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【Web3対談#06】NFTの本質的価値は「相互運用性」と「共通規格」にあり?

アートに限らず様々なビジネスシーンにおけるNFTの活用が進み、実社会と紐づいたNFTの活用法や経済活動への応用が模索されている昨今。

そうした中、NFTの本質的な価値を見極め、実用的なユースケースを生み出そうと取り組む企業が存在します。それが、日本初のNFTチケット販売プラットフォームとして注目される「TicketMe(チケミー)」を提供する株式会社チケミーと、LINE上で簡単に暗号資産ウォレットを作成できる「NFT Pocket」を運営するGEOMETRON合同会社です。

新たな技術を普及させる際には、いかにユーザーに技術的なハードルを感じさせないかが重要です。この点において、チケミー社が2023年5月に公表した「TicketMe」のサービス提供開始時のプレスリリースでは、「NFT」の言葉が一切使用されていないことで話題を呼びました。

さらに、GEOMETRON社のNFT Pocketも、LINEを通じて簡単にNFTの受け渡しができることから多くの人々の関心を惹き、サービスリリース時にはX(旧Twitter)上で100件以上のリポスト、15万件以上のインプレッションを獲得し、大きな反響を見せました。

しかし、どちらも共通して「NFTの社会実装を第一目的にはしていない」といいます。では、なぜサービスにわざわざNFTを活用しているのでしょうか。また、NFTを活用することのメリットは…?

そこで今回は、チケミー社でCOOを務める赤塚 育海(@ikkun)さんと、GEOMETRON社の代表である高木 陽介(@ramenjp_)さんに、それぞれのサービスに込めた想いやNFTを有効活用する方法などについて、詳しく伺いました。

NFTと実社会が紐づいたプロダクトが誕生したきっかけ

──本日はよろしくお願いいたします。まずはお二人の自己紹介をお願いします。

赤塚 株式会社チケミーにてCOOを務める、赤塚 育海です。普段は早稲田大学の学生として過ごす傍ら、高校1年生の時に立ち上げた日本最大の数学サークル「数学を愛する会」で会長を務めています。

僕は、同会にて経済学や暗号学を勉強している時にブロックチェーンに出会ったことがきっかけで、Web3のムーブメントを知りました。その後、共通の知人からチケミーのCEOである宮下さんを紹介してもらったんです。

実は、当時は「NFTチケットはありきたりで面白くない」と思っていたのですが(笑)、宮下さんと話す中で「TicketMeはインフラとして成立したら絶対に伸びる」と確信して。

また、いかに物事を評価し判断するかという「評価経済」の重要性が問われている現代において、数学的な観点からも、ブロックチェーン技術を使えば経済システムのパラダイムシフトを加速させられるのではないかと感じました。

というのも、数学には、世の中にある資源配分を適切に行うことを目的に社会制度を設計する「マーケットデザイン」という分野があります。この考え方に基づいてブロックチェーン技術を使えば、社会の仕組みを最適化できるのではないかと思ったんです。

そこで僕たちが提供しているのが、日本初のモノと権利のマケプレアプリ「TicketMe」です。「世の中の隠れた価値を見つけ出し、あるべき場所にあるべき価値を届ける」ことをミッションに掲げ、イベントチケットだけでなく、デジタルデータや不動産の受益権なども流通しています。

高木 私は、GEOMETRON合同会社にて代表を務めている、高木 陽介です。新卒で楽天に入社して「楽天モバイル」の立ち上げなどに従事したのち、スタートアップ企業でソフトウェアエンジニアとしてキャリアを積みました。その後、インフルエンサーエージェンシー事業を立ち上げて1年半ほどでバイアウトし、現在に至ります。

私は元々、コロナ禍前より趣味で暗号資産の投資を行っていたことがきっかけで、クリプトに興味を抱きました。海外を中心に様々なプロジェクトが立ち上がっていくのを見ながら、ブロックチェーンの特徴である「コンポーザビリティ(※)」の考え方に興味を持ち、昨年からWeb3領域での事業展開をスタートさせました。

※コンポーザビリティとは、複数の要素を組み合わせられる性質を意味し、Web3においてはプロジェクトはいわば「コンポーネント(部品)」的なものであって、他のものにも転用できる仕様が好ましいという考え方のこと。レゴブロックの性質に例えられることが多い。

