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なぜ「雑談」が大事なの? フルリモート経営のプロ3人が語る、組織マネジメントの極意

〜大事なことは、結局オフラインと変わらない? リモートワーク最前線の3社代表が語る、「リモート・マネジメント」のポイントとは。具体的な施策から思想まで公開!〜

リモートワークの働き方が長期化している中で、社員のパフォーマンスやエンゲージメントに課題感を持つ方も多いのではないでしょうか。

SELECKではそのような悩みにお答えするべく、「リモート・マネジメント実践のコツ」をテーマにしたオンラインイベント「SELECK LIVE!」特別篇を、5月19日(火)に開催いたしました。

従来からフルリモート組織を運営する、bosyu社、ソニックガーデン社、overflow社の経営者3名をゲストにお迎え。読者アンケートから得られた「マネージャーのリアルな悩み」に、パネルディスカッション形式で答えていただきました。

今回の記事では、その内容を余すことなくお届けいたします! ぜひご覧ください。

▼ゲスト
株式会社キャスター取締役COO / 株式会社bosyu代表取締役  石倉 秀明さん
株式会社ソニックガーデン 代表取締役 倉貫 義人さん
株式会社overflow 代表取締役CEO 鈴木 裕斗さん

▼モデレーター
RELATIONS株式会社 Wistant事業責任者 加留部 有哉

登壇各社の「フルリモート組織」の概要について

1.株式会社キャスター取締役COO / 株式会社bosyu代表取締役 石倉 秀明さん

2009年7月に株式会社キャスターから分社化した、かんたん募集サービス「bosyu」を運営しているbosyu社。設立から5年で15か国、45都道府県に約700名のメンバーを抱え、「世界最大級のリモート組織」を経営されています。

雇用形態は自由、副業も可能で、柔軟な働き方ができるとのこと。また、同じ役割であれば雇用形態に関わらず、同一賃金を採用しているといいます。

※石倉さんに過去取材した「リモート組織での採用手法」の記事も、ぜひご覧ください。

2.株式会社ソニックガーデン 代表取締役 倉貫 義人さん

2011年に設立後、ソフトウェア開発を展開するソニックガーデン社。同社は2016年にオフィスを手放し、メンバー全員が在宅勤務、フレックス制というフルリモート組織を経営されています。現在のメンバーは、全18都道府県に計46名とのこと。

「納品なし」「通勤なし」「管理なし」の組織運営が特徴的です。さらには評価も目標もないというユニークな運用をされています。

※倉貫さんに過去取材した「リモート組織論」の記事も、ぜひご覧ください。

3.株式会社overflow 代表取締役CEO 鈴木 裕斗さん

2017年に設立し、現在、副業中心に270名のメンバーを抱えながらも、その90%以上がリモートワークという働き方を実現しているoverflow社。

2020年の春、新型コロナによる影響を鑑みて、たったの3日でオフィスを手放す意思決定をされたといいます。

同社は徹底した「ドキュメント文化」が特徴的で、雇用形態に縛られずとも個々人がスキルアップしていけるような「フレキシブル経営」を目指されています。

※鈴木さんに過去取材した「リモート環境でのコミュニケーション術」の記事も、ぜひご覧ください。

では、パネルディスカッションスタートです!

オフィスの意義とは? 人類が作った「コミュニケーションツール」

ーーでは早速、最初のテーマ「コミュニケーションの希薄化で生じる諸問題に対して、どのように取り組んでいる?」からお伺いしていきましょう。

石倉さん 僕はシンプルに、リモートで少なくなったコミュニケーションを増やす工夫が必要だと思います。

オフィスで行われていた会話は、大きく3つに分類できるかなと。業務に関するコミュニケーション、ブレストなどアイデアを共有するコミュニケーション、そして雑談です。これらをオンラインでも行う工夫が必要だと思っています。

リモート環境下では、チャットツールはただの連絡手段ではなく、「オフィスそのもの」だと思っていて。どうすれば会話を起こさせるかを設計しながら、雑談をいかに生むかが重要だと思います。

ーーなるほど。その「雑談を生む仕掛け」がなかなか難しいと感じている人も多いですよね。その仕掛けについては、各社さんどのように工夫されていますか?

