360度評価(多面評価)とは? 現場のリアル事例とテンプレート、運用ツールまで【計7選】
近年、導入企業が増加している「360度評価(多面評価)」を知っていますか?
従来の「上司が部下を評価する」という上からの評価だけでなく、同僚や部下も含めた多角的な視点から評価を集めるため、「360度フィードバック」「多面評価」とも呼ばれています。
プレイングマネージャーが増える中、「上司が部下の業務内容をすべて把握した上で、評価をすることが難しい」という背景などから、注目を集めています。
では、実際の360度評価の運用を、各企業はどのように行っているのでしょうか?
そのリアルな運用法を、SELECKで過去取材した事例とともにお伝えします。
▼弊社で使用しているテンプレートもご紹介します!
※人事評価制度については、こちらの記事もご覧ください。
【6社のリアル事例】人事評価制度の実態とは? 2018年最新のトレンドも併せて解説
目次
- 360度評価の運用のポイント
- 【事例①】マネージャー向けに「記名式」で360度評価を実施
- 【事例②】評価の甘辛を360度から見極め。昇降級の判断材料にも
- 【事例③】リアルタイムな360度評価を習慣化させる「ピアボーナス」
- 【事例④】テンプレートも公開!360度評価の進め方をご紹介
- 【運用ツール】360度評価に活用できるツール【3選】
360度評価の運用のポイント
360度評価の運用法は、企業によって様々です。その運用を考える上では、以下のようなポイントがあります。
- 誰が、誰を評価するのか(会社が決めるのか、本人が選ぶのか)
- 評価制度との関連性(評価に反映するのか、否か)
- 実施方法(記入テンプレート、記入項目、記名式or匿名式など)
例えば、評価ではなく成長のためのフィードバックを目的とする場合は、「ストライク」と「ボール」といった形で、被評価者の良い点と改善点をあげる方法があります。
一方で、評価の一材料とする場合では、例えば会社の行動規範(バリュー)に基づいた点数やコメントをつけたりなど、目的に適う形で運用を工夫することが大切です。
では、先進企業の実例をもとに、360度評価の運用法をご紹介していきます。
【事例①】マネージャー向けに「記名式」で360度評価を実施
株式会社ディー・エヌ・エーでは、部下からマネージャーに向けて、360度評価を行っています。
同社で定義されている5つのマネージャー要件の実践度合いについて、コメントとともに6段階でのフィードバックが送られています。
例えば、「プレイングばかりしていて、あまり見てくれない」「忙しいのは分かるが、背景説明が足りない」「個人の力量や思いを理解できているのか」といった声が上がったりするそうです。
▼実際のフィードバックシート(画像を拡大して見る)
▶︎ポイント:「記名式」か「匿名式」かは、企業による
360度評価には、評価者を記名式にする場合と、匿名式にする場合があります。同社では「その後のコミュニケーションをとりやすくすること」を目的に、記名式で評価コメントを送っています。
そして、実際に直接話しあう機会を設けることで、その評価の背景をより深く理解し、改善につなげているそうです。
また、思ったことを清々しくダイレクトに伝えるために、全て記名式で行っています。誰からのフィードバックかがわかった方が、その後にコミュニケーションをとって改善をしやすいですよね。
この結果を踏まえて、マネージャーが部下を集めたディスカッションを行い、課題点や改善策の認識を合わせたりもしています。中には、改善のコミットメントを宣言しているマネージャーもいますね。
また、記名式にすることで、無責任なコメントが送られることを防ぐというメリットもあります。
その一方で、「部下から上司にフィードバックを送る」ということが、企業文化によってはなかなか難しいこともあると思います。
その場合は、評価者が気兼ねなくコメントしやすいよう、匿名式で実施することも検討するのが良いでしょう。
【参考記事】上司・人事の承認ナシで異動OK!3ヶ月で20人超が利用した新人事制度・シェイクハンズ(株式会社ディー・エヌ・エー)
事例② 評価の甘辛を360度から見極め。昇降級の判断材料にも
株式会社ISAOでは、12グレードで運用している等級の昇級判断をする際に、360度評価の結果を参考にしています。
▶︎ポイント:評価内容を昇降級や給与に反映させるかは、目的次第
被評価者の「コーチ」がその人に対する360度フィードバックを取り纏め、総合的にみて上位等級に相応する場合には、人事プロジェクトにその人の昇級を推薦します。
フラットな組織である同社では、会社が評価者を決めるのではなく、被評価者である本人が、自分を評価してほしい人を選ぶことができるそうです。
このように、360度評価の結果が、昇降級や給与の判断に反映される企業がある一方で、談合が生じるリスクをなくすため、あくまで被評価者の成長のみを目的に運用する場合もあります。
▶︎ポイント:複数人のフィードバックを比較することで、評価の甘辛を見極める
また、360度評価では複数人からのフィードバックが集まるため、評価が属人的になることを防げることも特徴です。
360度評価で他の人が厳しいことを言っているのに、コーチからの評価が甘かったりすると、なぜその評価なのか? という説明を十分にしてもらい、必要があれば是正するようにしています。
