「フィードバック」とは? 人と組織を育てる、実践のコツを徹底解説!【事例9選】
※2020年1月27日、最新の内容に更新しました。
ビジネスシーンにおいて、個人や組織の成長を促すために欠かせない「フィードバック」。よく耳にする言葉ですが、その目的やメリット、正しいフィードバックの在り方を理解しているでしょうか?
フィードバックというと「上司から部下に」するもの、というイメージがありますが、最近では「部下から上司に」「社員から会社に」といった形で、フィードバックを求めるシーンが増えています。
そこで今回は、フィードバックの基本やメリットから、多様化する在り方と手段、さらに良いフィードバックのコツまで、企業での実践事例をふまえてご紹介します。
<目次>
- ビジネスシーンにおける「フィードバック」とは
- フィードバックによって期待できる「効果」とは?
- 組織を良くする「4種類のフィードバック」とその手段
- 「良いフィードバック」をするために知っておきたいコツ
- 人材育成には欠かせない「フィードフォワード」
1. ビジネスシーンにおける「フィードバック」とは
「フィードバック」とは、対象となる人やサービスに対して、現状を振り返り、軌道修正をしていくために、良い点・改善点について指摘をすることです。
対面にて口頭で行うこともあれば、テキストベースでコメントしたり、スコアをつけて定量的に評価するケースもあります。
たとえば、ビジネスシーンにおいては、商品やサービスの品質向上を目的として、顧客から意見・感想をいただく「お客様アンケート」や、部下の育成を目的として、上司から部下に評価・指摘を行う「評価面談」などが、フィードバックにあたります。
変化の激しい現代においては、課題を早期に認識し、改善につなげていくことが不可欠です。特に、組織やチーム内において「フィードバック」の文化を根付かせることは、企業の成長力に直結します。
企業内では、「個人」と「組織」どちらの対象にも、フィードバックが有用です。
まず個人については、フィードバックを通じて、人材を育成することができます。具体的には、目標達成に向けたアクションの軌道修正をしたり、モチベーションを高めるような効果があります。
一方の組織においては、フィードバックを通じて、組織改善を進めることができます。具体的には、組織の課題を早期に発見して、大きなリスクが顕在化する前に、改善のアクションを打てるといったメリットがあります。
では、実例をふまえながら、詳しく見ていきましょう。
2. フィードバックによって期待できる「効果」 とは?
フィードバックの効果は、大きくわけると、以下2つです。
- 自らの課題を認識し、改善に向けて取り組むことができる
- 人のモチベーションを高め、仕事のパフォーマンスを上げる
ひとつめの「自らの課題を認識し、改善に向けて取り組むことができる」については、個人・組織のどちらにも期待できる効果です。
たとえば、RELATIONS株式会社では、社員から代表への360度フィードバックを通じて、経営者が自らの「適応課題」を認識することができ、組織改革の第一歩になったといいます。
▼実際の360度フィードバックの内容(一部)
そこで、自分自身の適応課題を可視化するために、メンバーに私への360度フィードバックをお願いすることにしました。戦略策定に関わるメンバーは全員、それ以外は任意ということで呼びかけをして。(中略)
やっぱり思っている以上に、自分で自分のことって見えていないものなんです。耳が痛い意見もありましたが、ダイレクトにフィードバックをもらったことでとても心に響きましたね。
結果として、自分自身の適応課題に気が付くことができました。そして、ミッションを明確にできなかったのは、自分自身の課題に原因があったと捉えることができたんです。
人や組織が成長するためには、強みを伸ばし、課題点を克服する必要がありますが、自己認識と他者からの印象が異なることはよくあります。そこで、より正確な現状把握と適切な打ち手を考えるために、フィードバックが有効です。
もうひとつは、主に上司から部下へのフィードバックにおいて「モチベーションを高め、仕事のパフォーマンスを上げる」という効果です。
たとえば、スターバックスコーヒージャパン株式会社では、日常的なフィードバックを通じて、いわゆる「成功循環モデル(※)」を店舗で回すことで、人を育て、サービスの質を向上しているといいます。
※MIT元教授のダニエル・キムが提唱している、組織に成功をもたらす要因を分析した理論
▼「成功循環モデル」のイメージ
さらに、ストアマネージャーとパートナー(店舗スタッフ)間では、人事考課における評価だけでなく、定期的なフィードバックにおいて「本人のやりたいことを明確にする」ことで、個人のモチベーションを引き出しています。
面談を繰り返して行うことと、人事考課と人事考課の間の期間にフィードバックを繰り返すことで、徐々に本人も「こういうことが自分のやりがいかも」と気が付いてくるんです。
やはり、できるだけ本人のやりたいこと・チャレンジしたいことを明確にして、その機会を提供する方が、1人ひとりの成長につながると思っています。それによって、「自分で経験から気付きを得ようとする」姿勢が高まるんですよね。
