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【事例3選】「ジョブ型」雇用の評価ってどうするの? 実践のポイントと具体例をご紹介
コロナ禍によるテレワークの推進によって、「ジョブ型」に関する議論が再燃したように思います。
実際、リクルートキャリアの調査によると、従業員5,000人以上の企業のうち約2割がジョブ型を導入しており、うち7割はこの1年半以内に導入したといいます。
富士通も2020年4月より幹部社員にジョブ型の人事制度を導入しており、資生堂も2021年1月から一般社員3,800人をジョブ型の人事制度に移行するなど、大手企業を筆頭にジョブ型の導入が進んでいます。
とはいえ、この「ジョブ型」というキーワードの生みの親とされる濱口 桂一郎氏によると、「ジョブ型」とは日本における雇用システムを議論するための、日本型(主にメンバーシップ型)以外の雇用システムを便宜的に称したものだとされています。
よって、「ジョブ型」「メンバーシップ型」という二元論的な議論ではなく、自社の組織に合わせてどのような要素を取り入れ、理想的な雇用形態を目指すか? を考えることが重要です。
そこで今回は、「結局、ジョブ型って何?」「なぜジョブ型に注目すべきなの?」「ジョブ型の考えを取り入れる際のポイントは?」といった質問に答えるべく、その定義から実践例までをご紹介します。
<目次>
- 結局「ジョブ型」とは、何か?
- なぜ「ジョブ型」雇用の議論がなされているのか?
- ジョブ型の次は「タスク型」?
- 【事例3選】ジョブ型はどうやって評価する?
結局「ジョブ型」とは、何か?
「ジョブ型」とは、日本経済団体連合会によると以下のように定義されています。
「特定のポストに空きが生じた際にその職務(ジョブ)・役割を遂行できる能力や資格のある人材を社外から獲得、あるいは社内で公募する雇用形態のこと」(日本経済団体連合会(経団連))
つまり、社内外を限定せず、事業戦略に基づいた職務・役割に合う人材を雇用する形態のことを指します。
この「ジョブ型」と対にして語られるのが「メンバーシップ型」です。両者の大きな違いとして、前者は「ジョブ(=仕事)に人が割り当てられる」のに対し、後者は「人にジョブを割り振る」という違いがあります。
ジョブ型が主流な欧米では、職務内容がジョブ・ディスクリプション(※)で明確に定義されており、専門スキルが重視されます。そのため「欠員補充方式」が主流で、スキルさえあれば年齢も関係なく、若手であっても年収が高いというケースは珍しくありません。
※担当する業務内容や範囲、必要なスキル、求められる成果などを明確化させた文書のこと
なぜ、「ジョブ型」雇用の議論がなされているのか?
現在、日本で「メンバーシップ型」の雇用が主流になっている背景には、「新卒一括採用」の仕組みがあります。
新卒一括採用が始まったのは1895年で、当時、海外事業の拡大を目指していた旧財閥系企業が中心となって学生を採用したのが始めとされています。このシステム下では、毎年給与が上がる「定期昇給」と「終身雇用」が適応され、雇用の安定が約束されていました。
そしてここ数年、ジョブ型の雇用が再び議論されている理由には、経団連の中西会長が2018年に「就活ルール廃止の可能性」について言及したことが挙げられます。
VUCAワールド(※)と呼ばれる現代においては、技術革新のスピードが早く、市場もめまぐるしく変化します。その環境下で自社に必要な人材を一から育てていては、競争に取り残されてしまう可能性があるからです。
※Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとり、不安定で不確実、複雑な時代を表現する言葉
さらに、テレワークの環境さえあれば世界中から優秀な人材を抜擢できる今日においては、国内の経済立て直しのためにも日本特有の雇用システムを見直す必要が生じています。
実際に、2019年にも経団連は「新卒一括採用に加え、ジョブ型雇用も加え、より多様な雇用形態へと変化していくことが必要」との意向を明確に示しています。
とはいえ、ジョブ型についての議論は、企業外の労働市場や教育制度、キャリア観などを含み、企業の意向だけで変えられる部分も少なく、国家レベルでの議論が必要な場合もあります。
というのも、採用の際にスキルが必要とされるのであれば、現行の教育制度のもとではほとんど実務経験がない学生が不利なのはいうまでもありません。そのため、今後必要とされるスキルを保有できるような職業教育の環境を整えていかなければなりません。
さらに、卒業してすぐ職を得られなかった場合、どのようにサポートしていくか? スキルが陳腐化していく中で企業内でどう再教育していくか? 再教育できない場合、公的支援をどのように設けるか?という点に関しては未だ議論の余地があり、社会全体で「ジョブ型」を導入していくには多くの障壁があると考えられます。
ジョブ型の次は「タスク型」?
