• 株式会社アジケ
  • 代表取締役
  • 梅本 周作

UXデザインカンパニーがOKRを導入。個々のスキルと一体感を高める、目標管理の運用法

〜小さな成功体験の積み重ねが、ゴール達成につながる。独自のルールでOKRを運用し、メンバー全員が全社のミッションをめざして自走する組織の、目標管理手法〜

デザイナーやエンジニアなどの専門職において、本人の志向と会社のめざす方向性を擦り合わせることに、課題感を持つ企業は多いのではないだろうか。

2007年に創業し、UXデザインを主力事業として展開する株式会社アジケでは、数年前まで「スキルを高めた人が離職してしまう」という課題を抱えていた。

その要因のひとつには、「こういうデザインスキルを身につけたい」といった、職能を主とした目標設定があったという。

そこで全社の一体感を高めるため、2016年に目標管理の手法としてOKR(※)を導入。

※OKRについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

会社の目標から事業部・個人の目標へとブレイクダウンして落とし込むことで、1人ひとりが全社目標を達成するには何をすべきか、といった目線で目標設定することができるようになったそうだ。

また、デザイナーやエンジニアでも目標設定しやすいように、「KRには計測可能であれば定性的な指標を置いても良い」「達成がイメージできる水準の目標を立てる」といった独自の運用をしている。

今回は、同社代表の梅本 周作さんと、デザイナーチームマネージャーの藤戸 日果里さんに、OKRの運用法からデザイナーの目標設定におけるポイントまで、詳しくお伺いした。

職能だけの目標設定をやめ、会社の目標から落とし込むOKRを導入

梅本 僕は2007年にアジケを創業し、しばらくはWebサイトの制作などを請け負っていましたが、2014年頃から「UXデザインをメインにやっていこう」という方向に事業の舵を切りました。

それに伴って、等級による役割の定義や、評価制度の仕組みを整えてきたのですが、なかなか人が定着しないという課題があって。

デザイナーとしてのスキルを一定以上高めた人が離職してしまうようなケースが続いたのですが、その要因のひとつに、目標管理の仕組みがありました。

当時は、デザイナーであれば「こういうデザインスキルを身につけたい」とか、エンジニアであれば「こういうプログラムを書けるようになりたい」といった形で、わりと職能に対する目標設定をしていたんです。

これだと、職能別スキルを伸ばすことはできる一方で、会社としてうまく回らないというのはすごく実感としてあって。会社の目的に従って次の目標を見つけてもらったり、組織としてもっと強くなる必要性を感じていました。

そこで、会社の目標から、事業部、個人へと目標を伝達していくため、2016年にOKRによる目標管理を導入しました。

またもうひとつの課題として、会社のミッションがあまり浸透していないということがありました。

そこで原点となる社名の由来に立ち戻って、ミッションステートメントを再定義し、その実現に向けたブランドステートメントを新たに定めました。

こうして会社の進むべき道を明確にして、会社から事業部、個人へとつながりのある目標管理の仕組みにしたことで、現在はメンバー1人ひとりの動きがいい方向に変わってきているかなと感じています。

小さな成功体験を積み重ねることが、ゴール達成につながる

梅本 通常のOKRでは、いわゆるムーンショットと呼ばれる、非常に難度の高い目標を立てると思うのですが、弊社の場合は、120%から150%成長くらいの線形のストレッチ目標を立てています。

というのも、青学駅伝部を率いた原監督の「小さな成功体験を積み重ねることで人は成長する」という思想を参考に制度を設計していて。

届くかどうかわからないような目標ではなく、届くイメージが持てて、きちんと成功体験を積めるような目標を設定するようにしています。

実際の運用においては、年初に全社のOKRを定め、そこからブレイクダウンする形で2つの事業部と個人のOKRをそれぞれ設定しています。

▼同社のOKRツリーのイメージ(画像は編集部にて作成)

個人の目標設定については、1年後のありたい姿を自分自身で考えてもらった上で、マネージャーと擦り合わせています。

また、全社や事業部の目標については半期ごとに振り返りを行っていますが、個人の振り返りはもっと早いサイクルで行うべきだと考えているので、月次の目標管理シートも運用しています。

▼実際の月次目標管理シート(デザイナー)

具体的には、年間目標に対する今月のテーマを設定し、アクションプランに落とし込んでいます。

これをもとに、月1の頻度で1on1を実施して、目標の修正がないか、目標達成に対して課題が生じていないか、といったことを確認するんです。

このドキュメントは社内であれば誰でも見られるようになっていますが、全体共有の場として、毎月30分ほどかけて個々の目標をグループで共有する「全社共有会」を実施しています。

というのも、事業部が違うメンバーだと、どういう意図でその目標を設定したのか、今どういう状況なのか、を理解することがどうしても難しいと思っていて。

OKRをただ導入するだけでなく、全社の一体感を生むための仕組みも大切だと思います。

デザイナーのKRをどう置くか? 定性目標には「ものさし」が必要

藤戸 私は2014年に入社し、現在はデザイナーチームのマネージャーを務めています。

現在、社員の6割をデザイナーやエンジニアなどの専門職が占めているので、どうしてもKRに定量指標を置きづらいんですね。なので、KRには定性的なアクションを含めても良いことにしています。

