- 株式会社ビズリーチ
- 執行役員 マーケティング統括部 部長
- 中嶋 孝昌
BtoBマーケでCM放送を成功させるには?キャズムを超えるビズリーーーチ!の挑戦
〜テレビCMを打つだけでは、売上は上がらない。CM放送をやってみてわかった、意外な結果とは?〜
アーリーアダプターへの導入に成功したBtoBサービスが、キャズムを超えるべくマスに向けたセールスを行う際、大きなハードルとなるのが「認知」だ。
即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」は、ローンチ後、外資企業を中心に導入が進むも、認知度の低さから日系企業への展開に苦労していたという。
そこで、2016年からテレビCM放送を開始したところ、商談の受注率が向上し、リード獲得〜受注までのリードタイムも短縮することに成功。
また、4つのKPIから換算された売上の増加額は、CMへの投資額を1年で回収するに値するインパクトをもたらしたという。
しかし、株式会社ビズリーチにてマーケティングを統括する中嶋 孝昌さんは、BtoBビジネスにおいてCMの効果を最大化するためには、盤石な組織体制や、事前の各地域における土壌作りが必要不可欠だと話す。
今回はCM放送の背景や企画方法、そして、その意外な結果について、中嶋さんにお話を伺った。
経営者からは好反応でも、人事の担当者に理解してもらえなかった
弊社では2009年に、即戦力人材と企業をつなぐ転職サービス「ビズリーチ」を開始しました。
企業の人事担当の方が、Web上に登録されている求職者のプロフォールを見てスカウトを送る、いわゆるダイレクト・リクルーティングを支援するプラットフォームです。
これは海外では広く活用されている採用手法なので、最初は外資系企業様を中心にご利用いただいていました。
ただ、日系企業様の場合はエージェントに依頼する採用活動が一般的でしたから、サービスをご案内しても、「能動的にスカウトを送って採用活動をするのは手間がかかってしまう」と言われてしまいまして。
「よく分からないものは使いにくい」という、心理的なハードルもあり、なかなか受け入れられなかったんです。
その一方で、経営者の方に紹介すると「こんな採用手法があったんだ!何で早く教えてくれなかったの!」と即決していただけることも多くありました。
優秀な人材の採用に苦戦しているにもかかわらず、従来の採用手法では「待ちの姿勢」でいなければならないことは、経営者にとって大きな課題でした。ですが我々からすると、経営者に直接お会いすることはなかなか難しい状況でした。
また、人事担当の方に納得していただけたとしても、稟議をあげる段階で「ビジネスパーソンが自分の履歴書をWeb上に公開するなんてありえないのではないか」という理由から、決裁が下りないケースもありました。
そこで、正面からアプローチをしても届かない決裁者への認知を高めることを狙って、億単位での投資を行い、テレビCMを放送する意思決定をしました。
マスマーケでも、ターゲットを経営層に定めたその訳は?
企画の段階で非常に議論になったのは、「誰に届けるか」というターゲット設定でした。基本的には企業で決裁をする方々に、ビズリーチを知っていただきたいという狙いがあったのですが、その方々は、テレビの視聴者の中ではごく一部なんですね。
そこで「マスマーケなんだから、視聴者の大半は求職者として登録してくださる可能性もある。なので、少しは求職者側への訴求も混ぜようか…」と、ちょっと欲張りたくなった瞬間もあって(笑)。
ただ、最終的には求職者側は一切考慮せず、ターゲットを企業の経営者に絞ろうと意思決定しました。
というのも、求職者側に訴求する転職メディアのCMは世の中に溢れていて。求職者の方からすると、「あのタレントさんが出てたCMって、どの転職サイトのだっけ?」と、メッセージの印象が同質化している傾向があると感じていたんですね。
なので、我々はターゲットを企業側にシャープに絞って訴求していこうと考えました。
放送枠はコの字で購入。4つの指標から売上効果を試算
CM放送の一般的な成果指標は、認知度の向上だと思うのですが、それはあくまで副次的な指標に留め、直接的な売上へのインパクトを測るように考えました。
具体的には、「法人からの新規問い合わせ数」「求職者の新規会員登録数」「サービスサイト内でのトランザクション」の3つを指標として掲げました。
そして、各指標と売上の相関関係はわかっているので、これらに加えて「CMによって生まれたと推測される他事業部の売上」も含め、全てを合算して想定売上を試算しました。
また、放送枠については、最初は首都圏で放送される番組を対象に、「視聴率」「ターゲット含有率」という2つの指標から、平日の朝夕、そして土日という風にコの字になる形で購入しました。
▼コの字で時間枠を購入(画像は編集部で作成したイメージ)
「朝は何時に起きるんだろう?」「土日はどっちがいいんだろう?」という風に仮説を立てて、時間帯と曜日ごとに検証ポイントを設けました。
また、セールス体制も強化する必要があったので、他事業部から人員を補強して、反響に耐えうる準備をしました。
※同社のインサイドセールスについてはこちらの記事をご参照ください。
月の商談数が4倍に!声とスピードで勝負する、ビズリーチ流インサイドセールスの極意
そして、経営陣から全社に向けて、「絶対に成功させよう!」と目標を伝えて、皆のモチベーションを引き上げていきました。
土曜と日曜、CMの反響が得られやすいのは…?
