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社内広報が組織を強くする!戦略と意思のあるインターナルコミュニケーションの在り方

〜紙・Web・オフラインの手段を使い分け、目的にあったインターナルコミュニケーション施策を実行。「組織の実行力」を高める、社内広報の在り方とは 〜

企業理念の浸透を促すインナーブランディングや、組織の実行力を高めるインターナルコミュニケーションに取り組む企業が、年々増えてきている。

マーケティングリサーチ業界を牽引する株式会社マクロミルも、そうした企業のひとつだ。同社は、海外企業の買収や創業者の退任などをきっかけに、2015年頃からインターナルコミュニケーションを重視。

しかしその一方で、担当部署が社内報の作成や社内イベントの開催といった定常業務に追われてしまい、組織の実行力を高めるような施策を打てていなかったという。

そこで、経営のメッセージを現場まで伝えるため、会議体などの情報伝達フローを整備。さらに、紙媒体とWeb媒体の2つの社内報を、ターゲットとコンセプトを明確に分けて運用することで、より戦略と意思をもったインターナルコミュニケーションを実現している。

結果として、ミッション・ビジョン・バリューの浸透度が年々高まり、「社内報アワード2019」でグランプリを受賞するなど、社外からも高い評価を得ている。

今回は、同社のインターナルコミュニケーション戦略から具体的な施策について、担当部署のマネージャーである大石 真史さんに詳しくお伺いした。

社内報の制作に追われる日々…戦略と意思をもった広報への転換

私は新卒でPR会社に入り、3年ほど勤めた後、2008年にヤフーバリューインサイト株式会社に広報として転職しました。2010年に、リサーチ会社のマクロミルと経営統合したことから転籍し、複数の部署を経て、2013年からマクロミルの広報を担当しています。

弊社の広報体制は、コーポレートブランディングやインターナルコミュニケーションを担当する「ブランド・マネジメントユニット」と、PRやメディア対応を担当する「広報ユニット」の大きく2つにわかれています。

ブランド・マネジメントユニットには、専属デザイナー3名を含む8名の社員が所属しており、私は現在マネージャーを務めています。

私が広報にきた当時、毎月の社内報の発行や定期イベントの開催といった定常業務から、突発的に発生する全社イベントの対応まで、多くのインターナルコミュニケーション施策を実行していました。

しかし、次から次へと仕事に追われてしまって、きちんと効果計測をしないままになってしまって。1つひとつの達成感はあっても、結局その施策の積み重ねによって「組織がどう変わったか」と言われるとよくわからなかったんです。

これを脱するためには、業務の属人化を排除しながら仕組みづくりを進め、より戦略と意思をもった広報に取り組んでいかなければならないと強く感じていました。

また同時に、自社を取り巻く環境も大きく変化していました。海外企業のM&Aや創業者の退任などを経て、トップダウンの色が強い組織から、より社員同士のコミュニケーションが重視される組織に変わってきていたんです。

そこで私の部署が主導し、2015年頃からインターナルコミュニケーションの改善に取り組み始めました。

「経営のメッセージ」をどう伝えるか? 情報伝達フローを整備

最初に取り組んだのは、現施策の効果測定を目的とした社員アンケートです。

これは、10問程度のアンケートで、四半期ごとの全社イベント後に、全社員を対象として実施しました。その結果、経営のメッセージや会社のビジョンが、意図しているほどには伝わっていないという課題が明らかになったんです。

特に「経営からの情報は伝わっているか」「経営が発信していることと実行していることは一致しているか」といった質問に対するスコアに、部署によって明らかな差がありましたね。

そこでまず、「誰が・どの接点で・何を伝えるのか」を整理しました。具体的には、各会議の目的や役割などを定義し、情報伝達のフローを整備していきました。

▼同社の会議体と情報伝達のフロー

というのも、インターナルコミュニケーションにおいて、やはりFace to Faceで語る場は重要だと思っていて。ずっと社内報の発行を続けてきたなかで、人の心を動かすには限界があると感じていました。

社内報はあくまで手段なので、目的に応じたインターナルコミュニケーションの設計が必要だと考えています。

また、経営のメッセージをメンバーに伝えるのはマネジメントの役割ですが、部署のメンバーに会社の情報をしっかり伝えようという意識を持っているマネージャーが少ないという問題もありました。

こうした課題には、人事との連携も重要です。人事が主催するマネジメント研修にコミュニケーションの観点を入れたり、理念の浸透などを評価制度にも組み込むといった仕組み化も行いました。

紙とWebでターゲットとコンセプトをわけた「2つの社内報」を運用

情報伝達フローを見直す一方で、社内報についても改善を進めました。弊社の社内報「ミルコミ」は、2002年に壁新聞のような形で始まり、2004年からは紙媒体の月刊誌として続いてきました。

ですが月刊だと、入稿が終わってから次の企画までのサイクルが早すぎて、十分に振り返りをする余裕がなくて。加えて、社員の目に触れるのは企画時点から1ヶ月も後なので、Webと比べると情報伝達の速度がどうしても落ちてしまう、といった課題もありました。

