【徹底解説】コーチング実践の3ステップとは? オンラインでも効果を高める方法

※2020年9月更新(オンライン・コーチングに関して追記しました。)

コーチングとは、一言でいうと「目標の達成にむけた、行動変容を促すためのサポート」のことです。

達成したい目標がなにか? によって、ライフ・コーチングやスポーツ・コーチング、ヘルス・コーチングなど、様々な種類があります。

特に近年、ビジネス領域におけるコーチングの重要性が高まっています。以前、こちらの記事でもご紹介しましたが、米国における「ビジネス・コーチング」の市場は、今や1.2兆円を超えると言われています。

旧来のマネジメントにおいては、いわゆる「指示」や「指導」といった管理型のマネジメントが主体でした。しかし、変化が激しい現代においては、自律的な行動を促すマネジメントが必要です。

そこで、コーチングを取り入れたマネジメント手法が注目を集めているのです。

今回は、ビジネス領域における「コーチング」に焦点をあて、活用シーンと効果、ティーチングとの違い、プロセスと具体的な手法に至るまで、徹底解説します。

※コーチングでは、コーチをする相手のことを「クライアント」と呼びますが、本記事では「メンバー」に置き換えて説明します。

なぜ、ビジネスの領域で「コーチング」スキルが有用なのか

ビジネスの領域においては、コーチングの対象が「個人」か「チーム」かで、活用シーンが異なります。

その対象が「個人」であれば、上司と部下、先輩と後輩、といった間柄でのマネジメントにおいて有用です。コーチングスキルを習得することで、以下のような効果を期待できます。

  • ひとりでは達成し得なかったゴールに、はやく到達できる(=高い目標の達成)
  • ハードルを乗り越え、自ら改善し、アクションできる(=個人の成長)

一方で、複数人の「チーム」に対して行うコーチングを、「システム・コーチング」と呼びます。こちらは、チームのみえない「関係性」を可視化することで、以下のような効果を期待できます。

  • 互いの視点を明らかにすることで、信頼関係を醸成する(=「関係の質」向上)
  • チームの曖昧な課題を明らかにし、解決に向けて取り組める(=組織の成長)

※システム・コーチングについては、Sansan株式会社の事例をぜひご覧ください。

つまり、コーチングスキルを身につけることで、個人と組織の成長を促し、高い目標を実現することが可能です。

「ティーチング」と「コーチング」、その一番の違いは?

コーチングに比して説明される概念として「ティーチング」があります。ティーチングとコーチングの一番の違いは「発信の主体」にあります。

ティーチングでは、「答え」は指導する側にあります。つまり、マネージャーはゴールに近づくための知見を持っていて、それをメンバーに「与える(=教える)」という行為を指します。

一方のコーチングでは、マネージャーも「答え」を知りません。メンバーのなかに眠っている考えを、問いかけによって「引き出す」という行為を指します。

そのため、マネージャーの発言が多くなりがちなティーチングと違って、コーチングでは、メンバーが主体となって話すことが多くなります。

しかし、必ずしもティーチング型のマネジメントが悪いという訳ではありません。むしろ、相手の状況によってスキルを適切に使い分けることが大切です。

株式会社アカツキでは、新卒社員のマネジメントにおいて「タスクの重要度・難易度」と「対象者のスキル」の2軸で、4象限にセグメント分けし、フィードバックの手法を使い分けています。

参考記事:新卒が「定着する」組織の作り方!トレーナーとの「相性」も考えた配属の効果とは?

上図のとおり、目標やタスクの難易度が高く、かつ対象者も相応のスキルを保有しているときに、コーチング型のフィードバックが有用だといいます。

逆に、本人のスキルに対して難易度が高すぎる場合には、ティーチングの手法を用いて目標達成をサポートするそうです。

コーチに求められる11のコア・コンピテンシーと、実践の3ステップ

さて、ここからは、コーチングのスキルとその実践法について解説していきたいと思います。

国際コーチ連盟であるICF(International Coach Federation)では、コーチに求められる「コア・コンピテンシー」として、11のスキルを定義しています

