- ライター
- SELECK編集長
- 山本 花香
社内外から「愛される」ノベルティ制作の秘訣とは? SmartHRのデザイナーに聞いてみた
〜イベントや展示会など、様々な場面で活用される「ノベルティ」。社内外から愛されるアイデアの生み出し方から、制作プロセス、予算の考え方までお伺いしました〜
本シリーズ「教えて!対談」は、SELECKの読者の方が、日頃の業務における課題や気になるテーマに関して、話を聞きたい相手に取材をするという企画です。
第4弾は、株式会社POLで広報を担当する服部 明日希(はっとり あすき)さんから、株式会社SmartHRでコミュニケーションデザインを担当する南 慶美(なむ きょんみ)さんに取材をしていただきました!
各種イベントや展示会向けのノベルティから、社内向けのグッズまで、反響の大きいノベルティを次々と生み出しているSmartHR社。
社内外から愛されるノベルティ制作の秘訣とは…? デザイナー、広報、マーケターの方々、必見です。
社内の課題をデザインで解決できた経験から、グッズ制作に注力
服部 本日はよろしくお願いします。私は、理系学生のダイレクトリクルーティングサービス「LabBase」を運営している株式会社POLで広報をしているのですが、先日、弊社の人事がSmartHRさんからノベルティをいただいて感動していたんですね。
弊社でも、よく「こういうノベルティを作りたい」といった声が上がるのですが、他社さんを真似たからといって、自分たちのノベルティとして成り立つかと言われると、ちょっと違うんだろうなと思っていて。
メンバーのやってみたいという気持ちには応えたいけれど、どう応えたらいいのかわからない。なので今日は、SmartHRさんにノベルティ制作の裏側を教えていただきたいなと思っています。
▼株式会社POL PR 服部 明日希さん
南 はい、よろしくお願いします。SmartHRのノベルティ制作を担当している南と申します。このたびは、弊社のノベルティに注目いただけて光栄です。
まず弊社の体制からお話しすると、部署や目的に依らず、何かしらのグッズを制作する際には、私に依頼がきます。
たとえば、人事から「採用イベントで渡せるノベルティを作りたい」という場合もありますし、マーケティンググループから「展示会用のノベルティを用意したい」といった依頼が来ることもあります。
また、ブランディングやマーケティング目的だけでなく、既存顧客に対するロイヤリティ向上や、従業員に対するエンゲージメント向上を目的に、ノベルティを制作する場合もありますね。
▼株式会社SmartHR コミュニケーションデザイングループ 南 慶美さん
服部 なるほど、南さんにすべての依頼が集約されているんですね…!
弊社でも専任のデザイナーがいると理想的だなと思う一方で、リソース的に難しいところがあって。SmartHRさんでは、どのタイミングから、ノベルティ制作に注力されてきたんですか?
南 弊社でも、今のように専任を置いて注力し始めたのは、2018年の秋頃からです。約2年前に私が入社した当時は、デザイナーは2人だけでした。
入社当初は、これまでのグラフィックデザイナーとしてのキャリアを生かして、社内のオフラインの制作物を担当していたんです。
その中で、社内会議などで理解度を示すことができる「完全理解の札」や、全社会議などでボールのように投げられるマイク「Catchbox」を作ったことがありました。
▼左:完全理解の札、右:Catchbox
この時に、デザインで社内の課題を解決できたり、社外にもSNSを通じて弊社のカルチャーが広まったりといった様々な効果を目の当たりにしたことで、ノベルティの活用にすごく可能性を感じて。
その後、組織的にも異なる強みを持つメンバーが増え、2018年10月にプロダクトデザイングループとコミュニケーションデザイングループ(※当時の名称はビズデザイングループ)に分かれたことがきっかけとなり、デザイナー1人ひとりが得意分野に注力できるようになりました。
Slackで「大喜利」?!SmartHR流・良いアイデアの生み出し方
服部 早速なのですが、実際、SmartHRさんにはどんなノベルティがあるのかなって、さっきからずっと気になっていまして…(笑)
▼SmartHRさんが、たくさんのノベルティを用意してくれていました。
服部 素敵なノベルティばかりなんですが、こうしたアイデアってどのように生み出しているんですか?