そして、「ジョブ型」の次なる雇用形態として「タスク型」という考え方があります。これは「ジョブ型雇用ではなくとも、スポット的に社外の人材を活用する」という考え方です。
例えば、アメリカにおけるタクシー配車システム「Uber(ウーバー)」などは、タスク型のひとつの例です。元々ジョブ型が主流で、かつ「ギグエコノミー(※)」に代表されるように情報技術が発達している欧米では、既にこの「タスク型」に移行するのでは? という議論があります。
※プラットフォームを通じて、労務やサービスの提供を行うこと
この「タスク型」に近い考え方として、「副業」があります。例えばヤフー社では2020年夏より「ギグパートナー(副業人材)」の募集を開始しました。これは、オープンイノベーションの創出を目的として、原則「業務委託」の形で雇用契約を結ぶ制度です。
リモート環境での業務になるため年齢や所在地などの制約を受けず、中には現役高校生や主婦の方も活躍されているといいます。
また、信頼できる友達もしくは「友達の友達」からオファーが届く、キャリアSNS「YOUTRUST」でも、「すごい副業」や「かなう副業」といった企画を開催。社外の業務に関わる機会が、より多くの人にとって身近なものとなっているのではないでしょうか。
▼DeNA南場さんの「ウォーキングパートナー」募集画面
「タスク型」の可能性が示唆されている背景には、AI時代において、一部のプロフェッショナルとデジタル日雇い労働者への二極化が想定されていることがあります。
こうした流れを受けて、生活の安定を保証するために「ベーシックインカム」が必要だという議論もありますが、ジョブ型の生みの親である濱口氏は「ベーシックインカムを導入することは要するに『一君万民モデル』であり、社会として不健全である」と述べています。
メンバーシップ型もジョブ型も、どちらが良い悪いという話ではなく、来るべきAI時代に備えて雇用形態を模索する中で、どのような「安定装置」を設けるべきか? ということも同時に考える必要があるでしょう。
参考記事:濱口 桂一郎氏 『メンバーシップ型・ジョブ型の「次」の模索が始まっている』
【事例3選】ジョブ型はどうやって評価する?
では、実際に「ジョブ型」の要素を取り入れるにはどうしたら良いのでしょうか? 今回は「評価制度」の観点から3つの実践例をご紹介します。
■管理職を7段階に「格付け」し、月額報酬を決定 / 富士通
グローバル全体で約13万人ほどの社員を抱える富士通では、2020年4月に管理職1万5,000人を対象に「ジョブ型」の人事制度を導入しました。
それに伴い、「FUJITSU Level」と呼ばれる格付け制度を運用し、月額報酬を規定しています。
▼同社の「ジョブ型」人事制度の概要
具体的には、これまでは職務遂行能力をベースにしていたのに対し、グローバルに統一された職責の大きさや重要性に応じて管理職を7段階に格付けし、月額報酬を固定しています。
さらにジョブ・ディスクリプションに明記された職務を遂行し、どれだけ成果を上げたか? を評価し、賞与やインセンティブに反映させる形だといいます。
しかし一方では、具体的にはジョブディスクリプションに関しては未だ作成中だといいます。
その背景として、変化の激しい時代にジョブディスクリプションを作成しても見直しになる可能性がある、明確にジョブを定義してしまってはそこに書いたことしか遂行されずにチームワークが発揮されなくなる、といった懸念があり、時間と労力をかけて慌てて作成しても混乱を招く可能性があると考えたからだそうです。
そこで、ジョブ型の人事制度を整えながら、ジョブディスクリプションに関しては「ロールのレベル」と「職責のレベル」で縦横を構成する、富士通独自の「ロールプロファイル」を作成し、これを共通データとして1人ひとりのジョブディスクリプションを制作していくのだといいます。
富士通は数年前から成果主義の導入を検討してきた企業でもあります。その中で「ジョブ型」人事制度の導入に踏み切った背景は、日本型の年功序列に対する否定ではないそうです。「何のために」というパーパスを明確に定義することで、企業として「ありたい姿を実現する」ということをメンバーに伝えることが主目的だといいます。
