【4社の事例まとめ】等級制度をどう運用する? トレンド・目的・運用法までを大公開!
評価や給与、人材育成など、様々な人事制度の根幹を成す「等級制度」。
先日、経団連が2021年新卒からの「就活ルールの廃止」を宣言したように、近年の労働市場を取り巻く環境は、従来の雇用慣行と見合わなくなってきていると言えます。
その中で、等級制度についても、社員の自律的な動きを促す組織運営へと転換するための一つの手段として、従来の制度を見直す企業が増加しています。
特に、成長の早いベンチャー企業などでは、自社の組織形態や文化に適した形で、様々な工夫を凝らした等級制度の設計、運用が重要です。
今回は、等級制度のトレンドから、4社のリアルな運用事例までをお届けします。
<目次>
- 等級制度とは
- 等級制度のトレンド
- 事例① 株式会社ココナラ:評価基準の明確化
- 事例② 株式会社アジケ:役割の明確化、現場への権限委譲
- 事例③ 株式会社ISAO:成長を促すフィードバック
- 事例④ ユナイテッド株式会社:人材育成
※人事評価制度についての、詳細記事はこちら
等級制度とは
「等級制度」とは、能力・職務・役割などによって従業員を区分し、序列をつける制度です。
評価制度や給与、人材育成などにも関係するため、人事制度の根幹とも言えます。
等級制度には、大きく「能力」「職務」「役割」の3つの軸が存在しており、以下3つの種類に分けられます。
- 職能資格制度(=「能力」が軸)
- 職務等級制度(=「職務」が軸)
- 役割等級制度(=「役割」が軸)
等級制度のトレンド
日本では、年功賃金・終身雇用という日本的雇用慣行が戦後に普及したことから、「職能資格制度」による、「仕事をするために必要な能力(職務遂行能力)」での順序付けが主流となってきました。
この職能資格制度は、「職務」を軸とする「職務等級制度」とは異なり、特定の分野に依らない「人の能力」を評価軸とした制度です。
そのため、長期的な能力開発ができる、ゼネラリストの育成に適している、人材の配置転換が容易、といったメリットがある一方で、年齢とともに職能が上がりやすく、年功賃金に陥りやすいというデメリットもあります。
現在も、大企業を中心に、多くの企業で取り入れられている仕組みです。
一方で、成長スピードの早いベンチャー企業などにおいては、年齢や在籍年数によらず、「役割」で序列をつける「役割等級制度(=ミッショングレード制)」を導入する企業が増えています。
役割等級は、職能資格制度と職務等級制度の「いいとこ取り」をしたような制度で、以下のようなメリットがあります。
- 役割を明確にすることで、社員の自律的な動きを促せる
- 組織のミッション・ビジョンに連動した価値基準が浸透する
- 組織や職務の変化に、柔軟に対応できる
- 年齢に関わらず評価されるため、社員のモチベーションアップに繋がる
ここで気をつけねばならないのが、どの等級制度であっても「画一的なフォーマットはない」ということです。
そのため、目的は何なのか? 何を軸にするのか? 等級を何段階にわけるのか? 給与との紐付けをどうするか? など、自社の組織形態や文化に合う等級制度の設計と運用が重要です。
では、実際に等級制度を運用している企業の事例を、目的別に見てみましょう。
事例① 株式会社ココナラ:評価基準の明確化
この目的のひとつは、マネージャーのタイプによって異なりがちな、評価基準を統一することです。
マネージャーによっては、部下に厳しいことを言っているけど、その代わりに高い評価をして上に引っ張ろうとする人もいます。
逆に普段は優しくてもきちんとした評価をしない人がいる、といったように、評価って基準が属人的になりがちですよね。
株式会社ココナラでは、等級を11段階に区分し、「裁量」「コミット範囲」「育成責任」「業務レベル」「ノウハウレベル」という5つの軸によって明確に定義。
これによって、マネージャーによってブレがちな評価基準を統一し、人事評価における「空中戦の議論」を回避していると言います。
また、11段階のうち、取締役クラスを除く9段階は給与とグレードを連動させることで、形骸化しない制度運用をしています。
▼グレードイメージ(画像は編集部で作成)
等級の見直しは、経営陣・マネージャー・人事が参加する年2回の人材開発委員会で、定期的に実施されています。
<制度の効果>
- 人事評価の、議論の空中戦を防ぐことができる
- 人事評価と給与における、マネジメント側の意思決定がスムーズになる
参考記事:評価に「曖昧さ」は不要。5つの軸で11段階のグレードを定める、ココナラの等級制度
事例② 株式会社アジケ:役割の明確化、現場への権限委譲
現場への権限委譲を進めていく上でまず必要だったのが、役割の明確化でした。
以前の等級制度では、グレードごとに「求められる役割」などの定義がなかったため、職種別スキルの高い人が昇級しがちになってしまいまして。
役割に対して何をすべきか? という部分で、会社と個人の意識やスキルが噛み合わないケースが出てきてしまっていたんですね。