被評価者にとっても、厳しさや視点が偏らない、多角的な評価をもらうことができるというメリットもあります。
【参考記事】評価者を「自分で」選ぶ。通年リアルタイムで昇降級する「権威を作らない」等級制度(株式会社ISAO)
事例③ リアルタイムな360度評価を習慣化させる「ピアボーナス」
株式会社メルカリでは、従業員同士が互いにフィードバックを送り合える「ピアボーナス(※)」の仕組みを使って、360度評価を実施しています。
(※)従業員の良い行動に対して、賞賛のコメントと共に成果給を送る仕組み
▶︎ポイント:「評価にかかる負担を減らしたい」という目的
360度評価にはメリットもある一方で、評価者が増えることで、どうしても全社的に評価に時間がかかってしまうという側面もあります。
メルカリでも、3ヶ月ごとの評価時期に多くの労力がかかっていたそうです。
評価の時期になると、被評価者が3ヶ月分の頑張ったことをシートに記入して、対する評価者も、3ヶ月分の記憶を辿ってその人の評価を行っていました。
ですがこのやり方では、お互いに評価時期に相当な労力がかかる上に、どうしても直近の行動や目立った部分に評価が引きずられてしまって。
▶︎ポイント:ピアボーナスを使って、日常的にフィードバックを贈り会う
そこで同社では、気軽にお互いを「賞賛」できる組織文化を作るために、社員同士で成果給を贈り合う「ピアボーナス」を導入。
リアルタイムでの評価を習慣化させたことで、評価時期の負担を大きく下げることに成功しました。
この点、mertipの仕組みでは、リアルタイムな360度からのフィードバックが、個人のタイムライン上に蓄積されていきます。そのため、評価時期にそれを纏めるだけで、個人のバリューに紐付いた行動を可視化することができるんです。
ピアボーナスはあくまで賞賛、つまりポジティブな側面のみを評価する仕組みですが、日常的にフィードバックを送り合う文化を作るには、非常に有効な手段と言えるでしょう。
【参考記事】同僚から月60回「成果給」を受け取った人も!メルカリの「ピアボーナス」運用の裏側(株式会社メルカリ)
【事例④】テンプレートも公開!360度評価の進め方をご紹介
最後の事例として、弊社で実際に使用している360度評価のテンプレートと、運用のポイントをご紹介します。
まず、360度評価の目的は何か? を社員に明確に伝える必要があります。一例ですが、以下のような形で、実施目的を定めています。
1:より多面的で納得感のあるFB/評価を行うため
2:個人の良い点や改善点について気付きを与え、成長を促進するため
3:社歴や役割に関わらず、オープンにコミュニケーションできる風土を維持強化するため
その上で、フィードバックを送る「記入フォーム」を用意します。
フィードバックを記入する際に、意識すべきガイドラインがあると、評価者からの協力を受けやすくなります。
例えば、弊社の場合は、以下の3点を意識してほしいと伝えています。
1:具体的な言動を取り上げる
2:自分だからできるFBがあると信じる
3:相手の成長を願う(愛を込めて)
このガイドラインに沿って、評価者は対象のメンバーに「ストライク(良い点)」と「ボール(改善点)」を送っています。
ただフィードバックを依頼するのではなく、こうしたテンプレートや記入のガイドラインがあると、運用がスムーズになりますね。
360度評価に活用できるツール【3選】
では最後に、360度評価を活用できる、海外ツールをご紹介します。
Latticeには「周囲の人と十分にコミュニケーションをとっていると思いますか?」「もしひとつアドバイスを送るとした、何と言いますか?」のようなテンプレが用意されています。
そのため、360度評価を行っていない組織でも、それらを参考にしてフォードバックの運用を開始することができます。(内容をカスタマイズして使うことも可能です。)
また、「Performance score」「Behavior score」という形で、仕事のパフォーマンスや行動姿勢の評価をスコアとして可視化することもできます。
▼回答の分布と平均値を可視化
海外企業が活用しているツールを紹介するサイト「Siftery」によると、従業員数51〜250人の中小企業が主な顧客層となっています。(※参照ページはこちら)
Spidergapは、スターバックス、ロレアル、LinkedInなどの大企業に導入されているサービスです。
ただフィードバック内容を集計するだけでなく、改善のアクションを促すことに重きを置いている点が特徴です。
そのため、集計結果から「強みと改善点のTOP5」「回答者の役職ごとの評価傾向」「3〜5の改善点に絞ったアクションプラン」といった、詳細なレポーティングがなされます。
▼特に改善すべきポイントが示される
※レポートサンプルはこちら
【参考記事】「タコスの送り合い」で組織改革!?気軽にピアボーナスが導入できる「HeyTaco!」とは
HeyTaco!は、株式会社メルカリの事例で紹介したピアボーナスを、チャットツール「Slack」にて運用できるサービスです。
誰かに向けて、タコスの絵文字付きで賞賛のコメントを送り合うことで、気軽にピアボーナスを導入することができます。
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