• 楽天株式会社
  • 総務部 ファシリティマネジメント課 課長
  • 高橋 朋之

家とオフィスの中間!?楽天の新拠点クリムゾンハウスが提案する新しい働き方(前編)

〜楽天の新拠点「クリムゾンハウス」とは? シリコンバレーからヒントを得た、社員の「生活」をサポートするオフィスを徹底紹介!〜

IT化やグローバル化、女性の社会進出が進み、働き方が多様化する現代社会。その中で、企業が社員1人ひとりに最適な労働環境を提供することは可能なのだろうか。その際にひとつの鍵になるのは、働く場所である「オフィス」の環境だ。

2015年夏に、その拠点を品川から二子玉川に移した楽天株式会社。「楽天クリムゾンハウス」と呼ばれる新拠点は、カフェテリア、ライブラリ、ヘアサロン、託児所、フィットネスクラブといった様々なファシリティを備えた「家とオフィスの中間」のような存在になっている。

同社のファシリティマネジメント課で課長を務める高橋 朋之さんが、今回の移転で目指したのは社員の生産性を高めること。「もうオフィス環境も多様な働き方に対応しないといけない時代になっている」と語る高橋さんに、クリムゾンハウスのコンセプトや、従業員に提供したかった価値についてお伺いした。

▼楽天クリムゾンハウスのエントランス風景

※新拠点で実現した「1万人規模の情報共有」への取り組みについてお伺いした後編記事はこちらです。

社長室ナシ!楽天の新拠点「楽天クリムゾンハウス」で実現した、1万人規模の情報共有(後編)

楽天でオフィス環境に携わり、10年

大学の建築学科を卒業して、建築設備などを販売、施工する会社に2年半ほど勤めました。ただ、お客様が主に建設業者さんだったため、もっと建物を実際に使うユーザーに近いポジションで仕事がしたいな、と感じていました。

そのようなタイミングで、「ファシリティマネジメント」という、自社の従業員のためのオフィス環境に関わる職種があることを知りました。そしてファシリティマネジメントでの募集企業をいくつか見て、若いうちにスピード感のある業界でチャレンジをしたかったことから、楽天への入社を決めました。

2005年10月の入社からこれまで、ずっとファシリティマネジメントの仕事をしています。振り返ってみると、普通はなかなかできないような経験を若いうちからさせてもらったなぁ、と思います。今回の二子玉川への移転だけではなく、六本木から品川への本社移転も経験しましたし、今はアメリカでのオフィスプロジェクトにも携わっています。

楽天グループの新拠点を!足かけ2年のプロジェクトがスタート

以前の品川シーサイドのオフィスは、楽天タワーと楽天タワー2号館に分かれていました。従業員が増えてきていたので、途中で近くに新築されたビルを1棟追加で借りたんですね。

ただ、近いとはいえ、2棟に別れると移動も不便で、業務にも非効率な部分が生まれていました。また、買収等を通じたグループの拡大に伴い、子会社のオフィスもバラバラに点在する形になっていました。

そこで、楽天グループとしてひとつの拠点を構えるために、2013年に移転プロジェクトが始まりました。ファシリティとITのチームがコアとなって、人事や広報、代表の三木谷を含めた50名ほどのプロジェクトチームを発足し、約2年以上に渡って企画を進めてきました。

進め方は比較的フラットな形で、三木谷や担当役員の杉原とも一緒に議論をしながら最適なオフィスを模索しました。その結果、二子玉川の新しいビルに、2015年夏に拠点を移すことになりました。30階建てビルの2階から27階までが楽天のオフィスとなっており、現在では、楽天グループの社員約1万人、楽天グループの企業約30社が使用しています。

家とオフィスの「中間」という位置づけの「楽天クリムゾンハウス」

二子玉川の本社は、「楽天クリムゾンハウス」と呼んでいます。オフィスというよりは「サードプレイス」という位置づけに近いかもしれません。オフィスと家の中間のような存在をつくっていきたいという思いがあり、敢えてビルやタワーという言い方をせずに、「楽天クリムゾンハウス」と名付けました。

建築資材にも温かみのある木材を多く使っていて、できるだけ「オフィスっぽさ」が軽減されるようにしています。

▼来客用の会議室

オフィスと家の中間、というコンセプトの背景にあったのは、オフィスにいる時間と家にいる時間とを切り分けるのがだんだん難しい時代になってきていることです。

今はPCやスマホを使えばどこでも仕事ができる一方で、家庭の事情で早めに帰宅しなければならない社員や、時差のある海外拠点との会議を早朝や夜遅くに行う必要がある社員など、人それぞれ色々な状況があり、働き方もそれに合わせて多様化しています。

つまり、全ての従業員が同じ時間に出社して終業する、という時代ではなくなっているんですね。そのような多様な働き方をきちんとサポートしながら、従業員が1日24時間、週7日間の時間を有効に使えるようにしたいと考え、こちらのオフィスを作りました。