倉貫さん 雑談を意図的に生んだら、それはもう「雑談」ではないですよね(笑)。

雑談と相談を合わせて「ザッソウ」と呼んでいるのですが、以前に「雑草」の意味を調べてみたことがあるんです。そこでわかったのは「雑草」という名の草は存在せず、「分類されてない草」のことを呼ぶ。名前がついていてもグチャっと集まっていたら、それも「雑草」と呼ばれるようです。

その概念に当てはめると、プライベートな話や、ちょっと資料を見てもらうような会話は、すべて「雑談」といえるのではないでしょうか。

僕は、オフィスでの過ごし方は「個々の業務をする時間」「会議などで顔を合わせる時間」「なんでもない会話をする時間」の3つに分けられるかなと思っていて。リモートでは、最後の「なんでもない会話をする時間」がなくなるので、それをどう作るかがポイントです。

今、改めてオフィスの存在意義について考えている人も多いと思います。僕は、海や山といった「当たり前のもの」ではなく、オフィスは人類が作ったただの「コミュニケーションツール」だと考えているんですよね。固定電話からスマホへと変化したように、オフィスの代替案を発明していくことが必要になると思います。

ーーオフィスは「ツール」。とてもわかりやすいですね。では、今年の春にオフィスを手放された鈴木さんは、コミュニケーションをどう代替されていますか?

鈴木さん コミュニケーションは、会社が「何を大切にしているのか」で変わってくると考えています。

リモートワークでは、会話を選択できることもメリットだと思っていて。オフィスでは時間が同期化されているから、取捨選択が難しいんですよね。一方、リモートは非同期状態なので、必要なコミュニケーションだけを選択することが可能です。

弊社では、必要なコミュニケーションだけを選択するようにしていますが、どうしても仕事の話が多くなってしまうところはあって。

なので、信頼関係を構築するための時間をあえて作るようにしています。ただそうすると、倉貫さんが話されたように「雑談じゃなくなる」かもしれないですが(笑)。

そもそも、なぜリモートワークにおいて「雑談」が必要なのか?

ーー視聴者の方から「雑談はなぜ大事なのでしょうか」という質問がきていますね。

石倉さん すごくいい質問ですね。リモートワークでは姿が見えないので、忙しそうとか、困っていそうだな、というのがわからない分、「助けてほしい」とメンバーから言ってもらう必要があります。そのためにも、雑談や目的のない会話は重要です。

僕は「何を言っても大丈夫」という空間を作るのも、マネジメントの仕事だと思っていて。そうした空間がないと、全部ダイレクトメッセージでやり取りされて、炎上してから事後報告される、といった事態を生むことになりかねないですよね(笑)。

倉貫さん 普段から雑談をしているから、相談しやすくなるんですよね。変化の早い現代では、ひとりでできることは限られているので、お互いに相談しながら生産性を高めていく、という働き方が重要になってきたのではないかと考えています。

「心理的安全性」を生むためにも、「雑に相談して良くしていく」、その空気感を作ることが大事なのではないでしょうか。

▼雑談のベースがあると、相談がしやすい(ソニックガーデン社提供)

「話した方が早い」は一瞬。ドキュメント化による情報共有の大切さ

ーーリモート環境での、雑談の重要性がよくわかりました。事前アンケートでは「情報の透明性」に関する悩みも多くありましたが、これについてはいかがですか?