例えば、「デザイン思考を浸透させ、クオリティの高いアウトプットを実行できる人材を育成し、事業部の売上に貢献する」というO(目標)があるとします。これに対しては、「デザイン力やデザイン思考について経験を踏まえて体系化し、社内外に広めるための活動ができている」といったKR(結果指標)を立てていますね。

また、特定の職能だけでなく会社の誰もが理解できるような、わかりやすい目標を立ててもらうことを大切にしていて。全社の目標に貢献するような内容になっているか、を意識しています。

▼左:藤戸さん、右:梅本さん

梅本 デザイナーなどの場合、KRに何を置くかって非常に難しいですよね。長期的なプロジェクトを担っているケースや、メンバー育成に関するアクションなども含まれるので、人によって様々だと思います。

藤戸 ですが、指標や成果を数値で示すのが難しいからこそ、無理に定量化せずに、代わりに「ものさし」となる基準を設けることが大事なのかなと思っています。

例えば、そのひとつが等級です。等級ごとに期待される役割が明文化されていることで、本人が立てた目標と会社の期待値の擦り合わせができます。

※同社の等級制度については、こちらの記事をご覧ください。

その方向性が合っていれば、目標達成に向けたアクションを具体的に考えられますし、その軸と照らし合わせる形で評価もしやすいかなと思います。

デザイナーの「スキルシート」を導入し、現在地からの目標を設定

藤戸 また、目標設定のもうひとつの基準として、職能別のスキルがあります。

というのも、OKRでは会社や事業部の目標をブレイクダウンして個人目標を設定しているので、職能に特化したスキル目標を組み込みにくいんですね。

特にデザイナーの場合、スキルと言っても多岐に亘るので、自分の現在地を把握し、どの方向にスキルを伸ばしていくかの指針を設け、目標に組み込んでいくことが必要だと考えていました。

そこで今年から、新しく入社した社員を対象に活用し始めたのが、デザインスキル別にレベルを示したスキルシートと、それに基づいたキャリアプランイメージです。

▼デザイナーのスキルとキャリアプランイメージ

入社後1週間ほどかけて、バナー作成やUIトレースといったスキル系の課題に取り組んでもらい、自分が今どのスキルを持っていて、どのレベルにあるのかをマネージャーとともに把握しています。

こうすることで、スキルの面でも「今期の終わりには、このスキルをこのレベルまで伸ばしたい」といった目標を立てやすいですし、振り返りもしやすくなりましたね。

数値化できない成果を評価するため「シャッフル1on1」を運用

藤戸 等級や職能別のスキルシートを用いて目標の基準を設けると同時に、数値化できない成果をきちんと評価できるようにするため、今年から「シャッフル1on1」を始めました。

もともとの課題として、目標が達成度などのわかりやすい指標ではないので、他職種の人にその難易度などを理解してもらうのが難しいと感じていて。

そこで、他職種のメンバーとペアにするシャッフル1on1を、月1回ほど実施しています。月次の目標管理シートをもとに今月のアクション指標について共有し、フィードバックを受けるような場になっています。

梅本 それまでもマネージャーとメンバー間での1on1は行っていたのですが、今抱えている案件の課題などもあるので、どうしても足元の話が多くなりがちだと思っていて。

その関係性から離れることで、足元の話だけでなく、全社の目指すべき方向性と自分のアクションが合っているのかを俯瞰して確認することができるようになりましたね。

また職能を越えることで、全員がきちんと会社の目標を理解して、全社目線で評価できるような体制になったので、シャッフル1on1を導入してすごく良かったなと思います。

藤戸 また副次的な効果ではありますが、マネージャーだけでなく、リーダー層のメンバーが1on1のメンターを務めるようになったことで、中間層が育ってきたなという感覚もあります。

実際に、リーダー層が主導する社内プロジェクトが生まれたりもしていますね。

目標管理や評価制度に「完璧」はないからこそ、作り変えていく

梅本 結局、OKRを導入したとしても、それだけではうまく機能しないんです。

弊社の場合、この3年ほど組織体制を作り変えてきたのですが、はじめは職能ベースだったのがプロジェクトベースになって、それから現在のUXデザイン事業部と新規事業部という目的ベースになりました。

職能ベースの時は、どうしても個人に目線が落ちがちでしたし、プロジェクトベースの時は、ゴールがプロジェクトの成功になってしまいがちで。

なので、全社の目的に応じた組織の体制をつくり、それから評価制度や目標管理などの仕組みに落とすことで、はじめて効果が出てくるのかなと感じています。

そして、その仕組みを全員が100%納得するというのは難しいと思うので、その中でもどこまで100%に近づけられるかを考えて、今後もチューニングしていきたいと思っています。

弊社は、人の生活や感情に寄り添いながら豊かな体験をデザインをすることで、「味気のある世の中」を創っていきたいと思っています。

今の主軸事業であるUXデザインを通じてクライアントと一緒にデザインするだけでなく、自分たち自身も、味気のある新規サービスを創っていきたい。

そうした動きの中で、新規事業における成果に対しては、今の評価の仕組みが合わなくなる可能性もあると思っています。そこは会社のフェーズに応じて、評価とお金がきちんと連動して循環するような仕組みをつくっていきたいですね。(了)

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