- 株式会社カインズ
- eコマース事業部 Web企画部 部長
- 竹永 靖
最も運営が難しいECサイト?通販に20年以上携わるベテランが語る、サイト運営の工夫
〜全国200店舗以上、年商3,937億円を誇るホームセンターカインズの、ECサイト運営の工夫を紹介〜
インターネットの普及に伴い、eコマースの市場規模は増え続け、ECサイトを運営する企業の数も増加している。
しかし現状は、成功しているECサイトは限られている。少ないリソースの中で、どれだけ効率良く運営し、売り上げを立てることができるかが鍵となっている。
全国200店舗以上のホームセンターを運営する株式会社カインズの、eコマース事業部でWeb企画部長を務める竹永 靖さん。数々の会社で通信販売に携わり、自身でECのコンサルティング事業も営まれてきた「業界20年」のベテランだ。
今回は、「ホームセンターのECは、これまで携わってきた通販の中でも最も難しい部類に入る」と語る竹永さんに、サイト運営の戦略と工夫について具体的にお伺いした。
通販経験は20年以上!コンサルでの起業を経て、カインズへ
私は、現在カインズのオンラインショップに携わっています。これまで在籍していた会社も含め、もう20年ほど通信販売という業態に携わってきています。まだネットが普及していなかったころのカタログやDMの通販から、iモードでの通販、スマートフォンのECサイト運営まで幅広く経験を積んできました。
その知見を活かし、以前は独立してコンサルティング事業を営んでいました。そんな中で、縁あってカインズに2009年頃からコンサルタントとして入って、eコマースの運営について支援を行っていました。
その頃からかなりの頻度で訪問していたこともあって、社員になるようお誘いをいただき、2014年からは正社員としてeコマース事業部のWeb企画部長を務めています。
カインズのオンラインショップは、いわゆる旗艦店の店頭で販売しているものを中心に販売しています。商品によっては、店舗で販売していない店舗もあるので、それを補完する意味合いもあります。
▼ホームセンター「カインズ」の公式通販サイト
アクセスが多いのはF1、F2層(20歳〜49歳の女性)の方々で、特に主婦の方が多いですね。近年はスマートフォンからのアクセスが非常に伸びています。最近は60代以上の方もアクセスされているようで、「スマホもそこまで普及してきたか」と実感しています。
EC業界の「巨人」に、ホームセンターはどう立ち向かうか
ECって、Amazonを始め、強いECサイトを持つ企業がいくつもあって、事業規模という意味では、次第に勝負がついてきている部分があると思っています。その中で、どう勝機を見出すかがポイントです。
販売する商品の機能や価格を競合とずらしたり、独自開発するなどして、サイトをブランディングしていくことが必要です。
これまでずっと通販に関わってきた中で、ホームセンターの通販って最も難しい分野のうちのひとつだと思います。
そう思う理由としては3つあって、ひとつは、ユーザーがサイトを使う目的を売り手側が読みづらいということです。
毎日使うような洗剤から、1回買えば数年はもつ収納棚やこたつまで幅広く扱っているため、ユーザーが何を目的にサイトに来てくれているのか、わかりづらい部分があるんです。
次に、物流面の問題です。小さなネジから大型ベッドまで、大きさも出荷場所も様々な商品を運ぶので、送料の設定が難しいんです。店頭ではひとつのカゴに入りますが、ネットだとそうはいかないんですよね。
最後に、単価が安いことです。取扱いは幅広いですが、よく動いているのはティッシュや洗剤といった日用品です。ただ、その領域にはAmazonや、それ以外のドラッグストア商材専業のECサイトもあり、正面から戦ってもなかなか勝てないと思います。
「PB商品」「ライフスタイルの提案」で、独自性を強化
このような背景から、弊社のオンラインショップは、単にモノを売るだけでなく、ライフスタイルの提案までを行うサイトを目指しています。
新しいライフスタイルを提案する「trouveríe」というセレクト雑貨のオンラインショップや、カインズの商品を使ったDIYの提案を行う「DIY style」、産地直送の農作物を販売する「カインズマルシェ」などを、2年前から運営しています。
▼「DIY style」のホームページ
さらに、PB商品(※)を数多く販売することで独自性を高めています。弊社には、約2万人の従業員の声を反映して商品開発を行う仕組みが整っていて、売上比率の約4割がPB商品となっています。
※PB商品:自社で企画し、独自のブランドで販売されるプライベートブランド商品の略。
このような独自のコンテンツ作りと独自商品の販売を通じて、競合他社との差別化を図っています。
長く滞在してもらうため、情報は細部までこだわる
他社との差別化という観点から、ユーザーの方に「このサイト面白いな」と感じてもらって、少しでも長く滞在していただくことが大事だと思っています。
そのためにも、必要に応じて商品のコンテンツはリッチなものにしなくてはと思っています。
おむつのような日用品は値段しかチェックされないことが多いため、必要最小限の情報を載せている一方で、細かく紹介するべき商品は、とても細かい情報まで載せるようにして、その商品ページをよく見てもらうように心がけています。
例えば、猫を飼っている人向けに販売しているキャットタワーの紹介ページは、その仕様を細部まで記述しています。キャットタワーって、一番上の台座のところに自分の猫が乗れるかが重要なので、詳細な情報が必要なんです。
▼ECサイト上に掲載されている、「インテリアキャットタワー デラックス」の詳細な仕様
商品を紹介するときは、類似する商品が専門店でどのように紹介されているかを参考にしています。
このように細かく情報を記述することで、長く滞在してもらうだけでなく、そのページを見ただけで購買の判断がしやすいようにしています。
「カゴ落ち」対策に、EFOとリマインドメールを
サイトに滞在してもらうだけでなく、購入してもらうための施策のひとつとして、EFO(Entry Form Optimization)ツールの活用を行ってきました。ECサイト上で商品をカゴに入れても、購入までいたらずに終わってしまう「カゴ落ち」と呼ばれる現象が、弊社でも起きていたからです。
具体的な施策としては、EFOツールの「Form Assist(フォームアシスト)」を2013年に導入しました。安価な費用で導入でき、しっかりと効果が出ているために使っています。
アクセスされる方の中には、ITリテラシーがあまり高くない方もいらっしゃるので、入力するところがたくさんあると、途中で諦めちゃうんですよね。
Form Assistを活用すれば、どこがネックになっていて先に進めないかを把握できるため、入力フォームの改善につなげることができます。
実際、新規に会員情報を入力するフォームでは、導入してから1週間で約10%のコンバージョン率の向上につながりました。ITリテラシーが低めのユーザーが多いECサイトには、有効なツールだと思いますね。
ただ、それでも途中で離脱してしまう人は一定数いるので、カゴ落ちしてから6時間後にはリマインドのメールを送るようにしています。
最初は24時間後に送っていたのですが、あまり効果がなく、色々と試行錯誤した結果、6時間後にしています。あまり早すぎると催促しているようですし、遅すぎても効果が薄い。バランスが難しいですね。
今後もEC比率を上げるため、サービスを改善していきたい
一般的に、日本ではリアル店舗の売り上げの4〜5%が、ECサイトの売り上げの目安と言われています。
そう考えると、まだまだ弊社では達成できていません。お客様に驚いてもらえるような価格で商品を提供しつつ、新しい生活のスタイルを提案するサイトを目指して、これからも改善していきたいと思います。
そうすることで、毎日の暮らしのなかで感じるちょっとしたよろこびを提供し、弊社が掲げる「くらしに、ららら。」を実現していきたいと思います。(了)