• クラスメソッド株式会社
  • 取締役 AWS 事業本部 本部長
  • 佐々木 大輔

崩壊しかけた組織が「自走」するまでの軌跡。ゼロから始めるエンジニア組織の作り方

〜30人の組織が、6年で400人に。目標設定も人事考課もなかった組織にカルチャーが生まれ、自走できるようになった理由とは?〜

2004年に創業し、累計1,300社以上のAWS導入実績を誇る、クラスメソッド株式会社。

世界トップクラスのAWS分野での技術力を強みに、急成長を遂げている同社であるが、そこに至るまでの道のりは苦難の連続だったという。

7、8期目には既存事業の行き詰まりから売上が落ち込み、およそ100名いた社員が30名に。会社の立て直しを図るため、2013年にAWS事業を立ち上げ、エンジニア組織をイチから構築していったという。

その取り組みの中では、ほぼ機能していなかった人事考課の仕組みを整備し、およそ2年をかけて給与テーブルを作成。また、40項目におよぶ360度評価の導入や、ミドルマネジメント層の擁立などを実行した。

こうして「どういう行動が評価され、どういう人が採用されるのか」を明確にした結果、社員に共通する会社のカルチャーが生まれ、組織が自走し始めたそうだ。

今回は、AWS事業部がまだ12人だった頃にジョインし、エンジニア組織の構築を行った同本部長の佐々木 大輔さんに、組織を復活させたそのプロセスについて詳しくお伺いした。

赤字続きの事業…目標管理も人事考課もない組織を立て直せ!

私は、15年ほどインフラエンジニアとしてのキャリアを積んだ後、2014年の1月にクラスメソッドに入社しました。現在は、AWS事業本部の責任者を務めています。

入社した当時は、事業が停滞して売上も落ち、100人ほどいた社員が30人くらいまで減ってしまい、このままだと会社が立ち行かなくなる…という危機的な状況で。

そんな中、代表の横田が会社を立て直すため、2013年にAWS事業を立ち上げ、同部署のエンジニア採用を始めました。

事業の立ち上げから1年後、私がジョインした当時は、12人のエンジニアがそれぞれ自ら営業して仕事を取ってきて、AWSのコンサルティング、運用、フォローアップのすべてを担当していました。

AWSは海外で先行して広がっていましたが、日本では2011年末に初めてデータセンターができたので、その頃はまだ黎明期だったんです。

今でこそ弊社の主力事業ですが、当時は赤字続きで、他部門の売上に助けられてなんとか存続していたような状況でした。

代表がAWSコンサルティング部の部長を兼務し、それぞれが個人商店みたいな形で働いていたので、いわゆるマネジメントは一切なくて。目標設定も、人事考課も、勤怠管理もない。とにかく全員で頑張って、売上をあげていくのに必死でした。

そうした状況だったので、2015年の7月に私が同部長に就任してから、エンジニア組織をイチから作っていかないといけなくて…最初はかなり大変でしたね(笑)。

人事考課の仕組みをつくり、2年かけて適正な給与水準に是正

もともと、弊社では四半期ごとに「ジョブディスクリプションミーティング」と呼ばれる査定面談があったのですが、私が入社した頃は、制度はあってもほぼ運用されていない状況でした。

そこで最初に取り組んだのが、人事考課の仕組みづくりです。まず、曖昧になっていた査定面談を復活させて、面談時のヒアリング項目や給与テーブル、評価基準などを整備していきました。

そもそも全員が入社時の給与のままだったので、前職の水準に引きずられてしまい、仕事のパフォーマンスと実際の給与にかなり乖離があったんですね。

そこで給与テーブルを作成し、実際のパフォーマンスに対して適正な給与を出せるようにするため、私と代表で話し合いながらメンバー1人ひとりを当てはめていきました。

幸い、AWS事業が伸びていたので給与を下げる必要はなかったのですが、それでもバランスを見ながら少しずつ調整して、すべて完了するのに2年ほどかかりましたね。

現在は、スタッフ、スペシャリスト、マネージャー、ディレクターという大きく4つにカテゴライズされる、全部で9つのグレードを定めています。

例えば、スタッフであれば「指示があれば動ける」、スペシャリストであれば「マネージャーがいなくても1人で業務を推進できる」といった内容を定義しています。

そして、グレードごとに掛け合わせた43段階のランクに、給与の基準が紐づいています。ただ、ランクについては定義を設けずに、定量と定性の2つの側面から総合的に評価しています。

例えば、技術ブログの執筆本数や外部イベントの登壇回数といった定量面や、弊社のカルチャーに沿った行動をしていたかどうか、といった定性面を判断材料にしていますね。

ただ、基本的な思想としては、なるべく「定性」で評価したいと思っていて。というのも、実際は会社のカルチャーに従ったアウトプットを出したいのに、この売上であれば給料がいくらという方法にしてしまうと、その数字を出すことに精一杯になる人が出てきてしまうんです。