シリコンバレーの最先端の取り組みを、オフィスづくりに活かす

今回は最適なオフィス環境を実現するため、オフィスデザインだけでなく福利厚生についても考えました。その中で、参考にするためにシリコンバレーやサンフランシスコなどにある企業のオフィスを見学しました。

印象的だったのは、あちらの企業は従業員が一生懸命働けるように、会社が全力でサポートするという姿勢がとても強かったことです。

特に印象に残っている会社があります。その会社の従業員の多くは車通勤なのですが、通勤時に渋滞などでストレスを感じてほしくないという理由から、電気自動車に補助金を出したり、オフィスの駐車場に充電ポットを設置したりしています。

電気自動車に補助が出る理由は、アメリカには2人以上が乗っている車か電気自動車などのエコカーしか通れない高速道路のレーンがあるためです。車社会なので通勤の時間は渋滞するのですが、そのレーンはすいすい走れるんです。

また、自宅に帰った時にきれいな部屋で気持ちが安らげるように、自宅の掃除サービスを会社の補助で利用できるようにしているそうです。そのおかげで、仕事に打ち込んでいても家事を気にする必要がありません。家事をサポートしてくれるということで、家族持ちの社員は奥さんにも良い会社と思ってもらえるようになるそうです。こうして従業員とその家族のプライベートが充実するように工夫しているのです。

他にも、従業員がオフィスにいる時間内に彼らの車のタイヤやオイルを交換するなど、私生活の中で発生する雑務に当てる時間を減らす工夫をしていました。仕事に打ち込む時間以外は、従業員がプライベートを楽しめる時間になるようサポートしているんですね。新しいオフィス環境を作る上で、こういった考え方はとても参考になりました。

仕事に思い切り打ち込めるように、様々なファシリティを用意

そういった学びもあって、「楽天クリムゾンハウス」では個々の生産性を高めるために、色々なファシリティを用意しています。

カフェテリア(社員食堂)、クリーニング、ライブラリ、ヘアサロン、託児所、クリニック、フィットネスクラブ、マッサージルームなどなど…生活に必要な一通りの設備が館内に揃っています。また福利厚生の一環として、カフェテリアでは朝・昼・晩の3食無料で食事をとることができます。

▼楽天クリムゾンハウス内の託児所

▼楽天クリムゾンハウス内のフィットネスクラブ

社員の生活をサポートすることで、仕事にエネルギーを集中できる環境を作っています。プライベートで労力を割かなくてもいいように、会社ができる限りサポートをしています。休むときは家でしっかり休んでもらって、会社にくるときは万全の状態で思い切り仕事をしてもらえる状態を目指していますね。

全員にメリットがある「食事」は、最も重要な福利厚生サービス

ファシリティの中で、最も利用率が高いのはカフェテリアです。オフィスの中に2ヶ所設けているのですが、昼食ですと1日7,000食以上が食べられています。このビルで働く従業員数が約1万人で、その中には外出中や休暇中の人間もいますので、大半が社内で食事をとっている、という感じですね。

▼広々したカフェテリア

楽天では以前から、朝食、昼食を無料で提供していましたが、「楽天クリムゾンハウス」へ移転するタイミングで3食無料としました。これは福利厚生の中でも非常に重要な施策だと考えています。

いわゆる福利厚生とは、保養所やゴルフ会員権のようなものもあると思いますが、そういったものは特定の人が特定のタイミングで使うだけになりがちです。一方で食事は皆が毎日食べるものなので、全員にメリットがある取り組みになります。

▼カフェテリアで食事を楽しむ社員

また、無駄な時間を減らすこともできると思っています。昼食に外へ出ると、1時間位はかかりますよね。お店の前まで行ってしまうと、混んでいても結局待つことになりますし。そう考えると、社内でサッと食事を取れるカフェテリアはとても便利です。

特にマネジメント層の場合には、会議の合間に何とか時間を見つけてご飯に行こうとすることも多いので、30分ほどで食事ができるのはとてもありがたいですね。

そしてカフェテリアのおかげで、従業員同士のコミュニケーションも活性化されているので、会社目線で見てもメリットがあります。ランチの時間外でも自由に使えるように解放してあるので、打ち合わせコーナーとしても有効活用ができていますね。

従業員が出社するメリットを自然に感じるオフィスに

オフィス移転によって、従業員にはより良い労働環境が提供できるようになったと感じています。カフェテリアもそうですし、電動で上下昇降するデスクを全社で導入したので、各自が自分の好きな姿勢で働くことができるようになりました。

▼全社員が昇降デスクを使える

「家よりも会社で仕事をやったほうが生産的だよね」と自然に感じてもらえる状態が理想だと考えています。「家よりオフィスの方が仕事がしやすい」とか、「ビデオ会議に接続するよりも、直接行ってオフィスで話したほうがいい」といった感覚を持ってもらえるように、随時オフィス環境は改善を重ねています。

結果的に、社内アンケートではES(Employee Satisfaction:従業員満足度)の値が移転前と比べて改善されています。今後は、要望が多い託児所の拡張を行ったりしつつ、より魅力的な環境にしていきたいと思っています。(了)

;