UXデザインカンパニーである株式会社アジケでは、現場への権限委譲を進めていく上で「役割の定義」が必要だと感じ、4段階の等級制度を導入しました。
具体的には、G(ジェネラルマネージャー)、M(マネージャー)、L(リーダー)、S(スタッフ)という4つの等級ごとに、求められる役割とその役割を全うするために必要なスキルを、できるだけ明確に定義しています。
▼等級の一例(SとLのみ抜粋し、画像は編集部にて作成)
また、多くの社員がクリエイターであるため、全社共通の「役割」を定義した等級だけでなく、「職種別スキル」「行動指針(バリュー体現度)」という独自の評価軸を設定。
そのウエイトを「等級30%、職種別スキル55%、行動指針15%」とすることで、総合的な評点を算出し、クリエイターにも納得感のある評価を行っています。
<制度の効果>
- 役割が明確化することで現場への権限委譲が進み、自律的な組織になる
- 役割・スキル・行動指針を分けることで、評価の擦り合わせがしやすい
参考記事:評価の「辛さ」をどう解決する? 上司と部下の「共通認識」を生む、評価制度の運用法
事例③ 株式会社ISAO:成長を促すフィードバック
その制度を運用していく中で、「等級が同じであっても、人によって強みや弱みは違う。それをどうフィードバックすべきだろう」ということが課題になってきまして。
というのも、当時は「5等級は、現場の小規模チームのリーダーとして活躍できる」といった、全職種に共通する基準しか設定されていなかったんです。
そのため、評価の際に説明もしづらく、「どこを伸ばしていくべきか」「どこを改善すべきか」について、もっと明確に伝える必要があると感じていました。
「バリ(=超)フラット」な組織運営をしている、株式会社ISAO。同社の組織形態や文化に適した形で、等級制度を上手く運用している事例です。
従来は、5等級からなる等級制度を運用していましたが、「成長を促すためのフィードバック」をより強化するため、11段階へと制度を刷新しました。
等級は、市場価値に相応する「コア」を基礎点として、フィードバックの観点となる「5つの要素」で加減算を行うことで、最終的な等級を決定。
▼等級を構成する「コア」と「5つの要素」
また、同社の特徴は「年中リアルタイムに昇降級の見直しが可能」ということです。
給与は、等級と完全に連動しており、社員の中には1年で3等級上がった人もいるそう。そして、全社員の等級はフルオープンに開示されています。
さらに、被評価者が「自分を評価すべき人」を自ら選び、360度評価によって等級が決まる仕組みになっています。
<制度の効果>
- 改善すべき点が明確になり、成長のためのフィードバックができる
- リアルタイムの昇降級を可能にすることで、社員のモチベーションアップに繫がる
参考記事①:評価者を「自分で」選ぶ。通年リアルタイムで昇降級する「権威を作らない」等級制度︎
参考記事②:社員99%が諦めた会社の復活劇!役職ナシ・給与も公開する「バリフラット」な組織作り
事例④ ユナイテッド株式会社:人材育成
L職でもP職でも、最終的には所属する部署、そして会社のビジョンを達成するというゴールは一緒です。ですが、そこへのアプローチが違うんですね。
L職のメンバーはいかに組織の成果を最大化させるかを考え、P職であればいかに個人の成果を最大化して組織に還元するか、を考えます。
ユナイテッド株式会社では、2015年より、社員の自律的な成長を会社として全力でサポートする「グレードアップ宣言」の運用を開始。
その基軸となる同社のグレードは、縦軸と横軸のマトリクス型です。
具体的には、縦軸に総合職・エンジニア職・デザイナー職という職種を、横軸にリーダーシップを発揮する「L(Leadership)職」と、専門的なスキルを発揮する「P(Professional)職」の2軸を設定し、合計6つのグレードがあります。
L職とP職に関しては、グレード2に上がるタイミングで、「マネジメントをするか」「個人の力を組織に還元していくか」を自分で選択すると言います。
このグレードを軸に、自分より上のグレードの研修プログラムに挑戦できる育成制度を上手く組み合わせることで、社員の自律的な成長を促しています。
<制度の効果>
- グレードを上げるために「自分に足りないもの」や、「1段上の視点」に気づくことができる
- グレードアップ宣言を始めてから、年間の昇格数は以前の倍以上に増加
参考記事:自ら手を挙げて「昇格」宣言!自律的な成長を全力サポートする「グレードアップ宣言」
おわりに
いかがでしたでしょうか。他社事例を参考にしながら、自社の組織や文化に合う等級制度を設計・運用してみてくださいね。
当媒体SELECKでは、これまで700社以上の課題解決の事例を発信してきました。
その取材を通して、制度構築だけでなく、自律的な成長を促す「伴走型のマネジメント」が、組織づくりにおいて重要であるという傾向を発見しました。
そこで開発したのが、1on1の運用と改善で、メンバーの内省を促進し、パフォーマンスを最大化するツール「Wistant(ウィスタント)」です。
進化したマネジメントを体験したい方は、ぜひ、チェックしてみてください。