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新卒採用チームにスクラムを導入!試行錯誤で「挫折」を乗り越えた、サイボウズの軌跡

〜採用チームに「スクラム」を導入したことで、新たなチャレンジが生まれ始めた。人事が陥りがちな「タスクに追われる」状態を改善した方法とは?〜

近年、アジャイル開発の手法をHRに転用した「アジャイルHR(※)」が注目を高めている。しかし、その運用は、未だハードルが高いのが現状ではないだろうか。

アジャイルHR:アジャイル開発の手法と同様、短い「計画と振り返り」のサイクルを繰り返すことで、改善スピードを高めるHRの取り組み。

kintone」や「Garoon」などのチーム・コラボレーションツールを開発し、その自由な働き方でも注目を集めるサイボウズ株式会社。

同社の採用育成部でも、2018年の1月にアジャイル開発の一手法であるスクラムを導入したものの、運用がうまくいかず一旦中断する、という事態に陥ったそうだ。

しかしその後、部内の新卒採用チームのみでスクラム運用を継続。試行錯誤を重ねた結果、「タスクの所要時間を基準とするポイントづけ」「複数人でのタスク書き出し」といった独自の運用を確立した。

結果的に、チーム全体の工数が可視化され、メンバーがよりチーム視点を強く持てるようになったことで、自律的な新しいチャレンジがどんどん生まれるようになったのだという。

今回は、新卒採用チームにおけるスクラム導入を主導した庭屋 一浩さんと、チームメンバーである綱嶋 航平さんに、スクラム運用の全貌をお伺いした。

 採用で接点をもつ全ての人に、サイボウズを好きになってもらいたい

庭屋 僕は理系の大学院を卒業し、新卒でサイボウズに入社しました。技術系の営業を3年ほど経験した後、2016年に新卒採用チームに異動し、2018年の1月からはチームリーダーを務めています。

現在の採用育成部は、新卒採用、キャリア採用、人材育成の3つにチームが分かれていて、新卒採用チームには5人のメンバーが所属しています。

綱嶋 僕は2017年に新卒で入社し、同年の9月から現在に至るまで、庭屋と同じチームで新卒採用の業務に携わっています。

▼左:庭屋さん、右:綱嶋さん

庭屋 新卒採用チームでは、内定を出す出さないに関係なく、接点をもったすべての方々にサイボウズを好きになっていただくことを大切にしています。

チームのミッション立案は、リーダーである僕が担っていますが、その実現に向けては、僕以外の4人のチームメンバー全員が何かしらのプロジェクトオーナーとして活動しています。

採用チームの課題解決のため、スクラムの導入を決定

庭屋 2018年の1月に前任からチームリーダーを引き継いだ時に、いくつかの課題を感じていて。ひとつは僕自身の課題で、新卒採用に長年携わってきた前リーダーに比べて、経験値が乏しかったんですね。

なので、いつ・何をやるべきかを自信をもって判断できる状態ではなく、なにか他の方法でチームを引っ張っていく必要性を感じていました。

他にも、人事はどうしても業務過多になってしまいがちだという課題もあり、それを解消するためにも、エンジニア側で定着していた「スクラム」の手法を自分たちにも取り入れようと考えたんです。

最初は、新卒採用チームだけではなく、同様の課題をもっていた採用育成部で全体導入することにしました。

導入を決めて最初にやったことは、スクラムのトレーニングです。社内にスクラムマスターと呼ばれる方がいるので、その方に講師を務めていただきました。

綱嶋 運用を始める前に、スクラムの概念から実践方法までみんなの認識を擦り合わせることができたので、全員でトレーニングに参加した意味は大きかったですね。

スクラムでの挫折とは? 初期運用のカギは「タスクの可視化」

庭屋 こうして運用を開始したのですが、初期の頃はなかなかに大変でしたね(笑)。

というのも、例えばキャリア採用チームの人が「〇〇の数値をまとめる」というタスクをカンバン(※)に貼っていても、僕らはその具体的な内容がわからないので代わりに対応することができませんでした。

※カンバン:スクラム運用のひとつで、タスクを細分化し、進捗を可視化するための方法。

▼実際に使っている「カンバン」

そうすると、部署全体でスクラムを運用するモチベーションが、どうしても下がってしまうんですよね。

ですが、僕自身はスクラムという方法に可能性を感じていて。そこで一旦、全体での運用は中止にして、新卒採用チームだけで運用を継続することにしました。

綱嶋 2018年の7月に、新卒メンバーがジョインしたタイミングで本格的な運用を再開したのですが、まずはじめに感じたことは「カンバンに貼られたタスクが多すぎる…絶対これ無理でしょ」という諦め感でした(笑)。

当時、プロダクトバックログ(※)を作るために、各自のプロジェクトの完遂に必要なことを全部書き出していったんです。

※プロダクトバックログ:プロダクトが提供する価値や要件を記載したリストのこと。

その結果、全体が見通せるようになった一方で、常にタスクに追われているような感覚がありましたね。

庭屋 この状況を変える大きな一手になったのが、自分たちの工数を正確に把握したことでした。

タスクが減らないのは、それに使うための作業時間が確保できていないことが原因だと考えたんです。

そこで、まずは現在の業務工数を把握した上で、それぞれのタスクに使える時間をチーム全体で可視化し、次の1週間でカンバンをどこまで進めたいのかを明確にしていきました。