そして現在は、LINE上で操作できるNFTの購入・管理・閲覧ツール「NFT Pocket」を開発しています。

2021年頃から日本国内で急速に広がり始めている暗号資産やNFTですが、その保有や送受信に必要な「ウォレット」の作成手順が煩雑で、多くのユーザーがその段階で離脱してしまっているという現状があります。それがNFT Pocketの開発に至った背景です。

その課題に対してNFT Pocketでは、多くの人が慣れ親しんでいるLINE上でウォレットを開設し、発行されたウォレットアドレスから簡単に暗号資産を受け取り、購入、保有、送金できるツールを提供しています。

現在は、実証実験としてNFTを使いたいというニーズが多く、規模を問わずNFTを活用した事業開発に取り組んでいる企業様からお問い合わせをいただいています。

NFTを活用して、転売を「防止」するのではなく「コントロール」する

──TicketMeさんの「マーケットデザイン」のお話は興味深いですね。昨今、転売問題がメディアで大きく取り沙汰されていますが、そうした転売の防止も目的にされているのでしょうか?

赤塚 結果として転売の防止に繋がるかもしれませんが、僕たちは「転売を防止する」よりも「転売をコントロールする」ことを意識しています。

元来、市場というのは転売されることで均衡価格に寄っていく作用があります。チケットの転売問題においては、需要があるから転売されるという事象よりも市場の設計が悪いと考えていて。

つまり、世の中には「良い転売」と「悪い転売」が存在していて、一番問題なのは「チケットを発行した興行主にお金が還元されないこと」なんです。その課題に対し、転売が発生したタイミングでしっかりと利益が還元される仕組みを作ることが必要です。

そこでチケミーでは、「〇〇円までは値段を上げても良い」という一定のルールを定めることによって転売を適切な形にデザインし、転売が発生する度に利益が循環する設計になっています。これが、先述したマーケットデザインの一種であり、チケットにNFT技術を活用することで実装が可能になった仕組みです。

さらに、リアルに縛られていた価値の部分を、チケットという形で電子化できることもNFTの画期的な点です。TicketMeで扱っているチケットの販売範囲はかなり広くて、フェスや演劇といったイベントのチケットはもちろん、リゾート施設やコワーキングスペースの会員権、不動産の居住権など、様々な権利をチケットとして扱っています。

──昨今騒がれているコンサートチケットや人気商品の高額転売問題も、NFTが浸透すれば解決していくのでしょうか?

赤塚 NFT技術の活用によって大部分は解決すると考えていますが、まだ解決すべき課題は残っているのが現状です。

不正転売を抑制したり、二次流通を制御する点においてブロックチェーンは非常に有用ですが、ブロックチェーンを利用するにあたっての問題点として「オラクル問題(※)」があります。

※「オラクル」とはスマートコントラクトに外部データを提供するサービスやシステムのことで、オンチェーンのデータと結びつくオフチェーンのデータをどう信頼すべきかという課題を指す。

このオラクル問題とは、オンチェーンのデータに現実のデータを紐付ける際、その情報の信頼性や正確性を誰がどう担保するのか、というものです。

例えば「商品Aをもらう権利」というNFTを購入した際に、実際に商品が届くまでには、出品者が商品をきちんと配送して、配送業者に届けてもらう必要があります。その際の出品者や配送業者が十分に信頼できる人なのかという、ブロックチェーンの外側にある情報をいかにブロックチェーン上で確認できるようにするか、というのがオラクル問題です。

その問題に対し、チケミーはプラットフォーム上に出品されている商品を審査することで、そのオラクルを担保する役割を担っていますが、今後はもっとスマートなやり方で実現できたらと思っています。

既存の社会インフラを活用し、事業者のNFT活用を促す

──直近では「NFTの社会実装」という視点から事業を捉える潮流が生まれている中で、NFT PocketはLINEでNFTを受け取れるなど、既存の社会インフラに馴染んだ設計だと感じています。

高木 ありがとうございます。おっしゃる通り、すでに多くの人が利用しているLINEを活用することで、ウォレットや暗号資産といった技術的な側面を全く意識せずにNFTを受け取れます。なので、「NFTを知らない層に向けてアプローチできる点」がNFT Pocketの強みだと思っています。

