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【Web3対談#02 AZITO taka氏×全力まん氏】Web2からWeb3にピボットし、直面した壁と解決法
本企画「Web3対談」は、Web3業界の最先端で活躍されている方をゲストとしてお招きし、NFTやメタバース、暗号通貨など毎回異なるテーマを囲みながら、Web3が切り開く未来を探っていく企画です。
Web3が注目を集め、多くの企業がメタバースやNFTといったテクノロジーを自社のビジネスに活かそうと、工夫を凝らしています。
昨年、NTTドコモがWeb3領域に6,000億円の投資を発表したのに続き、2023年3月にはKDDIがメタバース・Web3サービス「αU(アルファユー)」を始動。そして、政界でも自民党の「web3PT(プロジェクトチーム)」を中心にWeb3に関する議論が活発化しており、法整備が進むにつれてマスアダプションも近づいてくるのではないでしょうか。
しかし、従来のインターネット関連のサービスやプロダクトを「Web2」としたときに、「Web3」へビジネスを展開する上での事業や組織づくりの最適解は未だ存在せず、企業にとって積極的に参入するのが難しい領域である場合も少なくありません。
そうした中、企業向け仮想オフィス「RISA(リサ)」を提供する株式会社OPSIONは、2022年5月にNFTを活用したメタバースプロジェクト「AZITO(アジト)」を発表。Web2からWeb3へとピボットし、新たな事業づくりに挑んでいます。
そこで今回は、事業をWeb3にピボットした背景や、新サービスの開発中に立ちはだかった壁、その乗り越え方について、AZITOのファウンダーを務めるtaka(@takashi_fukano)さんと、マーケティング担当の全力まん(@zenryoku_eth)さんにお話を伺いました。ぜひご覧ください!
NFTの魅力に惹かれて、Web2からWeb3の世界へ
──本日はよろしくお願いします。まず、お二人の自己紹介をお願いします。
taka AZITOのファウンダー、takaです。経歴としては、大学卒業後に監査法人に入社し、会計士として上場企業の監査やスタートアップの支援を3年ほど行っていました。
その後、2019年に株式会社OPSIONを設立し、企業向けの仮想オフィス「RISA」を開発していましたが、NFTの波が来た2022年5月にWeb3プロジェクト「AZITO」を立ち上げました。同年9月にはβ版をリリースし、現在は正式なリリースに向けて開発継続中です。
全力まん NFTプロジェクトのマーケティング支援を行っている、全力まんです。本業は別の仕事をしながら、副業としていくつかのNFTプロジェクトに携わっています。
NFTは2年ほど前から興味を持ち、初めはコレクターとしてNFTの動向をウォッチしていました。そこからご縁があって、国内外で活躍するNFTクリエイターの方々のマーケティングを支援するようになり、これまでAZITOを含めて20以上のプロジェクトに関わっています。
──2019年にtoB向けの仮想オフィス「RISA」を立ち上げたのは、どのような経緯だったのでしょうか。
taka RISAはコロナ禍前にリリースしているので、当時は特にテレワークが普及していたわけではありませんでしたが、「ゲーム画面のような2Dのバーチャル空間で仕事ができる」という目新しさがありました。
▼仮想オフィス「RISA」の画面(イメージ)
そのため、プレスリリースやブログを見た方に興味を持っていただいたり、コロナ禍でテレワーク普及の追い風が吹いた際には、毎月100〜200件ほどのお問い合わせをいただくようになり、事業は順調に伸びていたんです。
しかし、徐々にテレワーク市場での差別化に苦戦してきて…。レッドオーシャンの中でどう戦うべきか悩んでいた際に「NFT」を知りました。初めはよくわからなかったので、自分でNFTを買ったり、売ってみたりしたところ、その購買体験が僕にとって衝撃的だったんです。
NFTには、その存在が媒介となって、クリエイターと保有者の二者間で利害関係を生み出せるという魅力があります。例えば、NFTアートのクリエイターが、創作活動を通じて色々な作品を発表していく。一方で、購入者もPRなどを手伝って応援する。そのクリエイターが有名になるにつれてNFTの資産価値が上がるので、お互いの利害が一致するんですよね。
その先に、NFTを通して一緒にサービス開発やプロモーションを行う未来がくるかもしれないと思いました。
当時のRISAは、アバターのアニメーションや表情などのエンタメ性を強みとしていたので、このエンタメ性を拡張しサービスを伸ばしていくにはNFTが最適でした。とはいえ、当時はまだNFTが広く知られていない時期だったので、試しにRISAのアバターをNFT化して販売したところ、出品後にすぐ売れる状態が続いて「これはいける」と感じたんですよね。
はじめは社員に理解されなかった、Web3事業への思い
──その後「AZITO」のプロジェクトをスタートさせていますよね。簡単にご紹介いただけますか。
taka AZITOは、世界中のクリエイターとの共創により、自律発展するメタバースプロジェクトです。ブロックチェーン技術を活用してバーチャル上のコンテンツを制作するクリエイターの活動を促進しながら、その活動を通じてユーザー同士が関係性を深めるなどして、独自の経済圏を確立することを目指しています。