自分が「やりたいです」と言った瞬間、その仕事は「自分事」になります。すると仕事を進めながらも、上手くいったこと・いかなかったことをきちんと内省するようになり、さらに深い気付きを得て、成長につなげることができます。
このように、課題の把握やモチベーション向上など、フィードバックには人を育て、組織を良くするための効果がたくさんあります。
3. 組織を良くする「4種類のフィードバック」とその手段
次に、ビジネスシーン(社内)におけるフィードバックの目的と手段を、受け手・送り手のシーン別に整理したいと思います。
▼4種類のフィードバックの目的と手段
上図のとおり、以下4つのシーンにおけるフィードバックは、目的や手段が異なります。そのポイントを、事例とともに解説していきます。
① 上司から部下へのフィードバック
② 部下から上司へのフィードバック
③ 社員同士でのフィードバック
④ 社員から会社へのフィードバック
① 上司から部下へのフィードバック
まず、ビジネスにおいて最もよくあるシーンが、上司から部下へのフィードバックです。これは、評価面談や1on1、日常の業務において行われます。
その目的は、メンバーの成長を支援することです。自らの課題を認識したり、モチベーションを高めるためには、定期的なフィードバックが欠かせません。
ですが、特にプレイングマネージャーが多い組織では、普段から丁寧にフィードバックする時間が取りづらいこともあると思います。そこでオススメなのが、1対1での対話の場「1on1(※)」です。
※詳細はこちら:【徹底解説】「1on1」が組織を強くする!基本の型、運用のコツ、導入事例を紹介
たとえば、グリー株式会社では週1回・30分の「1on1」を実施し、上司が部下の目標進捗やアクションに対して、フィードバックを行っているといいます。
▼グリー社の、目標設定から評価までのサイクル
記事はこちら:上司と部下の「信頼関係」がカギ!MBOの運用を1on1で支える、グリーの目標管理とは
フィードバックの機会を、半期に1度の評価面談だけにしてしまうと、目標達成に向けたアクションの修正がどうしても遅くなります。1on1は、より短いサイクルでのフィードバックを定着させる仕組みとして注目されています。
② 部下から上司へのフィードバック
前項とは逆の関係性になりますが、部下から上司へのフィードバックを実施している企業も増えています。これは、360度評価(※)や組織サーベイなどを通じて行われます。
※詳細はこちら:360度評価(多面評価)とは? 現場のリアル事例とテンプレート、運用ツールまで【計7選】
その目的は、マネジメントの改善です。メンバーだけでなく、マネージャーも自身の傾向や課題を認識し、改善に努めることで、チームや組織全体が良くなります。
たとえばナイル株式会社では、独自のサーベイを作成し、四半期に1度、全社員を対象にマネジメントに関するアンケート調査を行っています。
▼実際のアンケート結果(一部)
記事はこちら:「マネジメントの実態」をどう可視化する? リアルな組織課題を発見し、解決する方法
このサーベイを導入したことで、マネージャー本人が自分自身やチームの課題と伸びしろを認識し、普段から意識できるようになったといいます。
また会社からしても、マネジメントの状態が可視化され、個別課題の解決に向けて具体的なアクションがしやすくなる、というメリットがあります。
③ 社員同士でのフィードバック
次に、上司・部下という関係性に限らず、社員同士でのフィードバックを取り入れている企業もあります。これは、360度評価やピアボーナスなどを通じて行われます。
その目的は、社員のエンゲージメント向上です。360度評価においては、相手に対する評価をフィードバックしますが、より日常的なシーンでは、感謝や賞賛を伝えるフィードバックが多いのが特徴です。
その仕組みとして、導入が増えているのが「ピアボーナス(※)」です。
※ピアボーナス:社員同士で、感謝や賞賛の言葉とともに成果給を送り合う仕組み
株式会社メルカリでは、組織が数十名から数百名規模に拡大していく中で、もっと気軽に、リアルタイムで賞賛し合える仕組みを作りたいという考えから、2017年9月よりピアボーナス「mertip(メルチップ)」を導入しています。
▼実際のピアボーナスを通じたフィードバック
記事はこちら:同僚から月60回「成果給」を受け取った人も!メルカリの「ピアボーナス」運用の裏側
このピアボーナスを導入したことで、リアルタイムなフィードバックが活発になったといいます。
成長のためのフィードバックだけでなく、日頃の感謝や賞賛を伝え合うことは、社員のモチベーションを高め、組織へのエンゲージメント向上につながります。
④ 社員から会社へのフィードバック
最後に、1対1のフィードバックだけでなく、社員から会社へのフィードバックを集める企業も増えています。これは、組織サーベイなどを通じて行われています。
その目的は、組織の改善です。たとえば株式会社メルペイでは、10の質問に10点満点で回答する、独自の「組織スコアリング」を実施しているそうです。
