- エヌ・ティ・ティ・データ先端技術株式会社
- Blue3事業部 営業担当
- 小谷 栄治
企業のAI活用における「ハードル」とは? IBM Watsonが「問い合わせ対応」を救う!
〜AIが実現する本当の価値と、その活用の現実とは? 社内にある情報を使った「検証」の手順など、AI導入のフローをIBM Watsonの導入事例に学ぶ〜
コンピューターでありながら、人と同じように言葉を「解釈」し、さらに情報や経験から「学習」するAI、「IBM Watson(ワトソン。以下、Watson)」。
そんなWatsonを搭載したカスタマーサポートツールを提供するのが、NTTデータ先端技術株式会社だ。
同社が2016年11月から提供する、「テクノマーク クラウド+ (プラス)」は、ユーザーや顧客からの「問い合わせ」対応を効率化するシステムである。
Watsonを搭載したことで、お問い合わせの内容に応じた回答文を、オペーレーターに自動で提案することが可能になった。結果的に、従来のメール回答業務と比較し、対応時間を約30~60%削減する事ができるという。
今回は、同サービスのセールスを務める小谷 栄治さんに、Watsonを導入した背景から、実際に行った検証のプロセス、さらにWatsonが提供する具体的な価値について、詳しくお伺いした。
「IBM Watson」が「問い合わせ文」を解釈し、学んでいく
私はいま、NTTデータ先端技術で「テクノマーククラウド+(プラス)」のセールス・プロモーションを担当しております。
テクノマークのチームは、もともと弊社内で「コンタクトセンターソリューション」と呼んでいる部署にありました。企業とそのお客様をつなぐ、電話やメールに関するソリューションを担当する部署です。
ですので、私もこれまでは、電話やFAXに関わることが多かったです。NTTデータ先端技術にいるのに、これまであんまり「先端」らしいことはしていなくて(笑)。
けれど今回の「IBM Watson」の導入で、AIというまさに「最先端」の技術に関わることができているので、個人的にはちょっと嬉しいですね。
テクノマーク クラウド+は、カスタマーサポートセンターなどにおける、メールでの「問い合わせ対応」を効率化するツールです。その大きな特徴として、お問い合わせの内容に応じた回答文を、自動で提案してくれるという機能があります。
▼最適と思われる回答文が、自動で提案される(赤枠の部分)
Watsonが、問い合わせの文章を解釈し、データベースの中から「最適だと思われる」回答を提案します。
その提案が間違っている場合も、「それが間違っていること」を機械学習で学んでいくので、使い続けるほどに回答の精度が上がっていきます。
従来の検索システムは、基本的にはキーワードマッチングです。それに対してWatsonのようなAIは、言葉の意味や、入力者の意図を解釈して、同じだと思われるものを探します。そこが大きな価値ですね。
10年以上運用したサービスを、「先端技術」で一新
もともと弊社では、カスタマーサポートを支援する、「テクノマークメール」というオンプレミスのパッケージを提供してきました。簡単に言うと、お客様からのお問い合わせや、FAQ管理までのすべてを一元化するシステムです。
2016年10月に、この10年以上にわたって提供し続けてきたサービスをクラウド化し、さらにWatsonと連携させたのが、テクノマーク クラウド+になります。
実は、以前のテクノマークメールも、お問い合わせ文を日本語解析する、オリジナルのエンジンを持ってはいたんですね。
ですので、問い合わせが来たときに照会する日本語解析の機能の解析先を、オリジナルのエンジンからWatsonに変えたという形です。純然たる作り込みは、実はそんなに多くありませんでした。
実際のつなぎこみは、いわゆるWeb開発になりますが、ソフトバンクさんが提供しているAPIを活用しました。それを仲介することで、私たちは普通のWebサービスのような形で、Watsonを使うことができています。
ですので、開発期間はわりと短かったです。構想が始まってから半年ほどで、リリースができました。
自社エンジンとWatsonに、同じデータを食べさせた結果は…
では、なぜ自社のエンジンではなくWatsonを採用したのかと言うと、簡単に言うとWatsonの方が精度が高かったからなんです。
最初は、私たち自身もWatsonには興味があったので、ちょっと実験してみよう、ということで、検証を行いました。
検証には、グループ会社のヘルプデスクに寄せられる、問い合わせのデータを使いました。具体的には、就業管理システムで、出社時間と退勤時間の記録、有給の管理や、どの業務にどのくらいの時間を使ったかを記録していくシステムに関する質問です。
そのヘルプデスクのページには、もともとFAQが用意されていました。そこから100個を抜き出して、「問い合わせのメールが100件届いた」という体で、オリジナルのエンジンとWatsonに、そのデータを食べさせました。
結果、従来のエンジンと比較して約10%程度、Watsonの方が正答率が高かったという結果が得られました。このように、従来のエンジンより良いという結果が定量的に取れたことで、Watsonの導入を決めました。