──「RISA」はデンソーやLIONといった大手企業も導入していますよね。SaaSツールとしてもさらなる成長が期待できたと思いますが、「AZITO」へ舵を切った背景を教えてください。
taka 実を言うと、起業当初からメタバースの世界を作りたいという思いがありました。
この思いは、幼少期の経験が元になっています。僕は高齢出産で生まれて母子家庭で育ったこともあり、周囲と比較しても経済格差がある環境で育ちました。その背景もあって、性別も見た目も気にせずに新たな自分を見出し、好きなことにチャレンジできる世界を確立したいと思っていて。そこで出会ったのが、メタバースの世界観でした。
とはいえ、技術的なハードルが高く、だいぶ先の未来になると思っていたので、まずは企業向けのバーチャル空間としてRISAを開発したという背景があります。
そうした中で知ったNFTは、僕が目指す「ユーザーがコンテンツを生み出し、バーチャル上の世界が広がっていく」というメタバースの世界にかなり相性が良かったんです。加えて、当時はSTEPN(※)が全盛期で、NFTプロジェクトの「ギャルバース」も盛り上がっていた時期だったこともあり、NFTの波に乗るなら今しかないと感じていました。
※NFTのスニーカーを保有することで、ランニングやウォーキングをすると暗号資産を稼ぐことができるNFTゲーム
将来的にRISAにNFTを融合させていく路線もありましたが、自分が本当に目指したい世界に近いのは、圧倒的に「Web3に参入してNFTを活用した新たなプロダクトを作る」路線だったんですよね。
──「Web2からWeb3へ全振りする」という意思決定を下したあと、どのような形で社員の方々とコミュニケーションをとり、社内の理解を深めていきましたか。
taka 正式に、AZITOというプロジェクトを始めたいと社員に伝えたのは、2022年のゴールデンウィーク直前のタイミングでした。
ただ、やはりみんなシーンとなっちゃって(笑)。正直、受け入れられていなかったと思います。また、アートの方向性なども全く決まっていない段階だったので、多くの人が不安がっていましたね…。
そこで、みんなにNFTを知ってもらうために、まずは成功しているNFTプロジェクトについてキャッチアップしてもらい、その上で連休明けに勉強会を開いたあたりから、僕がやりたいことが伝わり始めた感覚がありました。
Web3事業に参入後すぐ、立ちはだかった2つの壁
──Web3事業をやる上での人材採用は、どのように進めていきましたか?
taka 2022年の5月下旬頃にTwitterでアナウンスしたところ、その頃は自社でトークノミクスを設計したり、グローバル展開を目指したりするプロジェクトがまだ少なかったこともあり、思っていた以上の反応がありました。海外展開に興味がある方やブロックチェーン系のエンジニアの方々から多くの連絡をいただき、その中から選定していきましたね。
──その後は順調に「AZITO」が立ち上がっていったのでしょうか?
taka いえ、たくさんの壁がありました。まずはアートの問題です。
ジェネラティブのNFTアートは、1人のクリエイターがパーツを描くことでテイストを統一させるのが一般的です。ただ、僕は「コミュニティの人を巻き込みたい」という思いから複数のクリエイターの方々に依頼したんですね。その結果、当然ながらクリエイターによって絵の描き方がバラバラで、到底売れないものが生まれてしまって(笑)。
最終的には、8人のイラストレーターさんに依頼することにしました。運営側で色使いや線の描き方などの基準だけ決めて、それをベースにマスクや髪型、服など、パーツごとに役割分担をし、具体的なデザインやアイデアは各イラストレーターさんにお任せする形にしました。結果的として、1つのコレクションとして統一感は保たれつつも、8人それぞれの個性が表現された作品になったと思います。
また、「Talk to Earn」のカルチャーがなかなかAZITOのコミュニティに浸透しなかったという課題もあります。Talk to Earnとはメタバース上で会話をするだけで独自トークンがもらえる仕組みのことで、AZITOユーザーの方々の共創関係を加速し、コミュニティを拡大していくきっかけとして構想していたものでした。
しかし、このTalk to Earnはあまり稼げないのが実情で。「稼げそうだ」という期待をもって初期のAZITOに集まった人々の属性と、AZITOが目指す世界観が一致せず、なかなかコミュニティが盛り上がらなかったんですね。
一方で、運営がうまくいっているNFTプロジェクトの多くは、「一緒に何かを作りたい」「世界観が好きで応援したい」といった思いを持つユーザーさんとの共創関係が強いという傾向がありました。
そういった「Web3ならではの文化」を掴みきれないままプロジェクトをスタートさせてしまったのに加えて、すでに1万体のNFT販売も決まっていたことから、NFTの専門家を巻き込んで立て直す必要があると感じました。
そこでアドバイスをいただけないかと連絡したのが、全力まんさんだったんです。
救世主となったNFTマーケター、全力まん氏との出会い
──当時、全力まんさんの視点から「AZITO」はどのように見えていたのでしょうか?