そのため、例えば大規模なイベントの開催時に、マーケティング施策の一環としてNFTを参加者に配布したいといったニーズも多いですね。

また、NFTを活用したプロジェクトのコミュニティ形成を目的に導入いただいているケースもあります。最近では、日本テレビ×プラチナムピクセルによるアイドルプロジェクト「NFT IDOL HOUSE」で導入いただき、アイドルのライブで現地限定SBTを配布する際にご利用いただきました。

▼「NFT IDOL HOUSE」の取材記事もぜひ一緒にご覧ください
Web3×推し活!NFT IDOL HOUSEが目指す、次世代のアイドルコミュニティ – SELECK(セレック)

また直近では、企業の公式LINEにNFT Pocketを組み込めるようにアップデートを行い、NFT保有者に向けてメッセージを送信したり、まだNFTを持っていないユーザーに対してNFTを訴求するコンテンツを送れるようになりました。

加えて、NFT Pocketとセットで使っていただけるWeb3顧客管理ツール「LOYLE(ロイル)」もリリースし、CRMツールとしての機能も拡大しています。引き続き、LINEとの連携を強化することで、ユーザーも恩恵を得やすく、かつ企業もLINEを起点とした顧客接点を構築できるようにサポートしていきたいですね。

──Web3発の企業に留まらず、一般企業の方々もNFTを活用しやすくなりそうです。

高木 2023年に入ってから、世の中的にもいわゆる「Web3ネイティブ層」だけに訴求するビジネスでは限界があるという空気感が生まれていて、どのようにしたらWeb3のパイを広げられるかという議論が交わされてきました。

こうした流れがあるにも関わらず、未だにNFTが積極的に使われない理由の多くは「使う際のハードルが高い」からなんですよね。今までの体験と同じ設計ができるのであれば、自ずとNFTを選ぶ人の割合も増えていくと思っていて。

そこが実現できていないのは、ツールとしての課題が残っているからなので、LINEを活用することでそのハードルを下げ、NFTを活用したいと思う事業者の方々のサポート役に徹しながら事業を成長させていきたいですね。

NFTを活用するメリットは、「共通規格」を生み出すこと

──お二人のお話を伺っていると、NFTの「社会実装」が進んでいきそうな予感がします。

赤塚 ただ正直なところTicketMeとしては、現段階ではNFTの社会実装についてそこまで意識していません。

前述したように、弊社は「あるべき場所にあるべき価値を届ける」ことや、「世の中の隠れた価値を見いだす」ことを目指したいという思いがあります。この思いを実現するためにどのようなプロダクトを作るべきかを考えたところ、たまたまNFTとの相性がすごく良かっただけなんですよね。

では、NFTを活用することのメリットは何かというと、NFTを活用したプロダクトを多くの人が使えば使うほど、「相互運用性(インターオペラビリティ)」が発揮されて様々なプロダクトが誕生し、自ずとNFTが共通規格として定められていくことです。この点が、NFTの社会実装においても重要な視点だと考えています。

この相互運用性の点を踏まえても、やはりNFTとチケットはとても相性が良いんです。というのも、複数のプレイガイドが存在する中で、「A社ではまだチケットが購入できるけど、B社では売り切れている」という現象がよく起きていると思います。

こうした状態は、プレイガイドの事業者間で共通のデータベースがないから起こってしまっているんです。そこでTicketMeでは、データを共同管理しやすいアーキテクチャをもつブロックチェーン技術を使うことで、既存のプレイガイドの下層に入り込み、在庫を共通化させる働きを担いたいと考えています。

他にも、Amazonや楽天といった複数のショッピングサイトで同時に出品できないとか、中間業者が多く存在することで手元に残る利益が少ないといった課題に関しても、NFTやブロックチェーンを活用して解決していく未来があるのではないかと思いますね。

──なるほど。ということは、既存のチケット販売プラットフォームは競合にならないということですね。

赤塚 そうですね。既存のプレイガイドの下層に入り込むことを目指している点では、プレイガイド事業者は競合ではないと言えます。

しかし、最近では「NFTのチケットだから購入したい」というニーズも増えていますし、オンライン上でコレクションできたり、自由に流通させることができるといったNFTならではの便利さを感じてもらうことで、プレイガイドとしても使われるようになれたら嬉しいです。

