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コミュニティには「再現性」がある。50以上の事例を科学した、新世界DAOが語る運営法

昨今注目を集める「DAO(分散型自律組織)」は、私たちの働き方に大きな変革をもたらす可能性を秘めている。個々人が自律的に、かつ主体性を持ちながらプロジェクトに関わり、意思決定していく在り方は、新しいコミュニティの形とも言える。

また、既存のビジネスにおいても、企業がコミュニティの構築やファンづくりに取り組む中で、DAOの仕組みを活用し、新たな価値経済圏を生み出そうとする事例が増えている。

しかし、コミュニティの運営は定性的な面から語られることが多く、適切な定量指標や、運営方法の最適解を見出しづらいのが現状だ。

そうした中、心理学や行動経済学などの様々な組織論に基づいてコミュニティを科学し、その戦略設計から実装、チーム組成までを行い、企業の課題を解決に導く専門家集団が存在する。それが、Web3人材ネットワークを形成する国内最大級の分散型コミュニティ「新世界DAOである。

新世界DAOを運営するのは、「Web2.X SHIFT」をミッションに掲げ、Web3経済圏のマスアダプションを目指して、様々な企業のWeb3進出支援を行う、株式会社SHINSEKAI Technologiesだ。

同社の代表取締役CEOを務める大社 武さん(@tako_shinsekai)は、「コミュニティは再現性があると認識した上で、数年後の理想像から逆算して戦略設計を行い、KPIを設けることが重要」だと話す。

そこで今回は、大社さんと、コミュニティグロース事業本部にてマネージャーを務める新地 貴浩さん(@SRKTK56)に、コミュニティ活用の可能性や運営ノウハウ、Web3人材の具体までを、詳しく伺った。

Web3コミュニティに「生きがい」を感じる個人を増やしたい

大社 私は、新卒でサイバーエージェントに入社し、1年目で最優秀新人賞を受賞しました。それ以降に勤めたいくつかの企業でも、営業利益のギネス記録を更新したり、国内トップの月商売上を達成したりと、常に「国内No.1」の実績を目指して従事してきました。

そうした中、「次はグローバルでNo.1を狙えるような大きなビジネスをしたい」と思ったことからWeb3領域に参入し、2022年10月にSHINSEKAI Technologiesを立ち上げました。

私たちは、Web3経済圏のマスアダプションを目指して、個人や企業、サービスをエンパワーメントする複数の事業を展開しています。メインとなるのは、「NFT制作、コミュニティ運営、独自ウォレット、Web3人材支援」などをワンストップで提供するサービス「MURA」です。

これまでに、フェンシング選手の太田 雄貴氏が発起人であるスポーツコミュニティ「Sports3」や、日本テレビ様によるNFTアイドルプロジェクト「NFT IDOL HOUSE」、KONAMI様の「PROJECT ZIRCON」など、複数のプロジェクトを支援してきました。

そして現在は、MURAの他にも、国内最大級の分散型Web3人材ネットワーク「新世界DAO」や、コミュニティ運営人材のマッチングプラットフォーム「nest」などを運営しています。

これら2つのネットワークを自社で形成している背景として、コミュニティ運営で活躍する人材になるためには、「仲間をつくること」と「スキルを高めること」が重要だと考えているからです。そこで、この2軸を補完し合う役割として、「仲間をつくる新世界DAO」と「スキルを高めるnest」という棲み分けをしている形です。

とはいえ、この2軸は相互に補完し合う関係でもあり、新世界DAOとnestは切っても切れない表裏一体な関係性があると考えています。また、私たちのような事業会社がDAOを同時に設立するケースは珍しいと思いますが、その狙いとしては、Web3のマスアダプションを加速させたいという思いがあったからです。

より多くの人にWeb3を届けるためには、安心・安全にブロックチェーン技術を使える環境を作ることや、利用者のみならず、開発者側のリテラシー向上など様々な課題を乗り越える必要があります。

そこで、私たちは「ウォレットの普及」「企業のNFT活用実績数」「Web3人材の増加」の3つの領域に焦点を当ててアプローチを仕掛けてきました。

中でも、ウォレットの普及と企業のNFT活用実績数に関しては、株式会社の形態で取り組む方が合理的かつ戦略を描けると思ったんです。その理由として、Web3の黎明期である現在において、ユーザー側の視点で考えた時に、「発行元の信用が担保されていること」が非常に重要な観点になるからです。

一方、Web3人材に関しては、NFTプロジェクトのオーナーやDeFiトレーダー、BCGのゲームクリエイター、Discordエンジニアなど、幅広い職種が存在しています。Web3人材の総数を増やすためには、各職種の標準化とレベルの底上げが必要ですが、そのためには、お互いに繋がり合いながら成長を促す「コミュニティ」が重要な鍵を握ると感じたんですね。

