- コラボレーター
- SELECK
ブロックチェーンにおける「プロトコル」とは? 概要から具体例まで徹底解説
近年、目覚ましい成長を遂げている技術の1つに、ブロックチェーンがあります。
ブロックチェーンは、データのやり取りに伴う人的な負担やリスクを軽減する画期的なデータベースシステムとして注目され、金融から物流、ヘルスケア、エンターテインメントまで、多岐にわたる分野で革命的な変化をもたらしています。
そして、このブロックチェーン技術の核心を担う存在が「プロトコル(Protocol)」です。IT業界では広く知られている言葉ですが、ブロックチェーンの文脈においては、その役割や重要性がさらに際立ち、ブロックチェーンを語る上ではプロトコルに関する深い理解が必要不可欠です。
そこで今回は、「プロトコル」の概念からブロックチェーンとの関連性、具体例までをお伝えいたします。ぜひ最後までご覧ください。
<目次>
- そもそも、「プロトコル」とは?
- ブロックチェーン技術における「プロトコル」とは?
- プロトコルにこそ価値がある?「Fat Protocol理論」について
- プロトコルを選定する際に考慮すべき5つのポイント
- 【事例5選】ブロックチェーンのプロトコルをご紹介
そもそも、「プロトコル」とは?
「プロトコル(Protocol)」は、英語の直訳は「約束事」ですが、IT業界では「コンピュータネットワークの通信の際に取り決められている共通ルール」のことを指します。
プロトコルの例としては「IP」「HTTP」「SMTP」などが挙げられますが、それぞれの「P」は「Protocol」の頭文字を示しており、インターネットを利用されている方であればよく見かけるワードかと思います。
これらは普段、私たちがインターネットを利用する際にはあまり意識されないものですが、Webページの閲覧やメール・ファイルの送受信といった操作の背景には全てプロトコルが作動しています。例えば、WebページのURLに記載されている「www(World Wide Web)」も、全世界の人々が同じルールで通信できるように設計されたプロトコルの一つです。
このプロトコルが重要である理由は、異なるハードウェアやソフトウェア、さらにはOSやCPUなど様々な仕様をもつデバイス同士が、同じネットワーク上で効率的に通信できる環境を構築している点にあります。反対に言えば、プロトコルがなければ、異なるデバイス間での通信は不可能であり、データの送受信を行うことはできません。
総じて、プロトコルは「インターネットの基盤」とも称される仕組みで、プロトコルが存在するおかげで私たちは安全で効率的なやりとりが可能となっており、この仕組みが現代の情報社会を大きく支えていると言っても過言ではないでしょう。
ブロックチェーン技術における「プロトコル」とは?
プロトコルは、昨今注目されているブロックチェーン技術を構成する重要な要素でもあります。
ブロックチェーンにおいても同様に、プロトコルはネットワーク上での通信やデータ管理などの基本的なルールや手順を指すものです。例えば、トランザクションの検証方法、ブロックの生成や連結の方法、コンセンサスアルゴリズムといった基本的な仕組みが含まれ、ブロックチェーンのデータ構造を形作っています。
これらは、ネットワーク上の参加者が一貫した方法でデータを共有し、その整合性とセキュリティを維持することを目的としており、ブロックチェーン技術の基本的な仕組みを支えるフレームワークとなるものです。
ビットコインを例にすると、ブロックチェーンはすべての取引を追跡する台帳の役割を果たし、これらの取引の検証はネットワークの計算能力を利用して行われます。その際に、「マイナー」と呼ばれる参加者への報酬としてビットコインを受け取る仕組みが存在しており、これらの動作やルール全体が「ビットコインプロトコル」として定義されているような形です。
総じて、ブロックチェーン技術の利点である透明性や公平性などは、このプロトコルが確立されているからこそ実現されているものだと言えます。
▼ブロックチェーンについて詳しくは、こちらの記事もご覧ください
【保存版】ブロックチェーンとは? その仕組みや実用化事例まで、超わかりやすく徹底解説! – SELECK(セレック)
この、プロトコルと混同されやすい概念が「スマートコントラクト」です。
先ほどもお伝えしましたが、まずプロトコルとは「ブロックチェーン全体の運用ルールやメカニズムを示す基盤となるフレームワーク」のことです。これはネットワーク上での通信やデータ管理の基本的なルールを規定し、ネットワークの参加者が一貫した方法でデータ共有を可能にする役割があります。
対して、スマートコントラクトとは、あらかじめ定義された条件に基づき、契約や取引を自動的に実行する仕組みのことです。
つまり、プロトコルは「ブロックチェーンの基本の運用ルールとメカニズム」のことで、スマートコントラクトは「特定の契約や取引を自動化する仕組み」を指し、スマートコントラクトはプロトコルの一要素であるという関係性です。
▼スマートコントラクトについて詳しくは、こちらの記事もご参考ください
【事例13選】契約を自動化する「スマートコントラクト」とは?作成可能なツールもご紹介 – SELECK(セレック)