Web2のデータと組み合わせ、トークングラフをマーケティングに生かす

──NFTが共通規格として機能するようになると、「トークングラフ(ユーザーの保有するトークンから趣味嗜好を特定すること)」を活用したマーケティングも機能しそうです。

赤塚 実は今、TicketMeは「日本で最もトークングラフを保有しているサービス」と言っても過言ではないと思っています。

その理由として、累計で約200のイベントを実施してきた中で、誰がどのイベントに行ったのか、その人が他にどのようなチケットを購入しているのかといったデータを全部取得できているからです。ただし、これらのトークングラフをマーケティングには応用できていないのが現状です。

トークングラフマーケティングの一番の課題は「ユーザーにリーチする手段がない」という点ですが、NFT PocketではLINE上で直接メッセージを送れる点で、マーケティングに活用しやすいのが良いですよね。

高木 「ブロックチェーンのデータをマーケティングに活かす」という話は随所で聞かれますが、結局のところユーザーの年齢や性別、職業や居住地などWeb2のデータがマーケティングの軸になるので、いくらトークングラフがあったとしても、Web2のデータが潤沢にない状況ではマーケティングに活かせないんですよね。

そうした背景から、僕らはLINEをベースにユーザーの情報を取得しつつ、補足情報としてオンチェーンデータをマーケティングに活用できるような仕組みを提供しています。

また今後は、NFTのメタデータをマーケティングに利用できるようなユーザー情報に置き換えるべく、昨今話題となっている生成AIがその役割を担っていくと考えていますね。

SNSなど他ツールとの連携を強化し、マスアダプションを目指す

──NFTを活用した事業に関しては「流動性」もよくテーマに上がりますが、この点においてはどのようにお考えですか?

赤塚 TicketMeとしては、流動性が上がれば上がるほど最もチケットを欲している人のところに届くはずなので、NFTの流動性を上げることは重要な目標として掲げています。

そのためにも、ユーザーがSNS上でチケットに関してもっと発信できるような仕組みを作れたら良いなと思っていて。今後は流動性やサービスの認知度向上に寄与するSNS連携に注力していきたいと考えています。

高木 僕たちも、例えばカカオトークやWeChatなど、LINE以外のSNSとの連携を視野に入れていて、今後はグローバルへの展開も検討しているところです。

Web3への入り口は人によって違って良いはずなので、国ごとによく利用されているツールを入り口として連携し、国別に最適なUXを提供していくことが求められると思っています。

赤塚 やはり、社会実装の観点からしても、MetaMaskのようなノンカストディアルウォレットでシードフレーズや暗号資産を管理していくのは、マスアダプション(大衆受容)を考えると厳しいと思います。なので、NFT PocketのようにSNSを使ってログインする流れや、最近出てきているアカウントアブストラクション(AA)といった技術がこれから流行りそうな気がしていますね。

──最後に、お二人の今後のチャレンジについてお聞かせください。

高木 今後は、NFT Pocketと一緒に先述したWeb3顧客管理ツール「LOYLE」を運営し、NFTを顧客接点の新たな手段として、様々な企業のマーケティング活動をサポートしていければと思います。

また、NFTに限らず、ブロックチェーン技術の特徴であるコンポーザビリティの可能性をもっと追求していきたいですね。その提供スピードを上げていくためにも、生成AIのような人間の能力を拡張してくれるテクノロジーも活用し、どんどん新しい価値を生む起業家として活躍していきたいです。

赤塚 TicketMeのサービスは色々な領域で展開できる可能性があって、例えば人材のスキルシェアやカーボンクレジットなど、広げようと思えばいくらでもできると思っています。

しかし、あまり大風呂敷を広げすぎても中途半端に進んでしまうため、目下はイベント事業に注力し、ブロックチェーン技術を活用しながらあるべき場所に価値を還元するサービスを生み出すことで、TicketMeを成長させていけるよう尽力したいです。(了)

取材・ライター:古田島 大介
企画・編集:吉井 萌里(SELECK編集部)

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