なので目標設定も、事業部の売上を全員で追う形にして、個人については数値ではなくアクションを重視しています。

会社のカルチャーが明確になれば、組織は「自走」し始める

また、人事考課と同時期にルールづくりを進めたのが、採用方針でした。

というのも、2次選考の実技試験とディスカッションに、受け入れ部署のチーム全員が面接官として参加するのですが、当時は採用方針も判断基準も明確なものがなくて。

チームメンバー全員が「一緒に働きたい」と感じるのであれば採用する方針だったのですが、それをどのような軸で判断すれば良いのか、という基準がありませんでした。

そこで、どういう人を採用したいかという採用方針を作り、それに従って評価する形に変えました。

具体的には「技術が好きな人を採る」「部の平均以上の能力がある人を採る」「フィーリングが合い、一緒に働きたいと思える人を採る」の3つです。

特に、3つ目のフィーリングを大事にしているので、チームメンバー全員が「隣に座って一緒に働きたいと思えるかどうか」を軸に評価しています。

こうした採用方針や人事考課の仕組みができ、運用が回り始めると、自然と「文化」ができてきて。

つまり、どういう人を採用し、どういう人が会社から評価されるのか。ここに一貫性があることで、会社のカルチャーが見えてきたんです。

例えば、指示待ちをせずに自ら考えて行動する、社内の改善活動に積極的に取り組む、といったことが文化になっていたので、「セルフマネジメント」「アウトプットファースト」の2つを、弊社のカルチャーとして明文化しました。

すると、組織が自走し始めたんですよ。カルチャーに合った人を採用し、カルチャーに従ってアウトプットした人を評価できるようになったことで、全員がプロアクティブに動けるようになりましたね。

40項目から成る「360度評価」を運用し、定性を評価する

一方で、カルチャーに従って評価をすることの難しさもあります。

例えば「セルフマネジメント」では、社内になかった導入マニュアルを作って共有したり、仕事をする上で困ったことを自主的に解決して仕組み化するといった行動を評価するんですね。

弊社には技術ブログ「Developers. IO」でアウトプットする文化があるので、もちろん評価者から見える部分もあるのですが、チームの人数が増えてくるとすべての行動を拾うのがなかなか難しくて。

そこで、人事考課を整備した翌年の2018年には360度評価を導入しました。

これは、一緒に働くメンバーに、40項目からなる評価アンケートに答えてもらう形で運用しています。40項目のうち25項目がカルチャーに関する質問で、残りの15項目は、仕事の進め方やエンジニアの技術力に関するものです。

▼「360度評価」アンケート項目の一部(※2018年当時の内容)

評価者になる人は、各項目に対して5段階評価をつけ、コメントを記載しています。

1人回答するのに30分くらいかかるのですが、目線が偏らないようにするため、被評価者1人に対して、同じ部署のメンバーを8〜10人ほどランダムにピックアップしています。

一方で、これはあくまで評価の「参考材料」としていて。人事考課には直接反映せず、定性情報を拾うツールとして活用しています。

360度評価を踏まえて、最終的には複数の評価者で擦り合わせを行っていますが、全員が同じカルチャーを軸にして評価しているので、認識がズレるようなことはあまりないですね。

ミドルマネジメント層を擁立し、コミュニケーションパスを設計

さらに組織が拡大していく中で、ミドルマネジメント層を増やし、コミュニケーションパスの設計にも取り組みました。

というのも、部署のメンバーが20名を超えた時、さすがに1人では見きれないなと思いまして。そこでチームを分割し、ピープルマネジメントのラインを最大8名に限定するルールを作りました。

この体制をする上で、ミドルマネジメント層を増やす必要があるのですが、基本的には本人に「やりたい」という意思があるかどうかで、その役割を担うかの判断をしています。

私の経験上、マネジメントは理論を勉強するだけでは実践できません。正直、やりながら覚えることも多いと感じていて。なので、意思のある人に挑戦してもらって、もし合わなければ辞めるくらいでいいのかなと思っています。

また人数が増えると、マネジメントラインだけでなく、事業部を超えたコミュニケーションパスも再設計が必要になります。

入社当初、全社で30人ほどだった組織が、今6年経って400人近くになりました。つまり、年100人ペースで増えている中で、組織としての一体感をどうキープし続けるかは毎年のチャレンジですね。

そのために、新入社員のウェルカムランチや、部門合宿、社内LT大会など色々な施策を行ってはいますが、正直どれが一番効果あるかなんてわからないじゃないですか(笑)。

なので、基本的には色々やってみて、試行錯誤を続けることが大事だと思っています。最近では月に10人ほど、AWS事業本部からランダムに選んだメンバーと1on1を始めました。

なかなか難しい課題ですが、色々な方法を試してみて、常に改善していけたらと思っています。

役割の分散を進めることで「本部長をやめること」がミッション

弊社には「許可を求めるな謝罪せよ」というフレーズが文化のように浸透していて。

「これやった方がいいですか?」と聞くのではなくて、「こうした方がいいと思ったのでやりました」と行動しようという思想です。

プロアクティブに働くことがカルチャーになれば、管理型のマネジメントは要らないんですよね。実際、マネージャーが言わなくてもみんなブログを書きますし、そのためにインプットするので技術力も自然と向上していきます。

そこで、私の次のミッションは、本部長を辞めることかなと思っていて(笑)。

基本的に、組織のセルフマネジメント化を突き詰めていけば、全社の目標に向かって各部が自発的に動けるようになると思うんです。

以前は、アライアンス営業やイベント設計、採用などもすべて自分が動いていたんですよ。今は担当部署を作り、それぞれの役割を分散しています。

さらに採用面では、全社の人事部を2018年の11月につくり、1次面接でのカルチャーフィットの見極めを人事が担当するフローに変えたことで、2次選考にあがる候補者の質がかなり高くなりました。

今後も、まだ自分が担っている人事考課や部の方針策定などの役割を他の人に任せていって、また新たな挑戦をしていきたいですね。(了)

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