南 ケースバイケースですが、依頼者から解決したい課題や活用シーンを聞いて自分でアイデアを考える場合もありますし、Slack上で大喜利をしてみんなでアイデア出しする時もあります(笑)
服部 え、大喜利ですか…?
南 はい(笑)たとえば、この「SmartHR導入して欲しい!」ステッカーは、大喜利から生まれたものです。
▼「SmartHR導入して欲しい!」ステッカーと、続編「SmartHR導入してます!」ステッカー
この時は、マーケター向けのイベントで渡すステッカーを作りたいという声があって。そこで、社内のマーケメンバーを中心に大喜利した中から生まれたアイデアが、一時期インターネット上で話題になっていた「5000兆円欲しい」を元ネタにしたこのステッカーでした。
服部 マーケターに刺さるツボは、マーケターがよく知っている、みたいな。
南 まさにそうで、やはり私ひとりで考えるとアイデアのキャパシティが限られてしまうと思っていて。
誰に届けたいものかに応じて、大喜利だったり、社内にいる同職種のメンバーから意見やアイデアをもらうようにしています。ただ見た目がカッコイイものを作るだけではなく、+αの要素を盛り込むことを意識していますね。
たとえば最近作成したカジュアル面談用のカードは、採用担当者の課題感から生まれました。知人やイベントでお会いした人に渡せるリファラルカードのようなものを作りたいけれど、よくある面接予約よりもハードルを下げたものにしたいと。
そこで、ドリンクチケット付きのカジュアル面談用カードをデザインしました。
▼カジュアル面談用のカード
ドリンクの引き換え場所がオフィスになっているので、気軽に遊びに来てねというメッセージになりますし、「18時半以降はアルコール含めてフリードリンク」という弊社の福利厚生について話すきっかけ作りにもなっています。
服部 これは渡しやすそうで、いいですね!
南 実際、はじめはエンジニア向けに作ったのですが、他の部署からも「欲しい!」という声が多く上がって、今では色んな職種で展開しています。
他にも、昨年の夏にPARKという人事労務ミートアップイベントを開催した際、パネルディスカッションに登壇するメンバーのアイデアをもとに、意思表明できる「うちわ」を制作して参加者全員にお配りしました。
登壇者としては参加者の反応や意見を知りたい一方で、なかなか参加者としては手を挙げての意思表示や質問がしづらかったりするんですよね。そのハードルを下げるコミュニケーションツールとして作りました。
▼PARKで使用した意思表明できる「うちわ」
服部 デザインで課題解決をする思考を、みなさん持っていらっしゃるんですね。
南 でもたまに、かなり突発的といいますか、Slack上でメンバーの何気ない発言がきっかけとなってノベルティ制作につながることもあります。
たとえば「Superapply 電子申請(しなさい)」のステッカーは、Slackの個人チャンネルで盛り上がっていたやりとりを代表の宮田が見つけて、「これノベルティになりませんか?」と私に突然メンションを飛ばしてきたんです(笑)
もちろん、話に上がれば何でも作るという訳ではないのですが、面白いものが作れそうとイメージできたものや、社外へ出た時にインパクトがありそうなものは、すぐ形にしますね。
アイデアを寝かせているうちに、もし仮に他社さんに先を越されてしまったら悔しいじゃないですか(笑)なのでアイデアの鮮度が高いうちに、なるべく早くアウトプットすることを心がけています。
アイデアを形にする際に、気をつけるべきポイントとは…?