その結果は全社公開され、かつ経営陣が改善アクションを約束することで、「経営が組織づくりに本気でコミットしている」という姿勢を全社に伝えているといいます。
記事はこちら:メルカリをコピーするだけではダメ。設立9ヶ月で200名を超えた、メルペイの組織づくり
また、社員から会社へのフィードバックの方法として、ユニークな取り組みをしているのが、ライフネット生命保険株式会社です。
同社では、中途採用の全員が、入社3ヶ月後に「ニューカマープレゼンテーション」を実施し、執行役員に対して「ライフネット生命への提案」をしているといいます。
入社3ヶ月というフレッシュな視点から、自社の「良いところ・ダメなところ」を含めたフィードバックを行うことで、改善に向けたアクションを実行しているそうです。
記事はこちら:入社3ヶ月で「自社にダメ出し」!メンバー全員で組織を作る、ライフネット生命の挑戦
先進企業の事例をご参考に、フィードバックの目的に応じて、適切な手段を使ってみてください。
4. 「良いフィードバック」をするために知っておきたい4つのコツ
では、シーン別の目的と手段がわかったところで、実際にフィードバックを行う際に気をつけたい点をご紹介したいと思います。
良いフィードバックをするためのコツとしては、以下の4点を意識してみましょう。これらは、どのシーンにおいても有用です。
- フィードバックの根拠を明示する
- 性格ではなく行動に対してフィードバックをする
- 具体的かつ次に活かせる内容にする
- タイムリーに行う
まず大切なのは、根拠となる「事実情報」をもとにフィードバックを行うことです。
よくあるNG例として、印象論でのフィードバックをしてしまうことがあります。特に評価面談においては、直近の行動が強く印象に残ってしまい、偏ったフィードバックになりがちです。
これを防ぐには、定期的にフィードバックの記録を残しておくことが大切です。たとえば株式会社ヤプリでは、週1回・30分程度でメンバーとの1on1を行い、話した内容はすべてGoogleドキュメントに残しているそうです。
▼実際のGoogleドキュメント
記事はこちら:「正しい1on1」は存在しない? 1on1のプロ4人が、読者のリアルな悩みに答える!
こうして日常的にログを残しておくことで、事実情報に基づいたフィードバックができるようになります。
2点目は、性格ではなく「行動」に対してフィードバックをする、ということです。フィードバックの基本は、相手を思いやることにあります。収集した事実情報をベースに、あくまで行動に対する意見や感想、評価を伝えることが大切です。
3点目は、フィードバックの内容を、具体的かつ次に活かせる内容にするということです。フィードバックの内容が抽象的だと、受けた人はなにが課題で、どこを改善していけばよいのか、がわからなくなってしまいます。
それを防ぐ工夫として、振り返りのフレームワークを使ってみるのもオススメです。
KPTという手法を用いて、「Keep(よかったこと)」「Problem(悪かったこと)」「Try(次やってみること)」を洗い出すと、具体的な内容が見えてきます。1on1などで、フィードバックする相手と一緒にやってみるのもいいかもしれません。
最後のポイントは、フィードバックはタイムリーに行うということです。時間が経ってしまうと、評価者だけでなく本人にとっても記憶が曖昧になり、改善しづらくなります。
1on1やピアボーナスなどを導入し、タイムリーなフィードバックの仕組みをつくると同時に、その土台として、お互いに気兼ねなくフィードバックし合えるような「心理的安全性」を担保することが大切です。
5. 人材育成には欠かせない「フィードフォワード」
最後に、人材育成の観点において、フィードバックとともに重要な「フィードフォワード」についてご紹介します。
フィードフォワード(feedforward)とは、過去ではなく「未来」に着眼して、解決に向けたアドバイスを行う手法です。
フィードバックでは、どうしても改善点の指摘がメインになりがちですが、フィードフォワードでは相手の主体性を尊重し、前向きなアドバイスがメインとなるため、新しい人材育成の手法として注目されています。
しかし、これらは対をなすものではなく、地続きのようなものとして捉えると良いと思います。フィードバックによって正しく課題を認識した上で、さらに未来に向けた解決策をフィードフォワードすることが大切です。
株式会社アカツキでは、新卒育成を担当するトレーナーがメンバーとの面談前に、行動基準ごとの「○×△」とその根拠となる行動をスプレッドシートに記入しているといいます。その一例が、フィードフォワードにあたるので、ご紹介します。
▼フィードフォワードの一例
「相手視点で考える」(※行動基準のひとつ)
相手の期待と考えを推察する力が伸びてきたので、今度は自分から新しい提案をする際に、相手を想う力・伝える力をより高めていきましょう。
「相手の期待と考えを推察する力が伸びてきた」は、現在までを振り返ったフィードバックにあたります。それに加えて、「今度は〜」という未来志向でのアドバイスを行っていますが、これがフィードフォワードです。
人材育成の観点では、どちらも重要な概念ですので、ぜひ覚えておいてください。