• コラボレーター
  • SELECK

「DeSoc(分散型社会)」とは? 概要からSBT、DIDなど関連ワードまで徹底解説!

昨今、インターネットの世界がWeb2からWeb3へと急速に進化しているのは周知の事実です。

Web3の世界では、暗号資産やNFT(非代替性トークン)DAO(分散型自律組織)といった革新的な技術や概念が登場し、様々な分野での活用が模索されています。しかし、これらの技術はまだ十分に活用されているとはいえず、理想と現実の間には未だ大きなギャップが存在しているのが現状です。

そうした中で注目を集めているのが、「DeSoc(Decentralized Society:分散型社会)」という概念です。これは、技術的な側面だけでなく社会全体の分散化を目指すことで、個人の自律性と共同体の力を最大限に引き出す新たな社会モデルです。

DeSocの核心は、「SBT(Soul Bound Token)」と呼ばれる譲渡不可能なトークンにあります。SBTにより個人のアイデンティティや社会的関係がブロックチェーン上に構築・反映され、それらが個人の社会的証明となる仕組みなのです。

本記事では、DeSocについて、その概要から関連する概念、国内での先進的な取り組みまでを詳しく解説します。ぜひ最後までご覧ください。

<目次>

  • 「DeSoc(分散型社会)」とは何か?
  • DeSocとトークンエコノミーの違い
  • DeSocを支える技術「DIDs(分散型識別子)」「SBT(譲渡不可能なNFT)」とは
  • 【事例4選】SBTを活用した国内の取り組み

<編集部より>本記事に掲載している情報は、記事公開時点のものになります。Web3の世界は日々変化していますので、「DYOR(Do Your Own Research)」の前提で記事をご覧いただけますと幸いです。記事の内容についてご意見や修正のご提案がございましたらこちらまでお願いします。

「DeSoc(分散型社会)」とは何か?

「DeSoc(分散型社会)」とは、ブロックチェーンの技術を実社会に活用し、従来の中央集権的な権力構造や意思決定プロセスを見直すことで、社会全体の分散化を目指す新たな社会モデルです。

この社会モデルは、イーサリアムの共同創設者であるVitalik Buterin氏らが2022年5月に発表した論文「Decentralized Society: Finding Web3’s Soul」で提唱されました。

同論文では、現在のWeb3世界が主に譲渡可能な金融資産の表現と流通に焦点を当てており、実社会における人と人の信頼関係のような、社会的つながりを表現できておらず、不完全であると主張されています。

そこで、実社会とWeb3の結びつきをより完全なものとするために提唱されたエコシステムがDeSocです。その実現により、経済成長の面でも従来のネットワーク社会と比較して優れた可能性があるといいます。

では具体的に、DeSoc⁨⁩は現在のWeb2の仕組みと何が異なるのでしょうか。

従来のWeb2では、個人情報が一部のプラットフォームに集中し、データ産業によって利益が寡占される状態にありました。これに対し、Web3はブロックチェーンやP2P技術を使用し、ユーザー同士の直接通信によるデータ管理や組織運営を可能にしました。

しかし、未だWeb3の社会実装には多くの課題が残っています。例えば

  • Web3と実社会それぞれのアイデンティティや価値評価、信頼性が十分に関連づけられていないため、実体のない金融バブルが起きている
  • 匿名性の重視により、本人認証が困難。そのため、本人認証を従来の企業のユーザー管理に依存せざるを得ず、中央集権的な構造から完全には脱却できていない
  • DAOなどの分散型組織においては、複数アカウントや偽IDを用いた攻撃に対しての脆弱性がある

そこでWeb3を次のフェーズへ進めると期待されているのが、DeSocの概念です。詳しくは後ほど説明しますが、DeSocではブロックチェーン技術を基盤としてインターネット上に個人とコミュニティの関係性を反映することで、より民主的な分散型社会の実現を目指しています。

あくまでもイメージですが、現在の社会は、大きな中央集権的な銀行のようなものだと考えてみましょう。この銀行は、あなたの全ての情報、取引履歴、信用スコアを管理しています。あなたが何か重要なことをしようとするたびに、この銀行の許可が必要です。

一方でDeSocの世界は、地域の協同組合のネットワークのようなものです。ここでは、あなた自身が自分に関する情報を所有し、必要な時に必要な情報を、必要な人にだけ共有できます。

Vitalik氏の構想では、単にWeb3と実社会を同等にするのではなく、両者を統合することでより多面的な信頼関係のネットワークを形成し、豊かな社会の実現が期待されています。

