【徹底解説】採用の新常識「RJP(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)」とは何か?【事例9選】
「RJP」とは、Realistic Job Preview(現実的な仕事情報の事前開示)の略で、企業が採用活動を行うにあたり、候補者に仕事や組織の「良い面だけでなく悪い面も含めたありのままの情報」を提供することを指します。
例えば「入社後に想定されるハードル」や「昇給や残業について」といった、リアルな情報を求職者に開示します。
こうした情報開示によって、採用にネガティブな影響があるのでは? と思いがちですが、実はRJPを通じて行われた採用は、ミスマッチを軽減し、さらに入社後の定着率を高める効果が確認されています(後ほど詳しく解説します)。
当媒体SELECKでは、そんなRJPをコンセプトに置き、企業が「リアルな現状を語る」特別連載をお届けしています。
▼記事はこちら(順次更新予定)
- 第1回:「30人の壁は甘くない」全開オープンの情報発信で突き進むカミナシ社の現在地
- 第2回:専任人事ナシ、リファラル70%。Ubie社が向き合うスタートアップ採用の最前線
- 第3回:製造業×BtoBの「スルメ的」面白さを伝えたい。キャディ開発組織が挑む壁
- 第4回:カルチャーへの投資が「変化に強い組織」を作った。atama plusの軌跡
- 第5回:非連続な価値を生むには、多様性は必須。10Xが挑むインクルーシブな組織づくり
RJPは、伝統的な採用手法に対するアンチテーゼとして、日本でも急速に広まりつつある考え方です。そこで本記事では、RJPという概念の定義や歴史、実践の参考になる具体的な手法や事例について、詳しくご紹介していきます。
<目次>
- RJP(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)理論の始まりは1970年代
- RJPによる「4つの効果」とは? なぜ現代の日本企業にも求められるのか
- 従来採用との違いは? RJPを実践するための具体的な手法と事例【9選】
- 注目スタートアップに迫る新連載。SELECKで連載中のRJPコンテンツ
RJP(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)理論の始まりは1970年代
RJPは、伝統的な「求職者が良いイメージを抱く情報を中心に公開・発信する」採用手法へのアンチテーゼとして、アメリカの産業心理学者ジョン・ワナウス氏が最初に提唱しました。1975年のことです。
ワナウス氏が行った実験は、以下のようなものです。
・電話交換手として新しく採用された女性たちをランダムに2つのグループに分け、それぞれに仕事内容を説明する別々のビデオを見せる。
・片方のグループは、従来通りほぼポジティブな内容のビデオ(Aグループ) / もう一方はワナウス氏が制作した、仕事についてポジティブな内容とネガティブな内容を含むビデオを視聴(Bグループ)
・3ヶ月後に、各グループの離職率や離職への意向などを調査
結果として、以下のようなことがわかったそうです。
- ポジティブな内容中心のビデオビデオを見たAグループのほうが、実際の仕事や組織についての期待値が高くなる。
- 3ヶ月後の離職率は、従来通りのAグループが50%であったのに対し、Bグループは38%に留まった(※そもそも離職率が高いのは時代背景や職種の特性が関係しているのではないかと思います)
- 自己申告制のアンケートによると、BグループはAグループと比べて極端に離職意向が低い。
この実験を皮切りに、多くの学者がRJPについてのリサーチを行い、同様の結果を得ていったといいます。
※参考:A Historical Approach to Realistic Job Previews
RJPによる「4つの効果」とは? なぜ現代の日本企業にも求められるのか
RJPの目的は、採用候補者に対して「ありのままの仕事や組織の実態」を見せることです。ワナウス氏によると、RJPには「4つの効果」が確認されています。
- ワクチン効果:入社前の過剰な期待を緩和し、入社後の失望感を軽減する
- スクリーニング効果:候補者が得た情報から、自分自身と企業の適合性を判断できる
- コミットメント効果:ネガティブな情報も開示することで、オープンな雰囲気や誠実さを感じさせ、企業への愛着や帰属意識を高める
- 役割明確化効果:候補者への期待を明確に伝えることで、入社後に、自分は企業の必要とする業務をしているのだと実感しやすくなり、仕事への満足度や意欲の維持・向上につながる
つまり、企業が採用活動の時に、悪い面も含めたリアルな情報を提供することで、「入社後の現実」と「入社前のイメージ」のギャップを減らし、採用のミスマッチを防止することができるのです。
この「採用のミスマッチ」という点については、多くの日本企業も課題を抱えていることはご存知の通りかと思います。
参考までに、ひとつの調査結果をご紹介します。内閣府が16〜29歳を対象に行った「初職の離職理由」に関する調査によると、離職理由のTOP3は下記のようになっています。