そして、昨今、NFTの台頭とともに広く知れ渡ったブロックチェーンネットワーク「イーサリアム(ETH)」のプロトコルは、このスマートコントラクトが軸になっています。イーサリアムが2022年9月におこなった大型アップデート「The Merge」では、採用しているコンセンサスアルゴリズムが移行され、イーサリアムのシステム全体に影響を与えたことで大きな注目を集めました。
補足として、イーサリアムがコンセンサスアルゴリズムをPoWからPoSへと移行した背景には、電力消費量の増加があります。ケンブリッジ大学の調査によると、The Merge後のイーサリアムは、その前と比べて99.9%も消費エネルギーを抑えられるようになったとされ、詳しくは後述しますが、プロトコルの選定においては「エコフレンドリーであるかどうか」といった点も重視されつつあるといえるでしょう。
プロトコルにこそ価値がある?「Fat Protocol理論」について
近年、ブロックチェーン技術の台頭により、インターネットの構造や価値基準が変化つつあります。この変化の中心にある考え方の一つが、「Fat Protocol理論」です。
この理論は、Web3.0時代においてプロトコルの価値が増大することを示す理論のことで、クリプトファンドのJoel Monegro氏によって提唱されました。
Web2.0では、大手企業がユーザーのデータを独自に収集・管理し、それらを元にサービスやアプリケーションを展開して価値を創出してきました。その結果、アプリケーションのバックボーンに存在するプロトコルが目立つことはほとんど無く、Web2.0の富の源泉はユーザーの情報だったといえます。
しかし、Web3.0やブロックチェーン技術の登場に伴い、その構造が変わりつつあります。
Web3.0では、ユーザーのデータがブロックチェーン上に保存され、誰もがアクセス可能な形で共有されます。そのため、特定の企業がデータを囲い込むことが困難となり、競争力を維持するためには新たな戦略が必要とされています。
そこで重要なのが「Fat Protocol理論」の考え方です。この理論は、トークンの発行を通じた経済価値の創出までの役割をプロトコルが担うようになることで、アプリケーションではなくプロトコルが大きな富を生み出すとする主張です。
※出典:Fat Protocols – Joel Monegro
この理論に基づくと、アプリケーションが利用されるたびに下層にあるプロトコルがその価値を吸収・蓄積していくため、プロトコルの拡大にいかに貢献し、データを活用できるかが重要となります。
また、データが共有されていることで個々のアプリケーション間での連携が容易になるため、新規参入者を増やすためにも、プロトコルのスケーラビリティ(拡張性)といった観点が重視されるようになります。
最後に、トークンとプロトコルの関係性についても触れておきます。トークンは特定のプロトコル上で機能し、そのネットワークのエコシステム内で様々な目的のために使用されるもので、「ERC-20」や「ERC-721」などはイーサリアムプロトコル上で機能するトークンの一種です。
ブロックチェーンのプロトコルはネットワークの健全性と成長を支えるためのインセンティブが設計されており、これらのインセンティブを具体化する手段としてトークンが機能しています。そして、ユーザーの活動によりトークンの価値が上昇すると、将来性を見越してプロトコルへの投資も増加するといったように、両者が互いに影響し合う形で価値創出のサイクルが生み出されています。
プロトコルを選定する際に考慮すべき5つのポイント
次に、企業がビジネスにおいてブロックチェーンプロトコルの導入を検討する際に、考慮すべき5つのポイントについてお伝えいたします。
1)セキュリティ
最も重視したいポイントはセキュリティ面です。ブロックチェーン自体はセキュアな技術として知られていますが、やはりデータの安全性を保てるかどうかは重要なポイントです。例えば、スマートコントラクトは誰でも作れるという性質があるがゆえに、欠陥がある場合もあります。
よって、高度なセキュリティシステムを擁するプロトコルを採用することが望ましいですが、判断が難しい場合は専門家の意見を取り入れながら選別することをおすすめします。
2)スケーラビリティ
スケーラビリティとは「通信負荷への対応力」のことを指し、プロトコルにおいては「拡張性」という意味合いでよく使われます。新機能を追加して利便性を高めたり、セキュリティを強化したりできるかといった、システムとしての柔軟性の部分です。
ブロックチェーンのプロトコルに関しては、一度に大量のトランザクションを処理するのが難しいという課題があります。よって、トランザクションの頻度や量を考慮して、適切なプロトコルやビジネスモデルを検討する必要があります。
3)相互運用性
現在、存在しているブロックチェーンプロトコルは多種多様なため、異なるプロトコル間でのデータの移動や共有が難しい場合があります。よって、将来的な連携や拡張性を視野に入れながら、必要があれば相互運用性の高いプロトコルを選択すると良いでしょう。
4)コンプライアンス