鈴木さん リモートでは、まず前提条件を揃えることが重要だと思っています。ドキュメントの書き方に最低限のルールを設けたり、会議では、事前に各事業部・チームごとにドキュメントを作成してもらうようにしています。

業務コミュニケーションは、ドキュメントの方が意思決定が早いと思っていて。書くことによって二度伝える手間がなくなる上に、文字に起こすことで思考の整理にもなります。書くこと自体にメリットがあるんですよね。

石倉さん 本当に。「話した方が早い」というのは、一瞬の話だと思っています。

仕事は長期目線で考える必要があるので、共有を疎かにしていたらコストはどこまでもかかってくる。時間軸をきちんと意識して共有する仕組みを作れるか、というのが大事ですね。弊社では「esa(※ドキュメント管理ツール)に入れといて」が口癖です(笑)。

鈴木さん わかります、僕たちも「Notion(※情報管理ツール)に入れといて」が口癖です(笑)。

倉貫さん 僕は、コミュニケーションの取り方はケースバイケースかなと思います。報告など過去のことはドキュメントにする。相談ごとみたいに、モヤモヤして文字に起こせないことは「5分話す」、などの選択が大事なのではないでしょうか。

鈴木さん そうですね。そのモヤモヤを聞いて、マネージャーが解決するのも違うかなと思っていて。メンバーの成長を阻害しないためにも、「解決」ではなく話を聞きながら整理しつつ、言語化を手伝うという姿勢が重要だと思っています。

石倉さん ただ、その「モヤモヤ」の質や解決するまでのレベル感は個人で違うので、結局は相手に合わせて解決までのステップを変えながら、新しい考え方や視点を教えることが大事だと思いますね。

リモート環境下での「信頼関係」をどう築く? オンボーディングの工夫

ーーもはやリモート関係なく、マネジメントの話ですよね。4月には新入社員を迎えた企業も多いと思いますが、各社で「オンボーディング」の工夫はされていますか?

鈴木さん 弊社では「読む、見る、聴く」の3パートで、オンボーディングを構成しています。

▼overflow社のオンボーディングの仕組み(同社提供)

例えば「読む」では、入社時に必ず穴埋め式の「自己紹介ドキュメント」を書いてもらっています。誰がどのような人か分かるので、相談がしやすくなるんですよね。

また「見る」「聴く」などの五感を意識した仕組みで、個人のペースでチームに馴染んでもらうようにしています。動画や音声は倍速で再生できますし、ドキュメントは好きなタイミングでみることができるので効率的です。

倉貫さん 僕は、リモートでもいかに信頼関係を築くかが重要だと思っていて。弊社では4年間、一度も通勤したことがない人もいるのですが、そのメンバーと信頼関係が築けていないかと言われるとそうでもないんですよね。

そもそもフィジカルに会えていたとしても、しっかり信頼関係が築けているかと言われると、そうでもなかったりするじゃないですか(笑)。僕は「約束をして、それを守る」という回数を重ねることが信頼に繋がるのではないかなと思います。

石倉さん 多くの人は「信頼関係は与えられるもの」だと考えがちですが、そもそも自分たちではコントロールできないものだと思うんですよね。なので、まずは「相手を信じる姿勢」が非常に重要だと思っています。

鈴木さん 同感ですね。僕は「返報性の原理」を考えると良いと思っていて。「相手の信頼に応える」という心理のことを言うのですが、性悪説ではなく、まずは性善説に基づいて相手を信じることが重要だと思ってます。

マネージャーの役割とは?「人」ではなく「業績」を管理する

ーー信じることが大事。とはいえ、社員を「管理」しないとパフォーマンスを出してくれるか心配、という悩みもあると思います。これに対してはどうですか?

鈴木さん 僕は、リモートワークは漫画「キングダム」の構造と一緒だと思っていて。中枢の将軍と現場の兵士って、いわばリモート状態だと思うんですよね。

その戦に勝つためには、大事な要素が3つあります。ひとつは、自分が戦っている意義を明確にする「信念」。次にメンバー同士の「信頼」。そして最後が「武器」。これは会社に置き換えると「情報」だと思ってます。

現場に情報がないとゲリラ戦で負け続ける、みたいな状況が起きると思うんですよ。だから経営者とメンバーが持っている情報を一緒にして、意思決定を任せていくことが重要だと考えています。