- 「仕事が自分に合わなかったため」:約43%
- 「人間関係が良くなかったため」:約24%
- 「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかったため」:約23%
上記の理由から見えてくるのが、「入社前に抱いていた期待」と、入社後に知った現実とのギャップが離職につながっているということです。
仕事内容や人間関係、待遇などの情報は、採用活動を行う中で得ることができます。しかし、いくら面接で色々な情報を得られても、「実際に入社してみたら違った」という話はよく聞きますよね。
また、企業側は、良い候補者は当然採用したいと考えるため、意図せずとも「ポジティブな情報に偏って」伝えている可能性も否めないでしょう。
しかし、こうした「自社を良く見せる」採用手法により、結果的に離職が増加しているようでは元も子もありません。
特に日本では、労働人口の減少に伴い、多くの企業が人手不足に悩まされています。実際、パーソル総合研究所と中央大学が共同で発表したデータによると、2030年には644万人の労働力が不足すると予想されています。
※参考:パーソル総合研究所・中央大学「労働市場の未来推計2030」
各企業が優秀な人材を巡って熾烈な獲得競争を繰り広げる中、離職率を下げることは死活問題と言えます。そのためにぜひ活用したいのが、RJPなのです。
従来採用との違いは? RJPを実践するための具体的な手法と事例【9選】
では、具体的にRJPを実践するための手法と事例をご紹介していきます。RJPの実践方法は様々ですが、今回ご紹介するのは下記の4種類(事例9選)です。
- 従業員インタビュー等の動画を用いて、仕事や組織のありのままの姿を届ける
- ブログ等のテキストコンテンツで、求職者向けに「自社の課題」を公開する
- 体験入社やお試し入社など、実際に職場を体験できる機会を設ける
- 他にもこんなやり方も(マッチングインタビュー、候補者向けクイズ)
1. 従業員インタビュー等の動画を用いて、仕事や組織のありのままの姿を届ける
採用に動画コンテンツを用いる企業は増加していますが、RJPの観点から最も効果が高いのが、実際に働く従業員自身に登場してもらうものです。
LinkedInの調査結果によると、会社からの発信と比較して、従業員からの発信は候補者が感じる信頼度が3倍高いといいます。
内容としては日々の業務内容や職場環境、会社のカルチャー、職種ごとに求められる知識やスキルなどが挙げられますが、一例として、YouTubeでRJPの発信を定期的に行っているFedex社の事例を紹介します。
例えばこちらの「GroundWarehouseJobs Virtual Job Preview」は、企業の採用コンテンツでありながら視聴回数は60万回を突破。職場の様子がふんだんに盛り込まれているだけではなく、実際に働く人も多数登場しています。
同社では他にも、職種別のRJPコンテンツも公開しています。こちらは配達職にフォーカスしたものです。
他にも、従業員の1日を届けるルーティーン系の動画もオススメです。
米国とカナダに2,100万人以上の顧客を抱える北米最大のゴミ収集・廃棄物処理企業Waste Management社が、朝3時からスタートするドライバー職の典型的な1日(1シフト)に迫ったRJP動画がこちらです。
ドキュメンタリー風で、編集もかなり凝っているのでまるでアメリカの連続ドラマを見ているような気持ちになります(笑)
2. ブログ等のテキストコンテンツで、求職者向けに「自社の課題」を公開する
動画よりも手軽に、時間をかけずに用意できるRJPコンテンツが、ブログ等のテキスト情報です。求職者向けに自社が抱える課題などを公開することで、よりリアルに組織や仕事について理解してもらうことができます。
モバイルサービス中心とした受託開発・制作・コンサルティングや、スタートアップ向けの内製化支援を展開する株式会社ゆめみでは、求人応募者向けに自社の問題点・課題を公開するNoteを公開し、定期的に更新しています。
▼公開されている課題の一例(※2021年8月時点)
※ゆめみ社のRJPをもっと読みたい方はこちら:ゆめみの問題点・課題(求人応募者向け)
また、ノンデスクワーカーに向けた現場のムダを自動化するSaaSを展開する株式会社カミナシでは、自社が抱える100の課題を「採用ウィッシュリスト」に公開しています。
実際に求職者の方からも、「あらゆるチームの課題が見れることで、会社の状況が想像しやすく安心できました」といった声をもらっているそうです。
※カミナシ社の取り組みをもっと知りたい方はこちら:「30人の壁は甘くない」カミナシ社の現在地をお聞きしました
3. 体験入社やお試し入社など、実際に職場を体験できる機会を設ける
近年、日本でも広がっている「体験入社」や「お試し入社」も、実はRJPに基づく取り組みのひとつと言えます。
