【徹底解説】経営を推進する戦略人事「HRBP」とは? 最新の海外動向から国内事例まで

近年、国内外のHR領域で注目を高め、導入する企業が増えているHRビジネスパートナー(以下、HRBP)」

20年以上前に海外で誕生した概念でありながら、人的資源の活用という文脈において、今の時代も欠かすことのできないポジションになっています。

その必要性が高まっている一方で、HRBPとはどのような役割を担うのか、通常の「人事」とは何が違うのか、理解しづらい部分もあるのではないでしょうか。

実際、HRBP発祥の地アメリカでは、その役割が企業によって様々であることから、HRBPの役割を「Talent Value Leader(以下、TVL)」へと再定義する動きも見られています。

今回は、HRBPの基礎知識から最新の海外動向、そして国内企業の事例まで、ご紹介したいと思います。

<目次>

  • 【基礎知識】HRBPとは?
  • 【背景】なぜ今、HRBPが必要なのか?
  • 【最新の動向】HRBPから「Talent Value Leader」へ
  • 【国内事例①】GEヘルスケア・ジャパン社におけるHRBP
  • 【国内事例②】カゴメ社におけるHRBPと人事の役割
  • 【ITツール】HRBPが活用すべきマネジメントツール

【基礎知識】HRBPとは?

HRBPとは、一言でいうと「企業経営や事業に対して価値貢献する、HR領域のビジネスパートナー」を意味します。国内ではよく同義語として「戦略人事」という言葉が使われています。

この起源は、1997年に出版されたデイビッド・ウルリッチ氏の自著「Human Resource Champions」(邦訳『MBAの人材戦略』)において提唱された概念にあります。

ウルリッチ氏は、この本の中で、これからの人事部門が果たすべき役割として、以下の4つを定義しました。HRBPは、そのひとつにあたります。

1:HRBP(HR Business Partner)
→企業戦略・事業戦略に基づき、人事戦略を構築する、経営・事業のパートナー

2:管理エキスパート(Administration Expert)
→人事施策の管理、実行、運営などを行う

3:従業員チャンピオン(Employee Champion)
→メンタルのケア、キャリア開発など、従業員に対する支援を行う

4:チェンジエージェント(Change Agent)
→人事戦略を効果的に実行するために、必要な人材を育成し、組織の変革を促す

この提唱によって、採用・人員配置・労務などを中心とした従来の「組織や個人に焦点を当てた業務」だけでなく、「企業経営や事業に対して価値発揮するための業務」を積極的に行う「戦略人事」に転換していくべきだ、という考えが広まっていきました。

HRBPは、グローバル企業を中心に導入されていきましたが、その過程において、ウルリッチ氏とは異なる定義も出てきました。

現在では、人的資源の観点から事業部門のトップを支えるHRBPと、周辺機能を担う3つの役割に分化しているケースが、一般的になってきています。

1:HRBP(HR Business Partner)
→企業戦略・事業戦略に基づき、人事戦略を構築する、経営・事業のパートナー

2:OD & TD(Organization Development & Talent Development)
→経営理念の浸透や組織風土づくり、幹部人材の育成を行う

3:CoE(Center of Excellence)
→採用、評価・報酬制度など、特化領域をもったコンサルティング機能

4:OPs(Operations)
→運用などの実務に加え、アウトソース化やシェアードサービス化も担う

【背景】なぜ今、HRBPが必要なのか?

HRBPという概念はグローバル企業ではいち早く広まった一方で、日系企業への導入は、数年前まであまり進んできませんでした。

その一因として、日系企業はコングロマリット型が多く、ビジネス環境が事業間で大きく異なることから、HRBPを設置した際の「業務の複雑性」がハードルとしてあったと考えられています。

しかし、ここ数年では、カゴメ社のような大手企業からDeNA社のようなメガベンチャーまで、様々な国内企業でHRBPの導入が進んでいます。

この背景としては、VUCAワールド(※)と呼ばれるように、時代の変化が加速して複雑性が高まっていることから、以前にも増して「人的資源の活用」が重視されるようになったことが考えられます。

※Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとり、不安定で不確実、複雑な時代を表現する言葉

雇用の流動性が高まる現代において、優秀な人材を獲得し、惹きつけ続けることは、企業の成長にとって不可欠です。

また、従業員のロイヤリティと生産性との相関が明らかになってきたことなども要素として挙げられます。

こうした背景から、経営や事業価値に直結する、戦略人事の重要性がますます高まっているのです。

【最新の動向】HRBPから「Talent Value Leader」へ

HRBPを先進的に取り入れてきた海外企業では、近年、新たな課題に直面しています。その課題は、大きく2つに分類されます。

ひとつは、HRBPが本来の「戦略人事」に集中できず、人事施策の運用やマネジメントの相談役など、その業務範囲が多岐にわたってしまうケースが多いことです。

人事組織のあり方や、経営側の意識が変化しないままにHRBPという概念をインストールしてしまうと、本来果たすべき役割を全うできないという事態が起きてしまいます。

ふたつめは、HRBPを担える人材が、市場に極めて少ないことです。その役割の特性上、HR領域の知見はもちろんのこと、経営状態の把握からデータ分析まで、あらゆる領域における高度な知識を求められることになります。

そうした状況に対して、海外では、HRBPの役割を再定義するような動きが生まれています。そのひとつが「Talent Value Leader(以下、TVL)」です。

TVLとは、組織のパフォーマンスを最大化することを目的とした、人事配置や育成などのタレントマネジメントから、採用や解雇といった人的リソースの管理までを担う役割になります。

つまり、人事施策の運用に関する業務などを切り離し、事業部門におけるタレントバリューの最大化にその役割を限定しています。

TVLを担う人は、人材の「量」や「質」、「事業KPI」などを軸に現状を分析し、課題の特定や解決の提言をするため、従来の全社最適を軸にしたコーポレート部門としての人事とは一線を画しています。

このように、海外では役割の変化がみられるHRBPですが、国内企業ではどのような役割を担っているのでしょうか? ここからは、SELECKで取材した国内事例をもとに、各企業でのHRBPの在り方や実際の取り組みについて、見ていきたいと思います。

【国内事例①】GEヘルスケア・ジャパン社におけるHRBP

2016年よりHRBPモデルを導入した、GEヘルスケア・ジャパン株式会社では、その役割を次のように定義しています。


HRBPの役割は、大きく分けて3つあります。まずは、経営課題や事業戦略を理解した上で、それを解決するための組織戦略を立てることです。(中略)

そして設計をすると、組織的に変革を促していかなければいけないことが出てきます。その変革を促して旗振りをしていく、いわゆるチェンジ・エージェントであることが、ふたつめの役割です。

そして最後が、社員の声を経営に届けることです。常に「社員がチャンピオン」であるべきなので、経営と社員との間の橋渡しをしっかりしていくことが、非常に重要になります。

参考記事:「HRBP」って何する人? 経営と人事、そして社員をつなぎ、変革を導くその役割とは

HRBPの源流である、ウルリッチ氏の概念を元に役割を定義していることが伺えます。

また同社では、HRBPの存在が「個」のひとりであるリーダーを支え、結果的に組織のエンゲージメントを高めることにもつながっていると言います。

(事業部長にとって)最初から弱みが見せられて、「自分のこの決断は正しいのか」といった課題をパートナーとして相談できる人がいると全然違います。

それが、HRBPを置くことの一番の醍醐味ですし、GEヘルスケア・ジャパンがHRBPモデルを採用してから起こった変化だと思っています。

HRBPを新設したことで、組織にポジティブな変化が起きているようです。

【国内事例②】カゴメ社におけるHRBPと人事の役割

HRBPを導入している企業は、外資系だけではありません。2017年よりHRBPを導入したカゴメ株式会社では、GEヘルスケア・ジャパン株式会社とはやや異なる形で、HRBPの役割を定義しています。

HRBPの役割としては、基本的に現場に行って、面談などを通じて1人ひとりのキャリアに向き合う。本人にキャリアの希望を聞いたり、介護やお子さんの病気といった個人の事情まで含めてしっかり話します。

こうした立場なので、現場の人が「この人だったら信用できる」と思えるような、現場の経験者に入ってもらっています。例えば営業担当のHRBPは、支店長の経験者が務めています。

参考記事:人事こそ、イノベーティブであれ。HRBPや副業制度も導入した、カゴメの組織づくりとは

ウルリッチ氏の定義のうち、従業員チャンピオンに近い役割を担っているようです。

その一方で、人事の役割については次のように語っています。

人事の重要なミッションのひとつに、自律的にキャリアを考えるカルチャーを醸成することがあると思います。制度や仕組みを作ることが、人事の目的ではないんですね。

では制度や仕組みを何のために作るのか、極端に言うと、従業員にハッピーに働いてもらうためです。そのためには何をしたらいいのかは、やはり現場に行かないとわかりません

人事のミッションを明確にした上で、HRBPの概念に囚われずに、役割を分担している様子が見受けられます。

SELECKでは、今後もHRBPの事例を取材していきますので、最新の情報をアップデートしていければと思います。

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