さらに、ここ数年NFT市場が活性化する中で、個人がコミュニティに関わることで「生きがい」を見つけるというニーズを捉えたこと。そして、自身の成長やリスキリングにも繋がっていくというポジティブなエネルギーを感じたこともあり、Web3業界で活躍できる個人を育成する場として「新世界DAO」の運営を始めました。

新世界DAOの仕組みとしては、職種ごとに分かれた「ギルド」に参加してスキルを身につけることができます。他にも、趣味や得意領域ごとのサークル活動や、メタバース上での飲み会を通じて同じ志を持つ仲間と交流できます。

Web3のマスアダプションが進み、企業発のWeb3プロジェクトが多く生まれるようになった暁には、それぞれのプロジェクトで活躍する人材の多くが、新世界DAOから輩出されるような世界を目指していきたいですね。

Web3時代におけるマーケティングの1丁目1番地は「コミュニティ」

大社 2024年以降も、多岐にわたる企業や地方自治体がWeb3を活用し、新たな価値創造に挑む動きが加速すると予想しています。

けれども、そうした企業の大半は、新規事業の計画や中期経営計画にWeb3をどう反映すれば良いのかと悩むケースが多いと思っていて。その理由は、いきなり新規事業やPoCの予算でWeb3に取り組もうとしているからなのですが、それでは社内調整のコストが大きいんですよね。

そこで、企業にはまず、既存のマーケティング予算の範囲内でWeb3を活用してみることを勧めています。そして、その際に重要な役割を果たすのが「コミュニティ」の存在です。

コミュニティは、マーケティングにおいて、顧客の購入プロセスを象徴する「認知・興味・比較・検討・行動」というファネルと、顧客のロイヤリティを高める「継続・紹介・発散・ロイヤル化」というファネルの間に位置し、それぞれの成果指標に応じて、緻密な戦略を設計できることが特徴です。

つまり、ユーザーが商品を購入した後に、徐々にロイヤル化していく過程でタッチポイントとなるのが、コミュニティというわけです。

そして、このタッチポイントにおいて重要なのが、定性的に言えば「心理的安全性の獲得」や「デジタル上の友達ができること」であり、いわば、そのコミュニティでしか味わえない体験価値です。この体験価値の構築をWeb3的に取り組むことで、企業は顧客と継続的な接点を持ち、関係性を育むことが可能になります。

さらに、企業発のプロジェクトでは、ユーザーのリファラル活動やKOC(Key Opinion Consumer)による自発的な情報発信によって、UGC(ユーザー生成コンテンツ)を生み出す仕組みづくりも重要です。コミュニティはその発信源となるため、SNSとも連携させながら、企画やキャンペーンを継続的に実施していく必要があります。

よって、まずはコミュニティを形成した上で、会員証のようなNFTを発行してみたり、NFTホルダーに対して付加価値を提供したりと、様々な出口を設けていくことで、「今までの事業から地続きでWeb3へと移行していく」ことが、Web3に参入する企業にとって最適な手段だと考えています。

SHINSEKAI Technologiesのミッションでも「Web2.X」と表現しているのは、Web2からweb3へいくまでの間を地続きで繋げていく、という意味合いを持たせているからなんですよね。

コミュニティをしっかりと構築し、活性化させ、安定させることで、コミュニティ自体がマーケティングのエンジンになる。Web3におけるマーケティングの1丁目1番地は、コミュニティだと言っても過言ではありません。

コミュニティには「再現性」がある。構築の手順とその工夫とは

大社 とかくコミュニティというと抽象的で、定性的な側面から語られることが多くありますが、コミュニティには「再現性」があると思っています。

私たち自身、様々なクライアントワークを担当させていただく中で、コミュニティ構築のプロセスをかなり細分化し体系的に整理することで再現性を担保し、別のコミュニティでも応用できるようにしています。

では実際に、私たちが普段、コミュニティ構築を行う際のアプローチ方法を順にお伝えしていきます。

まずは、コミュニティの発展を見据えた「時間軸」の設定です。これは売り上げの向上やUGC生成の最大化など、クライアントのニーズに応じて1年後、3年後に達成したい目標を明確にし、ユーザーに提供する体験価値を明確にするプロセスです。

次に、時間軸に合わせて中長期計画を策定し、ユーザーのペルソナ設計、コミュニティスタイルの選定など上流の部分を決めていきます。

コミュニティスタイルに関しては、BCGであれば「共有資産型」、NFTプロジェクトであれば「お祭り型」や「情報発信型」、アイドルIPだったら「ファンダム型」などに分類していて、それぞれに合わせた人材要件も定義しています。