例えば、「今週は、タスクに使う時間をほぼすべて残業で捻出した」といったことが具体的にわかってくると、次週は残業が減らせるように業務を精査できます。

このように可視化と振り返りを行って改善を重ねていったことで、少しずつ運用が前進していきました。

▼週ごとにメンバーの稼働時間とカンバンに割いた時間を計測

綱嶋 この工数の計測には、日報と分報を活用しました。以前から、今着手している業務の内容や困っていることの共有など、業務時間中いつでも気軽に呟くような「分報文化」があったので、比較的スムーズに実施することができました。

朝出社した時に、自分がその日消化すべきタスクに時間を振って、kintone上の分報で業務の開始と終了を呟いておくんです。そして、1日の終わりにそれを統合し、日報で報告していましたね。

時間基準で工数をポイント化し、タスクは複数人で書き出す

庭屋 次に取り組んだのは、タスクの所要時間を基準にポイントをつけることで、その粒度を揃えることでした。

具体的には、1人が30分作業して完了するものを1ポイントとし、その週に何ポイント分の作業ができたか、というのを振り返るようにしました。

加えて、カンバンにタスクを貼るときに、それを処理するのに必要な情報や業務内容を複数人で確認する「タスク書き出し」という作業を行いました。

▼実際に書き出したタスク

このタスク書き出しによって属人化がなくなるので、例えば綱嶋が担当していたタスクが突発的な業務で遅延したとしても、他のメンバーがフォローすることができるんですよね。

さらに、完了に至るまでの過程を、タスク書き出しの中で確認することになるので、全員の作業の質を高い水準に揃えられるという副次的な効果もありました。チームの共通認識の水準が上がったことで、会議などの効率も上がりましたね。

綱嶋 自分は今年からアメリカでの採用活動にも関わっているのですが、僕をプロジェクトオーナーにして、昨年担当していた先輩にサブで入っていただいたんです。

そこで、最初に2人でタスク書き出しを進めた時に、その効果をすごく実感しましたね。

というのも、一緒に業務を進める上での注意事項や優先順位などを確認できたことで、自信を持って進められるようになったんです。

仮に来年、新人に同じタスクが振られたら、僕は先輩と同じようなサポートができると思います。

KPTの振り返りでは「Try」の完了条件を明確にする

庭屋 また、スクラムの運用で重要なのが振り返りです。毎週水曜日に2時間半かけて、KPT(※)を用いた振り返りをチーム全員で行っています。

※KPT:Keep(良かったこと)・Problem(悪かったこと)・ Try(次に挑戦すること)の3要素から現状を分析する振り返り手法。

KPTって、振り返りからいかに「Try」を抽出するかが大切だと思うのですが、抽象的な内容が上がってしまって具体的なアクションに繋がりにくい、という課題がありました。

そこで、Tryの内容とその完了条件を設定しています。実際にアクションを進められたかどうかを確認できるような、具体的な数値や行動を完了条件にしています。

例えば、「計画づくりの段階でモブ作業をした方が良いものを選別し、すぐに担当者のスケジュールを押さえる」というTryが上がったとします。

これに対して、「今週の計画づくりが終わった段階で、モブ作業すべきタスクに対して担当者のスケジュールが押さえられている」という完了条件を設定する形です。

Tryに基づいたアクションを繰り返していくことで、毎週、一歩ずつ前に歩み出せていると感じますね。

綱嶋 また、週次の振り返りだけでなく、毎日の朝会をきちんと行うことも大切です。というのも、タスクの進捗が特に悪かった週にその原因を振り返ったのですが、朝会をきちんと実施できていなかったんですよね。

庭屋 それの何が問題なのかというと、タスクが滞留していることに気が付けないことなんです。朝会ができていれば、他の人からヘルプをもらったりすることができるじゃないですか。

なので、朝会にメンバー全員が必ず参加できるよう、チーム内の全てのスケジュールを10分開始に変更しました。10時に朝会、10時10分に朝一のスケジュールを入れるような形で、現在は運用しています。

スクラム運用によって、より自律的なチャレンジが生まれ始めた

庭屋 こうして、様々な改善を繰り返した結果、スクラムの効果である「変化への柔軟性」をはっきりと感じるようになりましたね。加えて、チームが前向きになったとも感じています。

綱嶋 以前だと、個々人がやらねばいけないことに追われてしまって、いかにチームで効率よく進められるか、ということを考えられていませんでした。

それが今は、視座が上がったことで、チームにとって有意義な新しいチャレンジにもどんどん取り組めるようになりましたね。

例えば動画面接の導入を検討するにあたって、インターンの選考でトライアルしてみたり、地域限定のセミナーを開催したりしています。

庭屋 心理的に余裕ができたこともありますし、1人ひとりがより自律的に動けるようになったなという印象があります。

例えば振り返りをするにしても、限られた時間の中で、採用活動をより良くするためにすべきことは何だろうかと、集中して考え尽くす必要があります。スクラムを始める前は、こうしたチーム視点での動きはできていませんでしたね。

今後は、新卒採用チームでの成功体験を踏まえて、社内の色々なチームにスクラムを広げていきたいです何かを計画して実行し、良し悪しを評価して次に反映する、という一連の流れを、どの仕事でもできる限り早く回す必要があると思うんです。

それを実現するのに、スクラムは最適だと考えています。なので、新卒採用という範囲からは全社に広げていくことで、会社全体をよくしていきたいです。

綱嶋 また、今は人事に限らず誰でも採用に関わる時代になってきていると思うので、各チームで自発的に採用に取り組んでくれるような、そういった組織づくりにも挑戦していきたいですね。(了)

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