「採用力の格差」に終止符を!候補者体験から見直す「正しい採用DX」の進め方
SELECKでは、これまで「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の解説記事や、HR領域に特化したDXの記事をお届けしてきました。
今回は、より焦点を絞って「採用DX」について解説いたします。
コロナ禍により、説明会やカジュアル面談、面接など、採用活動のオンライン移行が一気に進みました。その「オンライン化」にはなんとか対応したものの、採用がうまくいっていない…とお悩みの企業も多いのではないでしょうか。
さらに、SNSなどの普及によって個人が発信しやすくなった近年においては、選考における候補者体験の向上や、第三者からの口コミがより重要性を増しています。
こうした環境の変化を受け、採用市場でますます拡大する「採用力の格差」。テクノロジーをうまく活用し、採用活動のアップデートができている企業に優秀な人材が集まる一方で、従来のやり方を踏襲している企業では、採用が困難を極めています。
そこで求められているのが、「採用のDX」です。
今回は、採用市場に起きている変化から、採用DXを成功させる具体的な方法まで、先進企業の実例とともにご紹介します。
<目次>
- いま、採用市場になにが起きているのか
- 採用DXがもたらす「3つのメリット」
- 【事例6選】採用DXを進める3つのステップ
- 採用DXの推進で忘れてはならない「EX(従業員体験)」
いま、採用市場になにが起きているのか
そもそも「採用DX」とはなんでしょうか。よく「DX = IT化」と誤解されがちですが、DXとはIT化ではなく、「ITの活用を通じてビジネスモデルや組織を変革すること」です。
※DXについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご参考ください。
採用文脈においても、「採用DX = 採用活動のオンライン化」ではありません。採用DXとは、「テクノロジーの活用による業務変革を通じた、採用力の向上」のことを指します。
ではなぜ、いま「採用」においてもDXが求められるのでしょうか。その背景としては、大きく2つあります。
1. コロナ禍における採用活動と候補者体験の変化
まずひとつは、2020年の春以降、コロナ禍によって採用活動のオンライン化が一気に進んだことです。
カジュアル面談・選考面接、説明会、採用イベントなど、あらゆる採用活動がオンラインに移行されたことで、候補者の体験(=Candidate Experience。以下、CX)にも変化が起きています。
たとえば、選考のエントリーは増えているけれど、なかなか採用決定まで至らない…といった課題をもつ人事の方も多いのではないでしょうか。
これは、場所を選ばずに面談・面接を受けやすくなったことで、以前よりも気軽にエントリーする人が増えているという背景があります。一方で、企業側がスケジュールを詰め込みすぎて面接の時間に遅れたりすると、選考体験を下げる一因にもなるため注意が必要です。
また、従来のアトラクト手法として有効であった、オフィス訪問や食事会などの「リアルな場」での人を介したアプローチが難しくなったことから、記事や動画といった「コンテンツ」の重要性が増しています。
こうした変化に伴い、コンテンツ制作力の高い企業がより採用力を高める一方で、そうでない企業が採用に苦戦する、という格差が広がっています。
さらに、新卒採用の市場では、中途採用と同じように「採用活動の通年化」が進んでいるという点にも着目しなければなりません。
新卒採用では、これまで採用活動の一斉スタートが慣例でしたが、近年ではその早期化が進んでいます。そこに、場所や時間にとらわれないオンライン採用が主流となり、候補者の企業選びが長期化したことで、「新卒採用の通年化」が起きているのが現状です。
これによって、採用担当者の業務負荷も大きくなっており、いかに業務を効率化してCXの改善に時間を充てられるかが重要になっています。
実際に、通年採用を実施しているアマゾンジャパン社のように、情報収集の時間を20%削減し、捻出した時間をCXに投資している事例なども見られます。
2. SNSやCGMの普及による口コミの重要性
もうひとつは、SNSやCGM(※)が普及したことで、口コミなどの「第三者からの情報」が採用においても重要性を増していることが挙げられます。
※CGM…Consumer Generated Media。OpenWorkなど企業の口コミを掲載したサイト
近年では、コーポレートサイトや広報ブログといった企業発信の情報だけでなく、社員のSNSアカウントを参照したり、選考を受けた人の口コミをCGMで検索したりする人が増えています。
特に新卒採用では、選考を受ける企業を検討する際に、学内説明会や合同説明会などがコロナ禍で開催できなくなったことで、知人や友人からの口コミの重要性が高まっています。