株式会社bosyuでは、選考プロセスの中に「一緒に働くお試し期間」を設けることで、カルチャー・スキルの両面で互いにマッチングを確認しています。職種によりますが週1〜2日の稼働で、1ヶ月ほどで完了できる短期プロジェクトを担う形で実施するそう。
お試し期間中は、業務を遂行する上で必要な情報はすべて開示し、また社員と同じミーティングに参加するなど、本当に一緒に働いているかのような体験ができるそうです。
▼お試し期間を経て、正式ジョインした際のSlackの様子
※もっと詳しく知りたい方は、こちら:入社前の「お試しJOIN」で、採用のミスマッチをなくす!bosyu社の採用手法を公開
また、英単語アプリmikanを運営する株式会社mikanでも、選考プロセスの中に「体験入社」を取り入れています。
▼mikan社の採用プロセス
同社の体験入社では、社内情報にフルアクセスを付与した上で、丸1日かけて実際の業務やメンバーとのコミュニケーションを行います。職種・ポジションによっては1日以上のトライアルを実施する場合もあるそうです。
また、体験入社だけではなく「副業」という形態からスタートすることも可能になっています。
※もっと詳しく知りたい方は、こちら:スタートアップ仲間集めの最適解!Notionをフル活用した「最高の候補者体験」の作り方
4. 他にもこんなやり方も(マッチングインタビュー、候補者向けクイズ)
他にも、採用選考のプロセスの中で、よりリアルな情報交換を行うための工夫をしているケースもあります。
例えばスタートアップを中心にもはや「当たり前」の存在になったカジュアル面談も、RJP的な効果を期待できるものです。気軽に話ができる機会を提供することで、候補者は仕事や組織についてフラットに情報を集めることができます。
クラウド型マニュアル作成・共有ツール「Teachme Biz」を提供する、株式会社スタディストでは、カジュアル面談に加え、選考時の「マッチングインタビュー」を通じて、候補者と会社のニーズが合致しているかを確認しています。
マッチングインタビューは、一次選考の後に5〜10分ほどで実施。候補者の「転職軸トップ3」や希望年収、求める福利厚生といった踏み込んだ質問を聞くことで、求める環境を提供できるかを早い段階で確認しているとのことです。
※もっと詳しく知りたい方は、こちら:個人のWillと会社のMustを合わせる!入社後の納得度を高める採用プロセスの作り方
また、ちょっとユニークなRJPの手法として「クイズ」があります。採用候補者、もしくは採用応募を検討している人に向けた簡単なクイズやアンケートを公開することで、互いのマッチ度を診断できるものです。
米国で保険・金融サービスを提供するNationwide社では、RJPとしてクイズコンテンツを展開しています。候補者に対して、「こういうケースであなたはどうしますか?」といった問いを投げかけるものです。
▼実際にNationwide社が候補者向けに展開しているクイズ
選択肢は複数ありますが、この中に「正解」「不正解」があり、どちらの場合もフィードバックを受けることができます。
※出典:Nationwide Increases Quality of Hire through “Realistic Job Preview”
また、「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をミッションに掲げる医療系スタートアップUbie株式会社では、Ubieness(Ubie社の人材要件)をチェックできるサイトを公開。簡単なアンケートに答えることで、Ubie社と自分のマッチ度を確認することができます。
試してみたい方は、ぜひこちらからどうぞ!採用マーケティングの観点からも、とてもおもしろい取り組みですね。
注目スタートアップに迫る新連載。SELECKで連載中のRJPコンテンツ
本記事の冒頭でもご紹介しましたが、当媒体SELECKではRJPをコンセプトにした連載企画を公開しています。
本シリーズ「リアリスティック・ジョブ・プレビュー(以下、RJP)」は、「企業が『リアルな現状』を語ることが素晴らしい」という世界を作ることで、採用のミスマッチを減らしていきたいという思いから生まれた特別連載企画です。
急成長スタートアップ組織の実態について、良い面だけではなく課題も含めた「ありのままの姿」を、インタビューを通じて深堀りしていきます。
現在、下記の記事を公開中です。どんどん増えていく予定ですので、ぜひ定期的にチェックいただければと思います。
▼記事はこちら(順次更新予定)
- 第1回:「30人の壁は甘くない」全開オープンの情報発信で突き進むカミナシ社の現在地
- 第2回:専任人事ナシ、リファラル70%。Ubie社が向き合うスタートアップ採用の最前線
- 第3回:製造業×BtoBの「スルメ的」面白さを伝えたい。キャディ開発組織が挑む壁
- 第4回:カルチャーへの投資が「変化に強い組織」を作った。atama plusの軌跡
- 第5回:非連続な価値を生むには、多様性は必須。10Xが挑むインクルーシブな組織づくり
RJPの実践という意味でも、皆さまのご参考になりますと幸いです。