未だ具体的な活用が普及しておらず、法整備が追いついていないブロックチェーン領域は、国や地域によって異なる規制を持ちます。よって、企業は現地の規制や法律に準拠しながら、将来的な法的改正にも対応可能な体制を整えておくことが必要です。
5)エコフレンドリー
気候変動などの環境問題が浮き彫りとなっている現代において、「エコフレンドリー」な取り組みは必要不可欠です。ブロックチェーンも例外ではなく、例えば「NEAR Protocol」は、安全で高速、かつ高い相互運用性を保ちながら環境に配慮したブロックチェーンとして注目を集めています。
また、先ほどお伝えしたコンセンサスアルゴリズム「PoS」のように、消費電力量を抑えられる画期的なシステムも登場しています。環境に配慮したプロトコル選択は、企業の社会的責任を果たす一助となるでしょう。
【事例5選】ブロックチェーンのプロトコルをご紹介
最後に、代表的なブロックチェーンプロトコルの具体例をご紹介します。以下に挙げる5つのプロトコルは、いずれも世界中で使用されている有名なものばかりです。ぜひ、選定時の参考にしてみてくださいね。
1)Hyperledger(ハイパーレジャー)
Hyperledgerは、The Linux Foundationが提供するオープンソースのブロックチェーンプラットフォームです。世界中のエンジニアがコミュニティに参加し、ブロックチェーンを活用した様々なプロジェクトを推進しています。
具体的には、初期に登場した分散型台帳プラットフォーム「Fabric」や、日本発のフレームワーク「Iroha」といった多くのプロジェクトが展開されており、現在もブロックチェーンの可能性を広げようと、多数の企業や団体が開発に携わっています。
2)Enterprise Ethereum Alliance(エンタープライズ・イーサリアム・アライアンス)
近年はパブリックチェーン上で多くのアプリケーションが開発されていますが、プライバシーやスケーラビリティの問題により、B2B領域での直接的な活用が難しいのが現状です。
そうした中で開発されたEnterprise Ethereum Allianceは、イーサリアムを土台としてエンタープライズ向けにカスタマイズされたブロックチェーンで、企業のニーズや用途に合わせて多様な機能を備えているため、ビジネスシーンにおける幅広い応用が利く点が特徴です。
セキュリティや相互運用性の観点においては、イーサリアムよりもすぐれた価値創出が可能とされています。そのため、Enterprise Ethereumがイーサリアムの開発を促進する相乗効果を期待する声もあります。
3)Polkadot(ポルカドット)
Polkadotは、イーサリアム共同創設者のGavin Wood氏によって開発されているPoS系ブロックチェーンです。異なる種類のブロックチェーンの相互運用を可能にするプロトコルで、ブロックチェーンの「インターネット」としての役割を果たし、多様なブロックチェーンが一つのエコシステム内で機能することを目指しています。
そのため、ブリッジの機能を備えており、例えばビットコインとイーサリアムのような異なる暗号通貨間でもシームレスな連携が可能です。加えて、Substrateと呼ばれるフレームワークを使用しており、開発者は独自のブロックチェーンを作成してPolkadotのネットワークに簡単に接続できるのが大きな特徴です。
4)Solana(ソラナ)
Solanaは、DAppsの展開と高速な取引処理が可能なブロックチェーンプラットフォームです。コンセンサスアルゴリズムとしてPoSを採用しており、スムーズかつ低コストで運用できるのが特徴です。
イーサリアムとの相互運用性を持ち、多種多様なトークンのやりとりが可能であるため、日本国内での取引所の対応は限られていますが、世界的には多くの注目を集めています。
また、Solanaは「Proof of History (PoH)」と呼ばれる独自のタイムスタンプシステムを採用しています。このシステムにより、ブロックの生成やトランザクションの順序を迅速に検証できるため、高いスケーラビリティを実現しており、今後のさらなる成長が期待されています。
5)Cardano
Cardanoは、イーサリアムの共同設立者であるCharles Hoskinson氏によって設立されたIOHKによって開発されているブロックチェーンプラットフォームで、「次世代のブロックチェーン」として知られています。研究駆動型のアプローチを特徴とし、多くの研究論文をもとに科学的な検証とピアレビューを経て取り組まれているプロジェクトです。
特徴としては、PoSのコンセンサスアルゴリズム「Ouroboros」を採用し、スケーラビリティの向上を目指しています。加えて、サイドチェーンやクロスチェーンプロトコルを用いて、他のブロックチェーンとの相互運用性を強化するための技術的研究が実施されています。
さいごに
以上、ブロックチェーンにおける「プロトコル」について概要や選定ポイント、具体例までお伝えしてきましたがいかがでしたでしょうか。
未だブロックチェーンは黎明期とされているため、これから様々なビジネスシーンにおける活用例が生まれてくる段階かと思います。ぜひ、自社のビジネスモデルや事業に合わせて導入や活用を検討してみてくださいね。