全力まん 僕が話を聞いた時は、コミュニティの人数も少なかったですし、「失敗するのではないか」と正直にtakaさんに伝えた記憶があります(笑)。
僕が最初に指摘したのは「ブロックチェーンの選定」についてでした。ブロックチェーンを利用する場合は、ターゲット顧客に合わせてチェーン選定を行う必要があります。例えば、ソラナはゲームで採用されているケースが多く、PFP(Profile Picture:SNS等のプロフィール画像のこと)系のNFTアートプロジェクトはイーサリアムやポリゴンが多いんです。
当時、AZITOはガス代が安いという理由でソラナを使う予定でしたが、ソラナを使ったNFTプロジェクトの事例はまだまだ少なくて、購入者の母数が少なかったんです。そこで、ガス代が多少高くともイーサリアムに変えた方が良いと伝えました。
とはいえ、セールまで時間がなかったので、今から出来ることはやりつつも、全部は売り切れないと思っていましたね。
taka そうですね。僕が全力まんさんに連絡したのはセールの3週間前とかで…。目前に迫っていたこともあり、「いきなりブロックチェーンを変えるのは厳しい」と返答しましたよね(笑)。
そんな中、セールの10日前ぐらいにソラナで大規模なハッキング事件が発生したことも相まって、その翌日にはブロックチェーンをイーサリアムに切り替えるアナウンスを出して、イーサリアムに対応したミントサイトを作り直しました。
この判断を下した結果、それまでリーチできていなかった海外の方にも注目いただけるきっかけになりました。また、セールを2週間ほど後ろ倒しにしたことで生まれたリードタイム中に、作品のクオリティを高めることもでき、プロジェクトにとっては良い選択だったと思います。
訴求軸とマーケティング戦略を練り直し、コミュニティを拡大
──その後はどのようにして「AZITO」を展開していったのでしょうか。
taka リードタイム中にもう一度全力まんさんに連絡を取り、戦略の練り直しを相談したんです。その際にたまたまRISAを見せたのですが、「なんでもっと早くRISAの存在を教えてくれなかったのか」と言われて(笑)。
全力まん RISAの話を聞いた際に、AZITOは「Talk to Earn」の訴求軸よりも、RISAのビジネスとしての実績を打ち出した方が、反応が良くなるのではないかと思ったんです。すでにRISAは上場企業への導入事例もありましたし、クラウドワークスとの資本業務提携を結んでいたりと、実績が多くありました。
takaさんは当時バズっていたPFP系のプロジェクトをベンチマークしていましたが、市場的には単にイラストをPFP化しただけでは飽きられ始めていました。加えて、それまでのNFTプロジェクトの成功例は、コミュニティの熱量を時間をかけて築き上げ、満を持してNFTを出すというケースが多かった。しかし、AZITOはそもそもコミュニティが出来て間もなかったので、スピーディーにコミュニティを盛り上げる訴求が必要だったんです。
そこで、「実績ベースや現実的な部分でのロードマップを策定して差別化しよう」とtakaさんに提案しました。
taka 訴求軸を変えた後は、AZITOのメタバース上で「こういうことを実現したい」や「こんな風にしたらもっと面白くなるんじゃないか」と自発的に考えてくださる方が少しずつ現れてきて。徐々にコミュニティの熱量が高まってきた実感がありましたね。
▼訴求軸を変えた後に公開した、AZITOに関する情報のまとめ画像
──訴求ポイントを変えた後は、具体的にどのような施策を実行されましたか?