服部 たくさんのアイデアがある中で、その採用基準や、ノベルティを作る際に南さんが大切にされていることもお伺いしたいです。
南 ひとつは、「SmartHRらしさ」を感じられるアイデア・アイテムかどうかです。
言葉で定義するのは難しいのですが、たとえば色や素材ひとつ取っても、SmartHRのサービスイメージと相性が良いかを考えながら作っていますね。
もうひとつ、ノベルティを制作する際には「メンバーを巻き込んで一緒に作る」ということを心がけています。デザイナーだけですべてを完結しようとしない。
アイデアのブレストだけでなく、制作過程においても積極的にメンバーからのフィードバックをもらい、納得のいくものを作るようにしています。
たとえば、ローンチ2周年の記念品として制作して以来、ユーザーさんに毎年お渡ししている「人事労務カレンダー」の中身は、弊社の人事労務担当が監修しています。
▼SmartHR「人事労務カレンダー」
毎月の人事労務関連のイベントを記載したり、書き込み用の余白スペースをつくったりするなど、担当者目線での使いやすさにこだわりました。
また、給与日などに丸印をつけられるシールを付属しているのですが、シートから剥がしやすいかどうかのテストもメンバーに協力してもらって実施しました。
服部 すごい。ノベルティが手渡された後のユーザー体験まで考え尽くされてる…!
南 ただ話題になるだけじゃなくて、もらった人が実際に活用できるものを作るように意識していますね。これは社外向けのノベルティだけでなく、社内向けのグッズでも同じです。
たとえば、昨年のRubyKaigiで配布したPCスリーブケースを、社内向けにリデザインしたのですが、ただ同じものを増産するのではなく、徹底的に使いやすさにこだわりました。
▼社内向けにリデザインした「PCスリーブケース」
マジックテープとゴムバンドだとどちらが使いやすいか、ポケットはiPad ProとApple Pencilが入るサイズが良さそうか、名刺も入れられると便利そうかなど、社内メンバーからフィードバックしてもらいながら制作しましたね。
服部 素敵…!徹底的な相手目線と細部までのこだわりが、愛される理由なんだなと感じました。
費用より、デザインの力で「アイデアの可能性」を最大化することを重視
服部 様々なノベルティを拝見してきて、ぶっちゃけ結構お金もかかっているんじゃないかなと感じているのですが…予算や費用対効果ってどのように考えてらっしゃるんですか?
南 そうですね、まずコミュニケーションデザイングループでは予算を設けておらず、依頼部署の予算で制作しています。ただ、どうしても定量的な効果が測りづらいので、ノベルティに対しては厳密な予算設定はしていません。
また、突発的なノベルティを作るような時にも共通するのですが、費用を出来るだけ抑えることに時間を割くよりも、「アイデアの可能性をデザインの力で最大化したい」という考えがありますね。
服部 それに対する社内の理解があってすごいなと思うのですが、これはもう、御社のカルチャーなんでしょうか?
南 そうですね。代表の宮田をはじめ、デザインに理解のあるメンバーが多いと思います。また、予算重視で作られたものはチープになりがちなので、会社のイメージが低下しかねないと思っていて。
一番上位にある思想は、弊社のバリューのひとつでもある「人が欲しいと思うものをつくろう」なんです。
もちろん採算度外視で何でも作っていい訳ではないのですが、大枠の予算内で、アイデアの可能性を最大化するような選択をする。お金以上に、アイデアの付加価値をつけることを大切にしています。
また、何かを作りたいとなった時に、社内の意思決定が早いので、チャレンジしやすく自由度が高い環境だと思います。これは、デザイナーにとって良いアウトプットをすることに注力できるのでとてもありがたいですね。
服部 実際、良いものを作ることで採用やプロダクトのブランディングにも効果がありそうですよね。ただ、それを社内に示すのもまた難しいなと思っていて。なにか見ている指標などありますか?