このスタイルが決まったら、具体的にコミュニティの運用方法や施策を考え、KPIなどのスコアリング指標を定めていきます。例えば「コミュニティグローススコア」として、各スレッドの返答率やメンバー間の連携率、Discordの招待率などがあり、複数の指標を月次で観測するようにしています。

そして最後に、定めたKPIを達成するために必要な人材をアサインした上で、継続的に課題を特定し改善しながらコミュニティを運営していきます。この課題を特定する際に重要なのが、「コミュニティの状態だけをみて課題を定義しない」ことです。クライアントワークとしてコミュニティを設計する場合、クライアントの方々にとってはプロダクトの課題の方が本質なんですよね。

よって、コミュニティの戦略設計という上流の部分を担う立場としては、クライアントの課題解決に向けて、コミュニティメンバーをいかに巻き込むかを常に念頭におき、ボトムアップで課題解決ができるよう意識しています。

これらが、コミュニティを構築する際の大まかな流れです。次に、コミュニティにアサインされる「Web3人材」の具体について、新世界DAO内の人材育成を担当している、新地よりお伝えできればと思います。

職種の特性やコミュニティとの相性を踏まえて、Web3人材を選定

新地 私は、NFTプロジェクト「NEO TOKYO PUNKS」でのコミュニティマネージャーを経て、2023年4月にSHINSEKAI Technologiesに入社しました。現在は、コミュニティグロース事業本部のマネージャーとして、企業のコミュニティ構築や運用のサポート、および運営に携わる人材の育成を担当しています。

先ほど大社からお話しした通り、コミュニティの上流部分を設計できた後は、最適な人材を選定し、プロフェッショナルな専任体制を構築していきます。

では、コミュニティの運営においてどのような人材が必要になるかというと、まずは「コミュニティデザイナー」と「コミュニティスーパーバイザー」、そして現場寄りでは、「コミュニティマネージャー」「モデレーター」「Discordエンジニア」が挙げられます。

それぞれについて補足していくと、まず「コミュニティデザイナー」は初期の段階で世界観を創ったり、その内容に基づいてDiscordチャンネルの設計を考える役割を担い、「コミュニティスーパーバイザー」はコミュニティを俯瞰する立場として、数値の分析やロジックを用いた施策を打ち出す役割を担います。

そして、「コミュニティマネージャー」は、基本的にコミュニティスーパーバイザーが定めた、コミュニティ運営の戦略や活性化の方針に基づいて、クライアントと直接会話をしながら思いを汲み取り、具体的な施策を考えていく役割になります。

さらに、それらの施策を実行し、成果の最大化を図っていくのが「モデレーター」の仕事です。ポイントとなるのは、コミュニティ内でも熱量を持ったKOC(Key Opinions Customer)として立ち振る舞う点で、ユーザーを巻き込みながら、当事者の立場でコミュニティの盛り上げにコミットする役目を担っています。

補足として、モデレーターの選定に関しては、純粋にコミュニティを一番楽しんでいる人が自然発生的に出てきたらアサインするのが理想的だと思っています。他の職種の人選に関しても、コミュニティの特色を見極めた上で、「この人だったらこのコミュニティで輝けそう」という人に依頼するようにしていますね。

最後に、「Discordエンジニア」は、コミュニティスーパーバイザーの施策に適したbotの選定や導入、さらに、コミュニティの世界観を理解した上で、活性化に寄与する技術的観点からの提案などを担います。加えて、スパムや荒らし等のリスクを最小限にすべく、セキュリティに関するリテラシーも必要です。

このように、様々な職種が存在しているため、それぞれの特性と、Web3人材の性格やコミュニティとの相性などを考慮して慎重に人材を選定しています。このマッチングの精度を高めるために、nestでは人材のデータベースを作成したり、案件にアサインされているメンバーと定期的に1on1を実施するといった工夫も行っています。

インセンティブ設計は「情緒」と「経済」の両面が重要

新地 コミュニティ運営の基盤が整ったら、次に考えるべきは「コミュニティの持続可能性」です。

その際に重要な役割を果たすのが、インセンティブ設計です。この仕組みが存在せず、単に経験や成長といった「情緒的なインセンティブ」のみでは、ユーザーの参加動機に限界がきてしまうと思っています。

そこで、2023年10月に新世界DAOをオープン化したことを機に、「HIBANA COIN システム」を導入しました。

HIBANA COINは、DAO内での貢献活動に応じて付与されるコミュニティトークンで、ユーザーは自己紹介や記事の執筆、サークルの立ち上げや部長への就任など、様々な活動を通じてコインを獲得できます。