より多面的なネットワークが形成されることにより、個人とコミュニティのあり方が根本から変革する可能性もあります。デジタル上の信頼関係に基づいて個人が直接つながり、価値の交換・取引が可能になり、また、個人やコミュニティが主体となって社会を形成し、それぞれの創造性や能力を発揮できる環境が整うのです。

DeSocとトークンエコノミーの違い

DeSocの実現により、中央機関に依存しない個人間の取引が可能になれば、従来の経済システムは大きく変わります。また、金銭的価値だけでなく社会的貢献も可視化できるようになることで、多様な価値基準が生まれ、私たちの働き方までが変わってくる可能性もあります。

DeSocと類似するキーワードとして挙げられるのが、ブロックチェーンを活用した経済活動を示す「トークンエコノミーです。

トークンエコノミーとDeSocは、どちらもブロックチェーン技術を基盤とした新しい社会・経済システムの構築を目指していますが、その焦点と範囲に違いがあります。

まず、トークンエコノミーは主に経済的活動に焦点を当てた概念です。ブロックチェーン技術を活用して、独自の通貨やポイントシステムをつくり、主に企業やプラットフォームが主導して経済圏システムを構築します。

一方、DeSocは、経済活動に留まらず、個人のアイデンティティや社会のガバナンス、社会的関係などを含めた社会システム全体の再構築を目指します。また、DeSocではブロックチェーン技術を含む様々な分散型技術を活用し、個人の自律性と社会の分散化を重視している点が特徴です。

つまり、トークンエコノミーはDeSocの一要素であり、補完関係にあるということです。改めて両者の違いを整理すると以下のようになります。

<トークンエコノミー>

  • 新しい経済圏の創出や、金融サービスの分散化に焦点を当てている
  • ブロックチェーン技術とトークンに特化
  • 個人を経済主体として扱う

<DeSoc>

  • 個人とコミュニティのあり方を見直し、社会システム全体の変革を目指す
  • ブロックチェーン技術に留まらず、DIDsやVCなどより広範な分散型技術を活用
  • 個人の多面的なアイデンティティと自律性、データの主権を重視

DeSocを支える技術、「DIDs」「SBT」について

DeSocの実現には、デジタル上にアイデンティティを形成し、実社会と同様に個人の社会的信用を評価する仕組みが必要不可欠です。

デジタルアイデンティティを形成する上では、氏名・年齢・性別・学歴・職業をはじめとした実社会の属性はもちろん、スキルセットや人間関係(ソーシャルグラフ)など様々な情報をデータ化する必要があります。

しかし、こうした個人情報を扱う上でプライバシー保護は極めて重要です。そのため、個人が自身の情報を管理し、必要に応じて開示できる環境を構築することが求められます。

この課題に対して有効とされているのが、「DIDs(Decentralized Identifiers:分散型識別子)」と「SBT(Soul Bound Token:譲渡不可能なNFT)」です。ここからは、それぞれの技術について詳しく解説していきます。

1.DIDs(分散型識別子)とは

DIDsとは「Decentralized Identifiers」の略称で、分散型識別子と呼ばれます。似た言葉に「DID(Decentralized Identity):分散型アイデンティティ」がありますが、後者がデジタルアイデンティティの領域において脱中央集権を目指すアプローチを指すのに対し、DIDsはDIDの実現を可能にする手段の一つです。

一般的なID制度は中央集権型であり、各プラットフォームがIDを発行・管理しています。この仕組みでは、プラットフォーム企業へのユーザー情報の集中が起こり、利益の寡占化が進むとともに、情報漏洩リスクが増大するという問題があります。

これらの問題を解決するのがDIDsです。DIDsは大型プラットフォームのID発行に依存せず、ユーザー自身が情報提供の範囲をコントロールできる分散管理システムを実現します。これにより、「自己主権型アイデンティティ(SSI:Self Sovereign Identity)」が可能となります。

技術的には、DIDsはブロックチェーンを利用し、ユーザーと第三者機関の両方と連携して分散記録されます。これにより、中央管理者がいなくても内容証明が可能となり、より安全で自律的なアイデンティティ管理が実現されます。

2.SBT(譲渡不可能なNFT)とは

SBTとは「Soul Bound Token」の略称で、個人のアイデンティティや実績など表す譲渡不可能なトークンを指します。SBTには大きく以下3つの特徴があります。