石倉さん そもそもマネージャーの役割が何かと聞かれて答えられる人って、なかなかいないんじゃないかと。僕はシンプルに「業績を管理する」ことだと思ってます。

なので、マネージャーは「人を管理する」のではなく、「ミッションに対して部下がちゃんと進んでいるか」に注力することが重要だと考えていて。働きぶりが見えないことで、管理の対象がずれてきているんじゃないかなと思います。

倉貫さん どうすれば仕事の生産性を上げられるか? という問題は、「管理」では決して解決しないんですよね。

「この文章を綺麗に書き写しておいてね」などマニュアル化できる「作業」をしている限りは管理したくなると思うのですが、これって「仕事」とは違うと思うんです。

仕事は目標達成がゴールなので、それまでの道のりは試行錯誤して良いものだと思っています。

ーー視聴者の方から「レスがない・遅い社員は管理したくなってしまう」というコメントが来ていますが、皆さんこちらはいかがでしょうか?

石倉さん そもそも「レスが遅い」というのも主観だと考えていて。リモートワークのコミュニケーションは「非同期」であることを理解して、都合のいい時間に返ってこないということを前提にしておくべきです。

また、目標を達成できなかったなら、評価を下げればいいだけの話だと思っています。この話はシビアだと言われることもありますが、明確にしている方がどう動けば良いかわかるので、むしろ「優しい」世界ではないかと(笑)。

ーーなるほど。評価について、他の皆さんはいかがでしょうか?

鈴木さん 僕は「成果」を明確にする仕組みを、組織のリーダーが作ることが重要だと思っています。評価って曖昧で主観が入りがちだと思うのですが、アウトプットで客観的な評価をするには、リモートは適していると思いますね。

倉貫さん 成果の本質は「誰かの役に立つこと」であって、個々人で異なるものですよね。なので、目標も自己決定するというセルフマネジメントが、リモートでは重要なのではないでしょうか。

ただ、成果が見えづらかったり、目標を設定しづらい職種もありますね。例えばエンジニアの評価ってすごく難しくて、コードをたくさん書けたら良いわけではない。そのソフトウェアが3年後にバグを生み出したりしたらNGなんですよね。

そこで短期評価にしてしまうと、どうしても「雑な仕事」が生まれてしまう。弊社では、売上目標も評価もないですし、結局は「好きなこと」を仕事にするのが良いのではないかと思っています。

最後に「全国のマネージャー」に向けて、一言お願いします!

ーーでは最後に、全国の「マネージャー」の皆様に、一言お願いいたします!

石倉さん 多くの悩みは、リモートワークが原因なのではなく、人間関係や目標設定など、もともとのマネジメントの部分だと思います。

こうした慣れない状況下でも、全員が仕事を進められるようにするのがマネージャーの仕事で。アウトプットで評価するのか、バリュー評価はどこまで入れるのかなど、経営者がルールを明確にしていくことも重要だと思います。

倉貫さん 僕も同じく、リモートワークのせいにして欲しくないと思います。結局「リモート」ではなく「ワーク」に問題があるんですよね。

世の中には多種多様な企業が存在しているので、「リモートワークではこれがいい!」みたいな正解みたいなものも存在しないと思っていて。つまりは自分でマネジメントを考え直すしかないなと。頑張ってください(笑)。

鈴木さん 企業は、お客さんやユーザーにとって良いものを、いかに早く、価値を大きく提供できるかが一番重要だと思います。リモートでも、本来の目標に立ち返ってどれだけ早くインパクトを出せるか? をシンプルに考えることが重要です。

また、社会変化の中で現場のメンバーはやはり「無力」に近いので、メンバーが成果を出せるように、意思決定者が率先して、様々なルールを試すことが必要だと思いますね。(了)

おわりに

いかがでしたでしょうか。リモート環境におけるマネジメントのお悩みを抱える方々の、解決のヒントになれば幸いです。

今後も、現場で役立つナレッジをお伝えするイベント「SELECK LIVE!」を、定期的に実施していきたいと思いますので、ぜひご参加くださいね。

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