのは、本を読む絶対量が減っていっている事実です。その大きな原因として、人々がスマホの画面を見る時間が増えて、そのスマホの中には本以外のエンターテイメントが溢れていることがあると考えています。
そうすると、やはりデジタルの世界に本を色々な形で持ってこないといけないんです。スマホの画面に「本」というものを溶け込ませて、皆がアクセスしやすい状況を作る。そうすることによって、本が読まれる絶対量が増えると考えています。
「デジタル vs 紙の本」という議論もずっとありますが、単純に「本は面白い」ということをもっとみんなに伝えていきたいと思っています。まずは本が好きな人を増やすのが僕らの役割だと。気軽なデジタルがそのきっかけになればいいと、本当にそれだけを思っているんです。
(※メディアドゥとOverDriveの出会いから、事業提携に至るまでを聞いた前編はこちらです。)