南 服部さんのおっしゃる通り、定量面で効果を測るのは難しい部分があるので、Twitterや現場での反応など、定性面を見るようにしています。社内の反応も大切ですが、社外からの反響をきちんと得られたかどうかは意識していますね。
また、社外の方から「このノベルティどこで作ったんですか?」「誰が作っているんですか?」と聞かれることもあって。ノベルティをもらった人が満足するだけでなく、その先にいる人にも興味を持ってもらえたりすると、大切にしているバリューの「人が欲しいもの」を作れたのかなと感じます。
まずは「社内」に愛されることで、社外へと広がっていく
服部 その意味では、最近特に、SmartHRさんのノベルティがTwitterでシェアされているのを見かける気がします。
南 ありがとうございます。自らnoteで発信することもありますが、社内のメンバーが積極的にTwitterでシェアしてくれるので、それに助けられていますね。
今回の取材のきっかけになったPOLさんにお送りしたノベルティも、代表の宮田のツイートを見てくださったのが始まりだと思いますし。
服部 はい、まさにそうでした。でも、何も言わなくてもシェアが起きるのって「社内で愛されている証拠」ですよね。まずは社内で愛されることが、社外にも広がっていくポイントなのかなと感じました。
南 そう言っていただけると嬉しいです。振り返って考えてみると、やはりデザイナーに任せて作ってもらったというよりも、自分たちもアイデア出しやフィードバックをして「一緒に作った」という気持ちが多少なりあるのかなと。愛情や思い入れが個々人にあるから、シェアしたいと思うのかもしれないです。
服部 自分が関わっていると余計に「広めたい」と思いますもんね。次々に素敵なノベルティを生み出せるのもすごいし、あらゆる場面でデザインが活用されていること自体がすごいなと思います。弊社だと、ビジネスサイドの人は、課題解決にデザインを用いる発想を持ちづらい気がしていて。
南 たぶんその背景には、「最善のプランCを見つける」という弊社のバリューが社内に浸透しているからだと思います。A案でもB案でもなく、最善のC案としてデザインの力も検討する。
また人によっては「こんなことデザイナーにお願いしていいのかな」と遠慮してしまうこともあると思うので、Slackでこちらから要望を拾ったり、オフラインのコミュニケーションも大事にして、気軽に相談してもらえる存在になるように心がけていますね。
服部 過去の成功事例もあるから、安心して依頼できる面もありそうですね。それでは最後に、南さんが今までで一番思い入れのあるノベルティをお伺いできますか?
南 そうですね…やはりRubyKaigiから始まり、社員用にも制作したPCスリーブケースですかね。
RubyKaigiではこのノベルティをもらうためにお客様が殺到してしまって、初日の配布数を制限したくらい人気があって。それから「購入でもいいから欲しい!」という社内の声を受け、仕様をアップデートしたPCスリーブケースを制作しました。
これをきっかけに、他にもイベント用に制作したノベルティを「欲しい!」という声が増えたので、誰でも好きな数を自由に購入できるような社内販売のストアを、2019年7月に立ち上げたんですよね。
▼SmartHRの社内向けオンラインストア
今はまだスモールスタートで社内限定での販売なのですが、社外からも「欲しい」という声をいただいたりするので、将来的には社外販売もあるかもしれないです。
服部 とってもいいですね!私も欲しいです(笑)社内外に愛されるノベルティ制作の秘訣、すごく勉強になりました。色々とお伺いさせていただき、今日はありがとうございました!
編集後記
読者がもつ自らの課題や関心ごとを、話を聞きたい人に直接お伺いできたら現場のナレッジシェアがもっと進むのではないか…そんな考えから生まれた本企画。
第4弾は、SmartHR社の南さんに回答者となっていただき、読者であるPOLの服部さんから「ノベルティ制作の裏側」についてインタビューしていただきました。
自社のブランディングやプロモーションになるノベルティを作りたいけれど、いいアイデアが浮かばない、予算が採りづらい、効果をどう測ったらいいんだろう…といった悩みは、よくあるのではないでしょうか。
特に、社内外から愛されるノベルティの秘訣は、徹底的な相手目線と細部へのこだわり、そして社内を巻き込む制作プロセスにあるのだなと感じました。
実務者の目線から話を深掘っていただいたPOLの服部さん、自社の実例をふまえてノウハウを惜しみなくお話くださったSmartHRの南さん、本当にありがとうございました!(了)
同シリーズ「教えて!対談」の過去記事はこちら
第1弾「事業に資するPR戦略」Sansan小池さん × LAPRAS伊藤さん
第2弾「刈り取り型から脱却するマーケ戦略」DMM大対さん × バルクオム野口さん
第3弾「CX(候補者体験)の向上」グッドパッチ小山さん × アイスタイル小坂さん