▼ICFが定義する「Core Competencies」

  1. コーチングの倫理と基準を理解し、あらゆる状況下でそれを適用する
  2. 特定の状況に応じたコーチングを説明し、クライアントと同意を交わす
  3. クライアントと親密な信頼関係を築く
  4. オープンで柔軟かつ自信をもち、コーチとしてのプレゼンスを発揮する
  5. アクティブ・リスニングを行い、クライアントの自己表現を支援する
  6. 必要な情報を引き出すために、効果的な質問を行う
  7. 率直なコミュニケーションを取り、ポジティブなインパクトを与える
  8. 複数の情報を統合して評価し、クライアントに新たな気付きを与える
  9. 日常でも継続的に実践できるよう、クライアントの行動をデザインする
  10. クライアントとともに、効果的なコーチングプランをつくる
  11. 進捗を管理し、行動変容の責任はクライアントにあることを認識させる

※編集部にて意訳。出典:ICF「Core Competencies」

定義をみると、少し難しく感じるかもしれませんが、実際のマネジメントシーンで活用する場合には、以下の3ステップを意識するとよいでしょう。

Step 1:コーチングをするための「土壌」をつくる

Step 2:課題を整理し、適切な「目標設定」をサポートする

Step 3:ゴールの達成にむけて「振り返り」をサポートする

それでは、SELECKで過去取材した事例からヒントを得ながら、各ステップにおけるコーチングのポイントをみていきます。

Step 1:コーチングをするための「土壌」をつくる

コーチングの基本は、メンバーとの「対話」です。お互いがその場に集中できるように、まずはアイスブレイクやコンディションの確認から始めるとよいでしょう。

たとえば、以下のような問いかけが使えます。

・最近、調子はどうですか?
・週末、なにかいいことはありましたか?
・この1週間、一番よく考えていたこと(頭にあったこと)はなんですか?

また質問以外でも、メンバーの状態を確認する方法はあります。

たとえばSansan株式会社では、安心安全の場をつくるため、個人の仕事やチーム、会社、プライベートに対する今の気持ちを「お天気マーク」をつかって表現するワークを取り入れているそうです。

参考記事:目に見えないチームの「関係性」を見える化!組織を成長させるシステム・コーチングとは

もうひとつ重要なのは、コーチングは単発ではなく継続して行うものだということです。そのため、メンバーが気兼ねなく話せるような「信頼関係」を築いておくことが大切です。

特に、新しいペアでコーチングを始めるときには、最初の数回を「信頼関係づくり」メインにしてみても良いかもしれません。

よくコーチを選ぶ際には「相性が大事」と言われることもありますが、ビジネスにおいては、マネージャーが心理的安全性をつくる手段を知っておくとよいでしょう。

たとえば、グリー株式会社のある部署では「16類型性格診断」という4指標16タイプに性格を分類する簡易版テストを取り入れ、チーム全員で受けたといいます。

そして、各々が自分の診断結果に基づいて、「自分は生来こういう性格で…」といった発表を、1人ずつ皆の前で行ったんですね。

すると、今までは理解しづらかったような発言も、「この人は元々こういうタイプの性格だから、あの時あんな発言をしたんだな」ということが、お互いに分かり合えるようになって。

参考記事:上司と部下の「信頼関係」がカギ!MBOの運用を1on1で支える、グリーの目標管理とは

こうした性格診断テストや、モチベーショングラフなどを用いて互いに自己開示することで、信頼関係の構築がしやすくなりそうです。

Step 2:課題を整理し、適切な「目標設定」をサポートする

コーチングの土壌ができたら、いよいよ実践です。

具体的には、目標の設定と現状の把握を行った上で、理想とのギャップを埋めるアクションプランを明確にしていきます。

たとえば、以下のような問いかけが使えます。

・「こうありたいな」と思う姿はどのようなものですか?
・いつ / どこで / 誰と / どのように、その姿を実現したいですか?
・理想の状態になったとき、どんな気持ちになると思いますか?
・それを実現するためには、あと何があればいいと思いますか?