また、ジョブ型を推進するための社内のコミュニケーションの質をあげるべく、1on1ミーティングも導入しています。「ジョブ型」の導入は時間とコストがかかることをふまえ、富士通の事例のように、組織基盤を整えながら徐々に要素を取り入れていくことは、成功の秘訣かもしれません。
▼参考記事
・報酬連動で管理職を格付け、富士通の「ジョブ型」人事で注目したい5つの挑戦
・【レポート】企業変革実践シリーズ 第6回:「富士通のジョブ型を中心とした人事制度のフルモデルチェンジ」
■20のジョブファミリーを作成し、ジョブ型でもチームワークを維持 / 資生堂
資生堂でも、テレワーク推進に伴って2020年1月より「ジョブ型グレード制度」を導入し、2021年にはその対象を3,800人にまで拡大する予定だとされています。
その背景として、同社執行役員の中村氏は「生産性の低さ」と「欧米と日本の専門スキルの差」の2つが課題としてあったといいます。
しかし、資生堂の「ジョブ型」は完全な欧米型ではなく、既存の日本の雇用形態をふまえた独自のシステムとして構築されています。
具体的には、20以上の「ジョブファミリー(領域)」を作成し、ファミリーごとにジョブディスクリプションを作成。ひとつのファミリーの中で働くことを前提に採用、育成を行っています。
この「ジョブファミリー」を設けることで、例えば人事というジョブファミリーに複数の職務がある場合でも、同じ職務等級であれば同じジョブディスクリプションを適用できます。専門性を高めながらもジョブが細分化されすぎず、異動も円滑に行え、チームワークも維持しやすくなるメリットがあるそうです。
そして報酬体系としては、2015年に国内の一部管理職向けに適応されていた「役割等級制度」に伴う報酬体系を新たに導入。この制度に基づいて、ジョブディスクリプションで決めた目標の達成度合いに応じて、給与や次のポストが決まるのだといいます。
こうした「ジョブ型」をベースにした人事制度は、同社の魚谷社長によると「究極の適材適所」であり、女性や外国人人材といった人々の働きやすさを促進し、企業のダイバーシティにも繋がるとしています。
資生堂は2020年に「資生堂ニューワーキングスタイル」の宣言によって、自らの生産性が3割向上する見込みがあれば労働環境を自由に選べるようにしており、今後ますますジョブ型が推進されていくのではないでしょうか。
▼参考記事
・独自ジョブ型に移行。和洋折衷で専門性とチームワーク両立~資生堂
■フルリモートでも、同僚と評価し合う評価制度 / みんなのマーケット
「くらしのマーケット」を運営するみんなのマーケット社では、2020年の3月よりフルリモート体制に移行し、同時に「ジョブ型」の雇用形態を新設したといいます。
具体的には、業務設計と実行の双方を求める「メンバーシップ型」と、仕事の成果のみを求める「ジョブ型」の2つの雇用形態を用意し、入社直後はカルチャーフィットを見極めるため、基本的には「ジョブ型」でスタートするという形です。
成果を評価する仕組みとしては、四半期ごとに同僚同士で評価しあう「チーム間評価」「個人間評価」と、半期ごとにメンバーシップ型のメンバーに限って行う「上長(=経営メンバー)評価」の3つがあるといいます。
▼評価制度の全体像(同社提供)
このうち「チーム間評価」は、各チームの目標に対する成果を、月次で開催される「業績報告会」で発表し、上長(=経営メンバー)を除く全メンバーが点数をつけて評価するものです。
この業績報告会を通じて互いのチームの目標や進捗状況が可視化されるため、フルリモート体制であってもチームワークが働く仕組みになっているといいます。
記事はこちら:「馴れ合い」はご法度。同僚と評価し合う「ジョブ型」雇用で、組織の連携を生む秘訣
以上、「ジョブ型」の要素を取り入れるのに参考となる実践例をご紹介してまいりましたが、いかがでしたでしょうか。
ジョブ型もメンバーシップ型もそれぞれ一長一短な雇用形態であり、どちらが良いという話ではありません。
自社の事業戦略やカルチャー、社会情勢を踏まえながら、本質を見極め、必要な要素を取り入れていくことが忘れてはならないポイントです。ぜひ、参考にしてください。