AI導入のハードルは、「学習なし」では有効活用できないこと
この検証、実は事前に学習データを用意する作業がすごく大変でした。この部分が、AIやWatsonの導入検討をされる場合に、まず最初にハードルになるところだと思います。
と言うのも、素のままでも、Watsonはある程度の「意図を解釈しようとする」プログラムは持っているのですが、やはり追加で「学習」していく必要があるんですね。
学習する前のAIは、赤ちゃんみたいな状態です。ですので、実際のビジネスで使えるレベルではマッチングできなかったり、意図したものをサジェストできないことも多くなります。
今回は就業管理のシステムで検証を行ったので、勤怠に関わる知識を、まずはWatsonにある程度、学習させる必要がありました。例えば「休日出勤」と「休みの日の勤務」というのは同じ意味なんだよ、ということを、全部教えてあげないといけないんです。
具体的には、よくある問い合わせとその答えのセットを、100通り用意しました。かつ、それぞれの「言い換え文」を10種類ずつ作ったんですよ。
例えば、「休日出勤の場合はどう入力したら良いのか」というQが設定されているとして、それと同じ意味を持つ言い換え文を、10個考えました。「土日に仕事をした」「休みの日に出社した」みたいな感じで…。
この、「言い換え文を作る」という作業が、AIの世界で言うところの、学習データを登録するという作業にあたります。
Watsonは、どのように「最適な回答」を学ぶのか
実際にテクノマーククラウド+をご利用されるお客様の側の動きをご説明します。
例えば、「タイヤがパンクした」という問い合わせに対して、「ロードサービスが駆けつけます」という回答のセットが、既に登録されているとします。
すると、Qのキーワードは「タイヤ パンク」になるので、そういったワードが含まれていれば、最適な回答を提示する可能性は、かなり高くなります。
しかし果たして、「タイヤの空気が抜けました」という問い合わせだった場合に、同じ解釈をしてくれるだろうか、という問題があるんです。
まだ何もしていない状態ですと、基本的に解釈は難しくなります。ですので、テクノマーククラウド+では、そういった場合に、オペレーターさんが手動でFAQを検索して、正しい回答文のテンプレを選ぶことになります。
するとWatsonは、「あ、この問い合わせパターンのときは、この回答で良かったんだ」ということを、追加で学習していくんです。これがいわゆる、機械学習という仕組みです。
オペレーターさんが、問い合わせに対して手動でナレッジを検索して、有効なものを選択してお客様に返信する。この一連のお問い合わせ対応の作業の裏で、実はWatsonの方にもその情報がフィードバックされていると。
▼オペレーターが検索をすることで、Watsonが自動で「学習」する
他にも「タイヤが破裂した」とか、「後輪がバーストした」とか、色々な形で問い合わせが来る中で、それに対応すればするほど複数のパターンを学習していきます。その学習レベルがある一定のところに届くと、1発目で正しい回答を提示してくれる確率がぐんと高くなります。
実は「メール」は、AIを活用には最適のメディア?
このサービスはあくまでもメールなので、BotのようなAI感はいまいち出ないのですが。ただ実は、現段階でAIやWatsonを使うには、「メール」は非常に良いメディアなんですよね。
と言うのも、メールって「リアルタイムな返信」を期待されていない手段なので。「AIの回答が間違っていたら手動で選択し、差し替えてから送信」というフローになることで、信頼性を担保できます。
インタラクティブ性が高いチャットやBotですと、とんちんかんなことでも何でも、リアルタイムにバーっと回答してしまいますよね。
そしてそれが間違っていると、「全然だめだね」みたいな。「やっぱりAIってまだまだだね」という評価をされがちです。
そういった烙印を押されないためにも、現在のAIの技術レベルとマッチしているメールという手段を使うことは、良いのではないかと思っています。
AIの可能性で、コールセンターの「悲願」を叶えたい
今後は、この技術をぜひ、コールセンターのような電話でのお客様対応に応用していきたいですね。
音声認識の技術は既にありますので、それを使って電話の会話をテキスト化すれば、テクノメールクラウド+で実現しているのと同じように、AIで解析して、適切な回答をする、ということも可能ですので。
AIの力を使って課題を解決したいというのは、コールセンター業界の「悲願」だと思ってるんですよ。コールセンターの仕事って、離職率が高かったり、なかなか人も見つからない、という課題を抱えている企業様も多いので、そこをなんとかしたいですね。
コールセンターのオペレーターさんの離職率が高い理由のひとつには、コミュニケーションのストレスがあるのではないかと思っていて。
わからないことがあったときに、周りの人に聞かなければいけないけれど、その聞くこと自体がストレス、みたいな。
そういったストレスの何割かでも、技術を使って軽減することができるのではないかと。いちいち聞かなくても、さくっと模範解答がわかれば、ストレスが減らせますよね。
これからも引き続き、最先端の技術を、多くの人が活用できる形で届けていければいいな、と思っています。(了)