特に難しいのは、適切な目標設定です。コーチング型のマネジメントでは「これをやってほしい」という目標を与えるのではなく、メンバー自らが目標を設定できるようサポートすることが大切です。

コーチが壁打ち相手となって、メンバーの思考の整理を手伝う際は、「SMART」OKRといった目標設定のフレームワークを使ってみるのもいいかもしれません。

<SMARTの原則>

Specific=「具体的で分かりやすか」
Measurable=「計測が可能か」
Achievable=「達成が可能か」
Realistic=「現実的であるか」
Time bound=「期限が明確になっているか」

株式会社ウィルゲートでは、「Will・Can・Must」のフレームワークを用いて、短期の業績目標と、中長期の成長目標を設定しているそうです。

参考記事:マネジメントにおける「曖昧さ」をなくす!合意形成を重視する、人事制度の運用法とは

Step 3:ゴールの達成にむけて「振り返り」をサポートする

目標を決め、アクションプランが明確になったら、その目標達成にむけたコーチングを行います。具体的には、アクションを振り返り、目標に近づくためには行動をどう変えたらよいかを対話によって引き出します。

たとえば、以下のような問いかけが使えます。

・現状の進捗はどうですか? / 100点満点中、何点くらいですか?
・(アクションや目標達成に対して)うまくいくイメージはありますか?
・課題に対して、なにか取り組んでいることはありますか?
・アクションを妨げているものは、なんですか?

このような振り返りを目的として、メンター(多くの場合「上司」)とメンティ(多くの場合「部下」)による1on1を実施している企業も多いです。

アドビシステムズ株式会社では、「チェックイン」と呼ばれる上司と部下の1on1を行っています。以下は「キャリア開発」をテーマにした同社のガイドラインですが、現状を振り返り、目標達成のための行動変容を促す、というステップになっています。

参考記事:ランク付けをやめ、納得感のある人事制度を実現。アドビ「チェックイン」運用の実態

またdely株式会社では、1on1の「事前アンケート」を実施し、当初の計画どおりに進んでいるかどうかを確認することで、振り返りをより深いものにしています。

この回答で、あまり計画通りに進んでいないことがわかれば、何が障壁になっているのかを1on1で確認し、それを取り除くために何が必要かを議論します。

事業の変更などで本人のコントロール外で発生しているのであれば、期中であっても個人の目標設定を見直しますし、単純に業務量が多くて間に合っていないのであれば、どうすれば解決するかを一緒に考えていますね。

参考記事:マネジメントが事業と個人の成長サイクルを回す!delyの、目標管理と1on1の運用法

オンラインでも、コーチングの基本は同じ。効果を高める工夫とは?

各ステップのポイントをお伝えしましたが、いかがでしたでしょうか。

実際のコーチングでは、メンバーが目標を達成するまで、ステップ1〜3を繰り返していきます。対話を通じて、振り返りをより深いものにし、気づきを与え、なるべく近道でゴールに到達できるように伴走支援します。

また、テレワーク主体の働き方においては、オンラインコーチングのニーズが増えてきています。

オンラインであっても、コーチングの基本は変わりません。ですが、ちょっとした工夫により、オンラインコーチングの効果をさらに高めることができます。

例えば、Sansan株式会社の社内コーチ三橋 新さんによると、対面でのコーチングでは、人と人との関係性を「2つの物体」を使って表すことが多いそうですが、オンラインでは代わりに「両手」を使って表現できるといいます。

▼人と人との関係性を、グーとパーを使って表現

問いに対してただ考え込むよりも、物理的なものやジェスチャーを媒介することによって、相手との関係性を自ら俯瞰しやすくなる効果があります。

同じく、オフラインでよく使う紙とペンも、オンラインホワイトボードで代用できます。Zoomにあるホワイトボード機能を使えば、お互いに書き込むことも可能なので、こうしたツールを活用すると、オフラインと遜色ないコーチングが実践できます。

参考記事:今、多くの人が「ロードリーム」に陥っている。Sansanのオンラインコーチング実践法

いかがでしたでしょうか? 対面、オンラインともに、メンバーの成長を支援するひとつの手段として、コーチングをぜひ実践してみてくださいね。

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