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トップ主導の採用を「スクラム」に移行。BASEが採用活動を現場にシフトした理由

〜組織フェーズに合わせて、採用手法を見直す。スクラム採用の実践者が語る、移行プロセスにおけるハードル解除法と、成果の出やすい企業の特徴とは〜

近年の採用市場の変化を受けて、現場の社員主導で行う「スクラム採用」への注目が高まっているが、その実践にハードルを感じている企業は多いのではないだろうか。

Eコマースプラットフォーム「BASE」などを運営するBASE株式会社でも、従来の役員が主導する採用手法に限界を感じ、2019年4月からエンジニアを中心に「スクラム採用」へと方針を転換。

現場への採用業務の移譲にあたっては、スクラム採用の「必要性」の理解を最優先として、ハードルをひとつずつ取り除きながら、段階的に進めていったという。

また、プロダクト部門では採用に関わる全員の認識をすり合わせるため、「内定判定会議」を導入。候補者に対する評価を共有し合うだけでなく、短期的・中長期的に期待する役割などの言語化も行うことで、採用のミスマッチを減らしているそうだ。

一方、同社で採用マネージャーを務める米田 愛さんは「スクラム採用は、必ずしもすべての企業で効果があるとは限らない」と話す。

今回は米田さんに、スクラム採用の移行プロセスにおけるハードル解除の方法や、効果が出やすい企業の特徴について、詳しくお伺いした。

組織の変化に合った採用手法を取れず、採用計画の目標が未達に…

私は新卒で入社した会社で、EC系システムの法人営業を担当した後、2018年4月にBASEに入社しました。現在は、採用を担うオーガニゼーショングロースチーム(以下、採用チーム)で、マネージャーを務めています。

BASE株式会社とグループ会社のBASE BANK株式会社、PAY株式会社があり、合計132名(※)が在籍しています。(※2019年9月時点)

弊社の事業戦略として、プロダクトの作り手に先行投資をすることで強みを伸ばしていきたいと考え、以前からエンジニアやデザイナーの採用に注力してきました。

ですが、組織が大きくなるにつれて、採用の成果が出づらくなってきて…。2018年は、採用計画に対して未達で終わってしまったんです。そこで2019年はじめから、活動全体の改善のために昨年の振り返りを行い、まずはその要因を特定することにしました。

結果、一番大きかったのは、採用活動のほぼ全てを各部門のトップである取締役と、事業部の経験のない採用チームだけで進める形に限界が来ていたことでした。

まだ会社の人数が少なかった頃は、取締役が現場の状況を把握することができたので、ミスマッチも少なくスピーディーな採用ができていたんですね。

それがエンジニアが30人に近くなったあたりから、チームの階層が増えてマネジメントが現場に移り、取締役が直接現場を見る機会が少なくなってきて。さらに、役割や専門領域ごとでチームを編成していたので、採用チームと取締役だけですべてを把握することが難しくなっていました。

加えて、採用方針の変更があったことも要因でした。

2017年はほとんどの方がエージェント経由での入社だったのですが、コスト面も鑑みて、2018年はエージェント比率を下げて、ダイレクトリクルーティングに注力する方針になりました。

しかし、採用チームがスカウトを打ってカジュアル面談にお越しいただいても、選考に進んでいただいた段階で現場のマネージャーからNGが出るようなケースもあり、徐々に現場が求めている人物像とのズレが生じていたんです

こうした状況から、より現場主体で進めていく方がミスマッチが減るし、アトラクトもできそうだなと考えていた頃、ちょうどHERPの庄田さんが「スクラム採用」について書いた記事を見ました。

まさに私たちがやるべき採用はこれだと思い、2019年の4月に「BASEの採用活動のテーマを『スクラム採用』にします」と宣言して(笑)。現場主導の採用活動にシフトしていきました。

スクラム採用は、いきなり始めない。最優先は「必要性」の理解

「スクラム採用」と言っても、もともと採用活動に関わっていなかった人もいるので、いきなり現場のマネージャーに任せることはしませんでした。

具体的には、最初にスクラム採用の目的を伝えた上で、その必要性を「実務」を通じて理解してもらうことを最優先にしました。

たとえばスカウトの送付であれば、採用チームがスカウトを送ってカジュアル面談をする方針から、少しずつ現場に移譲していきました。

具体的には、まずはスカウトを採用チームが行って、カジュアル面談を現場のメンバーに行ってもらう。次に、徐々にスカウトの送付作業からマネージャーに実施してもらう、といった形ですね。