このような準備を経て、2016年2月から、30秒のテレビCMの放送を開始しました。
そして、テレビ視聴者の行動をトラッキングするツールを使って、どの時間に放送したCMから、問い合わせやWebサイトへのアクセスが発生したのかを検証しました。
その結果として、最も効果が高いのは日曜日だとわかりました。日曜にCMを見た方が、翌日の月曜に会社で話題にあげて問い合わせる、という流れが多かったのだと思います。
また、日本のビジネスパーソンの忙しさを考えると、夕方の早い時間は難しいかと思っていたのですが、効果は悪くありませんでした。
定時で退社して、18時ごろから家族で夕食を食べている人はたくさんいる、ということなのかなと思いましたね。
CMの投資回収には「ニーズを待たずに掘り起こす」ことが重要
このような検証はできたものの、実はインバウンドでの問い合わせ数が圧倒的に増えた訳ではありませんでした。
CMを見て「なんかいいな」と思っても、自ら問い合わせてくださる方は、かなり少ないんです。
ですがその一方で、こちらからお電話をかけて「どうですか?」とアプローチした際に、「ちょっと聞いてみたい」と答えてくださる企業様はものすごく増えたんですね。
そして、アポイントを獲得した以降のステップも非常にスムーズになりました。商談の受注率は向上し、リード獲得〜お申込みに至るリードタイムも短縮されました。
認知度が増したことによって、人事の方が社内で稟議をあげやすくなり、決裁も下りやすくなったのだろうと思います。
このように、顕在化されないニーズをいかにプッシュで掘り起こすかが、CMの投資回収においては一番大切です。ですので、結果的にアウトバウンドのコール数も、通常の1.6倍に増える形となりました。
そして、当初は簡単にできると思っていなかった投資回収を、1年で実現することができました。
認知度と社内の士気も向上。一方で成果を得られないケースも
また、副次的な成果指標に置いていた認知度については、放送前は、一般消費者と人事ご担当者を対象に行った調査で、どちらも低い数値が出ていました。
ただ、放送後は約6倍にまで向上したので、それだけを考えても、数億を投資する価値はあったかと考えています。
さらに、CM放送の効果として、売上や認知度へのインパクト以外で大きかったのが、弊社の営業担当者のモチベーションがものすごく上がったことです。
それまでの現場では、「ビズリーチ?知らない…」という反応が多かった訳ですが、「CM見たよ」という反応に変わったことで、営業担当者にとっては強力な後押しとなり、結果として、社員の士気が高まるという成果も得られました。
その一方で、土壌のないエリアにCMを打っても効果が出ないという発見もありましたね。というのも、首都圏に次いで、名古屋、大阪、福岡でも放送したのですが、福岡ではほとんど効果がありませんでした。
他の地域と何が違ったかというと、営業やセミナー、PRといった認知の基盤となるアクションをまだ打てていなかったエリアだったんですね。
「ビズリーチってどこかで聞いたことがある」という認知がある上でマスマーケをやることに意味があって、何も基盤がないところに、CMを仕掛けても効果が薄かったんです。
時間をお金で買うという考えで、まずはCMを投下して、そこから営業を始める方法もあると思うのですが、多分失敗に終わるケースが多いんじゃないかなと思います。
そのため、弊社では今後もローンチしたてのサービスでは、マスマーケを行うことはないと考えています。まずは、コールドコールやイベントなどによって地道に商談の機会を作っていくことが必要だと思います。
「CPAとにらみ合い」だけが、マーケターの役割ではない
このCM放送を通して、マスマーケは上手く使えば、事業を新しいステージへグロースさせられる可能性を持つ手段だなと実感しました。
また、我々、マーケターのミッションは、お客様にサービスを好きになっていただき、プッシュするような営業をしなくても済むようにすることだと、改めて感じましたね。
マーケターに求められるものは、顧客を中心に据えたコミュニケーションをデザインして、
「お客様に良い体験を届けるプロダクトをどう作るべきか?」ということまでを考えられることだと思います。
とはいえ、現場では、日々KPIに追われ、CPAとのにらみ合いを続けなければなりません。そのはざまで苦悩し続けるのが、良いマーケターの正しい姿なんだろうなと考えています。
難しい仕事ですが、お客様に良い体験を提供できるよう、これからも挑戦していきたいと思います。(了)
※CM放送を通したマスマーケティングの事例については、こちらをご覧ください。
15秒間で「サービスの良さ」をどう伝えるか?スタディサプリのマスマーケ成功術とは(株式会社リクルートマーケティングパートナーズ)