そこで、誰に・どんな情報を届けたいのか、を改めて整理しました。会社全体でみると、入社3年未満の社員が読者の50%近くを占めていたので、「ミルコミ」の目的を会社の理解を深めてもらい、エンゲージメントを高めることに置きました。

▼ターゲットと媒体を整理した図

また、コンセプトを「マクロミルの”リアル”を伝える」に設定し、じっくり読ませるコンテンツを作るため、2016年からは発刊の頻度を四半期に1度に変更しました。

一方で、ニュース性や速報性の高い情報も社内に伝えていく必要があります。そこで2013年に生まれたのが、Web版の社内報「NOW」です。

これは「マクロミルの”今”を伝える」コンテンツを発信するWebメディアです。毎日1〜4本の記事を公開していて、社内向けのメディアでありながら、1日の平均PVは約12,000、1人当たり10PVほどになっています。

このコンテンツを制作する上では、ターゲットとコンセプトを明確にすることを意識しています。誰もが対象になる内容だと、結局誰にも刺さらないじゃないですか。

なので「NOW」では、ニュース媒体として一部の人を対象とするようなコンテンツは載せないように心がけています。一方、紙媒体の「ミルコミ」では、入社歴の浅い社員をコアターゲットにして、きちんと刺さるようなコンテンツにしています。

たとえば、ミルコミの「10年後の笑顔」という企画では、マクロミルで働き続けることのイメージを持ってもらうため、キャリアの長い先輩社員に「なぜ10年ここに居るのか」を語ってもらいました。

この企画を通じて、仕事に慣れて業界のこともわかってきた年次の社員が、改めてマクロミルのカルチャーに触れたり、自社の理解を深めるきっかけにできたかと思います。

紙媒体ではWeb上で文字を追うだけでは伝わりきらないような「感情」を届けたいとも思っていて。会社の状況をみながら、その時々に必要なコンテンツを企画しています。

社内向けのクリエイティブデザインも、一貫性をもってこだわり抜く

さらに、メッセージを届けるためには、それを届ける媒体のデザインが、高いクオリティーで一貫していることも重要です。

今までも、広報を介して外に発信するものに関しては、デザインが統一されていました。ですが、営業資料や、社内の発表資料など、広報が関与できないものにはかなり個人差があって。

これが問題として顕在化したのが、2013年のロゴデザインの変更の時でした。新しいロゴと、個人が作成する資料のデザインがマッチしていなかったんです。

そこでまず、社員のデザインに対する感度を高めることを目指しました。

細かいところですが、例えば、セールスパーソンがお客様への提案書によく体制図を入れるじゃないですか。この体制図に使う社員の写真を、1年以上かけて撮り直していきました。本格的な照明機材も購入して、写真館で撮るようなレベルの写真を提供していったんです。

並行して、パワーポイントのオフィシャルテンプレートを本格的にデザインしたものに変えていったのですが、そうすると写真やレイアウトなどの見た目が変わるだけで、企画書のクオリティが一段上がったように見えてくるんですよね。

いい企画書というのは社内にすぐに広まりますから、じきに皆が使うようになりました。こうした顧客接点のひとつひとつを改善するための工夫を続けていったんです。

そして、社内報からノベルティに至るまで、広報が関与する制作物は徹底的にクリエイティブにこだわってきました。これが基準だと感じてもらえるように、社内周知の際は、見せ方や伝え方なども意識していました。

▼実際に制作した、バリュー浸透グッズ

すると、広報だけでなく全社的にデザインの重要性を意識するようになってきて。たとえば、これまで部署ごとに独自フォーマットで作っていた事業ビジョンの発表資料なども、全社で統一されました。

これにより、全社から事業部につながるロジックがわかりやすくなっただけでなく、デザインの親和性がでたことで、サブリミナル的にビジョンが浸透していく効果もあったと思います。

関係部署と連携しながら、エッジの効いた発信をしていきたい

一連の施策を通じて、ミッション、ビジョン、バリューの浸透度合いが、着実に上昇してきました。

ミッションとビジョンの理解率は、策定後の3年間で7割台から9割近くに上がりましたし、バリューについては理解率で9割に達するとともに、行動にまで移せている人の割合も4割から5割に増えました。

今後、組織のコミュニケーションデザインを推進していく上で、意識したいことが3つあります。

まず1つ目は「ボーダレス」です。複雑化している人事の領域などにもアンテナを張り、部署の垣根を超えて連携し、既存の広報の枠に囚われないボーダーレスなコミュニケーション施策に取り組んでいきたいと考えています。

2つ目は「マーケティング思考」です。広報の仕事は、エモーショナルな部分が目立ってしまいがちですが、漠然と何かを作るのではなく、プロセスや接点を分解して仕組み化することを、さらに進めていきたいと思っています。

最後に「クリエイティブ発想を磨くこと」です。広報が発信する言葉やスローガンは、多数決などの民主主義的な決定のされ方を求められるケースがよくあります。ただ、それに配慮しすぎると、エッジが立たなくなってしまうんです。

多くの人が白だといっても、自分が黒だと思うなら、その理由を言語化しながら前に進んでいかないといけない。その判断をするための感度やセンスは、今後ますます、広報のスキルとして求められる時代になるはずなので、それを高めていきたいと思います。(了)

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