全力まん 具体的に行った施策は大きく2つです。ひとつは「AL(アローリスト)の配布戦略の変更」です。
そもそもALは優先購入権なので、 NFTプロジェクト自体に興味関心がある人にしか魅力がありません。なので、ALを配布するのであれば、コミュニティを盛り上げた後に配布するのが正しい流れであって、「とりあえずALを配る」ということをやってしまうと、本来巻き込みたい人にリーチできない可能性が高いんです。
戦略の転換後は、AZITOの世界観に興味を持つ層への訴求が最重要だったため、AZITOに共感してくれる組織やコミュニティにめがけてALを配布していきました。
当時は、「初めてNFTを購入する」といった初心者の方々よりも、ある程度既存のNFTコレクションを楽しんで、もうひと工夫あるプロジェクトを探し求めている方や、RISAの実績が響きそうな比較的ビジネス色があるコミュニティや組織に当たりをつけて声がけを行いましたね。
もうひとつは、「音声メディアを活用した発信強化」です。AZITOの目指す世界観はテキストよりも音声の方が伝わると思っていたので、Twitterスペースを通じてtakaさんが熱意を持って伝えていきました。
taka Twitterスペースでは、色々な界隈のインフルエンサーやNFTプロジェクトのファウンダーとコラボし、毎日のようにAMA(※)を開催することで、認知を広げていきました。
※AMAとは「Ask Me Anything」の略で、一般ユーザーがオンライン上でNFTプロジェクトの運営者などに気軽に質問できる、ユーザー参加型のライブ配信のこと。主にTwitterスペースなどで実施されることが多い。
加えて、音声配信メディアの「Voicy」も活用しました。Voicyリスナーの方々はNFTに馴染みのない層が多かったので、まずはメリットを感じてもらいやすいように、「NFTアート自体が、AZITO上の土地の保有権として機能する」といったAZITO特有のユーティリティを伝えつつ、徐々に世界観を伝えるようにしました。また、配信を聞いてくれた人にALを配布するといった施策も展開しました。
Web2事業を売却し、今後AZITOを通じて目指す未来は
──結果、セールはうまくいったのでしょうか?
taka 予想以上の反響がありましたね。当初は2時間ほどで完売すると予測していましたが、50分で売り切れました。Discordコミュニティのチャットも盛り上がっていて本当に感動しましたね。「応援してくれていた人が、こんなに居たんだ」って。
その後、リビール(※NFTを開封すること)のタイミングも盛り上がって、セールとリビール時の2回ともTwitterで「AZITO」のキーワードがトレンド入りを果たしました。AZITOはマスクや服などアイテムの種類が多く、未公開のものも多かったので「こんなものがあったんだ!」と、色々な声がTwitterに投稿されて勢いがすごかったです。
▼「AZITO」のNFTアート例(リビール時のコメント)
ジェネラティブのNFTアートプロジェクトは、基本的にセールとリビールでひと段落しますが、メタバースの構築を目指すAZITOはそこからが本番です。継続的にホルダーの方々の意見を吸い上げながらプロダクトに反映していくためにも、開発体制を強化する必要がありました。
そこで、僕に代わってYoroさん(@baby_yoro)がコミュニティマネージャーとしてジョインしてくれて、オフラインでのイベントを何度か行いながら、ホルダーさんとの関係を深化させていきました。
▼実際にイベントが行われた時の様子
──最後に、今後の「AZITO」の展望について教えてください。
taka AZITOで実現したいのは、「誰でもメタバースの中で、やりたいことに挑戦できる環境を作る」ことです。AZITOのコミュニティの中に、小規模なコミュニティやコンテンツがたくさん生まれて、個人がやりたいことを実現できるような状態を目指したいです。
また、以前発表した通りですが、MS-Japan様からRISAの買収のご提案をいただき、事業売却に合意させていただきました。今後、AZITOに全力で振り切れることにワクワクしていますし、今のユーザーさんたちと共創できる環境をより構築していきたいと思っているので、引き続き応援していただけたら嬉しいです。
全力まん 既にメタバースを開発していた背景があったからこそ、AZITOはNFTアートのリリース後すぐにβ版のローンチが達成できました。しかし、α版に向けた開発や、セカンドセール、海外展開などこれからやるべき事がたくさんあります。
RISAの事業売却が完了したので、今後は企業としてより一層AZITOに注力できますし、NFT発のメタバース企業としてこれからもコミュニティの力を借りながら、ユーザーのみなさんと一緒にAZITOを創り上げていきたいです。
──本日は、取材のお時間をいただき本当にありがとうございました!
取材・ライター:古田島 大介
企画・編集:吉井 萌里(SELECK編集部)