マネージャーに任せて実際に手を動かしてもらうことで、「自分たちで進めたほうがダイレクトにマッチする候補者に会えるな」といった形で、スクラムの必要性を感じてもらえました。

また、実務を移譲する際には、相手に合わせてハードルをひとつずつ取り除くことが大切です。

全く採用に関わったことのないマネージャーには、まず見極めの面接から出てもらって、次にアトラクトの面談を担ってもらう、といった進め方にしました。

また、カジュアル面談やオファー面談の経験がないマネージャーに対しては、その目的や気をつけてほしいポイント、採用市場の動向など、基本的なレクチャーを行いました。その上で、まずは採用チームや役員の面談に同席してもらうことから始めて、面談のイメージをつけてもらいました。

他にも、スカウトがうまく書けないという人がいれば、自分に届いたスカウトを読み込んでもらったり、書いたものを人事で添削したりして、徐々に慣れるような工夫をしていましたね。

こうして実務に慣れてきた段階で、求人票や採用計画の策定といった、より抽象度の高い業務も移譲していきました。

現在、BASEではクオーターごとに求人票と採用計画を見直しているのですが、これを策定するには、事業やプロダクトの戦略に基づいて、それを達成するための理想のチーム体制や適切なメンバーのアサインについて考える必要があります。

今、人が足りているかではなく、どんな人を採用して、1年後、3年後にどのような役割を担ってもらうかまでを考えてもらうことで、以前よりも未来に向けたチームづくりができるようになりました。

「内定判定会議」で、マネージャーの目線をすり合わせる

また、スクラム採用を始めたのと同時期に、新たに導入したのが「内定判定会議」です。

これは、選考に関わった全員が、候補者に対する各自の評価や懸念点などを共有し、内定を出すかどうかのすり合わせを目的としています。

この場で、人物要件とのズレがないかを確認したり、複数の候補者がいる場合には、どちらの候補者のほうがマッチ度が高いか、もしくは採用人数を増やすかを検討します。すると、マネージャー間の目線がすり合うようになりました。

さらに、受け入れ体制の確認や、候補者に対する短期的・中長期的な役割を言語化することで、オファー面談もしっかり行えますし、入社後のフォローもしやすくなりましたね。

また、内定を承諾いただいた際には、必ず採用を主導したチームのマネージャーから関係者に報告してもらうようにしています。人事ではなく「現場の」成果が、きちんと伝わるように意識していますね。

スクラム採用をする上では、人事はあくまでプロジェクトマネージャーです。関係者と密にコミュニケーションを取り、現場主導で採用が回るようになるまでサポートをすることが役割になります。

採用広報などにも取り組んだことやリファラルを促進したこともあり、採用決定人数は前年より43%増えて、計画人数を達成しました。計画を達成するだけでなく、選考人数に対しての入社決定率、つまり採用効率は21%向上しました。今では、採用に関わるSlackチャンネルもかなりアクティブになり、メンバーの意識が変わってきたように感じています。

スクラム採用は手段のひとつ。組織の状況に合わせた手法を選択すべき

一方で、スクラム採用はすべての企業に効果があるものではない、とも思っていて。

弊社の場合、中長期的に活躍していただける人物を採用するために、スキルやカルチャーフィットだけでなく、本人のやりたいことやキャリアパスがチームないし社内で用意できるか、ということも大切にしていて。なので、チームや組織とのフィットをしっかり確かめることのできるスクラム採用という手法が合っていたと思います。

また、各チームのマネージャー同士で話し合うことで事業に対する認識が深まったり、受け入れ側の心構えが変わってきたりして、広い意味でより良いチームづくりができてきました。

ですが、役員主導だった当時の採用にも、面談のアトラクト力が強く、スピーディーな採用がしやすかった、というメリットはあったんですね。それをスクラムに移行していく過程では、経験の浅いメンバーが面談に出ることで、一時的にアトラクト力が落ちることはあったかもしれません。

スクラム採用は、その思想や体制が現場に根付くまでに時間がかかるので、すぐに人を採用したい企業にとっては効果を感じづらいかもしれません。BASEでも、取り組み開始から半年くらい経って、ようやく「できてきたな」という実感が得られてきました。

つまり、スクラム採用はいくつかある手段のひとつでしかなくて、メリットデメリットが存在します。採用のスピードや人数などは、組織のフェーズによっても変わってくるので、自社の状況に合わせた手法を選択することが重要だと思います。

今後は、スクラム採用を定着させつつ、チームのミッションをさらに広げて行きたいですね。「オーガニゼーショングロース」という名のチームとして、今のメンバーがより活躍できるように組織開発もミッションとして担うことで、組織をさらに成長させていきたいと思います。(了)

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