- 株式会社エアークローゼット
- 代表取締役CEO
- 天沼 聰
データはUXを可視化する!airClosetが目指す、感動体験を作るためのデータ活用法
どんなビジネスを展開する上でも必ず必要になる「データ」。売上や粗利、顧客数といった基礎的なものに限らず、多くのビジネスマンはそれぞれの事業領域でさまざまな数字に向き合っている。そしてまた、それらの数字をいかに見やすく、わかりやすい状態で社内に共有するかも課題になる。
月額6,800円(税抜)でプロのスタイリストが選んだ服が手元に届く、女性向けのオンライン・ファッションレンタルサービス「airCloset(エアークローゼット)」。同サービスは2014年10月に事前登録を開始し、以後、現在に至るまで会員登録待ちの状態が続き、予想を上回る大きな反響を呼んでいる。
サービスを運営する株式会社エアークローゼットの代表である天沼 聰さんは、airClosetが最も大切にしているのは、「お客様に感動やワクワクを届ける」というUX(ユーザー体験)であると言う。そしてそのUXの追求のため、同社ではデータをベースにした仮説検証を徹底している。
その文化を醸成するために一役買っているのが、様々なデータを見やすくダッシュボード化するツール「Domo(ドーモ)」だ。天沼さんが「決して安くはないが、データドリブンな社内文化を作るために絶対に必要だと思って導入した」と語るDomoについて、その活用法をお伺いした。
▼様々なデータを見やすく可視化する「Domo」とは…
家族を説得して海外の高校へ進学 起業に向けて経験を重ねる
子どもの時から単純に海外の文化に興味があって、実際にその場で生きてみたいと思い、アイルランドの高校に進学しました。そこから大学はイギリスに移って、そちらに4年間おりました。
アイルランドを選んだのは、アイルランドという国自体を意識したわけではないんです。まず、私の祖父が海外進学に反対していたので、日本人学校だったら許してもらえるのではないかと、世界各国の日本人学校の分校を調べました。
さらに海外は危ないからダメ、と言われていたので、それぞれの国の検挙率を並べて見せて。その中でアイルランドが一番低かったんです。そうしたら最終的になんとかOKしてくれた、という感じです。
イギリスの大学を卒業後、一度社会人として働く経験をしようと、ITをベースとした戦略コンサルティングファームに入社しました。ただいつかは起業したいと考えていたので、それに向けて足りない要素を会社の中で学びたいという思いがありましたね。
最終的に10年ほど在籍してマネジメントの立場になったのですが、まだ起業するには足りない経験があると感じていました。それは大きく3点で、まず多種多様なバックグラウンドを持つ人と一緒に働くこと、次に新しい組織をゼロから立ち上げること、それからグローバルなビジネスに関わることでした。
その3つが実現できる仕事ないかな、と思っていた時にたまたま、知人から楽天株式会社でグローバルなUI/UXチームを立ち上げるという話を紹介していただいて。すぐに移らせていただき、2年半ほどそちらにおりました。
海外メンバーとビジネスを進める上での共通言語は「データ」
楽天の時には海外拠点のメンバーとも話すことが多かったのですが、それぞれの文化も尊重しながら、ビジネスとしての進め方は100%理解し合うべきだと考えていました。その時に最もいい共通言語は、データだったんですよね。数字で、結果がこうだからこうだよね、という話をするのが一番ストレートなので。
大切なのは、結果を見せるだけではなくて、仮説も含めてしっかり話すことですね。例えば数字が上がるのか下がるのか、という仮説を検証しようという話をすると、実際の結果もシンプルな二択で判断できます。
そのように結果が誰の目にも明らかになることが、データで話すことの大きな強みだと思っています。様々なバックグラウンドを持つ人に、いかに熱量高くプロジェクトに取り組んでもらうのか。その部分で、データに頼った部分も大きかったと感じています。
リアルな世界とWebを融合するビジネス 運営のスピード感がカギ
エアークローゼットを立ち上げたのは、2014年7月です。コンサルティング時代の同僚と3人で立ち上げました。リアルなファッションアイテムを扱っていてWebでは完結しないビジネスなので、業務内容は多岐に渡ります。本当に、やることいっぱいあるんですよ(笑)。
社内にいるのはエンジニアがメインですが、他にもマーケティング、カスタマーサポート、それから洋服の調達に、スタイリストに、倉庫オペレーション。スタイリストは社外を含めて数十名いるのですが、実際に商品を手にとって確かめつつ、お客様の方にアイテムを選ぶ時は、内製しているシステム上でピッキングしています。
お客様には見えない部分になるのですが、スタイリストが使うアイテム選定画面には徹底的にこだわっています。ほぼ毎日アップデートをかけていますね。スタイリストからの要望が上がったら即座に対応するように話をしていて、そのスピード感は絶対に崩したくないと思っています。
こちら側のオペレーションにスピード感があるからこそ、お客様に対しても、より良い体験が提供できる。そのベースにあるのは、「 Domo 」を使ったデータドリブンの文化なんです。
データドリブンの文化を徹底する目的は、UXの向上
一番最初にDomoを使ったのは、楽天にいた時ですね。Domoを使うと、経営に関わる大きなKPIから細かいオペレーション的な数字まで、様々なデータを可視化できます。