こうした背景から、データやテクノロジーの活用や、コンテンツへの投資などを通じた採用活動の改革、つまり「採用DX」が求められているのです。
採用DXがもたらす「3つのメリット」
では、採用のDXを通じて、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
1. 採用業務における人的・金銭的コストを下げることができる
ATS(採用管理システム)などのツールを活用することで、候補者のリサーチや、面接の日程調整、選考中のコミュニケーションにおける業務の効率化が可能になります。
また、企業のタレントプールを形成しておくことで、自社にフィットする人に対して継続的なアプローチがしやすくなり、採用コストを下げることにもつながります。
さらに、AIなどのテクノロジーを取り入れれば、履歴書や職務経歴書などを読み込む時間を短縮できたり、スキルや志向性などが自社にマッチするかを客観的に判断することも可能です。
2. CXに投資する余裕が生まれ、企業のブランド価値が向上する
続いて、採用業務の効率化は、CXに投資する余裕を生み出します。
ここでは、ITツールの導入によって蓄積されたデータをもとに、選考フローを見直したり、CXの質を高めるコンテンツ制作に活かしていくことが大切です。
たとえば選考フローにおいては、候補者とのコミュニケーションそのものがCXに大きく影響する、ということがある調査からもわかっています。
・96%の候補者は、申し込みが正式に受理されたかどうかの通知がほしいと思っている
・95%の候補者は、不合格の場合にも連絡がほしかったと答えている
・50%以上が、選考中のコミュニケーション不足に不満を抱えている※上記数値は、こちらのデータを元に記載しています。
また、CXの改善には、コンテンツを蓄積していくことも効果的です。
ターゲット層はどんな人か、認知を獲得したいのか・理解を深めてもらいたいのか、といった目的を整理することで、コンテンツの質を高めることができます。また、コンテンツはつくって終わりではなく、データをもとに改善していくことが大切です。
こうしたCXヘの投資ができると、結果として企業のブランド価値向上につながります。
3. 広告依存の採用モデルから脱却し、採用力が強化される
企業のブランド価値が向上すると、旧来のような広告依存の採用モデルから脱却することが可能になります。
この段階までくると、求人広告に多額の費用を使わなくても自社にマッチする人の応募が増えたり、必要なときに必要な人材を採用できる、といった採用力を備えることができます。
このように、採用DXには企業の採用力につながる様々なメリットがある一方で、実際に推進できている企業はまだあまり多くないのが現状です。
そんな中で、デザイン業界では、他の業界と比べて採用力が高いと言われています。その理由として、プロダクトの「UX(ユーザー体験)」に関する知見が、採用にも活用できると考えられます。
つまり、採用DXにおいては、テクノロジーを活用して「候補者のUX」=「候補者体験(CX)」を改善することが成功の鍵を握るという可能性が示唆されます。
【事例6選】採用DXを進める3つのステップ
では実際に、採用DXはどのように進めると良いのでしょうか。今回は3つのステップに分けて、その進め方をご紹介します。
1. 理想の候補者体験(CX)を再定義する
まずは、市場環境の変化に合わせて自社のCXを見直します。具体的には、候補者のジャーニーマップを洗い出して、候補者の行動に変化はあるか? その変化に対して自社の採用活動をアップデートできているか? を考察します。
ここで参考になるのが、「コンセプトダイアグラム」というマーケティング手法です。
デジタルマーケティングを主軸に様々な事業を展開するナイル社では、コンセプトダイアグラムをもとに採用課題を可視化し、採用のミスマッチをなくしたといいます。
具体的には、採用候補者の視点から「心理的な変化」のジャーニーマップを作成。それぞれの態度変容を起こすきっかけを洗い出すことで、採用における優先課題と施策の可視化を行ったといいます。
▼同社が作成した「コンセプトダイアグラム」
参考記事:「採用がうまくいかない」理由を徹底的に可視化。施策のパッチワーク化を防ぐ手法とは
このようなフレームワークを用いて、候補者の視点から自社の採用活動を改めて洗い出してみると、どこから改善すべきかの優先順位がつけやすくなります。
2. データを収集・分析する仕組みを作る
次に、採用にまつわるデータを収集・分析する仕組みをつくります。
①で再定義したCXをもとに、どういう状態をめざすのか? どのようなデータが必要で、そのデータをいまは取得できているのか? などを整理した上で、ITツールの導入やデータ収集の仕組みを検討します。
たとえば、認知から選考プロセスにおけるCXの改善を目的とする場合には、「アンケートフォーム」を活用したデータ収集・分析方法が手軽にできておすすめです。