特に最近では、生成AIを用いたファンアートを制作して、コインを獲得するユーザーが多かった印象がありますね。その結果、UGCの投稿数も増加し、新世界DAOを新たに知ってくださった人も増えたように思います。

加えて、2023年12月には、コミュニティパスとしての機能を備えたNFTコレクション「百鬼夜行」をリリースしました。百鬼夜行のNFTは、HIBANA COINを集めることで「AllowList(NFTを優先的に安く購入できるリスト)」を獲得でき、777体限定で発行する予定です。

配布方法としては、ガス代のみがかかるフリーミント(無料配布)にしていて、積極的にコミュニティに参加してくださっている方が気軽に獲得できるようにしました。

「無料にすることで、運営に必要な資金が集まらないのでは」という意見もあるかと思いますが、私たちが株式会社としてDAOを運営しているメリットはここにもあります。つまり、SHINSEKAI Technologiesが経費を持ち出せるので、無理にNFTコレクションを販売して収益を得る必要が無いんですよね。

これらの取り組みにより、コミュニティ内での活動の価値が可視化され、参加者の熱量を維持することができ、持続可能なコミュニティ運営への一助になっていると感じています。

「まちづくり」のような、デジタルコミュニティの可能性を広めていく

大社 今後1、2年のWeb3業界の展望として、BCG(ブロックチェーンゲーム)」の存在がそのキラーコンテンツとなり、ウォレットがこれまで以上に普及していくと思っています。

具体的には、「ゲームを楽しみたい」という純粋な動機からウォレットを作る人が増えることで、Web3のマスアダプションが自ずと進むと予想しています。特に今年は、ゲーム特化型のブロックチェーン「Oasys」から40以上のゲームがリリースされる予定で、これらの中からヒット作が出れば、ウォレットの普及はさらに加速するでしょう。

また、国内の大手企業がブロックチェーンのバリデーター(ブロックチェーン上の取引を検証する役目)としての参画を表明していることを踏まえても、これまで水面下で取り組んできたものの手触り感が出始めるのが2024年であり、新たなトレンドが生まれると考えています。

このような予測を踏まえた上で、今後需要が増えていくのは、やはり「デジタルコミュニティ」だと思っています。

かつての「mixi」のように、どのコミュニティに所属しているのかが、個人のデジタルアイデンティティを形成していて、Web3時代においては、そこにウォレットやトークンなどが追加されていくことで、新たなソーシャルグラフが形成されていくと思います。このソーシャルグラフの密度を高めるために、個人がいくつものデジタルコミュニティに所属し、活動する未来があると思っています。

そして、このデジタルコミュニティを形成する側としては、フィジカルなコミュニティ運営で必要だった素養は当然求められます。その一方で、「まちづくりのような動線設計」ができるか否か、つまり、人がどう流れ、どう行動するかということを数値化し、分析する能力が必要不可欠になると思っています。

けれども、やはり初心者ではなかなか難しい領域になるので、私たちの今後の展望としては、Discordのようなコミュニケーションツールを開発し、誰でもデータ分析やマネタイズができるようなサービスを展開したいと思っています。

このコミュニティ運用のモデルは海外展開も視野に入れていて、2024年は各国に拠点を作り、カルチャライズしていく予定です。引き続き、Web3のマスアダプションを目指して尽力し、コミュニティの可能性をグローバルに広げていきたいですね。

新地 私としては、コミュニティ運営人材のマッチングプラットフォーム「nest」をより普及していくことで、数多くの人がコミュニティを通じて誰かの力になれる社会を創っていきたいと考えています。

また、nestを介して、仕事の面においても、単一の職に留まることなく、複数の仕事を掛け持ちできるような機運を高めていきたいと思っていて。すでに、新世界DAOやnest出身のユーザーの中には、Web3人材として活躍し、副業で月に数十万円を稼いでいる事例もあります。

とはいえ、直近では、Web3業界に限定する必要もないと思っています。いわばWeb2であってもコミュニティを構築したいと考えている企業は多いため、業界を問わず、コミュニティ運営に携わりたいと考える人材がnestに集まるように仕掛けることで、「コミュニティで副業ならnest」と呼ばれるようなプラットフォームを目指していきたいと思っています。

そうすることで、Web3人材を目指す仲間と出会い、共に成長しながら新たな自分を発見したり、コミュニティに関わることが「生きがい」だと感じられる人を増やせたら嬉しいですね。(了)

取材・ライター:古田島 大介
編集:吉井 萌里(SELECK編集部)

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