弊社の場合は社内のデータベースやGoogleアナリティクスと連動させていて、さらにデータのつなぎこみの部分でプログラミングが必要なので、エンジニアの管理担当者を1名つけています。
▼様々なデータを可視化するビジネス管理プラットフォーム「Domo」
Domoって、正直決して安くはないんです。でも絶対に必要だと思っているので導入しています。と言うのも、我々はファッション企業であると同時にIT企業なので、スタイリストの方にも徹底的にデータドリブンの文化を知ってもらいたいと考えています。
数字に馴染みのないメンバーにもわかりやすくデータを見せるために、Domoは役に立つんですよ。
データドリブンを徹底する目的は、UXを向上させるためです。そして僕たちが大切にしているUXは、「洋服を届ける」ことではなくて「感動やワクワクを届ける」こと。
データと言うと難しく感じるかもしれませんが、シンプルに言うと、「どれだけお客様が喜んでくれたのか」ということが数字で可視化されているだけだと思っています。
お客様のためにサービスを提供しているので、UXの向上こそが我々が重要視することです。私が全社に伝えているのは、UXに関しては、誰でもどんなことでもどのタイミングでも、思いついたら全社共有するということ。全員がUXに対して責任を持って、サービスを良くする組織を作っていきたいと思っているんです。
スピーディーな仮説検証のために、Domoで数値を可視化する
弊社でDomoを導入したのは2015年の9月です。それまではどちらかと言うとオペレーションに注力していて、まだリリース直後でデータも貯まっていなかったので数値は可視化していませんでした。
私を含めた経営陣が随時、「こういう数字が欲しい」と言うと、エンジニアが取ってくれていたという感じです。
今、Domoで可視化している数字はかなりたくさんあります。売上やユーザー数といったKPIもそうですし、他にもマーケティングや倉庫オペレーションの細かい部分まで。例えば洋服のクリーニングにかかるリードタイムや、退会アンケートの集計結果、洋服の貸出数など…。
見たい数字にあわせて「Card Builder」という機能を使ってカードを作るんです。そうすると、それぞれのカードにダッシュボード的に数値がリアルタイムに可視化されます。
▼見たい数値に合わせて様々な「カード」をDomo内に作成
▼それぞれのカードをクリックすると、詳細なデータがわかる
弊社の使い方で多いのは、課題があった時に目的に合わせてカードを切り、仮説検証に使っています。
例えば退会アンケートで「新しい洋服が届くのが遅い」という意見が多かったとします。そうすると、「クリーニングのリードタイムを短縮してお客様に早く新しい洋服を届けることで、退会率が下がるかもしれない」という仮説を立てます。
この仮説に対する施策の効果を数字で見るために「クリーニングのリードタイム」や「退会率」というカードを作って可視化するイメージです。
KPIに関しては一度カードを作ったらずっとそれを見続けることになりますが、他の数値に関しては、目的に合わせて素早く作ってPDCAを回し、結果が出なければ破棄する、といった使い方をしています。
データに関するコミュニケーションや、資料作成も効率化
作ったカードはURLで共有できるので、見るべき数値は他のメンバーにも共有したり、全社会議や投資家の方々に説明する時にも使っています。
わざわざパワーポイントを作るのって、時間がもったいないですよね。我々はそのリソースをお客様に使いたいので、Domoのアウトプットをそのまま活用しています。
また、経営陣はライセンスを持っているので、見たい時に常に数字を確認して、「DomoBuzz」という機能を使ってお互いにコミュニケーションをとっています。スマホからも数字を確認できるので、クイックリーに数字を見て思いついたことを書き込んでいますね。
▼データを見ながらコミュニケーションができる「Domo Buzz」
「単に数字を見る」のは無意味 大切なのは仮説を持つこと
結局データは、誰がどうやって使うかが大切なんだと思います。例えば町の八百屋さんでも、全部の野菜の在庫をデータで管理していれば、仕入れの最適なタイミングをDomoで導き出せるかもしれません。何を数値化するかというよりは、どう使うかという話だと思うんですよね。
弊社の場合、Domoの管理担当者に徹底しているのは、仮説と結果まで考えられていない場合は、カードを頼まれても一切作らないということです。*数字って、単に見たがる人も多いんですよ。
でもその数字を見ることに何の意味があって、お客様にどういった価値を提供できるのか。そこまで考えていなければ意味がない。*「何%上がるか」というところまでの具体性はなくても、「上がるか下がるか」だけでも結果を想定しておくことが大事です。
こういった社内文化を徹底させるために、とにかく言い続けるようにしています。「こういう改善をしたい」という話になった時には必ず、それは誰にどういう影響があって、どの数字を見たら確認できるのか、ということを聞いていますね。
理想としては、ひとつひとつの改善に対してよりスペシフィックに、「どの数字がこう変わる予定だから、やろう」というところまで、UXに責任を持って考えられる文化を作っていきたいです。
まだまだこれからの部分も大きいので、引き続き社内に伝え続けていきたいと思っています。(了)
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