アウトドア領域で様々な事業を展開するスペースキー社では、カジュアル面談後、一次面接後、内定後の3段階で「候補者アンケート」を実施することによって、CXを改善しているといいます。
具体的には、「なぜ自社のことを知っていただいたのか」「選考で聞きたいこと」などをアンケート項目に取り入れて、それをもとに候補者とコミュニケーションしたり、コンテンツの改善にも活用しているそうです。
▼実際のアンケート(一部)
参考記事:候補者の「本音」からCXを改善!「3種類のアンケート」を採用プロセスに導入した理由
また、「自社と候補者のマッチング精度の向上」を通じたCXの改善を目的とする場合には、AIなどのツール活用を検討すると良いでしょう。
セプテーニ・ホールディングス社では、「ピープルアナリティクス」に基づいて社内の人材データとパフォーマンスの相関性を研究することで、応募者の入社後のパフォーマンスを予測する独自のモデルを開発しているといいます。
新卒採用においては、パーソナリティ診断やグループワークでの360度評価などで定量的なデータを取得した上で、面接は基本的に1回という選考フローにしているそうです。
参考記事:活躍する新卒を「会わずに」採用できる?ピープルアナリティクスを徹底した組織作りとは
このように、ただITツールを導入すればよいのではなく、目的に応じて最適な手段を活用するということが大切です。
3. 新しいCXに合わせた、採用業務の変革
CXを再定義し、目的に応じてデータを収集・分析する仕組みをつくったら、最後に採用業務を変革していきます。
その際、説明会や面談・面接などの人が体験を提供する「接点のCX」と、記事や動画などのコンテンツが体験を提供する「非接点のCX」で、視点を分けてみると良いでしょう。
たとえば、非接点のCXで参考になるのが、BtoBに特化したWeb制作を行うベイジ社の事例です。
同社では、日々のTwitterで認知を獲得し、オウンドメディアで関心を高めることで、結果的に「インバウンドリクルーティング」による採用を実現しているといいます。
▼インバウンドリクルーティング(同社提供)
具体的には、社員のTwitterをきっかけに、「ナレッジブログ」や「日報サイト」などのオウンドメディアを通じてベイジの認知を獲得。さらに、顕在層に対しては、徹底した求職者目線で制作した採用サイトによって興味関心を高めているそうです。
参考記事:採用費「ゼロ」でも勝ち筋はある。ベイジが年間120名の自然応募を獲得した方法
また、「丸亀製麺」をはじめとしたトリドールホールディングス社でも、2020年にオウンドメディア「/toridoll(アンドトリドール)」を開設し、ミッション・ビジョン・バリューに関する情報発信を行っています。
これによって、候補者だけでなく社内のメンバーにも正しい認知が広がり、結果的にインナーブランディングにも寄与しているといいます。
参考記事:最大の差別化は「人」にある。世界を見据えるトリドールが、組織変革を推進した理由
こうした選考フローやコンテンツの改善も重要ですが、採用業務の変革において最も大事なポイントは「採用活動のアジャイル化」です。
冒頭にお伝えしたような採用市場の変化を鑑みると、通年の採用計画ではなく、外部環境の変化や自社の状況に合わせて計画を見直せる柔軟な体制づくりが重要です。
レシピ動画サービスを展開するクックパッド社でも、採用業務が属人化し、全体的な目線で採用状況を見直す機会がなかったという課題感から、採用に「アジャイル開発」の思考を取り入れたといいます。
具体的には、毎週水曜日にプランニングを行い、火曜日に振り返りを実施しているといいます。さらに、ホワイトボードで作成した「カンバン」を設置して、各人がどの仕事をしているのかを可視化することで情報共有を円滑にしているそうです。
▼カンバンのイメージ図(編集部作成)
参考記事:アジャイルHRの導入で、自律的なチームが生まれる。クックパッド採用チームの取り組み
こうした「アジャイルな」体制づくりは、テクノロジーを導入すればいいというものではなく、自分たちの仕事をどう変えていきたいのかを考え、環境変化のスピードに合わせながら愚直に改善していくことがポイントです。
採用DXの推進で忘れてはならない「EX(従業員体験)」
以上、採用DXの必要性や実践の具体例をお伝えしてきましたが、いかがでしたでしょうか。
最後にお伝えしたいのは、どれだけテクノロジーを活用して採用活動を改善したとしても、組織そのものに魅力がなければ発信できる情報がやがて枯渇し、従業員の協力を得ることも難しくなる、ということです。
そのため、採用DXの推進おいては「従業員体験(EX)を継続的に改善すること」も忘れてはなりません。EXへの投資がCX向上の循環を生み出し、認知から体験に至るまでのブランドの一貫性につながります。
採用という「点」にとらわれず、組織全体を俯瞰して改善していくことが、DX成功の鍵を握ります。ぜひ参考にしてみてください。