  • 譲渡不可能性:暗号資産やNFTと異なり、他者に譲渡・売却ができない
  • アイデンティティの証明:個人の経歴や資格などをデジタル上で表現する
  • 信頼の基盤:個人間の信頼関係を表現し、デジタル上での社会的信用を構築する手段となる

冒頭で紹介した論文「Decentralized Society: Finding Web3’s Soul」では、利用者のアカウントやウォレットを「ソウル」と呼んでいます。このソウルと結びつく、個人の経歴や資格など多様なアイデンティティをトークン化したものがSBTです。

DIDsに個人の属性を表現する情報やSBTが紐づけられることで、デジタル上のアイデンティティが形成されます。SBTには、卒業証書や専門機関による資格、免許証など第三者機関が発行する証明書が該当し、これらが社会的信用を付与します。

具体例として、千葉工業大学では2023年より学位証明書をSBTで発行する取り組みが行われています。その際、学生のプライバシー保護を目的として卒業した事実のみSBTで証明し、学生の名前や学位、学科などの個人情報はVerifiable Credentials(※)として発行する仕組みが採用されています。

※資格や能力等を証明するデジタル上で検証可能な個人情報のことで、国際技術標準化団体のW3Cによって標準化されている

Web3ウォレット内に収納されたSBTが複合的に個人の人物像を表現するため、SBTが少ない人は相対的に信頼度が低くなる傾向があります。また、信頼性の担保にあたっては、SBTの質や種類、発行元の信頼性なども考慮する必要があるでしょう。

同論文では、従来の中央集権的な評価システムが「トップダウン型」であるのに対して、SBTによるアイデンティティ構築の仕組みを「ボトムアップ型」と表現しています。この「ボトムアップ型」という表現は、個人やコミュニティが主体的に評価システムを構築していく形を指しています。

Web3はトラストレスな取引を可能にする点が大きなメリットである一方で、本人認証の課題を抱えています。SBTは個人の社会的関係と信用度をデジタル上に可視化することで、情報の真正性の確認と本人認証を可能にし、Web3における信頼性の問題に対する一つ解決策となっているのです。

▼DIDsやSBTについて詳しくは、以下の記事もご参考ください

【事例4選】SBTを活用した国内の取り組み

日本国内でも、DeSocの実現に向けて実証計画を開始している自治体や企業が存在します。ここからは、SBTの実用化に取り組む国内の事例を4つご紹介します。

1.【VESS Labs】個人の職歴・実績を可視化し、人材マッチングを促進

分散型アイデンティティを活用したソリューション「VESS」を提供する株式会社VESS Labsは、Web3時代の仕事マッチングプラットフォーム「WAVEE」と連携し、分散型IDを活用した人材マッチングプラットフォームの実現を目指しています。

WAVEEは、あらゆる人材・案件をDAO的に統合したWeb3型の求人プラットフォームです。このプラットフォームに、VESS上に記録された個人の職歴・学歴やスキル、資格情報などのアイデンティティを自動で反映できるようになり、WAVEE内での信頼性向上に寄与します。

さらに、Verifiable Credentials(VC)発行機能がWAVEEに導入され、採用企業はブロックチェーンの知見を必要とせずに入社証明をVCとして発行できるため、入社証明をインセンティブとして候補者を惹きつけることが可能になるとのことです。

個人としても、真正性が担保された職歴を第三者に提示することが可能となり、人材マッチングにおける信頼性や透明性の向上に加え、マッチングの効率化にも貢献します。

※参考:分散型アイデンティティを活用したソリューション「VESS」を展開する株式会社VESS LabsがWAVEEと連携 – PR TIMES

▼過去、VESS社に取材した際の記事もぜひ一緒にご覧ください

【Web3対談#05】職歴×ブロックチェーンで、個人が実績データを所有できる社会へ – SELECK

2.【SMBCグループ×HashPort】

三井住友フィナンシャルグループと三井住友銀行は、2022年12月にHashPortグループをパートナーとし、SBTの実用化を目指して業務提携を公表しました。

その実証実験の第一弾として、2023年4月に、SMBCグループの従業員宛に社員証として機能するSBTと、実験参加者間で流通するトークン「ミドりぽ」が配布されました。

実験参加者は、社内チャットツール内で形成されるコミュニティに参加し、コミュニティへの貢献がミドりぽとして配布され、実験終了時にミドりぽを一定数以上保有していた参加者には特典が付与されたとのことです。

※出典:HashPort、SMBCグループと共同で、社員証SBTと保有者間でのみ流通するトークンに関する実証実験を日本で初めて実施 – PR TIMES

また、2024年3月にはSMBCグループが運営するオープンイノベーション施設「hoops link tokyo」にSBTを活用したロイヤリティソリューションプログラムが導入されました。

仕組みとしては、hoops linkへの来館時にSBTが毎回発行され、来館回数によってレベルが変動したり、施設に関する投票に参加できるといったDAO的な仕掛けが設けられているそうです。

これらの取り組みにより、運営と会員間でのコミュニケーション活性化を目指し、会員のエンゲージメント向上を目指すとのことです。今後は、実証実験を通じたノウハウを蓄積させ商用化を模索していくといいます。

※参考:HashPort、Web3ウォレット基盤「Hash Wallet」とSBTを活用したロイヤリティソリューションをhoops link tokyoに導入

3.【TOPPAN】SBTを活用し、推し活の実績をリアルとバーチャルで活用

TOPPANデジタル株式会社と株式会社gumiは、2024年6月上旬より、SBTを活用したビジネスの構築を目指して協業をスタートさせています。具体的には、個人の「推し活」の実績をリアルとバーチャルの両世界で活用できる仕組みの構築を目指しているとのこと。

SBTの技術が導入されることで、ユーザーはゲーム内での実績を保有・管理し、高い信頼性を持って第三者に提示できるようになります。これにより、プラットフォームに依存しない形での実績の保証が可能となります。

また、TOPPANデジタルは、2022年よりアバターの真正性を証明する管理基盤「AVATECT®」を提供しています。このサービスは、アバター本体の管理や本人認証に加え、SBTやNFT、電子透かしなどを付与していくことで、メタバース上のプライバシーや著作権の保護を実現するとしています。

※参考:TOPPANデジタルとgumi、譲渡不可トークンのSBTの活用において協業を開始 – TOPPAN

4.【愛知県 蒲郡市】NFTを基点とした学習者コミュニティの形成

愛知県蒲郡市は、株式会社DAOWORKS、SunnyDAOの3者で「蒲郡市学習者デジタルコミュニティ推進協議会」を構築。さらに、「社会教育施設を起点とした、学習者のためのDeSoc構築」事業として、メタバースやWeb3技術を活用した実証実験を2023年にスタートさせました。この事業は、令和5年度の愛知県スマートシティモデル事業にも選定されています。

本取り組みは、同市に位置する「生命(いのち)の海科学館」を舞台にメタバースやWeb3技術を活用したイベントやコミュニティ作りを通じて、「ファン・トゥ・ラーン(Fan to Learn)」の実現を目指しました。

具体的には、クイズやイベントへの参加に対し、ブロックチェーン技術を活用したデジタル報酬を付与することで、学習者の学習意欲の向上を図るとのこと。加えて、メタバースを活用することで、学習者が継続的に横のつながりを持ち、お互いを高めあえる学習者コミュニティの形成を目指すとのことです。

※参考:~スマートシティモデル事業~ 蒲郡市においてメタバースやweb3を活用したコミュニティ形成の実証実験を開始します – 愛知県

▼上記以外にも、ブロックチェーン技術を活用した国内の様々な取り組みは以下の記事でもご紹介しています。ぜひ参考にしてください。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回はDeSocの概要から注目の背景、具体例までを幅広くお伝えしてきました。

DeSocがWeb3時代の革新的な社会モデルとして注目を集める一方で、プライバシーの問題や技術的な課題、法的・倫理的な点で、いくつもの懸念事項があるのも事実です。

これらの課題に対しては、技術的解決策の開発だけでなく、社会的コンセンサスの形成や法制度の整備など、多面的なアプローチが必要です。そのため、DeSocの健全な発展を目指すには、官公民が一体となり、適切に対処していくことが必要不可欠と言えるでしょう。引き続き、今後の動向をチェックしていきたいと思います。(了)

【読者特典・無料ダウンロード】UPSIDER/10X/ゆめみが語る
「エンジニア・デザイナー・PMの連携を強める方法」

Webメディア「SELECK」が実施するオンラインイベント「SELECK LIVE!」より、【エンジニア・デザイナー・PMの連携を強めるには?】をテーマにしたイベントレポートをお届けします。

異職種メンバーの連携を強めるために、UPSIDER、10X、ゆめみの3社がどのような取り組みをしているのか、リアルな経験談をお聞きしています。

▼登壇企業一覧
株式会社UPSIDER / 株式会社10X / 株式会社ゆめみ

無料ダウンロードはこちら!

;